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『人と数学のあいだ』加藤文元x竹内薫x岩井圭也x上野雄文ⅹ川上量生 [数学]


人と数学のあいだ

人と数学のあいだ

  • 出版社/メーカー: トランスビュー
  • 発売日: 2021/12/06
  • メディア: 単行本


刺激があっておもしろい数学異分野対談

加藤文元東工大理学院数学系教授と他の4氏それぞれとの対談をまとめた本。4氏とは東大理学部・マギル大大学院で物理を専攻し「広く科学のすばらしさや面白さを社会に発信するために、日ごろ活躍」している竹内薫氏。数学者を題材に小説を書いた岩井圭也氏。医学博士で数理科学のトップ教育を目指すNPO「数理の翼」理事長上野雄文氏。KADOKAWA取締役ドワンゴ顧問で学校法人角川ドワンゴ学園理事川上量生氏。要するに、数学を愛する諸氏との異分野対談集ということになるのだろう。

話題は、プログラミングとアルゴリズム、ルービックキューブと群論、「ABC予想」を証明した望月新一教授のミーハー気質、離散数学のキス数問題と超弦理論との関係、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生の研究室の本棚と数学書、グロタンディークと圏やトポスという概念、ロジャー・ペンローズの宇宙論 / 数学者(ペレルマン、ラマヌジャン、ガロア)と孤独、谷山豊ら「新数学者集団(S.S.S.)」や「ブルバキ(Bourbaki)」による共同研究、ブルバキのメンバー、アンドレ・ヴェイユのいう「共鳴箱の理論」、「背理法」の流れと文学・音楽性、リーマンの離れ業 / 数学脳はあるか、ガロアの死亡診断書・脳所見、前頭葉と頭頂葉の発達、アインシュタインの脳のグリア細胞、「ブーバ・キキ効果」、数学における「正しさ」、体性感覚と抽象的思考、「ミラーニューロン」/ 一般人向け数学娯楽雑誌『数学セミナー』、現代数学は仕事や人生に役立つか、仕事のモチベーションを微分で管理、プログラムや法律条文の複雑度を「幾何学的」思考で測る、現代数学の可能性・・。

むずかしいところも多々あるが、たのしく読むことができる。個人的には、抽象的なものをビジュアライズし空間的に把握する能力の大切さについて学ぶことができた。刺激のあるおもしろい本である。

2022年3月2日にレビュー

数学する精神 増補版-正しさの創造、美しさの発見 (中公新書)

数学する精神 増補版-正しさの創造、美しさの発見 (中公新書)

  • 作者: 加藤 文元
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/06/22
  • メディア: 新書



数学の想像力: 正しさの深層に何があるのか (筑摩選書)

数学の想像力: 正しさの深層に何があるのか (筑摩選書)

  • 作者: 加藤 文元
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/06/12
  • メディア: 単行本


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「世にも美しき数学者たちの日常」 二宮 敦人著 幻冬舎 [数学]


世にも美しき数学者たちの日常

世にも美しき数学者たちの日常

  • 作者: 二宮 敦人
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/04/11
  • メディア: 単行本


人の数だけたのしむ道すじがある

怖いものは何か?と問われて、数学と数式と答える方にうってつけの本。数学者たちへのインタビューを通して数学がたいへん身近なものになるはず。すこし引用してみる。

「僕たちはみな、かけ離れた存在である。ゼータ兄貴も松中さんも僕も、価値観も能力も全く違う。時には宇宙人と同じくらいの距離感があるかもしれない。だが、事実を悲観するのではなく正面から受け止め、ではそんな人間同士で手を繋ぐにはどうしたらいいか考えたのが、数学者だったのではないか。 / そして決まりが作られ、表現するために数式が生まれた。事実を一つ一つ積みあげて、真摯に心と心の間に論理の橋を築いた。(p168「7 ここまで数学が好きになるとは思わなかった」)

著者のいう「かけ離れた存在」が「手を繋ぐ」ことが、つぎのように表現されてもいる。〈 「うん。だから、数学というのは一つの言語だと思いますね」 / 黒川(信重)先生は頷いてくれる。 / 「日本語とか、英語とか、いろんな言語の一つとして数学というものがあると。この言語を使うとある種の事柄が非常に精密に書ける。そういうことだと思うんです。日本語で容易に扱えることを無理に数学で書く必要はないんだけど、中には数学で書くことで、とてもよく理解できるようになる物事があるわけです」 / 「たとえば、どういったことでしょう」 / 「『何かが存在しない』ということを証明しようとすると、普通の言葉では水掛け論になっちゃいますよね。ないものは見せられない、とか。でも数学であれば五次方程式の解の公式は存在しない、と理論的に示すことができる。ないことを証明するというのは数学の使い方として、一つの定番です」 / 「そういう利点をもった言語、ということなんですね」 / 「そうですね。だから今までになかったことをやるのが非常に得意な言語のような気がするんです。特に僕は誰もやっていないような数学をやるのが趣味なんですね。・・後略・・」(p289「12 世にも美しき数学者たちの日常」)〉

つまり、数学はひとつの言語でありコミュニケーショの道具ということになる。いわば、数学は文系の一種と解釈することも可能と言ってイイ。それだけでも、数学が、だいぶ身近になりオッカナイものではなくなる。しかし、ところが、本書には、数学の怖~い話もでる。先に「宇宙人」と「手を繋ぐ」ために数式があることを引用したが、サハロン・シェラハという「宇宙人(もちろん地球人です)」の数学はフツウの数学者には分からず、フツウ以上の数学者による通訳が必要となるという話だ。そうかと思えば、日本で最も「宇宙人」ぽかった数学者 岡潔が、実はたいへん人間くさい方だったことも示される。滅菌抗菌加工されたかのような(と本書に記されてはいないが)現代数学の批判者であったことも示される。

本書は、数学はわたしたちの周囲に広がる宇宙をなしていて、人の数だけたのしむ道すじのあることに気づかせてもくれる。お勧めである。

2019年5月23日にレビュー

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/10/12
  • メディア: 文庫



数とは何かそして何であるべきか (ちくま学芸文庫)

数とは何かそして何であるべきか (ちくま学芸文庫)

  • 作者: リヒャルト・デデキント
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/07/10
  • メディア: 文庫


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「数学的センス」を磨く フェルミ推定 永野裕之著 かんき出版 [数学]


「数学的センス」を磨く フェルミ推定

「数学的センス」を磨く フェルミ推定

  • 作者: 永野裕之
  • 出版社/メーカー: かんき出版
  • 発売日: 2023/05/24
  • メディア: Kindle版


著者は数学塾を運営している。「数学にコンプレックスをお持ちの方に多く寄り添ってきた」。ウィーン国立音楽大学に留学しプロの指揮者として活動していたこともあるという変わった経歴の持ち主である。

本書はたいへん分かりやすい。フェルミ推定が「数学的センス」を磨くのに最適であるというのが主張である。どうして、そう言えるのか、「数学的センス」とは何かからはじめて、フェルミ推定を実践するときに個々の「数学的センス」をどのように活かすことができるのか手取り足取り教えてくれる。

著者のいう「数学的センス」とは ①情報整理力 ②視点の多様化力 ③具体化力 ④抽象(モデル化)力 ⑤分解力 ⑥変換力 ⑦説明力 のこと。それぞれについて解説がなされた後、フェルミ推定とは何か、その手順、「超基本公式」など示され、その後、実践問題となる。

数式らしきものは一切でていない。肝心かなめは「数学的センス」を身につけることである。それが先の見通せない時代にあって、自分自身で考え一歩踏みだす勇気をもつ助けになることが強調される。

実際のところ、ふだんの生活のなかでなんらかの決定をするに際して、堂々めぐりの思考に陥って決断できないことがある。そうした時に本書でいう「数学的センス」の個々の能力を意識化し、自分の思考を見える化していくなら、問題解決能力は高まるように思う。また、将来に大きく影響のおよぶ決定をする時ほど慎重であり、ふだん以上の情報収集と整理が必要だが、将来的なモノゴト(の推移)については推測するしかない。それでも、モノゴトがどのよう(に動いていく)かおおまかに分かるだけでも、実際にそれができるなら、確かにそれは決断する上での強みとなる。フェルミ推定を ″手順よく″ おこなうなら、それができるし誰でもできると著者はいう。

フェルミ推定を実践しつつ「数学的センス」を涵養できる良書である。「数学にコンプレックスをお持ちの方に多く寄り添ってきた」著者ならではの本に思う。


「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術

「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術

  • 作者: 高松智史
  • 出版社/メーカー: ソシム
  • 発売日: 2022/07/01
  • メディア: Kindle版



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『数学の歴史物語 古代エジプトから現代まで』 Jonny Ball著 SBクリエイティブ [数学]


数学の歴史物語 古代エジプトから現代まで

数学の歴史物語 古代エジプトから現代まで

  • 作者: Jonny Ball
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2018/07/14
  • メディア: 単行本


“本物の”数学者「イアン・スチュアート 絶賛」

著者は、数学者ではない。なんら学位を持たないばかりか、スタンダップ・コメディアンだという。〈日本で言ったら北野武のようなものだろうか〉と(「訳者あとがき」)にはある。いわゆるアマチュア数学者である。それでも、(本書「はじめに」)、幼少のころから数学に多大な関心をもってきた様子が記される。後に、テレビ界に呼ばれBBCに出演し、さらにはコメディ番組、子ども向け番組のテレビ台本を書くようになる。人気が出て〈冠番組を持つとしたら何をやりたいかと聞かれて、即座に「数学の番組さ!」と答え〉、みんなを唖然とさせる。そうして、〈番組『シンク・オブ・ア・ナンバー』が始まり、その第1シリーズは英国映画テレビ芸術協会賞を受賞した〉という。

そういう著者ならではの書籍と本書はいえる。そうとう数学的に深く突っ込んだ内容も示され(数式も出てく)るが、オモシロイ。コメディーを見聞きするようにとまでは言えないが、ユーモアを多分に感じる。そもそも、人々の数学への恐怖心を取り除くのが著者の執筆動機であり、数学は大海のようなもので、その奥深さと驚きを知ることを望んでいる。そして、数学の大海に一緒に飛び込むようにと著者は誘う。誘うにあたってアインシュタインの言葉を引用しもする。それは、〈7歳の子供に説明できなければ、本当に理解していることにはならない〉というものだ。いくらなんでも7歳には無理だと思うが、その心意気は伝わってくる。

内容をひとことで言うなら、数学が人間生活のさまざまな分野にどのような影響を与え、逆に与えられて発展してきたか、とまとめられそうだ。著者自身の言葉にしたがえば、〈数学や科学や技術、芸術や音楽、建築や工学がすべて、数々の偉業を懸ける壮大なリレー競争を通じて発展してきたことを伝える〉である。

今日、数学のある解法の仕方を知っていても、その背景的な知識を知らず機械的にそうしている場合も多い。本書からは、その数学的背景だけでなく、そもそもそのようなアイデアが浮かんだ当時の事情まで見えてくる。だから、歴史に関心ある方もおおいに楽しめる。

たとえば、哲学者プラトンに関する記述で〈アカデメイアの入口の上には「数学を知らない者は入れさせるな」という言葉が掲げられていた。プラトンにとって数学は、天界のことを調べて説明するための道具〉とあり、アリストテレスに関する記述には、〈アカデメイアでプラトンに学んだが、紀元前347年に師が世を去ると、この学び舎では数学ばかりで哲学が十分に教えられていないと不満を訴えてアテナイを離れた〉とある。そして、そのアリストテレスにあまり評価されていなかったキオスのヒポクラテスが、その「原論」にある〈2本の直線を使ってさまざまな種類の基本的数学演算をおこなう方法(三数法)をおそらく史上はじめて思いつき、その大きな威力に気づいた〉ことにふれて、その実例を示した後、〈この2つの例があまりに有用だったため、およそ2000年後にデカルトはこの両方を、偉大な著作『幾何学』(第12章を見よ)の冒頭に挙げた。デカルトが幾何学と代数学を結びつけたことが、ニュートンやライプニッツに着想を与え、間接的に産業革命を引き起こした。礎となる数学がなかったら、蒸気機関やそれ以降のあらゆる技術は発展しなかっただろう(p058)」とある。

“本物の”数学者「イアン・スチュアート 絶賛」と書籍・帯にあるが、ナルホドと思う。

2018年10月30日にレビュー

1から学ぶ大人の数学教室:円周率から微積分まで

1から学ぶ大人の数学教室:円周率から微積分まで

  • 作者: ジェイソン ウィルクス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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〈学問の発見  数学者が語る「考えること・学ぶこと〉 広中 平祐著 (講談社ブルーバックス) [数学]


学問の発見 数学者が語る「考えること・学ぶこと」 (ブルーバックス)

学問の発見 数学者が語る「考えること・学ぶこと」 (ブルーバックス)

  • 作者: 広中 平祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/18
  • メディア: 新書


岡潔にはなれそうにもないが、広中平祐にはなれそうだ

数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞した著者の学びの経験、数学の道に進んだ経緯が幼少時から語られていく。両親との関係、中学・高校時代、京大・ハーバード大時代の恩師・学友との関係、そこでの切磋琢磨が記される。そうした経験をとおして学んだ「考えること・学ぶこと」の意義が披歴される。

本書を読んでの率直な感想は、「岡潔にはなれそうにもないが、広中平祐にはなれそうだ・・」と、いうもの。業績において同様の結果を出せるということでは、もちろんなく、その学ぶ姿勢・態度において・・ということだ。「運・鈍・根」の石の上にも8年の歳月をかけて「特異点の解消」問題を解決した著者の、その姿勢には、見習えなくもないというところからきた感想だ。その点で、なによりも、著者自身が自分は天才ではない、凡庸であると記していることは、凡庸な読者にとっては、たいへんありがたい。

評者ははじめて著者の本を読んだ。本書は1982年に刊行された本の復刊(写真一部変更)であるという。刊行からすでに40年ちかく経過している。刊行当時に読んでおきたかったと、いま思っている。まもなく90歳になんなんとする著者の経験には、戦後の窮乏生活も含まれる。話題はたしかに古いが、窮乏・逆境をものともせず学ぶことを喜びとしてきた著者から学ぶことは多い。

2018年9月5日にレビュー

やわらかな心をもつ―ぼくたちふたりの運・鈍・根 新潮文庫

やわらかな心をもつ―ぼくたちふたりの運・鈍・根 新潮文庫

  • 作者: 小澤 征爾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/10/29
  • メディア: 文庫



岡潔 数学を志す人に (STANDARD BOOKS)

岡潔 数学を志す人に (STANDARD BOOKS)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2015/12/14
  • メディア: 単行本


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『1から学ぶ大人の数学教室:円周率から微積分まで』 ジェイソン・ウィルクス著 早川書房 [数学]


1から学ぶ大人の数学教室:円周率から微積分まで

1から学ぶ大人の数学教室:円周率から微積分まで

  • 作者: ジェイソン ウィルクス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


たいへん過激で、おもしろい

原題は過激だ。「数学教室を焼き払え」である。実際、たいへん過激な内容で、しかも、おもしろい。学校で、こんな風に、教えてもらえたなら、どんなにか良かったろう、と思う。

私ごと(で恐縮至極)だが、王貞治が756本のホームランを記録したとき、(別に確率の話ではない)、ハンク・アーロンの記録を越えたとき、クラスで1番数学のできる(つまり、理数系クラスだったので学年1の)男とその瞬間を見た。学校の帰り道、デパートの家電売り場のテレビで見たように覚えている。そのとき、「三田寺(というのがその男の名前なのだが)、数学ができるようになるにはどうしたらいい」と訊いた。彼の答えは、「簡単だよ。チャート式(の問題と解答)を丸暗記すればイイんだ」というものだった。そのとき、「そんなもんかあ」という思いと、「つまらないなあ」という思いを同時にもった。それが元で、彼に対する敬意が薄れることもなかったが、チャート式の丸暗記に励むこともなかった。もちろん、数学の成績も上がらずじまいで、大学もいきそびれた。それでも、「そういうもんじゃあないよな、きっと・・」という思いだけはずっと続いてきた。今でも、そうだ。

本書は、方向性においてそのまったく逆である。以下は、『訳者あとがき』からの引用だ。〈著者はこの本で、足し算とかけ算になじみがありさえすれば(といっても、実際の値は計算しなくてよい)、分数の値の計算や実際の割り算なんか絶対にしない!という人にも無理なく納得できる形で、微分積分を紹介している。しかも、絶対に暗記を強制したりはしない!というのだから、これはもう不可能に思える。ところが実は「自力で数学を作っていく」という奥の手があった。それを実践したのが、この本なのだ。そのため第1章は、面積や傾きなどについての日常の感覚を数を使って表す、というもっとも基本的なところから始まる。しかしこれは、実は「質に関する日常の言葉から量を用いた分析的な数理科学の言葉への移行」という数理科学の誕生のエッセンスでもある。さらにそこから記号(この本では略号と呼ぶ)を使ったいわゆる「公式」を自力で作るわけだが、その際にも候補を1つずつ確認し、「なぜそうなるのか」を徹底的に追求する。だから読者は、「ええっ? だって今の話だと、これかそれか、ひとつには決められないんじゃないの?」というもやもやした気持ちを抱えずにすむ。しかもそれによって、数学が実は理屈だけで構成された超越的なものではなく、それに取り組む人々の価値判断、歴史も加わったある意味で人間くさいものであるということが浮き彫りになる。では泥くさいだけかというとそうではなく、この本でも、高校数学で学ぶ微分積分を無事発明し、残り4分の1あたりでそれを多変数、無限次元に拡張する(のだ。呆れたことに!)段になると、記号の読み替えによって、高校段階ではまったくの別物としか思えない「ベクトル」と「関数」を同一視しはじめ、無限次元の微分積分学へと飛び立つ。これは、概念を形式化して抽象化することによって具体の縛りを抜けて飛翔する、という現代数学の性質の端的な表れといえる。著者は、あくまでも数学の本質に則って、読者とともに「数学」を作っているのだ。本書は「自力での数学作り」としても楽しめるし、その後ろに潜む著者の数学観、数学教育を楽しむこともできる、いわば二度おいしい作品なのである。(p525)〉

数学を暗記(科目)から開放し、本来の考える面白さを味わいつつ、数学の高みへ連れて行ってくれる。このような書籍の登場を待ち望んでいた。大いに賀とすべきである。

2018年4月20日にレビュー

チャート式基礎からの数学3―新課程

チャート式基礎からの数学3―新課程

  • 作者: チャート研究所
  • 出版社/メーカー: 数研出版
  • 発売日: 2013/07/01
  • メディア: 単行本



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『数学史のすすめ 原典味読の愉しみ』 高瀬正仁著 日本評論社 [数学]


数学史のすすめ 原典味読の愉しみ

数学史のすすめ 原典味読の愉しみ

  • 作者: 高瀬正仁
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2017/12/20
  • メディア: 単行本


わくわくするほど面白いエッセイ。また難しいといえばたいへん難しい数学の本

わくわくするほど面白いエッセイ。また難しいといえばたいへん難しい数学の本である。

著者は、みずからの「数学史」「原典味読」の動機、はじめについて記す。それは、岡潔の随筆との出会いであった。著者は「数学とは何か」という疑問を抱いていた。懸案であった。そこで岡が「著者懸案の疑問に正面から」「同じ問いを立て、みずから答えている」ことを知る。そのような「数学者を発見したこと」を嬉しく思う。

それから著者は岡の数学論文集に向かう。そこには「三つの未解決問題」をことごとく解決したのが岡先生ということになってい」たが、(それはそれでまちがっているわけではないが)、「岡先生には独自の目標があり、・・その究極の目的地をめざして歩みを進めたものの、ついに到達することができ」なかったこと、「その間の消息が率直に語られてい」た。つまり著者は「岡先生の多変数関数論研究は未完だった」という衝撃的事実に直面する。著者は次のように記している。「岡先生の論文集に沈潜した結果、不思議なことに岡先生以降の多変数関数論の変遷状況を追っていこうとする気持ちが消失し、かえって岡先生の研究の出発点までさかのぼり、そこから川の流れに沿って名所旧跡の観察を楽しみながらおのずと岡先生の論文集に及ぶといふうにしたいというのが、当初の望みでした。それが古典研究の動機です」。

その「岡先生の研究の出発点までさかのぼる」作業が本書に詳述されている。たいへんスリリングな旅である。評者は、「多変数関数論」など記されている数学用語をほとんど知らない。知らないが、ついていける。丁度、世界的クライマーの山行記録を読んでいる気分なのである。エベレストに単独登攀無酸素ではじめて登った人間の記録はわくわくさせるものがある。それとたいへん似ていると思う。登山の本には、キレット、コル、ゴルジュ、トラバースなどはじめて読む者にはわからない用語が多々でてくるが、当初わからないもののわらかないなりに読み進めることができる。本書もそのような感覚で読み進めることができる。

「はじめに」で著者は錚々たる数学者名を挙げて「みんなすばらしい。どのひとりを見ても高峰というほかにたとえるすべがないほどで、高峰と高峰が連携して数学という不思議な学問の山脈を形作っています」と書く。著者の研究の成果をとおして、世界最高峰に立って遠い山並みを見渡す感動を覚える。「高峰」が呼ぶ声を聞くことができる。残念ながら評者にその力はないが、著者が教示している「高峰」たちのその数学の中身そのものを理解できたなら、その感動はいかばかりだろうと思う。

2018年3月19日にレビュー

岡潔 数学の詩人 (岩波新書)

岡潔 数学の詩人 (岩波新書)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/10/21
  • メディア: Kindle版



岡潔とその時代〈1〉正法眼藏―評傳岡潔 虹の章

岡潔とその時代〈1〉正法眼藏―評傳岡潔 虹の章

  • 作者: 高瀬 正仁
  • 出版社/メーカー: みみずく舎
  • 発売日: 2013/06
  • メディア: 単行本



岡潔とその時代〈2〉龍神温泉の旅―評傳岡潔 虹の章

岡潔とその時代〈2〉龍神温泉の旅―評傳岡潔 虹の章

  • 作者: 高瀬 正仁
  • 出版社/メーカー: みみずく舎
  • 発売日: 2013/06
  • メディア: 単行本



評伝 岡潔―星の章

評伝 岡潔―星の章

  • 作者: 高瀬 正仁
  • 出版社/メーカー: 海鳴社
  • 発売日: 2003/07/01
  • メディア: 単行本



評伝 岡潔―花の章

評伝 岡潔―花の章

  • 作者: 高瀬 正仁
  • 出版社/メーカー: 海鳴社
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本



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『1 リーマンと数論 (リーマンの生きる数学)』黒川 信重著 共立出版 [数学]


リーマンと数論 (リーマンの生きる数学)

リーマンと数論 (リーマンの生きる数学)

  • 作者: 黒川 信重
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2016/12/08
  • メディア: 単行本


リーマン没後150年の現在からリーマンの数学およびその後への影響を振り返る全4巻シリーズの一冊

(以下は、著者による『はじめに』からの抜粋)

本書は 第Ⅰ部「簡単なゼータ関数」、第Ⅱ部「リーマンと先達」、第Ⅲ部「リーマンの影響」から成る。

第Ⅰ部では、まず、ゼータ関数とはどんなものかを簡単な場合に体験していただく。単純なものではあるが、関数等式もリーマン予想も証明される。それらは本来のリーマン予想の解決にも重要となるであろう。そのような未来を考慮した結果、ここに取り上げるゼータ関数は通常の入門コースとは全く違ったものとなった。

第Ⅱ部は、リーマンの数論研究およぼリーマンに至る数学の流れについて解説する。リーマンの画期的なところは、ゼータ関数を複素関数論から扱ったところにある。その結果、ゼータ関数の複素零点が素数分布と深く関係していることを発見したのであり、リーマン予想にも至ったのである。

第Ⅲ部は、リーマンのゼータ関数論の19世紀、20世紀、21世紀における影響を述べる。とくに、リーマン予想の証明されている二大ゼータ関数族である「セルバーグゼータ関数」と「合同ゼータ関数」について解説する。前者は、リーマン面やリーマン多様体のゼータ関数であり、20世紀中頃にセルバーグが発見した。まさに、リーマンの研究していた空間に関するゼータ関数である。しかも、リーマン予想の成立まで確認できることは、リーマンの「空間論・多様体論」と「ゼータ関数論・リーマン予想論」という二つの研究が百年後に合流したものとして感銘深い。後者は、有限体上の代数多様体やスキームのゼータ関数であり、20世紀にグロタンディークが中心となって膨大な研究が行われた。これは、リーマンが示唆していた「離散多様体」のゼータ関数と見ることができるであろう。実は、前者のセルバーグゼータ関数においても「離散版」を考えることができて、それはグラフのゼータ関数などとなる。

このような、ゼータ関数論の多方面にわたる発展は、リーマン予想を中心とするリーマンの研究から流れてきたものである。

幸いなことに、本来のリーマン予想は、1859年に提出されて以来157年になる現在まで未解決である。21世紀においても導きの糸になることを期待したい。


そして、『あとがき』冒頭には、こうある。「リーマンと数論の関わりを見てきますと、数学の大いなる流れというものが、リーマンを通して体現されているという思いが強く致します。本書によって、この感じが幾分なりとも読者に伝わっていれば幸いです」。

目次 第Ⅰ部「簡単なゼータ関数」(1章 有限ゼータ関数、2章 行列の整数ゼータ関数、3章 行列の実数ゼータ関数)、第Ⅱ部「リーマンと先達」(4章 オイラー以前、5章 ディリクレ、6章 リーマン)、第Ⅲ部「リーマンの影響」(7章 19世紀、8章 20世紀、9章 21世紀) あとがき 索引

2017年2月3日にレビュー

素数の音楽 (新潮文庫)

素数の音楽 (新潮文庫)

  • 作者: マーカス デュ・ソートイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 文庫


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『ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? 』吉田 信夫著  技術評論社 [数学]


ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? ~数学から物理へ 名著「新科学対話」からの出題~ (知りたい! サイエンス)

ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? ~数学から物理へ 名著「新科学対話」からの出題~ (知りたい! サイエンス)

  • 作者: 吉田 信夫
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2016/10/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


少ない道具を使いこなして高度な結果を導くことができる人こそ、真に「すごい人」と言えるのではないか

ガリレオの著作『新科学対話』を、わかりやすくひも解きながら、「既存の概念にとらわれず、最新の科学的手法・実験結果を用いて、数学的論証を重ねることで、知の世界を切り開いていったガリレオ」を広くしってもらうことが本書の目的。

『新科学対話』には、3人の人物(ヴェネチア市民のサグレド、ガリレオをあらわす新しい科学者サルヴィヤチ、アリストテレス哲学に通じた学者シムプリチオ)が登場する。「対話相手に古い理論を語らせて、それを否定して、新しい理論の正当性を実験と数学的手法によって証明していく」。物理的内容が多く扱われているが、実際には数学の本だと言えるくらいのもの。物理を生み出した人というイメージの強いガリレオだが、数学にも長けていたことがよく分かる。

古代の科学を盲信し続けていた時代の中、観察と数学によって真の科学を切り開いたガリレオ・ガリレイ。現代の視点から見ると議論が不十分であったり、結論が間違っていたりすることもあるが、そんなことで彼の偉業が色あせるものではない。

当時は、微分積分などの高度な数学が発展していないため、論証は幾何的に行われている。ユークリッドの原論とあまり変わらない論法だ。時間を表す長さを設定して議論したり、高度な算数のようなやり口である。しかし、少ない道具を使いこなして高度な結果を導くことができる人こそ、真に「すごい人」と言えるのではないか。

本書では、数学と物理に関連して、ガリレオの手法、現代の手法を両方取り入れながら、ガリレオの解いた問題を考えていく。

以上は、「まえがき」と「あとがき」から、本書の内容をおおまかにまとめたもの。評者の印象としては、高校生レベルの数学と物理の問題がたいへん丁寧に解説されているように思う。紙面レイアウトも見やすい。

2016年12月25日にレビュー


“数学ができる

“数学ができる"人の思考法~数学体幹トレーニング60問~ (数学への招待)

  • 作者: 吉田 信夫
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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〈日本の『数学教育』の源流を探る〉町田 彰一郎著 創英社/三省堂書店 [数学]


日本の『数学教育』の源流を探る

日本の『数学教育』の源流を探る

  • 作者: 町田 彰一郎
  • 出版社/メーカー: 創英社/三省堂書店
  • 発売日: 2016/07/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


数学(和算)教育の歴史に関するエッセイ風の本。

数学教育の歴史に関するエッセイ風の本。21世紀の今日的(数学教育の)課題を江戸時代の庶民(役人・実務家たちを含む)の知恵・経験から学んで「乗り越え」ようというもの。その課題については《例えば、生活の場、時代の変容からあまりに離れた算数・数学の教育の中で失われた児童・生徒の学習意欲、また、なぜ算数・数学を学ぶのか、理科を学ぶのかが分からなくなっている生徒達、こうしたことに対して、自立協働を目指したアクティブ・ラーニング、日常の現象、現実事象との関わりの中で再び算数・数学や理科教育を作り上げようとする教育への回帰が叫ばれている(「第13章」)》とある。

恒星社厚生閣から最近出版された『 知っていますか? 日本数学者ゆかりの地-日本数学の源流を訪ねて 』 (西條 敏美著)には、数式などまったく無かったが、本書にはいくらか紹介されている。しかし、それでも、数学そのものについて語るというよりは、(特にその教育面での)和算の普及・系譜、社会的受容について記されているので、歴史の範疇に入るといっていい。

個人的に興味深く思ったのは、『塵劫記』についての記述。ウィキペディアなどでは《明の程大位の『算法統宗(中国語版))』にヒントを得て、1627年に吉田光由が執筆した》とされているが、「断定は今もってできていない」もののスペイン人宣教師カルロ・スピノラの影響により執筆されたものとして紹介されていること。吉田自身、「キリシタンになっていたという」。その最期は、豊後高田の香々地夷谷で村人の支援のもと塾(稽古庵)を開き、村人に教え。病没。夷谷の墓は無銘。京都の吉田家にあるその墓石からは名前が削り取られているという。

以下、目次

まえがき// 第1章 はじめに// 第2章 和算の祖「毛利重能」// 第3章// 数学教育の礎を作った「吉田光由」// 第4章 日本を代表する数学者「関孝和」// 第5章 「無用の用」を築いた関流の和算家たち// 第6章 和算の教育力(1:長谷川善左衛門寛 2:坎山山口和 3:千葉胤秀)// 第7章 利根川開拓と和算教育の広がり// 第8章 用水開拓の実践者「井澤弥惣兵衛」// 第9章 伊能忠敬とその後継者 町田正記、都築弥厚、石黒信由// 第10章 地域の教育を支えた学び舎、その事例(1:シーボルト、高橋景保、二宮敬作を繋ぐ絆 2:上尾正覚寺の寺子屋 3:蓮田市江ヶ崎の久伊豆神社の南江筆塚、さいたま市見沼区の多門院の筆子塔 4:さいたま市見沼区丸ヶ崎にある多門院 5:加須市 徳性寺の寺子屋絵馬 6:さいたま市 岩槻区、児玉南柯の遷喬館)// 第11章寺小屋・私塾から明治の近代学校へ(1:埼玉県三芳町、上富小学校の例 2:澤田泉山の北廣堂から所沢市立小手指小学校へ 3:東京深大寺境内、埼玉慶福寺境内から公立小学校へ 4:寺子屋、藩校、私塾が直面した明治維新)// 第12章 和算の中身を現代の学校数学から振り返る(1:九九を唱える 2:塵劫記:割り算九九の唱え方 3:割算書・塵劫記:簡便算 4:塵劫記:①2桁の掛け算 5:塵劫記:計算法則(量と割合)の実用への適用 6:塵劫記:大きな計算、からす算 7:塵劫記:継子立て(十脱三十子) 8:文字式の導入 点鼠術 9:組立除法(ホーナー法)、テーラー展開 10:八線儀を使って、角と線分比(三角比)を求める 11:角台の体積 12:俵積みの高さ)// 第13章 「学び合い」、「学び舎」の果たした教育的役割 //年表 参考文献

2016年9月28日にレビュー

知っていますか? 日本数学者ゆかりの地-日本数学の源流を訪ねて

知っていますか? 日本数学者ゆかりの地-日本数学の源流を訪ねて

  • 作者: 西條 敏美
  • 出版社/メーカー: 恒星社厚生閣
  • 発売日: 2016/06/15
  • メディア: 単行本


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