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『実力が120%発揮できる! 緊張しないからだ作りワークブック』かわかみ ひろひこ著 [音楽]


実力が120%発揮できる! 緊張しないからだ作りワークブック

実力が120%発揮できる! 緊張しないからだ作りワークブック

  • 作者: かわかみ ひろひこ
  • 出版社/メーカー: ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
  • 発売日: 2022/02/24
  • メディア: 単行本



以前、比較的ちいさな会場でのバイオリン・ソナタ演奏会で、休憩時間にその楽譜を拝見したことがあります。円熟した女性演奏家でしたが、その楽譜に「胃の裏側の中心」と書いてあり、リラックスするために、またベストパフォーマンスを示すために努力されているのだと感じました。ちょうど、その頃、評者自身、アレクサンダーテクニークやフェルデンクライス理論や高岡英夫の身体理論など面白がって読み、かつ自習していた頃でしたので、そう直観できたわけです。

本書を見てアレクサンダーテクニークを音楽家向けにアレンジしてよく説明されているように感じます。本書の方法を当てはめるのは有効であると思います。ただ本書はあくまでもイントロダクションであり、ワークの案内であり、本格的に行う必要があれば助言や指導を必要とするように思います。その点は、本書中にも示唆されています。

他の方の援助を必要とする(二人でおこなう)ワークもありますので、著者の講習会へ参加するなどして、指導を仰ぐのがいいように思います。自分でそのとおり行っているつもりでも、ちがっていたりしますので、効果を確実なものとするには、直接指導を受けたほうが安全で確かに思います。

ただそれでも「自分はプロではないし、プロになるわけでもないし、理論だけ知りたい」という方も多くいると思います。そういう方にも本書は有効に思います。見よう見まねで自分のカラダと相談しながら自分の行ったワークがどう自身に跳ね返ってくるのかフィードバックを確認しつつ、ゆっくり効果を味わうという方法もあろうかと思います。そうした点でもよく出来た本に思います。
心と体の不調を解消するアレクサンダー・テクニーク入門

心と体の不調を解消するアレクサンダー・テクニーク入門

  • 作者: 青木紀和
  • 出版社/メーカー: 日本実業出版社
  • 発売日: 2016/02/12
  • メディア: Kindle版



フェルデンクライス身体訓練法―からだからこころをひらく

フェルデンクライス身体訓練法―からだからこころをひらく

  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 1993/03/01
  • メディア: 単行本



究極の身体 (講談社+α文庫)

究極の身体 (講談社+α文庫)

  • 作者: 高岡 英夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/08/20
  • メディア: 文庫



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『最高の体調をつくる音楽の活用法』日本版監修:大黒 達也,翻訳:大山雅也 [音楽]


GOOD VIBRATIONS 最高の体調をつくる音楽の活用法 ~免疫力・回復力を高める4つの力

GOOD VIBRATIONS 最高の体調をつくる音楽の活用法 ~免疫力・回復力を高める4つの力

  • 出版社/メーカー: ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
  • 発売日: 2022/02/24
  • メディア: 単行本


「音楽療法」について広く知られるようになったのは、故・日野原重明先生が提唱しだしたあたりからでしょうか。もうずいぶん経つと思います。とはいえ、音楽がもつ医療的な効果・役割は、医学論文を待つまでもなく実感として知られてきました。そうでなければ、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』は書かれることはなかったでしょうし、感動を呼び起こすこともなかったでしょう。

音楽療法の本もいくらか目をとおしてきたつもりですが、あまり印象に残ったものはありません。その中で本書は特筆すべき内容に思います。訳者『解説』にもあるとおり「神経科学者の視点から音楽療法の可能性について書かれた本」であるからです。本書ほど、脳機能に則して書いてある、しかも一般向けにやさしく解説した本はないように思います。そして、「可能性」を感じさせ期待させてくれる本もなかったように思います。

著者は「音楽の神経科学、とりわけ脳波を用いた音楽の期待や予測に関する研究の第一人者」で、「もともと音楽家を志していたヴァイオリニスト」とのことです。ですから、音楽に関して造詣が深く、関連する話題、経験談も出てまいります。ですが、小難しい印象はありません。それは医学的情報についても同じです。「一般書」であるから当然といえば当然ですが、なかなかそういう本に出会えるものではありません。翻訳者が著者とおなじく医学者そして音楽家を志した過去があり、職場を共にしてきたなど、たいへん懇意にしてきたことも本書の分かりやすさに関係していると思います。(最近、ひどい翻訳書を読んでばかりいたのでなおさらそう感じるのかもしれませんが)直接、著者が日本語で書いたものであるかのように自然です。

内容としては、 1996年にヒグマに襲われて急逝した写真家・星野道夫氏の推薦図書『エンデュアランス号漂流』の話題が取り上げられます。そこでの28人全員生還について船長シャクルトンの手記に、音楽が「いのちをつなぐ精神薬」になったとあることから始まります。話題は広範です。言語学的な話しも出ます。音楽と暮らしとの関係を示すために民族学的話題がとりあげられたりもします。単に読み物としても楽しいですし、これから著者たちの研究がどう発展していくのか期待させられる本でもあります。

追記:翻訳者は大山雅也氏です。著者と懇意にしている医学者:大黒達也氏は本書日本版監修者でした。

セロ弾きのゴーシュ (角川文庫)

セロ弾きのゴーシュ (角川文庫)

  • 作者: 宮沢 賢治
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/05/31
  • メディア: Kindle版



エンデュアランス号漂流 (新潮文庫)

エンデュアランス号漂流 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/05/04
  • メディア: 文庫



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『音楽する脳』大黒達也著(朝日新書) [音楽]


音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学 (朝日新書)

音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学 (朝日新書)

  • 作者: 大黒 達也
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2022/02/10
  • メディア: Kindle版


たいへんオモシロイ論考

たいへんオモシロイ論考。今日「音楽」と見做されているものは、ヒトの脳の働きによるものだということが分かる。太古のむかしから、宇宙の森羅万象の音のなかから、これを「音楽」ということにしようとヒトの「脳」が決めてきたということだ。聴覚にとらえられる様々な音のなかに、音律だの音程だのリズムだのを発見し、それらに取り決めを設けて楽曲を作成し、それを聴いて有難がってきたということになる。

本書では「音楽」の発生と発展・歴史が、ヒトの「脳」との関係で論じられる。とりわけ、興味深いのは「統計学習」に関する論議である。以下に、いくらか抜粋してみる。

〈私たちの脳には、「統計学習」という自動計算機能が備わっています。これは、行動、意思決定、言語獲得など様々な知識や知性の発達に関わっている。人間の脳が生まれながらにもつ重要な機能です。この統計学習機能が、音楽的感性や創造性と深く関わっています。/ 統計学習とはシンプルにいえば、私たちの身のまわりで起こる様々な現象・事柄の「確率」を自動的に計算し、整理する脳の働きのことをいいます。人間は、この脳の統計学習により、不安定で不確実な現象・事柄の確率を計算し、身の回りの環境の「確率分布」をなるべく正確に把握しようとします。把握できれば、次にどんなことがどのくらいの確率で起こりうるのかを予測しやすくなるので、珍しい(起こるはずのない低確率の)ことだけに注意を払えばよくなります。/ また、統計学習は、「無意識学習(=潜在学習)」であり、私たちが起きている間だけではなく、寝ているときでさえも絶えず行っており、生まれてから死ぬまで生涯行い続けている「脳に最も普遍的な学習システム」と考えられています。音楽においても、脳はあらゆる音楽を統計学習することで、音楽一般的な統計的確率を計算します。これにより、新しい音楽を聴いても脳内の音楽の一般的な統計的確率をもとに、何となく聞き覚えのある曲や、斬新な曲などの判断ができるようになるのです。(p83-84)〉

〈統計学習は、単に音楽の遷移確率を計算するだけでなく、文法のように階層的構造へと変化することが最近の研究でわかってきました。この構造化で重要な機能として「チャンク」があります。チャンクとは、ぱっと見たり聴いたりしたときに、「まとまり(意味的な塊)」を感じる単位のことです。(p88)〉〈このことから、文法などの前提知識のない乳幼児は統計学習を用いて母語を学んでいると考えられています。/ 乳幼児がなぜあれほど早く母語をマスターできるのかを理解するにあたって、統計学習は非常に重要な脳のメカニズムです。(p90)〉

〈筆者の研究チームでは、人の成長に伴う前頭前野の発達に伴って、生得的な統計学習から前頭前野が主力となる学習へと学習方法を変えているのではないかと考えました。そして、前頭前野の機能が、逆に、脳が生まれながらにもつ統計学習機能を抑制しているのではないかと仮説を立てました。・・もしかしたら、私たちは成長とともに発達した前頭前野によって、理性的、理論的な学習は得意になった一方で、本来ヒトがもつような学習能力を失っているのかもしれません。・・(p94-95)〉

〈脳の統計学習は、基本的には無意識です。それゆえ、私たちは統計学習していることにすら気づくことができません。それでも、統計学習によって得た知識は、私たちの行動や判断を大きく左右しています。この無意識的な統計知識は、通常私たちがいうところの、「勉強」とは大きく違います。(p200)〉

2022年3月23日にレビュー

芸術的創造は脳のどこから産まれるか? (光文社新書)

芸術的創造は脳のどこから産まれるか? (光文社新書)

  • 作者: 大黒達也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/03/17
  • メディア: 新書



AI時代に「自分の才能を伸ばす」ということ

AI時代に「自分の才能を伸ばす」ということ

  • 作者: 大黒 達也
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2021/04/20
  • メディア: 単行本



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「音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バッハ」 ひの まどか著 ヤマハミュージックメディア [音楽]


音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バッハ (音楽家の伝記―はじめに読む1冊)

音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バッハ (音楽家の伝記―はじめに読む1冊)

  • 作者: ひの まどか
  • 出版社/メーカー: ヤマハミュージックメディア
  • 発売日: 2019/03/23
  • メディア: 単行本


家庭人としても苦闘した「音楽の父」をよく知ることができる

音楽室に肖像画が堂々と飾られていたヨハン・セバスティアン・バッハ。「音楽の父」という一語とともにすべて了解した気になっていたが、まったくもって何も知らなかったことを知った。

存命時、「無知・不理解」のうちにあった様子を本書をとおして知ることができる。創造性に富む芸術家は保守的な環境にあっては、苦闘せざるを得ない。小説という形式もあって、その心情が、単なる伝記よりも伝わってきた。また、芸術家としてだけでなく、夫であり父親であり家庭をもつ人間としてのバッハの苦労を知ることもできた。

また、さらに、ドイツの当時の様子、都市と都市との関係や教会や宮廷とそこで奉仕する音楽家たちとの関係なども知ることができる。

なお、本書は1981年にリブリオ出版から刊行された作曲家の物語シリーズ『バッハ』を増補改訂したもの。

*****以下、引用*****

マグダレーナは、強い口調でこう励ましながらも、夫の疲れきった悲しげな様子に胸をつかれる思いだった。セバスティアンの顔には、いくら働こうとも正当に評価されないという、創作者にとっての決定的な苦しみがにじみ出ていた。

ーーこの小さな世界の、きわめつきの小心者たちが、夫をおしつぶしていく・・・。

マグダレーナにはいまはっきりと、夫の才能が、このライプツィヒにはおさまりきらないほど大きいものだとわかるのだった。

ーーセバスティアンには、もっと広い、もっと大きな、もっと進歩的な、そして次元の高い世界こそふさわしいのだわ。

そうわかっても、マグダレーナはその場所がどこにあるのかはわからなかった。ドイツのほかの大都市にあるのか、あるいは、音楽に理解のあるほかの国にあるのか、あるいは、この地上以外の、より高いところにあるのかは・・・。(p226)

2019年6月28日にレビュー

舊新約聖書―文語訳クロス装ハードカバー JL63

舊新約聖書―文語訳クロス装ハードカバー JL63

  • 作者: 日本聖書協会
  • 出版社/メーカー: 日本聖書協会
  • 発売日: 1993/11/01
  • メディア: 大型本



Johann Sebastian Bach, Helmuth Rilling : Complete Bach Set 2010 - Special Edition (172 CDs & CDR)

Johann Sebastian Bach, Helmuth Rilling : Complete Bach Set 2010 - Special Edition (172 CDs & CDR)

  • アーティスト: Various,Various,Johann Sebastian Bach,Helmuth Rilling
  • 出版社/メーカー: Haenssler
  • 発売日: 2010/09/20
  • メディア: CD



Bach: Complete Edition

Bach: Complete Edition

  • アーティスト: J.S. Bach
  • 出版社/メーカー: Brilliant Classics
  • 発売日: 2014/08/26
  • メディア: CD


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「パワーアップ吹奏楽! からだの使い方」 高垣 智著 ヤマハミュージックメディア [音楽]


パワーアップ吹奏楽!  からだの使い方

パワーアップ吹奏楽! からだの使い方

  • 作者: 高垣 智
  • 出版社/メーカー: ヤマハミュージックメディア
  • 発売日: 2019/04/21
  • メディア: 単行本


役立つ原則を示す内容

「からだ」への関心から本書を手にした。もう10年以上も前になるが、某ヴァイオリニストによる演奏会があり、休憩時間に楽譜をのぞくと、「背中の中心」という言葉が書きとめられてあった。特定の身体に意識を置くことで、演奏の質の向上を目指している様子を知ることができた。ちょうど、野口三千三、斎藤孝、高岡英夫らの著作をとおして、身体と身体意識との関係、身体とその合理的使い方をとおしてパフォーマンス向上を図ることを学んでいたこともあって、たいへん印象に残っている。

本書は、吹奏楽にたずさわる方への「からだの使い方」の本である。自分のからだに合わせて無理なく無駄なく上達を目指し、高いパフォーマンスを維持する上で役立つ原則を示す内容となっている。

読んでいて感じたのは、ご自身の経験のなかで気づいたことを著者は披瀝するとともに、上に記した人物たちの著作も、解剖学の本などとともに、あるいは参考にしているのではないかという思いである。参考文献一覧が本書には示されていないのでわからないが、いくらかは参考にしているように思った。

そう思うときに、評者としては、ぜひとも高岡英夫著『究極の身体』を「からだの使い方」を考えるうえでのベース書籍として読んでほしく思う。本書は、吹奏楽演奏家のためのソレであって、よくまとめられてはいるが、『究極の身体』を読めば、本書の理解もいや増すことと思う。

2019年6月19日にレビュー

究極の身体 (講談社+α文庫)

究極の身体 (講談社+α文庫)

  • 作者: 高岡 英夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/08/20
  • メディア: 文庫



野口体操 からだに貞く 〈新装版〉

野口体操 からだに貞く 〈新装版〉

  • 作者: 野口 三千三
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2016/03/11
  • メディア: 単行本



自然体のつくり方―レスポンスする身体へ

自然体のつくり方―レスポンスする身体へ

  • 作者: 斎藤 孝
  • 出版社/メーカー: 太郎次郎社
  • 発売日: 2001/09/01
  • メディア: 単行本



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「フルトヴェングラーかカラヤンか」 ヴェルナー・テーリヒェン著 中公文庫 [音楽]


フルトヴェングラーかカラヤンか (中公文庫 テ 7-1)

フルトヴェングラーかカラヤンか (中公文庫 テ 7-1)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2021/11/19
  • メディア: 文庫


軍配はフルトヴェングラーに上げられていますが・・・
2004年9月16日にレビュー

二人の指揮者の名が挙げられていますが、著者(テーリヒェン)の思いの中で、軍配はフルトヴェングラーに高々と上げられています。この著作に関しては宇野功芳氏も、カラヤンではなく、フルトヴェングラーを推奨する根拠として取り上げています。

・・客演指揮者の元でオケが練習している。著者は下を向いてスコアに注意を払っている。と、突然オケの音がそれまでと違った本番さながらの充実した温かいものに変る。オヤッと顔をスコアから上げてステージの袖に目を遣ると、そこにフルトヴェングラーが立っていた・・という例の記述はこの書籍から採られています。(実際にはもっと丁寧に記述されています)

圧巻はフルトヴェングラーの指揮で初めて演奏した時の著者の「フルトヴェングラー体験」でしょう。これは読むだけで、その「体験」の凄さが伝わってまいります。これは、実際に一緒にその場にいて、共に時を過ごした人間しかわからない「体験」だろうが、ナント凄まじいものか、と思わせます。

この書籍は、ベルリンフィルの輝かしい時代を築いた二人の「違い」について知る良書だと思います。また、他にも、ベルリンフィルのこと、客演した指揮者たちのこと等が取り上げられた興味深い資料となっています。どうぞご一読くださいませ。


[HQ sound] Furtwängler & VPO - Bruckner: Symphony No.8 (1944.10.17)
pianissimo at midnight
https://www.youtube.com/watch?v=YeOonmZNJcs


巨匠フルトヴェングラーの生涯 (叢書 20世紀の芸術と文学)

巨匠フルトヴェングラーの生涯 (叢書 20世紀の芸術と文学)

  • 出版社/メーカー: アルファベータ
  • 発売日: 2010/11/23
  • メディア: 単行本



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『日本人とリズム感 ―「拍」をめぐる日本文化論―』 樋口桂子著 青土社 [音楽]


日本人とリズム感 ―「拍」をめぐる日本文化論―

日本人とリズム感 ―「拍」をめぐる日本文化論―

  • 作者: 樋口桂子
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


著者のリズム感の悪さを寿ぎたくなる本

L. クラーゲス著『リズムの本質』という本がある。そこでは拍子とリズムの違いが論じられ、リズムが生命を高揚させ充実感をあたえるものとなることが示される。また別な本だが、古来宗教的なトランス(催眠)状態にはいるのにリズム楽器(特に太鼓)が利用されてきたことなども関係して学んだ。リズムはわれわれの生活とたいへん密着してあるのだが(そして重要なのだが)、意識されていない。そういう読書経験から、面白そうな本が出てきたぞと本書を手にした。

実際、たいへん面白い内容だ。著者の経験が裏打ちされている。ただの論考ではない。「まえがき」ではイタリア人と日本人の「相槌とうなづき方が全く逆」であることが示され、「あとがき」ではチェロの「地獄のレッスン」の話がでる。事実が述べられるだけでなく、自・他を体験観察した得がたい経験として了解できる。

著者は告白する。「私はリズム感が悪い」、そして、「それだからこそこの書を書こうと思い立った」と書く。おかげで読者は、日本文化に流れるリズムを意識化する助けを得られる。論議は、他の文化との比較のうちに進められる。話題は、言語、身体運動、音楽・絵画等の芸術活動など多岐にわたる。これでもかと披瀝される話からリズムのいろいろなあり様を知ることができる。

著者はいう。「リズムは常にかたちになることを希求し、外へと出たがっている。リズム感は日常生活の中での人の動作や仕草を律しているだけでなく、表現の方向を司って、時間的な動きの中で表現される音楽、舞踊や韻律のある詩歌だけでなく、絵画や彫刻、デザイン、装飾や建築などの造形表現の中に表れて出てくる。こうした表現全体の中にあるリズム感を、とりわけ日本人の感性の中に見てゆこうとしたのが本書である」。

「外へ出たがっているリズム」を意識化し、それに上手に乗っていくなら生活を(ひいては人生)を高揚充実させることができるにちがいない。著者のリズム感の悪さを寿ぎたくなる本である。

2018年3月20日にレビュー

リズムの本質 新装版

リズムの本質 新装版

  • 作者: ルートヴィヒ・クラーゲス
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: 単行本



ドラミング―リズムで癒す心とからだ

ドラミング―リズムで癒す心とからだ

  • 作者: ロバート・ローレンス フリードマン
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2003/03/01
  • メディア: 単行本



アフリカ音楽の正体

アフリカ音楽の正体

  • 作者: 塚田 健一
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2016/05/16
  • メディア: 単行本



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『マイルス・デイヴィスの真実 (講談社+α文庫)』小川 隆夫著  [音楽]


マイルス・デイヴィスの真実 (講談社+α文庫)

マイルス・デイヴィスの真実 (講談社+α文庫)

  • 作者: 小川 隆夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/10/21
  • メディア: 文庫


「それなら誰にも書けない本を書けよ」

本書は、マイルス・デイビスをフィーチャーしたモダンジャズの歴史書といっていいだろう。とてつもないビッグネームが、これでもかというほど多数登場して、当時の状況を語る。それは、時代であり、文化であり、レコーディング時の模様であり、マイルスの私生活であり、彼の精神状態であり、もろもろである。おおくのインタビューの積み重ねの上に、本書は成っている。しかも、そのビッグネームは、マイルス本人であり、彼をとりまくジャズシーンを輝かせてきた人たちだ。小川さんは、なんと幸せな人だろうとうらやましく思う。

その内容は、マイルスが切り拓いていった音楽の軌跡を、過去の事績としてだけでなく、波を裂いていくその先端でのあり様として示していく。そして、その記述の根っこにあるのは、マイルスへの深い敬愛の念だ。そのあふれるような思いも伝わってくる。マイルスが眠っているウッドローン墓地での記述にはこうある。

《マイルスの音楽は、ぼくの青春そのものだった。 / なにもわからぬまま、彼のライブを観たのが中学2年のときだ。高校2年でその音楽にのめり込み、『マイルス・スマイルズ』からリアル・タイムで聴いてきた。もっとも多感な時代に出会ったマイルスから、ぼくはさまざまに触発をされた。どんなときでも前を見つめて歩いている姿に、影響を受けたのだ。 / そのマイルスが、ここに眠っている。// 「ようやくあなたの本が出せることになりました」 (中略) 「なんていわれるか心配だけれど、次は本が出版されたら来ますね」 / 心の中でそう呟いてから、ゆっくり帰路についた。去り難い気持ちだが、今度はいつでも来ることができる。 / 「妙なことを書いていたら、訴えてやるからな」 / ニヤリと笑って、マイルスがそういっている姿が心に浮かんだ。とても満たされた、幸せな昼下がりだった(「第14章 マイルスは永遠なり」)》。

本を書くにあたって、小川さんはマイルスからハッパをかけられていた。《「それなら誰にも書けない本を書けよ。なにしろ、ずいぶん間違って伝えられているからな、それと本ができたら、30冊、いや50冊、寄越せ。みんなに配らなくちゃいけないからな。サインも忘れるな」(「序章 はじめに」)》。

本書は「誰にも書けない本」に仕上がっているのではないだろうか。仕上がっているように思う。マイルスに、サインをして、贈れなかったののが残念だ。

2017年2月10日にレビュー

Perfect Miles Davis Collection (20 Albums)

Perfect Miles Davis Collection (20 Albums)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony Import
  • 発売日: 2011/09/30
  • メディア: CD



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『明治のワーグナー・ブーム 近代日本の音楽移転』竹中 亨著 中公叢書 [音楽]


明治のワーグナー・ブーム 近代日本の音楽移転 (中公叢書)

明治のワーグナー・ブーム 近代日本の音楽移転 (中公叢書)

  • 作者: 竹中 亨
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/04/19
  • メディア: 単行本


西洋音楽の日本への「音楽移転」の「複合的な現象」を、ずっと追いかけ、「明治のワーグナー・ブーム」の謎を解く

本書は、「音楽史の書物」ではなく、「音楽を素材として文化史研究を試みた」もの。焦点となるのは、「音楽そのものではなく、音楽を取り巻く社会文化的側面」にある。と記すと、なにやら、むずかしそうだが、たいへん面白い本で、簡単にいえば、明治期の日本において、西洋の音楽(洋楽)はどのように受容されていったかを示す研究。

明治維新なって、アチラの音楽が日本に入ってくる、当初、聞くに堪えないものとされた洋楽が、徐々に(忍耐のうちに)受け入れられ、後に、一大ブームを巻き起こす。ワーグナーのブームである。著者は「明治のワグネリアンは、いったいワーグナーのなかの何にそこまで惹かれたのか。また、崇拝の対象が他の作曲家ではなく、ワーグナーだったということに何か意味があったのか」という疑問をいだき、その謎に迫ろうとする。

副題に「音楽移転」と、あるが、本書中つぎのように説明されている。《音楽学の方面では「文化横断」(transculturation)という概念を使う論者もいるが、いずれにしてもある地域の音楽文化が他の地域に移しかえられる現象を指す》。《単に歌や楽器をよそにもっていけば移転になるのではない。というのも、音楽は音だけでなりたっているのではなく、それを含めた社会文化的な営みだからである。だからたとえば、音楽がどんな社会的機会に、だれによって、いかなる目的で演奏され、かつ享受されるかというような次元まで含めて考える必要がある》。《したがって、移転された音楽が移転先で定着するには、一定の社会的条件が必要だし、逆にもちこまれた音楽が移転先の音楽文化状況に変化を与えることもある。また、移転を通じて音楽そのものに何がしかの変化が生じることも多い。つまり、音楽移転は複合的な現象であり、したがってそう単純に進行するものではない》とある。

著者は、西洋音楽の日本への「音楽移転」の「複合的な現象」を、ずっと追っていく。ワーグナー・ブームの謎も解く。そして、こう結ぶ。《洋楽がわが国にもたらされて150年になる。日本の音楽文化がその間に著しく西洋化したことは紛れもない事実である。しかし、音楽との付きあい方という点に関していえば、われわれは意外に明治を引きずっているかもしれない》。

2016年9月10日にレビュー

ヴィルヘルム2世 ドイツ帝国と命運を共にした「国民皇帝」 (中公新書)

ヴィルヘルム2世 ドイツ帝国と命運を共にした「国民皇帝」 (中公新書)

  • 作者: 竹中亨
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: Kindle版



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『日本におけるリトミックの黎明期: 日本のリズム教育へ リトミックが及ぼした影響』板野 晴子著 ななみ書房 [音楽]


日本におけるリトミックの黎明期: 日本のリズム教育へ リトミックが及ぼした影響

日本におけるリトミックの黎明期: 日本のリズム教育へ リトミックが及ぼした影響

  • 作者: 板野 晴子
  • 出版社/メーカー: ななみ書房
  • 発売日: 2016/04/11
  • メディア: 単行本


リトミックの創始者エミール・ジャック=ダルクローズのこと、日本にどのように導入されてきたのかその歴史を知ることができた

「リトミック」という言葉を聞いたことはあるが、どんなものかを知らないまま本書を手にした。「知らない」とはいっても、音楽教室で親と子が一緒になって、リズムに合わせて運動らしきものをするらしいことは、おぼろげながら予想できた。一度、普及教室のポスターでそうした宣伝を見たことがあるように記憶する。

評者はもともとリズムには関心があって、クラーゲスの『リズムの本質(みすず書房)』などを読み「メロディーの無い音楽はあっても、リズムの無い音楽はない」などという言葉を聞きかじり、人間の命とリズムは呼応し、人生を充足させるうえでリズムを意識することの大切さは思いに入っていたので、子どもの教育において有効なもので「リトミック」があるのであれば、それは大人にも有効なのではないか、そうであれば、リズムを意識した生活を築くうえで本書も一読に値するのではないかと思ったのだ。

しかし、その観点でいくなら、リトミックとは何か?、その有効性は?に直接答えるような書籍を手にした方が良かったようだ。たとえば『リトミック論文集 リズムと音楽と教育 エミールジャック=ダルクローズ』などがふさわしかったのだろう。とはいえ、本書をとおし、リトミックの創始者エミール・ジャック=ダルクローズのこと、日本にどのように導入されてきたのかその歴史を知ることができて嬉しい。(以下、引用)。

《これまではリトミックを音楽教育として日本に紹介した人物は小林宗作(1893-1963)であるという捉え方がなされていたが、それは白井(規矩郎 1870-1951)が体育教師であるという評価があったからともいえる。本研究では、白井に音楽の専門家としてのベースがあったからこそ、リトミックの理念に共感し、紹介するに至ったということが判った。白井は教科体育で取り扱う体操や遊戯などに、音楽の専門家としての見地からリズム教育を活用した。“身体を動かす活動に音楽を活用することで、心身の調和を目指すことができる”という白井のリズム教育観は、“自分の意志によって身体を動かし、音楽に合わせられることが出来れば、自由な精神を育成できる”とした成瀬(仁蔵)の体育観とも一致していたのである(第2章p54)》。

2016年9月4日にレビュー

シューマン共振が脳波と連動?どうせ科学では否定され・・・はぁ!?まじで?
https://note.com/shironoy/n/n41714621a0e8

リズムの本質 新装版

リズムの本質 新装版

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2022/10/13
  • メディア: 単行本



リトミック論文集 リズムと音楽と教育 エミールジャック=ダルクローズ

リトミック論文集 リズムと音楽と教育 エミールジャック=ダルクローズ

  • 作者: エミール ジャック ダルクローズ
  • 出版社/メーカー: 全音楽譜出版社
  • 発売日: 2003/02/18
  • メディア: 単行本



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