親の「死体」と生きる若者たち 山田孝明著 ⻘林堂 [ノンフィクション]
心中を察するうえで(痛いほど)参考に
「死体遺棄事件」について聞くことがある。事件現場は自宅、死体は「親」、遺棄したのは「子供」である。子供といっても50代の、中年であったりする。
それらを見聞きするときに、死亡届を出すなど、親の死に面して具体的な行動ができず、相談する人もなく、思いあぐねているうちに、外部の人間に発見されて新聞沙汰になったのだろうと考えていた。
本書は、高齢の親とその「ひきこもり」と称される子どもたち相互のモンダイに寄り添ってきた方の報告である。当事者たちの経験談も真率に示されている。これから、ますますこうしたモンダイは増えていくだろうと予想される。そうしたモンダイを抱える方々の心中を察するうえで(痛いほど)参考になる。
「私たちが今生きている社会には『そうせざるをえなかった人たち』が生きています。だからこそ、そうせざるをえなかったことに対する理解が必要なのです。私たちは今、そんな時代を生きているのです」との著者の言葉が響いてくる。
2019年5月29日にレビュー
8050問題 中高年ひきこもり、七つの家族の再生物語 (集英社文庫)
- 作者: 黒川 祥子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2021/10/20
- メディア: 文庫
『秘録イスラエル特殊部隊──中東戦記1948-2014』 早川書房 [ノンフィクション]
「テロリスト」国家・集団との戦いに際しての具体的事例・展開が
『まえがき』から、イスラエルの置かれている状況を引用すると、以下のようになる。「ユダヤ人国家が誕生した1948年は、人口65万人の国として、3000万人以上を有するアラブ5ヶ国に対抗しなければならなかった。2015年には、イスラエルの人口は800万人に達した。うち8割はユダヤ人、2割は軍務につくことのないアラブ系イスラエル人である。それに対して、周辺国の人口は1億4000万人と増えており、差は広がるばかりだ。平和協定を結んでいるエジプトとヨルダンはこの数字から除外するとしても、新たな強国が敵陣営に加わった。狂信的イスラム教徒の指導者が、通常兵器非通常兵器を問わず使用して世界地図上からイスラエルを抹殺してやると主張する、人口7500万人のイランである。」
弱小国家が、自国を守るために特殊部隊を結成する。それは道義(「武器の純潔」という倫理規定)に基づいて活動する。その歴史的・活躍が記される。「テロリスト」国家・集団との戦いに際しての具体的事例・展開が示される。それは少数精鋭によって、敵地において成される。ハイジャックされた飛行機を奪取し人質を解放する。テロ組織の要人を暗殺する。武器を輸送する船舶を拿捕する。作りかけの原子炉を破壊する。それは、用意周到、手に汗握るものだ。それら個々の事例をとおして、冷戦下の国際関係を垣間見ることもできる。
記述の範囲は1948-2014となっているが、防衛大名誉教授:立山良司氏の解説には、イスラエルの今日的課題も示されている。その末尾は次のように締めくくられている。「2017年12月に米国のドナルド・トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認め、米国大使館を移転すると宣言した。この結果、パレスチナ問題の解決はいっそう遠のいた。さらにシリア内戦や過激なジハード主義者の活動など、中東は不安定要因に満ちている。その意味で、イスラエル軍の役割は重大であり安全保障の要であり続けるだろう。だが『国民軍』としての性格の維持、プロ集団としてのポスト・モダンな軍への脱皮、偏狭な宗教ナショナリズムの浸透、占領継続や軍事作戦に対する国際的な批判の高まりなど、イスラエル軍はさまざまな問題に直面している。 (2018年2月)」
本書をとおして、中東問題についてはもちろん、戦争とは何か、(軍事)組織とは何か、考えさせられる。
2018年7月20日にレビュー
『ゴビ 僕と125キロを走った、奇跡の犬 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)』 [ノンフィクション]
ゴビ 僕と125キロを走った、奇跡の犬 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)
- 作者: ディオン レナード
- 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
- 発売日: 2018/04/28
- メディア: 単行本
ハッピーエンドの物語
素材がイイとこういう物語ができるのだなと感じます。
話は簡単です。人になじめぬ影のある人物と愛情深いイヌとの出会い、別離・失踪、そして再会。たまたま、物語の話者が、世界的なウルトラマラソンのランナーであること、熱暑の砂漠でのレース中に出会ったイヌであること、が話しを盛り上げます。舞台となるのは、新彊ウイグル自治区、北京、スコットランド・・・。
あんまり内容に踏み込むとネタバレになるので控えますが、われわれはハッピーエンドの物語を求めているのだな・・とつくづく感じます。著者が、犬と再会するためには、多くの資金が必要でしたが、新聞・テレビの影響もあってクラウドファウンディングですぐに集まります。物語を完成させるために多くの人が貢献したのです。現地でのボランティアや支援団体、協力者の存在、ネットサイト上での応援・支援が無ければ、著者と「奇跡の犬」との再会はなかったでしょうし、本書が完成することもなかったでしょう。
イイ話です。あらすじを知って読んだとしてもこころ動かされることと思います。
2018年7月17日にレビュー
Heartbreak Over As Ultra Marathoner And Dog Reunite - Happy Ending For Dion Leonard & Gobi The Dog
https://www.youtube.com/watch?v=vtzp3EEWSjY
Finding Gobi (Main edition): The True Story of a Little Dog and an Incredible Journey
- 作者: Dion Leonard
- 出版社/メーカー: HarperCollins Publishers Ltd
- 発売日: 2018/01/22
- メディア: ペーパーバック
Finding Gobi (Younger Readers edition): The True Story of One Little Dog's Big Journey
- 作者: Dion Leonard
- 出版社/メーカー: HarperCollins
- 発売日: 2017/05/22
- メディア: ペーパーバック
『ロマ Roma 「ジプシー」と呼ばないで』 金子 マーティン著 影書房 [ノンフィクション]
偏見と偏見が生み出すもの
放浪する民とされる「ジプシー」とは実際どんな人々か?日本でいう「サンカ」のようなものか?少数者、マイノリティーへの関心から、評者は本書を手にした。しかし、書籍タイトルにあるように、「ジプシー」という呼称は彼ら・彼女たちの望まない名称であるという。
著者幼年の記憶から、本書は始まる。「ジプシーは子どもをさらう」という中世からつづく偏見があり、その偏見を個人的に体験する。「恐い人たちがきたから今日は外で遊んじゃダメ」と祖母に言われる。その時、家の前をロマの人々が通ったのだという。偏見・流布のきっかけはセルバンテスの著作であるという。評者の子どもの頃、南京袋をかついで歩く浮浪者がいたのだが、その名をあげて、祖母から同じことを(つまり、「さらわれる」)言われたのを思い出した。
偏見は、当のモノを実際に知らないところから発生する。著者は、彼ら・彼女たちとの交流をとおして知った実際のロマについて記す。また、ロマの歴史を示す。ナチスの支配下、ロマの人々は、「子どもをさらう」どころか、子どもをさらわれ、親から引き離され、断種され、強制収容所でのホロコーストを経験する。そして戦後、今日に至るまで、十分な補償もなされないまま、相変わらず心無い人々からの偏見と差別の対象とされてきた。そして、今ふたたび、ホロコーストの歴史がくりかえされるかの動きがあるという。《「歴史修正主義」勢力が唱えるインチキを見抜き、史実を知る》よう著者は警鐘を鳴らす。
本書は、自分はマイノリティーであると考える人には、偏見から身を守るため、マジョリティーであると思う人には、偏見によって、よわい者イジメに巻き込まれないための助けとなるにちがいない。
2016年12月14日にレビュー
ナチス体制下におけるスィンティとロマの大量虐殺―アウシュヴィッツ国立博物館常設展示カタログ日本語版
- 出版社/メーカー: 反差別国際運動日本委員会
- 発売日: 2010/02/01
- メディア: 大型本
「海と灯台学」文春e-book [ノンフィクション]
ハードカバーのしっかりした製本。著者は「日本財団 海と灯台プロジェクト」。巻末に笹川陽平氏のメッセージあり。「歴史」「人」「技術」「地方」の4つのパートから成っている。海の安全航行を預かる灯台の歴史は江戸時代から示される。河村瑞賢が全国100か所以上の高台に(篝火による目印)灯明台を設置したこと、1866年に英仏米蘭と締結した江戸条約との関連で近代的灯台整備が急がれ、フランス人ヴェルニー、フロランによって観音崎、城ケ島、野島崎、品川の4灯台が、その後、スコットランドから来たR・H・ブラントン、藤倉見達、石橋絢彦らによって次々と灯台が設置されていく。「人」のパートでは皇室、特に貞明皇后について、また灯台守の働きについて。「技術」のパートでは、灯台の素材、工法、フレネルレンズ等について知ることができる。「地方」のパートでは、40ほどの灯台に思いを寄せる各地域の方々へのインタビューが掲載されている。GPS等の新技術の発達で、どちらかというと文化遺産的要素の強まる灯台への思慕を強められる。写真図版も多く、見て楽しむことのできる本であり、灯台見学に出かけたくなる本である。
ロバート・ルイス・スティーブンソン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3
オーギュスタン・ジャン・フレネル
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%8D%E3%83%AB