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「室町殿」の時代: 安定期室町幕府研究の最前線(山川出版社) [日本史]


「室町殿」の時代: 安定期室町幕府研究の最前線

「室町殿」の時代: 安定期室町幕府研究の最前線

  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2021/12/25
  • メディア: 単行本


「研究の最前線」に立ち会うことができます

「室町殿」とは聞きなれない言葉である。本書は『はじめに――中世国家の最高責任者、「室町殿」とは何か?』から始まる。少し長くなるが、本書タイトルにある「室町殿」と「安定期」について知ることができるので、以下に引用してみる。

室町時代の“国家の最高権力者”は誰か?もちろん、天皇があげられようが、中世の太政官制(太政官を最高機関とする行政機関。古代の律令制に始まる)において天皇はあくまで最終決裁者であり、アクティブにあれこれ決めることはしない。それなら、室町幕府将軍か?しかし、将軍はあくまで武家の世界での棟梁である。// このような単純にみえ、かなり奥深い命題に対して、これまで数多くの研究者が挑んできた。室町期(室町時代は大ざっぱに南北朝期〔14世紀〕・室町期〔15世紀〕・戦国期〔16世紀〕に分割できる)、公家(朝廷)・武家(幕府)・寺社といった中世国家の運営集団を凌駕し君臨した権力体がある。それが「室町殿」である。// この言葉は、史料用語であり、分析概念でもある。本書で取り上げる「室町殿」とは、足利義満(1358~1408)・足利義持(1386~1428)・足利義教(1394~1441)・足利義政(1436~90)の4人である。(序章の久水論文を参照)。// 読者はなんだ「室町将軍」のことかと思うかもしれない。しかし、「室町殿」は「室町将軍」とは似て非なるものなのである。たしかに、4人全員が征夷大将軍を経験している。だが彼らは、将軍職を辞めても、もしくは将軍職に就く前でも「室町殿」であった。// 「室町殿」は足利将軍家の家長として、武家政権の長であるとともに、それまで公家がもっていた権限までも段階的に掌握し、公家・武家・寺社によって運営される中世国家の最高責任者として機能した(もちろん、理念的には天皇が頂点である)。// このように、「室町殿」の下で有力権門(社会的な特権を有した権勢のある門閥・家柄・集団)が統合され、比較的安定した治世が繰り広げられている時期を、本書では「安定期」と定義する(なお、本書執筆の著者のなかには、厳密な意味で「安定期」という定義に、別の考えをもつ方もいることを付記しておきたい)。***引用、ここまで***

第1部では「室町幕府の運営システムとそれに携わる人びと」について、第2部では「室町殿の地方支配について、地方の勢力との関係について」、第3部では「室町殿と宗教勢力(寺社権門)についての研究状況について」、第4部では「室町殿を取り巻くさまざまな階層について」取り上げられられている。

「研究の最前線」とタイトルにあるが、中・高の教科書等で教えられている歴史とは異なる、まだ定説化されていない過渡期の様相をみる思いがした。たとえていうなら、噴出した溶岩のまだ固まる以前のような学問の世界に触れることのできる書籍である。(以下、目次)

「室町殿」とよばれた四人の足利将軍/第1部 室町幕府の運営体制(室町殿と訴訟ー室町殿は、訴訟・紛争にどのように対処したのか?/将軍と天皇の関係ー足利家と天皇家の一体化は、どのように進行したのか? ほか)/第2部 室町幕府と都鄙(幕府と在京大名ー幕府の全国支配と「在京大名」の重要な役割とは?/幕府と東国情勢ー「鎌倉府」の盛衰を左右した幕府・鎌倉公方の対立 ほか)/第3部 室町幕府と宗教(幕府と武家祈〓-室町殿の“身体護持”を担う門跡寺院と護持僧/幕府と五山ー“巨大企業体”のような組織だった禅僧集団 ほか)/第4部 室町幕府を取り巻く社会状況(幕府と室町文化ー幕府とともに新興文化を支えた芸能者・被差別民/幕府と土一揆ー「土一揆」は、中世社会における「訴訟」行為だった ほか)

2022年3月11日にレビュー

図説 鎌倉府

図説 鎌倉府

  • 出版社/メーカー: 戎光祥出版
  • 発売日: 2019/08/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



足利持氏 (シリーズ・中世関東武士の研究 第20巻)

足利持氏 (シリーズ・中世関東武士の研究 第20巻)

  • 作者: 植田真平
  • 出版社/メーカー: 戎光祥出版
  • 発売日: 2016/05/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



南総里見八犬伝 全10冊 (岩波文庫)

南総里見八犬伝 全10冊 (岩波文庫)

  • 作者: 曲亭 馬琴
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/03/11
  • メディア: 文庫



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『江戸無血開城、通説を覆す』山本紀久雄著 [日本史]


江戸無血開城、通説を覆す 一枚の絵に隠された“謎

江戸無血開城、通説を覆す 一枚の絵に隠された“謎"を読み解く (ベストセレクト)

  • 作者: 山本紀久雄
  • 出版社/メーカー: ベストブック
  • 発売日: 2021/12/27
  • メディア: 単行本


緻密な考証のなされた読み応えのある書籍

タイトルを見て、勝海舟が大功労者とされている江戸無血開城の通説を覆すのだなと思った。評者は、山岡鉄舟の高弟小倉鉄樹による聞き書き「おれの師匠」を読んで、第一の功労者は鉄舟であることを承知していたので、そのように予想した。

結論からいえば全くそうなのだが、話は江戸無血開城といえば「あの絵!」と誰もが思い出す、教科書にも掲載されている勝海舟と西郷南洲両人の絵画から論じられる。その絵を収蔵する聖徳記念絵画館との関係でである。また、それを描いた人物、さらには絵画の描写に関してである。

もっと山岡鉄舟その人についての記述が読みたかったが、それは著者が会長をつとめる「山岡鉄舟研究会」のネットサイトで読むことができる。そのサイトの記事同様、緻密な考証がなされている。読み応えのある書籍である。

2022年3月8日にレビュー

「山岡鉄舟研究会」
http://www.tessyuu.jp/


山岡鉄舟先生正伝 ――おれの師匠 (ちくま学芸文庫)

山岡鉄舟先生正伝 ――おれの師匠 (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2021/06/14
  • メディア: 文庫



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「明治維新とは何だったのか――世界史から考える」 半藤一利×出口治明 [日本史]


明治維新とは何だったのか――世界史から考える

明治維新とは何だったのか――世界史から考える

  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: Kindle版


「モシ~でなければ、であれば」と考えさせられる

2018年は明治150年を記念する年となった。そのすこし前に『明治維新という過ち(原田伊織著)』が出た。副題に「日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」とあるとおり、 教科書では教えない意表をつくものだった。いわば、薩長暴力革命論のようなものだ。その嚆矢となり先鞭をつけたのが、半藤さんの『幕末史』(2012年発行)だったということを、本書を読んで知った。(ちなみに、評者はどちらも未読)。

本書は、たいへん啓発的で、幕末・維新時の(世界のなかでの)日本の立ち位置をよく知ることができる。徳川幕府だけで、近代国家をつくることは可能であった。情報・知識に通じた人材は幕閣に居た。モシ公家・皇室の権威をことさらに重要視しなければ、モシ最後の将軍が水戸の出でなければ、薩長勢力に政府をつくらせることはなかったろう。モシ大久保利通ら大物が時ならずして亡くなることなく、モシ小物(山形有朋ら)が力を得ることがなければ、日本には軍隊がシビリアンコントロールされたものとして存在し、無益で愚かな戦争に向かうことはなかったにちがいない。モシ日露戦争の勝利が「やっとこさ」得たものに過ぎず、アメリカの仲介の労があって講和に持ち込めたことを国民がしっかり理解していれば、同様に・・・と、いろいろ考えさせられる。出口治明氏という、経済に通じ、世界史にも明るい対談相手を得て、幕末維新時の状況がふくらみをもって語られる。

2020年7月15日にレビュー


竹越与三郎は、「明治維新」をどのように評価していたか(加藤秀俊著『メディアの展開』から)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2015-09-23

明治「150年記念事業」について(徳川慶喜とからめて)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2017-05-09

徳川様の世は、今よりもずっと上?
(磯田道史著『徳川がつくった先進国日本』から)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2017-06-26


明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト〔完全増補版〕 (講談社文庫)

明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト〔完全増補版〕 (講談社文庫)

  • 作者: 原田 伊織
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/15
  • メディア: 文庫



幕末史 (新潮文庫)

幕末史 (新潮文庫)

  • 作者: 半藤 一利
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/10/29
  • メディア: 文庫



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『乱と変の日本史 (祥伝社新書)』 本郷 和人著 [日本史]


乱と変の日本史 (祥伝社新書)

乱と変の日本史 (祥伝社新書)

  • 作者: 本郷 和人
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2019/03/01
  • メディア: 新書


星5つに値する

10の「乱と変」が取り上げられ論じられる。第一章 平将門の乱 / 第二章 保元の乱、平治の乱 / 第三章 治承・寿永の乱 / 第四章 承久の乱 / 第五章 足利尊氏の反乱 / 第六章 観応の擾乱 / 第七章 明徳の乱 / 第八章 応仁の乱 / 第九章 本能寺の変 / 第十章 島原の乱。

著者は、それら歴史上の点を線でつなぐ。「すべてをつなげることで、日本史を貫くものが見えてくる」と(書籍・袖に)あるが、著者の「つなげ」た線、引いた線は、“変ではナイ”と評者は思う。独自の見解もあるにはあるが、自分の立場・見解であることはその都度ことわっているし、教科書的見解や対立する他の見解も示されている。他の見解を貶めるような扱いをしているわけでもなく、全体に公平であるように思う。

通読しての印象は、オモシロイの一語である。オモシロイというのは、説得力があって啓発されたということである。とりわけ、『応仁の乱』については、それ以前の乱との関係から説き起こされ理解が深まった。全体を統括する権力機構が弱まると、重石のゆるんだ樽(タル)の中から封じ込めたモノが飛び出してくるように、帰属する諸勢力が“変な動き”をはじめることが分かった。

くり返し読んで、知識を自分のなかで整理していきたい。そのように思わせてくれる本であるというだけでも星5つに値する。

2019年8月3日にレビュー

承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)

承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)

  • 作者: 本郷 和人
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/01/18
  • メディア: 新書



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「副島隆彦の歴史再発掘」 副島隆彦著 ビジネス社 [日本史]


副島隆彦の歴史再発掘

副島隆彦の歴史再発掘

  • 作者: 副島 隆彦
  • 出版社/メーカー: ビジネス社
  • 発売日: 2018/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


著者の果たした問題提起は評価したい

「歴史再発掘」というより、「歴史掘りちらし」という印象だ。たいへんな自信をもってご自身の見解が正しく真実であると主張しているが、その根拠は(自・他の既刊書を参照するよう促してはいるものの)本書中に十全に示されていない。もちろん、それなりの論拠は示されてはいるのだが、著者の論理をたどって行くと、著者のみ結論に達して、読者(少なくとも評者)は置き去りにされる感がある。著者の既刊書を読み、著者を知り、いわば弟子筋の人であれば納得するのであろうけれど、著者の本をはじめて読み、本書のみを根拠にして評価するなら、タワゴト扱いされてもおかしくないようにも思う。庭に繋ぎおかれる犬が、自分の移動範囲のなかで、そちこちに穴を掘り、その穴のなかで満足気に昼寝を楽しんでいたりするが、著者が本書でおこなったのは、そういったモノではないのかと感じた。それもあって「歴史堀りちらし」である。

もっとも評価するとは、二面性をもっている。評価する評価が評価する者の評価ともなる。評者が、著者の執筆するうえでの前提を知らないことが、本評価と絡んでもくるのだろう。論議の飛躍と感じられるところ、前提を十分に示していないところをあげるなら、たとえば以下のような陳述だ。「②陽明学は、自らも儒教のようなふりをしていたが、真実は、隠れキリスト教である。陽明学はキリスト教なのである。(p172)」。また、さらには、助詞が抜けていたり、送り仮名が変であったり、大日本帝国海軍提督井上“成美”のフリガナを「まさよし」としたりなど誤植が多く、編集者はなにをしているのかとの思いを抱いた。それもまた、著者の「再発掘」した真実の正確性・真実性を疑わせる印象を与えるものとなったように思う。

・・・と、だいぶ辛口のコメントを記したが、それでも、著者の果たした問題提起は評価したい。発掘されたモノを検証する必要があるが、オモシロイ論議ではある。著者は「あとがき」で編集長への感謝とともに「こんなに苦労するとは思わなかった」と記しているが、読者もまた苦労を強いられる。それでも、全編イライラしながらも読み通させる内容であったことはまちがいない。本当に駄本であるなら、途中で投げ出す。しかし、そうはしなかった。本来なら、掘りちらされた一つ一つの論題で一つの本ができるほどの内容なのではないかと思う。なぜに、拙速と言われかねない仕方で刊行したのだろうかと疑問に思うほどだ。それゆえにも、本書の核となるのは問題提起ということなのだろう。

目次

第1章 国家スパイが最先端で蠢く(「007」と「第3の男」から垣間見える世界支配者の“奥の院”)

第2章 外相 松岡洋右論(英米を騙そうとした松岡外相は偉かった。だが、松岡・近衛文麿首相・昭和天皇の3人はまんまと騙し返された)

第3章 映画『沈黙ーサイレンス』が投げかけるもの

第4章 江戸の遊郭、明治・大正の花街はどういう世界であったか

第5章 『デヴィ・スカルノ回想記』からわかるインドネシア戦後政治の悲惨

第6章 邪馬台国はどこにあったのか、最新の話題

2019年5月2日にレビュー

キム・フィルビー - かくも親密な裏切り

キム・フィルビー - かくも親密な裏切り

  • 作者: ベン・マッキンタイアー
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 単行本



日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

  • 作者: 岡田 英弘
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/06/10
  • メディア: 文庫



歴史とは何か (第1巻) (岡田英弘著作集(全8巻))

歴史とは何か (第1巻) (岡田英弘著作集(全8巻))

  • 作者: 岡田 英弘
  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2013/06/23
  • メディア: 単行本



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『承久の乱 日本史のターニングポイント』 本郷 和人著 文春新書 [日本史]


承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)

承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)

  • 作者: 本郷 和人
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/01/18
  • メディア: 新書


読み終わるのが惜しいような・・・

鎌倉時代を専門にしていると「あとがき」にあるので、信頼していいのだろう。あんまりオモシロイので、ついついアカデミズムとの関係を推し量ってしまう。本郷先生の考え、推論は正しいのだろうか?学会においてどうなのだろうか?そう思いつつも、示される事実とその関係は、当然ながら(本書中においては)整合性を保っている(ように評者には感じられる)ので、やはり信頼していいように思う。本書のオモシロさは、もっぱら本郷先生の物語る能力に拠るように思う。ちょっとした言い回しのなかにも、発見があったりする。

人間による支配・政治、それは国内問題においても国際問題においても、つまるところ力関係(場合によっては暴力的なそれ)で、ヤクザの勢力争いと変わらず、いわば(本郷先生のいうように)「仁義なき戦い」なのだろうな・・・。それは、とおい昔だけでなく、今でもそうだ・・・など思いつつ読んでいる。

読み終わるのが惜しいような本だ。あんまりオモシロイので、 昨年上梓された〈坂井 孝一著『承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)』も併せて読んでみようと思う。自分のなかで「文春・中公の乱」が生じそうではあるが・・・

2019年4月10日にレビュー

承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)

承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)

  • 作者: 坂井 孝一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/12/19
  • メディア: 新書



日本的革命の哲学 (NON SELECT 日本人を動かす原理 その 1)

日本的革命の哲学 (NON SELECT 日本人を動かす原理 その 1)

  • 作者: 山本 七平
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2008/02/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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「江戸の古本屋: 近世書肆のしごと」 橋口 侯之介著 平凡社 [日本史]


江戸の古本屋: 近世書肆のしごと

江戸の古本屋: 近世書肆のしごと

  • 作者: 橋口 侯之介
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2018/12/17
  • メディア: 単行本


今日、本を自由に入手できること、「重宝な」本屋、古本屋に感謝

中島誠之助さんに倣って「いい仕事してますねぇ」と言いたい。本書で著者は、江戸時代の本屋の仕事を明らかにしてくれた。ふるい史料をよく調査し、まとめてくれた。たとえるなら、『カラマーゾフの兄弟』の新訳を出した亀山郁夫さんが、野崎歓さんの『赤と黒』の新訳を指して「いいレンズで世界を眺めたような感じ。底が見える翻訳だし、底がなければ、底がないということがわかる訳です。」と絶賛したことがあるが、橋口さんも、底まで見通しがきき、見えないところはここまでとはっきり分かる仕事をされている。それは、これから、著者の仕事を受け継ぐ研究者らにとってもたいへん有用にちがいない。

https://bookend.blog.so-net.ne.jp/2008-03-26

江戸時代について、日本の学会では「近世」として扱かわれる。ところが、外国の学会では、「初期近代」として扱うのだという。そのことを、社会学者の加藤秀俊さんの著書『メディアの展開』を通して知った。加藤さんは「徳川400年史観」を唱え、明治維新など大した時代区分ではない、「徳川時代」の享保から天明にかけての1世紀、つまり18世紀に大きな社会変動と文化革命があったと記している。本書を、読みつつ、そのことを裏付けるものとして感じるところ大であった。以前、大阪の堂島米会所が、世界初の先物取引を実施したことを知ったが、本書のなかで示される本屋相互の代金決済の仕方(本替)などみると、加藤秀俊さんの主張は正しいように感じる。

もっとも著者は『序章 江戸時代の本屋というもの』を次のように始める。〈今日の本屋に近い形態が町に現れたのは近世の初期である。京都で始まったその流れは、やがて江戸・大阪に広がり、豊かな書物世界を形成した。本屋は出版だけでなく、書籍の流通に多面的にかかわった。とりわけ、そこに古本の売買が大きく寄与したことを本書で強調したい。その背景には書籍のもついち「多品種少量生産」という特殊な商品的性格が関係している。〉

なにはともあれ、〈それまで書籍を求めようとすると、その所有者を見つけて借りるか写すかして対応せざるを得ず、容易なことではなかった。そこへ本屋が「こんな本はいかが」とばかりに持参して来るだけでなく、町を歩けば入手できるようになった。それはたしかに重宝なことだといえよう。〉という慶長20年(1615年)の土御門泰重の日記への言及から序章の最初の項目(『町の本屋出現』)は展開していく。今日、本を自由に入手できること、「重宝な」本屋、古本屋のことを感謝しつつ読み進めたい。

2019年3月19日にレビュー

https://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2015-07-28


メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

  • 作者: 加藤 秀俊
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 単行本



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古地図のひみつ 読みかた・楽しみかたがわかる本 今昔歴史歩き超入門 安藤優一郎監修 メイツ出版 [日本史]


古地図のひみつ 読みかた・楽しみかたがわかる本 今昔歴史歩き超入門

古地図のひみつ 読みかた・楽しみかたがわかる本 今昔歴史歩き超入門

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: メイツ出版
  • 発売日: 2018/12/10
  • メディア: 単行本


「畳の上の水練」におおいに役立つ

本書は、遠い過去に思いをはせ、実際に古い町並みを探索して歩くための本ではない。文字通りの地図で本書はなく、それ以前の段階で、古地図を読み解く技術を教えてくれる本だ。古地図(主に江戸)の特徴が示され、その「読みかた」「楽しみかた」を知ることができる。基礎編、入門編、応用編の3部構成となっていて、いわば「畳の上の水練」を重ねることができる。「畳の上」とはいえ、本書で「水練」を重ねるなら、古地図を見るにせよ、実際に歩くにせよ、楽しみが幾倍にも増すことは確か。なによりも、絵図の印刷がカラフルで見ているだけで楽しい。

「基礎編」のタイトルとサブタイトルは以下のとおり・・01地図の販売は許可制だった(124もの地図製作業者がいた)、02江戸切絵図は江戸中期から刊行された(江戸切絵図の最初は吉文字屋板だった)、03江戸図は正確ではなかった(正確さよりも分かりやすさを重んじた)、04地図は必ずしも北が上ではなかった(西が上の地図が多かった)、05江戸大絵図は使い勝手が悪かった(大絵図は正確ではあった)、06異業種の近江屋が地図業界に参入した(幕末に切絵図が生まれた)、07尾張屋板切絵図はカラフルな色彩で人気を高めた(絵草紙屋が業界に参入した)、08平野屋板切絵図は現代の地図に近かった(地図専門業者のプライド)、09御府内沿革図書は緻密な住宅地図だった(約50年の大事業)、10災害地図も作られた(災害地図は瓦版の形で作られた)

「入門編」のタイトルとサブタイトルは以下のとおり・・01城内は空白だった(江戸城内の様子は最高機密)、02城門の表記は画一化されていた(城門は枡形だった)、03文字の書き出しは入り口からだった(文字が入り口の目安だった)、04紋所入りの大名屋敷は上屋敷(江戸は大名屋敷街だった)、05■印の大名屋敷は中屋敷(中屋敷には跡継ぎと隠居の殿様が住んでいた)、06●印の大名屋敷は下屋敷(下屋敷は別荘)、07個人名の屋敷は旗本屋敷(旗本は個々に屋敷を拝領した)、08職種名の屋敷は御家人屋敷(御家人は組単位で屋敷を拝領した)、09町人地は町の名前だけ表記された(町人地は町単位で表記された)、10武家屋敷は無色で表記された(武家屋敷は江戸の七割を占めた)、11寺院境内は赤色で表記された(江戸の15%は境内地だった)、12神社境内も赤色で表記された(寺院を上回る権威を持つ神社もあった)、13町人地は灰色で表記された(江戸の15%は町人地だった)、14道路は黄色で表記された(江戸の土地に占める道の割合は大きかった)、15橋も黄色で表記された(水運都市のため多くの橋が架けられた)、16掘や川は青色で表記された(青色は、江戸の原型を象徴していた)、17土手は緑色で表記された(江戸城は土手に囲まれていた)、18御用地は緑色で表記された(御用地には何も建物がなかった)、19田畑は薄緑色で表記された(切絵図は江戸以外もカバーしていた)、20辻番所は□で表示された(武家屋敷街には辻斬りを防ぐ辻番所が置かれた)、21坂は(記号省略)で表示された(起伏が激しい江戸は坂が多かった)、22地名はOで表示された(目的地に辿りつく目印となっていた)、23イラスト入りの寺社もあった(イラストが多用されていた)、24寺社の由緒が表記されていた(解説文が多い切絵図があった)、25関連地図も付いていた(付記の地図もあった)

「応用編」のタイトルとサブタイトル(省略)

2019年2月6日にレビュー

東京時代MAP―大江戸編 (Time trip map-現代地図と歴史地図を重ねた新発想の地図-)

東京時代MAP―大江戸編 (Time trip map-現代地図と歴史地図を重ねた新発想の地図-)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 光村推古書院
  • 発売日: 2005/10/29
  • メディア: 大型本



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歴史の「普通」ってなんですか? (ベスト新書) パオロ・マッツァリーノ著 ベストセラーズ [日本史]


歴史の「普通」ってなんですか? (ベスト新書)

歴史の「普通」ってなんですか? (ベスト新書)

  • 作者: パオロ・マッツァリーノ
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2018/10/12
  • メディア: 新書


本当に、パオロ・マッツァリーノは実在するのだろうか

著者は「イタリア生まれの日本文化史研究家」。本書はイタリア人が日本の伝統について論じた本。論じるにあたって当然ながら、明治以降の資料文献への目配りもなされている。よほど日本語に堪能なのだろう。

目次を見ると、個別の伝統的な事柄を批判的に論じているだけに思えるが、それだけではない。著者は「伝統」や「常識」ソノモノを論じてもいる。それが明治以降 traditionの訳語として通用するようになったことなど示す。そして、それらを高く評価する者にとって、津波(とは記されていないが)のように迫ってくるものともなることを諭してくれもする。なんであれ、権威として奉るとその権威の前で人は奴隷のようになってしまう。本書で、一貫しているのは、伝統・常識に批判的であれ、振り回されるな・・という論調である。

と、記すと、お堅い本に思われてしまいかねないが、実際は、なかなかどうして柔らかい。落語・講談に接するように読んで欲しいと(「はじめに トリセツと結論」で)記している。そうしたやわらかい語り口で、日本の伝統を体現しているかに見える組織に、「お言葉ですが、日本の伝統を誤解しているのは神社本庁、あなたがたのほうです(p154)」と楯突いたりする。もちろん、十分な論拠を示してである。

本当に、パオロ・マッツァリーノは実在するのだろうか。歴史に造詣の深い(しかも、思想的な意味で、右も左もわきまえ知った)日本人の別名、異名ではないか。山本七平がイザヤ・ベンダサンを名乗ったようにである。

まあ、それはそれとして、ともかくオモシロイ本です。

2019年2月4日にレビュー

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

  • 作者: イザヤ・ベンダサン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1971/09/30
  • メディア: 文庫



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『ホンダ スーパーカブ コンプリートブック』 学研プラス [日本史]


ホンダ スーパーカブ コンプリートブック (Gakken Mook)

ホンダ スーパーカブ コンプリートブック (Gakken Mook)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 2018/09/29
  • メディア: ムック


懐かしく、楽しい

昨年(2017年)、累計生産1億台を突破したホンダ・スーパーカブの「還暦」祝い記念号。歴代モデルセレクションの写真、発売当時の広告など、懐かしい。カスタマイズパーツ・カタログやカブ専用パーツショップの紹介、メンテナンス方法など・・見ているだけで楽しい。

2018年11月18日にレビュー

スーパーカブの軌跡―世界を駆けるロングセラー 1952ー2018

スーパーカブの軌跡―世界を駆けるロングセラー 1952ー2018

  • 出版社/メーカー: 三樹書房
  • 発売日: 2018/10/01
  • メディア: 大型本



スーパーカブで遊ぶ

スーパーカブで遊ぶ

  • 出版社/メーカー: ホビージャパン
  • 発売日: 2021/11/05
  • メディア: Kindle版



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