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「新聞記者 司馬遼太郎(文春文庫)」産経新聞社 [文学・評論]


新聞記者 司馬遼太郎 (文春文庫)

新聞記者 司馬遼太郎 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/06/07
  • メディア: 文庫


司馬文学の「原郷」をさぐる本

新聞記者:福田定一が作家:司馬遼太郎に変貌していく過程をよく知ることができます。また、氏の理想としたかくあるべき人間(新聞記者)像を知ることもできます。それは、氏が自身に課していたものと言えましょう。氏の一生には凛とした風情がありましたが、本書を読んでナルホドと思いました。

以下は「あとがきにかえて 辺境の目」からの抜粋です。〈作家・司馬遼太郎が「記者の目」をもって小説を書いていたという見方は、わりと広く深く世間に浸透している。そして作家としての司馬遼太郎論は、汗牛充棟、世間におびただしくある。/ ところが不思議なというか、新聞記者の司馬像はほとんど描かれたことがない。司馬遼太郎が産経新聞文化部記者・福田定一だったことは知られているが、記者時代のことはあまり語られていないのである。/ 記者時代の司馬さんはどんな取材をし、どんな記事を書き、どんな酒を飲んでいたのか、それを知りたい。そのことが平成の新聞記者にとって何らかの指針になり、これから記者をめざす若者にとっていくらかでも手引きとなればうれしい。できることなら司馬文学の遥かな「原郷」をさぐる糸口になれば望外の喜びとする。/ そういう視点と動機ともくろみの下に生まれたのがこのドキュメントである〉。

2020年4月1日にレビュー

風塵抄 (中公文庫)

風塵抄 (中公文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1994/07/10
  • メディア: 文庫



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『樅の木は残った』 山本周五郎著 [文学・評論]


樅の木は残った 全巻セット

樅の木は残った 全巻セット

  • 出版社/メーカー: オリオンブックス
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: Kindle版



2020-02-17

山本周五郎の代表作で、むかしむかしにNHK大河ドラマとして放映された『樅の木は残った』を読了した。ドラマのほうは原田甲斐を平幹二朗が演じ、女優では栗原小巻が印象的であったことくらいしか覚えていない。このたびは(と、いっても初めて読んだのだが)kindle版が 0円で読めたので読み始めたのだ。

樅の木は原田甲斐の象徴なのだろう。孤独な人として描かれている。その生い立ちや立場上、そのようにふるまうしかなかったのだ。実際は、人間味があり、身分制度の厳しかった時代に、分けへだてなく山家育ちのおんなにも接し、慕われている。そんな原田が、仙台藩の存亡をかけた孤独な戦いを演じることになる。敵のふところに飛び込んで懐柔し操作する役回りである。当然ながら味方の多くからは裏切り者と見なされる。しかし、原田は知力を尽くしてそれに当たる。多くの人物が登場するが、みな樅の木を引き立てるかのようだ。雑木のなかに屹立するかに描かれる原田はあんまりにもかっこいい。

最後は斬り殺される。「評定」の場で、乱心者として死ぬ。原田はその役回りを自発的に選ぶ。ふだんから取り乱したりすることなく、乱心から最も遠く思われる人が、「乱心者」の汚名をみずから負う。しかし、その機転で「お家」は救われる。忍従と機転の物語である。

山本周五郎は、それまで歴史上の悪人とされてきた人物の評価をひっくり返してきたと聞く。原田甲斐もその一人だという。見事なちから業である。

「日本のドストエフスキー」山本周五郎のこと
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2014-08-12


正雪記(上)新装版 (新潮文庫)

正雪記(上)新装版 (新潮文庫)

  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/01/13
  • メディア: 文庫



由比正雪 (人物叢書)

由比正雪 (人物叢書)

  • 作者: 進士 慶幹
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 1986/04/01
  • メディア: 単行本



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歴史を応用する力 (中公文庫) 宮城谷 昌光著 中央公論新社 [文学・評論]


歴史を応用する力 (中公文庫)

歴史を応用する力 (中公文庫)

  • 作者: 宮城谷 昌光
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/03/20
  • メディア: 文庫


中国古典の読書案内として読むことも・・

講演をそのまま文章化したのだろう。平易で読みやすい。中国をテーマにした歴史文学をおおく記してこられた著者は、当然のことながら中国古典への造詣も深い。その深い(なかには私見にすぎないものもあるが、説得力ある)知識を分けてもらえる。作家として、それらをベースに創作していく際のモンダイも示され、どのように克服されたか示される。著者の文学への真摯な思いが伝わってくる。また、中国古典の読書案内として読むこともできる。以下、すこし引用してみる。

〈ですから、中国のことに詳しくないかたが、中国の歴史を生に近い形で知りたいと思われたときには、この『十八史略』をお読みになるのが一番早いと思います。・・(p24「第1章 光武帝・劉秀と呉漢」)

〈日本人には『三国志』に興味をもち、そこから中国史の勉強をはじめられるかたも多いのですが、いきなり『三国志』から中国の歴史にはいっていっても、これはいったい、なんのことをいっているのだろう、とまごつくことがたびたびでてくると思います。ところがこの湯王と文王、ふたりのおもな事績をおさえておくと、それ以降にでてくる英雄や豪傑たちの話がぞんがいたやすく腑に落ち、ああ、あのことを指しているのだな、と中国史を理解する素地ができるにちがいありません(p101「第3章 殷(商)の湯王と周の文王 中国の智慧の原点」)。

〈どうも日本人は『三国志』が一番好きなのだそうです。それも陳寿という中国人が書いた正史ではなく、最もポピュラーな吉川英治さんの『三国志』を読む。そこから興味が発展しても、岩波文庫などの『完訳 三国志』(演義)にいくのがせいぜいで、正史を読む人はなかなかいません。物語的なもので歴史を知った気分になる。『後漢書』となると日本人どころか、中国人もほとんど読みません(p170「対談 この皇帝にしてこの臣下あり 丹羽宇一郎×宮城谷昌光」)〉。

〈そんな時、日本の財界人について調べ、その人と、中国の古典をうまく絡めて、読者に紹介するという仕事がきたのです。日本を動かしている人たちは、どんな中国の古典を読んできたのかを知らなくては、何もできないだろうと思い、文学の文体研究と並行して、中国古典の勉強をはじめました。 / 政財界の人々は、学ぶことによって何かを超越してゆこうとしたのではなく、明らかにそこから何かを得、心の糧にしてゆこうとして読んだのだ、ということはよくわかっていました。しかし、そこから何を得たのかを知っておく必要が生じたわけです。それは自分の意志ではなく、むしろ仕事として、押しつけられたようなものでしたが、それが私が中国史へむかうとても重要なきっかけになったのです(p186「あとがきにかえて 文学と歴史のあいだ」)

2019年5月29日にレビュー


呻吟語 (中国古典新書)

呻吟語 (中国古典新書)

  • 作者: 疋田 啓佑
  • 出版社/メーカー: 明徳出版社
  • 発売日: 2008/12
  • メディア: 単行本



明夷待訪録 (中国古典新書続編)

明夷待訪録 (中国古典新書続編)

  • 作者: 浜 久雄
  • 出版社/メーカー: 明徳出版社
  • 発売日: 2004/03
  • メディア: 単行本



陰隲録 (中国古典新書)

陰隲録 (中国古典新書)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明徳出版社
  • 発売日: 1970/08/01
  • メディア: 単行本



春秋繁露 (中国古典新書)

春秋繁露 (中国古典新書)

  • 作者: 董 仲舒
  • 出版社/メーカー: 明徳出版社
  • 発売日: 1977/01
  • メディア: 単行本



牧民心鑑 (中国古典新書)

牧民心鑑 (中国古典新書)

  • 作者: 林 秀一
  • 出版社/メーカー: 明徳出版社
  • 発売日: 1973/10
  • メディア: 単行本



三事忠告 (中国古典新書 続編 10)

三事忠告 (中国古典新書 続編 10)

  • 作者: 倉田 信靖
  • 出版社/メーカー: 明徳出版社
  • 発売日: 1988/11
  • メディア: 単行本



菜根譚 (中国古典新書)

菜根譚 (中国古典新書)

  • 作者: 今井 宇三郎
  • 出版社/メーカー: 明徳出版社
  • 発売日: 2007/12
  • メディア: 単行本



宋名臣言行録 (ちくま学芸文庫)

宋名臣言行録 (ちくま学芸文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2015/12/10
  • メディア: 文庫



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「物語のひねり方 読者を飽きさせないプロット創作入門 」ジェーン・K・クリーランド著 フィルムアート社 [文学・評論]


物語のひねり方 読者を飽きさせないプロット創作入門

物語のひねり方 読者を飽きさせないプロット創作入門

  • 作者: ジェーン・K・クリーランド
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2019/01/25
  • メディア: 単行本


書くことはもちろん、読むうえでも、話すうえでも、役立つ

読者をクギ付けにするための創作のコツが示されている。ストーリーにサプライズを盛りこむ実践的アドバイスが示される。前半で理論が示され、後半はエクササイズという展開。著者の執筆理論「TRD」を支える「対立」「動機」「認識」といった言葉になじみ、理解するのに、多少時間がかかるかもしれない。その点、翻訳がわるいとは言わないが、(英語の達者であれば)原書で読んだ方が、あるいは、原書と併せて読んだ方がスッキリ理解できるように直観する。

作家に求められることとして「書き直し」の大切さが、よく言われる。文章推敲のレベルではなく、大幅な書き換え、修正である。本書の項目の中にも「執筆とは書き直しの繰り返しのこと(p200)」とある。本書を理解するなら、これまでは「勘」でしていた「書き直し」を、ルールをわきまえた上での実践としてできるにちがいない。

著者の理論を知ると、分析的に読書をする際に役立つことも示されている。「揃いも揃って読書の授業が大嫌いな」生徒たちに、「ダメもとのつもりで、TRDのコンセプトを」教えたら、「どんな本であれ、次のTRDを探し出すことを、まるでかくれんぼのゲームとして」捉えるようになり、大喜びした経験が(p263に)示されている。さもありなんと思う。

「プロの作家を目指す人々に向けた指南書としてこの本が目指していることを突き詰めれば、『プロの作家とは、話上手でなければならない』ということではないかと思う(「訳者あとがき」)」とある。内容は同じことであっても、話術に長けた人とそうでない人とで、聞き手の反応はおおきく異なる。人を魅了する話し手となるうえでも、本書は参考となるにちがいない。

2019年3月26日にレビュー

Mastering Plot Twists: How to Use Suspense, Targeted Storytelling Strategies, and Structure to Captivate Your Readers

Mastering Plot Twists: How to Use Suspense, Targeted Storytelling Strategies, and Structure to Captivate Your Readers

  • 作者: Jane K. Cleland
  • 出版社/メーカー: Writer's Digest Books
  • 発売日: 2018/06/26
  • メディア: ペーパーバック



森敦との対話

森敦との対話

  • 作者: 森 富子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/08/26
  • メディア: 単行本


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「中国奇想小説集: 古今異界万華鏡」 翻訳:井波律子 平凡社 [文学・評論]


中国奇想小説集: 古今異界万華鏡

中国奇想小説集: 古今異界万華鏡

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2018/11/09
  • メディア: 単行本


今、まさに、うってつけの本

中国の六朝、唐、宋、明、清代の「奇想小説」の選りすぐりが掲載されている。解説も秀逸。

翻訳者:井波律子先生はいう。〈本書に収めた全二十六編のそれぞれの目からウロコ、奇想天外な作品を通じて、時代の経過とともに少しずつ変化してきた中国志怪小説の流れを具体的にたどりながら、中国的な奇想万華鏡の世界を楽しんでいただければ、ほんとうにうれしく思う。長きにわたり、中国の多くの文人たちにとって、事多き現実にうんざりし、「この世の外ならどこへでも」という気分になったとき、奇想小説を書いたり読んだりするのが、何よりの「消遺:シャオチェン(気晴らし)」だった。現実社会に問題が山積しているのは、いずこであれ昔も今も変わらない。ここの収めた粒よりの中国奇想小説群が、「今ここに」練りあげられた「気晴らし文学」として、いきいきと甦ることを願うばかりである。(「あとがき」)〉

その井波先生ご自身、「私は昔から中国の奇想小説が好きで、おりにつけ読み、・・・」と記している。なるほど、そうした読書体験のなかでの選りすぐり、粒よりが、本書で紹介されているのだと思う。短いもの長いものいろいろであるが、皆、読んでいて、スーッと惹きこまれる。そういう作品ばかりだ。

中・高生時代、芥川龍之介を通して『聊斎志異』を知ったが、その粒よりに、本書をとおして初めて触れることができたのも嬉しいことだ。

〈事多き現実にうんざりし、「この世の外ならどこへでも」という気分になったとき〉に読むとイイと言う。今、まさに、うってつけの本といえる。

2019年3月13日にレビュー

中国幻想ものがたり (あじあブックス)

中国幻想ものがたり (あじあブックス)

  • 作者: 井波 律子
  • 出版社/メーカー: 大修館書店
  • 発売日: 2000/11/01
  • メディア: 単行本



中国的大快楽主義

中国的大快楽主義

  • 作者: 井波 律子
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 1998/04
  • メディア: 単行本



ザ・聊斎志異 愛蔵版

ザ・聊斎志異 愛蔵版

  • 作者: 蒲 松齢
  • 出版社/メーカー: 電子本ピコ第三書館販売
  • 発売日: 1987/06/01
  • メディア: 単行本



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「作家との遭遇 全作家論」 沢木耕太郎著 新潮社 [文学・評論]


作家との遭遇 全作家論

作家との遭遇 全作家論

  • 作者: 沢木耕太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: 単行本


著者自身を一番よく知ることのできる本かもしれない

著者はタイトルを〈最後まで『作家との遭遇』にしようか『境界線上の作家たち』にしようか迷っていた〉と書いている。23名を論じているが、〈なぜ彼らだったのか。それもまた一種の偶然だったが、ただ、彼らの多くは、私と似て、どこか「境界線上」に身を置いている作家であったような気がする〉からだという。

実際、取り上げられている「作家」の中には、明らかに境界をまたいでいる写真家の土門拳や女優の高峰秀子もいるし、また、ヴェトナム戦争を(以下、本書からながなが抜粋するが)〈まずそれを「記事」というかたちで新聞に書いた。さらに、それよりもう少し掘り下げたかたちで「ルポ」を書いた。戦争が終わり人々がヴェトナムを忘れようとしている時に、新しい現実を踏まえながら「評論」を書いた。また、その対象への角度と語り口の硬度を変えて「エッセイ」というかたちにもした。それはやがて、「創作」というかたちでの文章にまで到ることになったのだ。ひとつの体験をこのように多様なスタイルの文章にした物書きは滅多にいない。少なくとも、ヴェトナム戦争に関しては、このような日本人は皆無だった。〉と著者のいう近藤紘一も入る。

著者は23名と、文字通り「遭遇」しもするが、多くの場合、文庫の解説を依頼されて卒業論文に挑むような気持ちでその作品を読み「遭遇」した面々であるという。著者自身、フィクションとノンフィクションを行き来する方だけに、そのような「境界線上」の方々への共感が伝わってくる。

思うに、壇一雄が「小説 太宰治」を書いて、つまるところ自分自身について記したように、本書をとおして一番よく知ることのできるのは著者自身についてかもしれない。そして、数々の「文庫」解説をとおして知ることのできるのは、著者が文章巧者であるだけでなく読み巧者でもあるということだ。

(「目次」は以下のとおり) 必死の詐欺師 井上ひさし、青春の救済 山本周五郎、虚構という鏡 田辺聖子、記憶を読む職人 向田邦子、歴史からの救出者 塩野七生、一点を求めるために 山口瞳、無頼の背中 色川武大、事実と虚構の逆説 吉村昭、彼の視線 近藤紘一、運命の受容と反抗 柴田錬三郎、正しき人の 阿部昭、旅の混沌 金子光晴、絶対の肯定性 土門拳、獅子のごとく 高峰秀子、ささやかな記憶から 吉行淳之介、天才との出会いと別れ 檀一雄、虚空への投擲 小林秀雄、乱調と諧調と 瀬戸内寂聴、彼らの幻術 山田風太郎、スポーツライターの夢 ロスワイラー、苦い報酬 T・カポーティ、旅するゲルダ ゲルダ・タロー、アルベール・カミュの世界 A・カミュ 作家との遭遇ーーあとがき。

2019年2月13日にレビュー

以下、「あとがき」からの抜粋

フリーランスのライターとなった私が、作家と「遭遇」する場は「酒場」以外にもうひとつあった。「文庫」の解説を書くという機会を与えられるようになったのだ。 / 通常、文庫の解説には、その作家との交遊のちょっとした思い出話や、さらっとした印象記のようなものが求められているということはわかっていた。しかし、私はそれをひとりの作家について学ぶためのチャンスと見なした。具体的には、あらためて全作品を読み直し、自分なりの「論」を立ててみようと思ったのだ。そのため、執筆する原稿の枚数も、通常の解説の域を超えた。四百字詰めで十数枚というのが依頼されるときの平均的な枚数だったが、私は二十枚から三十枚、中には四十枚近くまで書かせてもらったこともあった。 / それを書き上げることには、毎回毎回、カミュについての卒論を書いていたときと同じような昂揚感があった。もしかしたら、そうした解説を書くことで、常に私は「遭遇」した作家についての短い「卒論」を書いていたのかもしれない。 / かつて『路上の視野』や『象が空に』に収載したものを含め、新たに編み直したこの二十三編は、私がさまざまな分野の作品について正面から書いていこうとした文章の、ほとんどすべてである。なぜ彼らだったのか。それもまた一種の偶然だったが、ただ、彼らの多くは、私と似て、どこか「境界線上」に身を置いている作家であったような気がする。この本のタイトルを、最後まで『作家との遭遇』にしようか『境界線上の作家たち』にしようか迷っていたのも、それが理由だった。


小説 太宰治 (岩波現代文庫)

小説 太宰治 (岩波現代文庫)

  • 作者: 檀 一雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/02/16
  • メディア: 文庫



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「小説を深く読む~ぼくの読書遍歴」 三田 誠広著 海竜社 [文学・評論]


小説を深く読む~ぼくの読書遍歴

小説を深く読む~ぼくの読書遍歴

  • 作者: 三田 誠広
  • 出版社/メーカー: 海竜社
  • 発売日: 2018/11/26
  • メディア: 単行本


著者の目を介した現代小説史ともいえる

小説をめぐるエッセイ風の本。著者の読書遍歴を示す本。小説を読み、深く読むことが高じて、小説家になった経緯が記される。「小説を深く読む」具体的方法については、文学青少年がかならず手にするような作品が取りあげられ、ざっと読んで済まして来た方であれば、新たな気づきを得られるにちがいない。そこで終始強調されているのは、小説作品の構成、構造に注意すべきこと。たとえば、ツルゲーネフの「初恋」が枠小説であることが指摘され、主人公に感情移入するだけでは浅い読みになることが示される。著者は、高校時代に作家デビューし、編集者に目を留められ励まされ、そのほぼ10年後に芥川賞を受ける。それから70歳の今日に至るまでが記される。著者が村上春樹と、早大文学部演劇科の同期で、卒論の指導教官も同じでありながら、「教室で村上さんに会ったことは、一度もない」ことなど、同時代の作家・作品についても記されている。「これは芥川賞などというものをはるかに超えた名作だと思った」又吉直樹の『火花』への言及もある。本書は、著者の目を介した現代小説史ともいえる。

2019年1月13日にレビュー

日本現代小説大事典

日本現代小説大事典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明治書院
  • 発売日: 2004/07/01
  • メディア: 単行本



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「不良老人の文学論」 筒井康隆著  新潮社 [文学・評論]


不良老人の文学論

不良老人の文学論

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/11/22
  • メディア: 単行本


まだまだ行けます

「不良老人」:筒井康隆の文学論。ただし、直接的なものではない。交友(大江健三郎・・)・追悼文(井上ひさし、丸谷才一、星新一、小松左京、久世光彦・・)を介し、谷崎潤一郎賞(13編)・三島由紀夫賞(3編)・山田風太郎賞(8編)の選考委員として記した「選評」をとおして、ソレは示される。読者は、氏の文学観をソコから読みとる必要がある。

巻頭掲載の「宗教と私」で、氏は「小生の最後の長編『モナドの領域』」について触れ、「小生現在八十二歳。馬鹿な長編を書いてしまって天罰が下るかどうか。まあ死にかたを見ておいて下さい。(月刊住職2017年1月号)」と結ぶ。ところが、(これが最後と宣言しながら、最後にならないのが氏のいいところだが)、巻末掲載の「附インタビュー 作家はもっと危険で、無責任でいい」では、「いずこも後から来た世代は大変だ、という時代になってしまったんですね。」と話を向けられると氏は、「『何かやろうと思っても、筒井康隆がみんなやってしまっている』と文句を言われたことがありますけどね。そんなの知らんがな(笑い)。 (新潮45 2016年1月号)」と意気軒昂だ。

「今、二極分化の中で」と題する三島由紀夫賞選評の結びは、「好々爺と頑固爺とどちらを選ぶかと言われたら小生断然後者を選ぶ。今までは候補者を顧慮して悪口はなるべく控えてきたが、小生今や七十二歳、もうよかろうということで、今回は言いたいことを言わせてもらった。憎みたい人はどうぞ憎んでください。 (新潮2007年7月号)」。 と、氏は書いているが、「今回」どころか、それ以前の選評も、「言いたいことを言わせてもらっ」ているように思う。決して甘くはない。それゆえ、本書はオモシロイ。

2019年1月3日にレビュー

モナドの領域

モナドの領域

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/03
  • メディア: 単行本


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「周作人読書雑記5 (東洋文庫)」 中島長文訳注 平凡社 [文学・評論]


周作人読書雑記5 (東洋文庫)

周作人読書雑記5 (東洋文庫)

  • 作者: 周 作人
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2018/11/12
  • メディア: 単行本


全5巻の「書名索引」「総目次」が掲載されている

魯迅の弟で、希代の読書家:周 作人。その「読書雑記」全5巻に掲載されている全「書名索引」、「総目次」がでているというので、本巻を手にした。やはり凄い。「アイソポス物語集成」から始まって「ヰタ・セクスアリス」まで(ローマ字表記の洋書は別にして)「和」・「洋」の本が出ている。その他、「漢」にいたっては、未知の書名ばかり。しかも、膨大である。

本巻はもっぱら「漢」の書籍で占められ、実際に読むことができたのは、訳注者による文章『言えば俗になるか』と『あとがき』だけである。前者は、対日協力をしたことで、中国の民衆に対して弁解することを「俗」とし、抗弁しなかった作人のことを論じている。作人は、『明史』「隠逸伝」中の人物:倪 雲林(=倪 瓚)を引き合いにだして自分と重ねているが・・・と、訳注者は疑義を示す。なには、ともあれ、習作人という人間・人格を考えるうえで面白い論考だ。

『おわりに』で、訳注者はいう。「周作人が読み破った書は、『読書雑記』全五巻の総目次を一覧しただけでも、どんなに広範囲にわたるかが分かるだろう。わたしの知識ではとてもついていけない。それで多くの方に教示を仰ぐことになった。・・・略・・・」とある。ましてや、評者になど、とてもとてもついていけない雲の上の話だ。それでも、そうした雲の一片でもつかめるようになりたく思ったしだいである。

2018年12月26日にレビュー

倪 瓚(げい さん、1301年 - 1374年)は、元末の画家。元末四大家の一人に挙げられる。字は元鎮、号は雲林、他に別号が多い(ウィキペディアから)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%80%AA%E3%82%B5%E3%83%B3

周作人「対日協力」の顛末―補注『北京苦住庵記』ならびに後日編

周作人「対日協力」の顛末―補注『北京苦住庵記』ならびに後日編

  • 作者: 木山 英雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/07/27
  • メディア: 単行本



魯迅の故家 (1955年)

魯迅の故家 (1955年)

  • 作者: 周 作人
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1955
  • メディア: -



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『大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人』 講談社 [文学・評論]


大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人

大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人

  • 作者: 大江 健三郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/01
  • メディア: 単行本


対談当時、予感していたことが今日において、現実と・・・

日本を代表する作家・小説家と批評家による対談・3編。「中野重治のエチカ(1994年6月7日収録)」、「戦後の文学の認識と方法(1996年5月21日収録」、「世界と日本と日本人(1995年3月7日収録)」。

このような対談集では普通、対話者それぞれが「序文」と「あとがき」を分け持つものだが、「序文」を「大江健三郎氏と私」と題して柄谷氏が記しているだけである。「あとがき」はなく、その代わりに詳細な年譜が付されいる。つまるところ、「序文」の内容に大江氏は賛同していると見做していいのだろう。

その「序文」の内容を評者なりにまとめると・・、「対談からだいぶ時間が経過したが、対談当時、予感していたことが今日において、現実となっている」と要約できる。その現実となっていることとは、「小説」の終わりであり、「批評」の終わりである。

そうであれば、現在読まれている「小説」と称するモノ、「批評」と呼ばれているモノは、いったい何なのだろうと思う。少なくともお二方にとっては、エネルギーを失った抜け殻のようなモノなのかもしれない。対談中、「普遍」という言葉がよく出て来る。それは、世界に通用しない「小説」、「批評」は意味をなさないということなのか。評価されているのは、戦後すぐに活躍した武田泰淳や椎名麟三、野間宏といった作家たちであり、カズオ・イシグロである。

ざっくりとまとめてしまったが、小説とは何か、批評とは何か、文学とは何か、哲学とは何か・・・、読み込めば読み込むほど得られるモノの多い対談に思う。

2018年9月12日にレビュー

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

  • 作者: 大江 健三郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1988/04/04
  • メディア: 文庫



あいまいな日本の私 (岩波新書)

あいまいな日本の私 (岩波新書)

  • 作者: 大江 健三郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/01/31
  • メディア: 新書



世界史の構造 (岩波現代文庫)

世界史の構造 (岩波現代文庫)

  • 作者: 柄谷 行人
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2015/01/16
  • メディア: 文庫



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