『最高の体調をつくる音楽の活用法』日本版監修:大黒 達也,翻訳:大山雅也 [音楽]
GOOD VIBRATIONS 最高の体調をつくる音楽の活用法 ~免疫力・回復力を高める4つの力
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
- 発売日: 2022/02/24
- メディア: 単行本
「音楽療法」について広く知られるようになったのは、故・日野原重明先生が提唱しだしたあたりからでしょうか。もうずいぶん経つと思います。とはいえ、音楽がもつ医療的な効果・役割は、医学論文を待つまでもなく実感として知られてきました。そうでなければ、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』は書かれることはなかったでしょうし、感動を呼び起こすこともなかったでしょう。
音楽療法の本もいくらか目をとおしてきたつもりですが、あまり印象に残ったものはありません。その中で本書は特筆すべき内容に思います。訳者『解説』にもあるとおり「神経科学者の視点から音楽療法の可能性について書かれた本」であるからです。本書ほど、脳機能に則して書いてある、しかも一般向けにやさしく解説した本はないように思います。そして、「可能性」を感じさせ期待させてくれる本もなかったように思います。
著者は「音楽の神経科学、とりわけ脳波を用いた音楽の期待や予測に関する研究の第一人者」で、「もともと音楽家を志していたヴァイオリニスト」とのことです。ですから、音楽に関して造詣が深く、関連する話題、経験談も出てまいります。ですが、小難しい印象はありません。それは医学的情報についても同じです。「一般書」であるから当然といえば当然ですが、なかなかそういう本に出会えるものではありません。翻訳者が著者とおなじく医学者そして音楽家を志した過去があり、職場を共にしてきたなど、たいへん懇意にしてきたことも本書の分かりやすさに関係していると思います。(最近、ひどい翻訳書を読んでばかりいたのでなおさらそう感じるのかもしれませんが)直接、著者が日本語で書いたものであるかのように自然です。
内容としては、 1996年にヒグマに襲われて急逝した写真家・星野道夫氏の推薦図書『エンデュアランス号漂流』の話題が取り上げられます。そこでの28人全員生還について船長シャクルトンの手記に、音楽が「いのちをつなぐ精神薬」になったとあることから始まります。話題は広範です。言語学的な話しも出ます。音楽と暮らしとの関係を示すために民族学的話題がとりあげられたりもします。単に読み物としても楽しいですし、これから著者たちの研究がどう発展していくのか期待させられる本でもあります。
追記:翻訳者は大山雅也氏です。著者と懇意にしている医学者:大黒達也氏は本書日本版監修者でした。