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『世界異界神話 』八坂書房 [民俗学]


世界異界神話

世界異界神話

  • 作者: 篠田知和基
  • 出版社/メーカー: 八坂書房
  • 発売日: 2021/12/10
  • メディア: 単行本



八坂書房『世界神話シリーズ』の一冊。他に『世界動物神話』『世界植物神話』『世界鳥類神話』『世界昆虫神話』『世界魚類神話』『世界風土神話』が刊行されている。目次は以下のとおり。

序論 (異界の神話/異界と他界/神々の世界/異界の時間)// 第1部 異界への旅(英雄たちの物語/ 辺境の異界 / ヨーロッパの異界 / 日本・中国の異界 / 文学の中の異界)// 第2部 死の神話 (神々と英雄の死 / 人間たちの死 / 神の懲罰・悪魔による死 / 臨死体験 / 死の起源の神話)// 第3部 亡霊の神話 (世界の亡霊譚 / 幻想文学の中の幽霊 / 怨霊名士録)

「序論」のあと、各項目ごとに『世界神話伝説体系 (名著普及会 全42巻)』『日本の民話 (未来社 全43巻)』等を参考にしつつ論じられる。世界各地の異界イメージを大づかみにするうえで助けになる。


世界神話大事典

世界神話大事典

  • 出版社/メーカー: 大修館書店
  • 発売日: 2001/03/01
  • メディア: 大型本



世界神話伝説大事典

世界神話伝説大事典

  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2016/07/31
  • メディア: 大型本


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『〈洗う〉文化史: 「きれい」とは何か』吉川弘文館 [民俗学]


〈洗う〉文化史: 「きれい」とは何か

〈洗う〉文化史: 「きれい」とは何か

  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2022/02/10
  • メディア: 単行本



本書には、月のマークの「花王」がからんでいる。いわゆる産学協同研究である。人文系のそれはめずらしい。表紙写真の説明には「明治期の石けんと当時の製造工場」とある。高級そうな石鹸の入った桐箱には「花王石鹸」と記されている。

「きれい」には「よごれがなく清潔なさま」と辞書にある。本書は「きれい」に・する(なる)ための「洗う」という営為・習慣に切り込んでいる。身体の「きれい」だけでなく、心の「きれい」にも多くのページを割いている。心に関していえば、単にさっぱりする、さわやかな気持ちになるというだけでなく、宗教的な「きれい」にまで踏み込んでいる。

歴史をさかのぼり国内外にわたる広範な論題が取り上げられる。言語的なアプローチ、正倉院文書の解析、江戸勤番武士の日記、近代農村での入浴習俗、帝国日本と植民地(朝鮮、台湾)での衛生教育、むし歯予防と歯磨き習慣の変遷、旧オランダ領インドネシアの「洗う」をめぐる社会文化状況の変化、キヨメのために砂を用いる習俗、歴史と民族にみる「禊ぎ・祓へ・清め」などなど、である。(以下、目次)

はしがき…西谷 大/Ⅰ「洗う」こと(「洗う」言葉―古代文献と正倉院文書の分析から…桑原祐子/江戸勤番武士の「清潔と洗浄」―埃の都・儀礼の都 江戸…岩淵令治/入浴習俗の実態と特徴―近代の農村「奈良県風俗志」の分析から…関沢まゆみ/帝国日本の清潔と清潔感…樋浦郷子/むし歯予防と歯磨き習慣の形成と普及…福田直子/インドネシアにおいて「洗う」ということ…金子正徳/コラム1 日本の手洗いとその啓発の歴史…小島みゆき・徳田 一/コラム2 身体洗浄料の科学…松尾恵子)/

Ⅱ 「洗う」意味(砂を盛ること・砂を蒔くこと―江戸時代の「馳走」(おもてなし)との関わりで…久留島 浩/歴史と民俗にみる「禊ぎ・祓へ・清め」…新谷尚紀/コラム1 洗い髪の図像学…大久保純一/コラム2 人は何のために何を洗うのか?―生物学的視点から…武馬吉則/コラム3 からだの洗浄・こころの洗浄…門地里絵・原水聡史・中村純二)/あとがき…後藤 真


ケガレ (講談社学術文庫)

ケガレ (講談社学術文庫)

  • 作者: 波平恵美子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/04/24
  • メディア: Kindle版



ケガレの民俗誌 ――差別の文化的要因 (ちくま学芸文庫)

ケガレの民俗誌 ――差別の文化的要因 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 宮田登
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/03/11
  • メディア: Kindle版


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『仲人の近代 見合い結婚の歴史社会学 』阪井 裕一郎著 (青弓社ライブラリー 104) [民俗学]


仲人の近代 見合い結婚の歴史社会学 (青弓社ライブラリー 104)

仲人の近代 見合い結婚の歴史社会学 (青弓社ライブラリー 104)

  • 作者: 阪井 裕一郎
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2021/10/27
  • メディア: 単行本


親、祖父母、曾祖父母に直結するだけに

たいへん面白い。当方還暦を少し過ぎたところだが、30年ほど前「仲人」を介することなく結婚した。まあ恋愛結婚といっていいだろう。それで周囲からとやかく言われることはなかった。今もそれが普通で、なんの問題もないにちがいない。

ところが、当方の(親はともかくとして)祖父母、曾祖父母の時代はそうではなく、好意をもつ男女が「仲人」を立てることなく結びついたなら、それは「畜生婚」「野合」「くっつき」と呼ばれて蔑まれたという。それで、そうならないよう、カタチだけでも「仲人」を立てた。「家」の体面を保つためである。本書では、「家」の体面・世間体を守る儒教的規範と欧化・文明化の波による個人の自由とのはざまで「仲人」という存在も揺れ動き移ろってきた様子を知ることができる。

江戸時代、(明治期)仲人を立てていたのは、もっぱら(元)武家、村では(元)庄屋など主だった家が「仲人」を立てていたようだ。そうではない村の普通の若い衆と娘たちが、どのように「くっつき」合っていたか本書に見ることができる。そこで、むすめ達が「村の共有物」として扱われていたという話もでている。驚きである。

そういうわけで本書は、自分の親、祖父母、曾祖父母がどういう風に結ばれたのかに思いを馳せることのできる本である。民俗学的関心のある方にとっては垂涎の的であり、若い方にとってはスリリングな本となるにちがいない。論議もよく整理されて分かりやすく、お勧めである。

2022年2月11日にレビュー

日本若者史 (1930年)

日本若者史 (1930年)

  • 作者: 中山 太郎
  • 出版社/メーカー: 春陽堂
  • 発売日: 2022/02/11
  • メディア: -



タブーに挑む民俗学―中山太郎土俗学エッセイ集成

タブーに挑む民俗学―中山太郎土俗学エッセイ集成

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2022/02/11
  • メディア: 単行本



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「世界のすごいお葬式」ケイトリン・ドーティ著 新潮社 [民俗学]


世界のすごいお葬式

世界のすごいお葬式

  • 作者: ケイトリン・ドーティ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


故人を悼むゆったりとした時間をどのように

センセーショナルな「すごい」方法でなされる葬式が多々示されてあることを期待するなら、ガッカリするにちがいない。世界の特殊と思える葬送の仕方をいくらかでも知る方であれば、さして「すごい」と思わないことだろう。それでも、くず野菜から堆肥をつくるように、死体から堆肥をつくるコンポストの話しなどでてくる。日本の新しい葬送事例もとりあげられる。

著者は葬祭業を営む女性だ。アメリカも日本同様、家族・身内の者が故人を悼むゆったりとした時間をもつことができなくなっている。病院から葬儀屋へ、流れるように進む。葬儀屋は、遺体を自宅に安置させることなく、「悲しみにくれる遺族を故人と隔離する」のがその業態となっている。そうした中、著者は、かつての姿を取り戻そうと願う。

著者は、いう。「私たちは西洋の葬儀業界を改革し、現状ほど利益優先ではない仕組み、遺族の参加を促すような仕組みを導入していく必要がある。しかし、・・略・・自分たちのやり方だけが正しく、“ほかの人々”のやり方はどれも敬意を欠いて野蛮であるという誤った信念を持ち続けているかぎり、改革はおろか、現在の葬送システムに疑問を抱くことさえできないだろう。」

著者は、そのような思いから、「“ほかの人々”のやり方」を知るために異文化への旅にでる。本書は、その旅の報告である。センセーショナルな死体の取り扱いだけに興味がある方には、冗長に感じられるにちがいない。旅先も限られ、決して世界全体に及んでいるわけではない。しかし、そうではあっても、故人を身近に置いて悼む時間をどのように持っているものか異文化理解の一冊として読んでソンはない。

はじめに

*住民参加の野外火葬
──アメリカ・コロラド州クレストン──
*トラジャ族、秘境の水牛とミイラ
──インドネシア・南スラウェシ──
*ガイコツと花の祝祭の陰に
──メキシコ・ミチョアカン──
*死体で肥料を作る研究
──アメリカ・ノースカロライナ州カロウィー
*地中海の陽光あふれる葬儀社
──スペイン・バルセロナ──
*高齢化と仏教とテクノロジー
──日本・東京──
*頭蓋骨が取り持つ信者と神のあいだ
──ボリビア・ラパス──
*理想の死に方、葬られ方
──アメリカ・カリフォルニア州ジョシュアツリー──

おわりに

2019年4月23日にレビュー

火葬と大蔵 焼屍・洗骨・散骨の風俗

火葬と大蔵 焼屍・洗骨・散骨の風俗

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/10/05
  • メディア: Kindle版



世界葬祭事典

世界葬祭事典

  • 作者: 松濤 弘道
  • 出版社/メーカー: 雄山閣
  • 発売日: 2019/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『出羽三山  山岳信仰の歴史を歩く』 岩鼻通明著 岩波新書 [民俗学]


出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)

出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)

  • 作者: 岩鼻 通明
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/10/21
  • メディア: 新書


「出羽三山」のたいへん良いガイドブック

今日、「出羽三山」と呼ばれる月山、羽黒山、湯殿山のガイドブック。とは言っても、『出羽三山を歩く』ではなく、「山岳信仰の歴史を歩く」と副題がついている。著者は地元の山形大教授であり、専攻は文化地理学、宗教民俗学。それゆえ、「出羽三山」の文化・信仰・民俗がふかく語られる。かつては、「出羽三山」に湯殿山は入っておらず、代わりに、葉山、鳥海山が入っていたなど、その変遷、ほんらい遍歴民であった修験者・山伏が定住するようになった、その経緯、湯殿山をめぐる祭祀権をめぐる天台宗と真言宗の争いの記述など興味深い。

こむずかしいテキストではない。図版・写真もおおく、地理的案内もあり、観光ガイドにもなる。著者自身が歩いたときの記述も随所に示される。たとえば、「月山南麓の大井沢(西川町)方面から月山を望むと、月山と、月山前方の姥ヶ岳、そして湯殿山(地形図に記されたピーク名であり、後述するご神体としての湯殿山とは異なる)が、まさに連なるように三山に見えるスポットが存在する(図0-2)。晴れた日に山形市と鶴岡市を結ぶ高速バスの車窓から、この風景を眺めるたびに、ひょっとするとこの景観が出羽三山のいわれとなった風景ではないのか、と感じ入るのである。」//「かつての参詣道は、庄内地方と内陸を結ぶ六十里越街道に沿う最奥の集落である志津から玄海を経て、石跳沢を上流へと登るルートであった。今は玄海に山形県立自然博物園が設置されており、ブナの原生林の中で、豊かな自然環境を体験できる野外学習施設として利用されている。園内には、ネイチャーセンターが設けられており、月山の四季などの環境に関わる展示を見学することもできる。」といった具合である。

旅行・登山するに際して、自分の足下の文化・民俗的背景を知ったうえで歩きたいものである。その点で、たいへ良い『出羽三山』ガイドブックであると思う。

以下、目次

はじめに 山岳信仰とは何か
『君の名は。』と山岳信仰の世界 / 山岳信仰とは / 象徴としての「三山」 / 里山と端山 / 修験道と羽黒修験

第1章 出羽三山の歩み 
古代 蝦夷との境界に祀られた神 / 中世 遍歴民としての修験者 / 中世の羽黒山 / 熊野信仰との関わり / 湯殿山と常陸国 / 出羽三山の変遷 / 近世 修験者の定住化 / 危機の時代から隆盛へ / 近代 神仏分離と山伏修行 / 戦後の変容

第2章 出羽三山参りと八方七口
信仰の広がりを考える / 各地に残る出羽三山碑 / 八方七口の登拝口 / 講・霞・旦那場 / 里山伏の世界 / 松尾芭蕉の三山参り / 出羽三山の名所図会『三山雅集』 / 信仰の旅における循環的行程 / 出羽三山の道中日記を読む / 参詣者数はどのくらいだったか / 参詣者の年齢にみる同心円構造 / 千葉県に残る行人墓と供養塚

第3章 羽黒修験四季の峰
峰入りとは / 春の峰 / 夏の峰 / 秋の峰 / 冬の峰

第4章 出羽三山を歩く (絵図を手がかりに)
羽黒山を歩く / 山頂の三神合祭殿へ / 杉並木を下る / 月山に登る / 月山八合目から / 肘折口へ下る / 岩根沢口へ下る / 本道寺口へ下る / 参詣者が歩んだ六十里越街道 / ブロッケン現象とご来迎 / 湯殿山へ下る / 田麦俣から大網へ / 三山一枚絵図を読む / 描きこまれた女人救済儀礼 / 門前町手向のにぎわい / 荒沢三院、水石、湯殿山 / 絵図の宗教景観

第5章 湯殿山と即身仏 (「一世行人」の足跡をたずねて)
即身仏とは / 近世に記録された即身仏 / 神仏分離と即身仏 / 小説『月山』に描かれた即身仏 / 宗教者としての一世行人 / 千日回峰行と湯殿山千日山籠

第6章 山岳信仰と食文化
古代・中世の修験者の食文化 / 出羽三山の食文化 / 最高のふるまい、大笈酒 / 修験者と売薬 / 森の恵みと食文化

おわりに (これからの出羽三山) あとがき 主要参考文献 図表出典一覧


韓国・伝統文化のたび (叢書・地球発見)

韓国・伝統文化のたび (叢書・地球発見)

  • 作者: 岩鼻 通明
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本



出羽三山信仰の圏構造

出羽三山信仰の圏構造

  • 作者: 岩鼻 通明
  • 出版社/メーカー: 岩田書院
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: 単行本



春秋山伏記 (新潮文庫)

春秋山伏記 (新潮文庫)

  • 作者: 藤沢 周平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/02
  • メディア: 文庫


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日本の「アジール」を訪ねて: 漂泊民の居場所 / 筒井 功著 河出書房新社 [民俗学]


日本の「アジール」を訪ねて: 漂泊民の居場所

日本の「アジール」を訪ねて: 漂泊民の居場所

  • 作者: 筒井 功
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/10/24
  • メディア: 単行本


「漂泊民の居場所」は、現代社会の「アジール」にも見える

戸籍に名前が記載され、特定の住所に住まい、国家の成員と認められ、(法令に従い、税金を納める代わりに)国家の保護を受ける人々とは異なる「漂泊民」が、かつて日本の各地に居たという。本書は、その跡をたずね取材した報告・研究である。

著者は、本書中で柳田國男、宮本常一、三角寛の批判をおこなう。各地を歩き、「漂泊民」の見聞を集めるなかで、それは出てきた批判だ。「サンカ」研究で著名な三角寛の博士論文『サンカ社会の研究』にいたっては「虚構と作為に満ちた、およそ研究などとは無縁の代物であった。そこには事実とみなしうることは、ほとんど含まれていない(p115)」とまでいう。そもそもが、隠れるように生活し跡を残さないように生きてきた「漂泊民」の“真実”を描こうとするのは、たいへん難しいものであることは想像できる。とはいえ、意図的に“真実”を作為するのは当然とがめられてしかるべきことにちがいない。本書に関していえば、たんなる私見、推測の領域にあることは、それなりのものとして記述が進められていく。そうした著者の姿勢は評価できるし、また、本書に示される柳田・宮本・三角批判は、道理にかなっているように思われる。

たとえば、宮本常一の『山に生きる人びと』にある「かったい道」を「山村伝説」と著者はいう。その根拠を示したうえで、宮本が出会ったレプラ患者について次のように記述する。《彼女が旅慣れていたことは疑いない。というより、久しいあいだ漂浪者の暮らしをつづけていたのではないか。症状の進み具合から考えて、ずっと前に家を出てあちこち放浪していた可能性が高い。だからこそ、100キロを超す道のりを宿にも泊まらず歩けたのであろう。だが、それにしても、なぜ「伊予のなにがし」へ行こうと決意したのだろうか。むろん、はっきりしたことなど、わかるはずがない。しかし、ある程度の想像はつく。女性は、例えば栃木県矢板市郊外の仏沢のような非定住民のセブリを目指していたのだと思う。/ 「伊予のどこそこには、あんたのような病気の者でも気がねなく暮らせるところがある」 / 物乞いをしながら各地を転々としているとき、そう教えてくれた仲間があったのではないか。非定住民たちは、その種の情報に通じており、またお互い情報を交換し合っていた。仏沢の「若さん」一家や、「江州」と妻テルも、そうやって高原山の麓の雑木林へ身を寄せていたはずである(p94)》。

「北海道」の命名者として知られる探検家:松浦武四郎『飛騨紀行』中の経験も興味深い。岐阜で病を得たおり、「乞食、山家」の世話になったという。その後《辻堂で会った「山家」が三日目によそへ移るに際し、これからの旅先で自分のようなサンカに出会ったら「郡上の爺」と三日ばかり同宿したことがあると言え、と教えられたと述べている。実際、・・・サンカを見かけるたびにそうしたところ親切にしてもらい、「今筆を取るも涙こぼるる斗なり」と書き残している(p186)》。

評者自身、「サンカ」について知ったのは、小学生のころ読んだ 椋鳩十の著作においてである。なにか不思議な魅力を発するものに出会った覚えがある。その魅力がなにかよくわからぬままきたが、どうも国家の統制から自由であるところにその魅力はあるようである。しかも、そこには「仲間」としてのつながりがあり、ゆるいコミュニティーを成していたようでもある。

思うに、かつてあった「漂泊民の居場所」は、現代社会の「アジール」にも見える。

2017年1月12日にレビュー

椋鳩十の本 第2巻 鷲の唄―山窩物語

椋鳩十の本 第2巻 鷲の唄―山窩物語

  • 作者: 椋 鳩十
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 1982/06
  • メディア: 単行本



椋鳩十まるごと動物ものがたり 全12巻

椋鳩十まるごと動物ものがたり 全12巻

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 1996
  • メディア: 単行本



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『マタギ奇談 狩人たちの奇妙な語り』工藤 隆雄著 山と渓谷社 [民俗学]


マタギ奇談 狩人たちの奇妙な語り

マタギ奇談 狩人たちの奇妙な語り

  • 作者: 工藤 隆雄
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


マタギの生活、山の民俗を知ることができる

奇談=怪奇談と思ったが、「奇」=フツウでない と解せばいいようだ。本書をとおし、マタギの生活、山の民俗を知ることができる。それは都会人とは、ちがう。ある意味、フツウではない。「奇」である。狩猟に関し、「罠は卑怯」という言葉もある。獲物がとれれば、それでいいというわけにはいかない。山の神様の意向もある。オキテがあり、オキテに従わなければ、仲間からハズサレル。環境に関する考えも都会人とはちがう。白神山地の世界遺産指定は、マタギにとっては、愚かなことだった。そもそも、彼らの生活を奪った。本書をとおし、少なくともマタギの立場からいって、全くのマチガイだと感じた。行政にたずさわる都会人のアタマ・デッカチの判断と、白神の山々の樹木、動物を知り尽くした人々との考えはチガッテ当然だが・・・、そのことを本書をとおし、アタマではなくカラダで実感した。本書最終章にあたる「老マタギと犬」は、著者自身の本書執筆にからむ老マタギとの出会い、その相棒の犬についての記述だが、くりかえしくりかえし読みたくなる文章だ。ほのぼのと哀切で失われたものの大きさを抱きしめたくなるような話だ。

「マタギというのは、ただ獲物を獲るだけではなく、山の隅々までを知ってたいせつにする人のことをいうのです。もし、好き勝手に獲物だけを獲っていたら、今頃、白神には生きものがいなくなっていたと思います。だからマタギは、ただのハンターと違い、白神の番人だと思っていますよ」

「ええ、その犬も父が死んですぐに死にました。犬もがっかりしたんでしょうね。餌を出しても食べませんでした。そして、父の葬式の最中にあとを追うようにして死にました。仲がよかったから、父の墓の横に埋めてやりました。今頃、彼岸で以前のように山のなかを歩いているんじゃないでしょうか」

2016年11月18日にレビュー

マタギに学ぶ登山技術 [ヤマケイ山学選書]

マタギに学ぶ登山技術 [ヤマケイ山学選書]

  • 作者: 工藤 隆雄
  • 出版社/メーカー: 山と溪谷社
  • 発売日: 2008/03/19
  • メディア: 新書



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『 モノから見たアイヌ文化史 』関根 達人著 吉川弘文館 [民俗学]


モノから見たアイヌ文化史

モノから見たアイヌ文化史

  • 作者: 関根 達人
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2016/06/17
  • メディア: 単行本


文化の多様性は何物にも代えがたい人類の財産

本書を読みながら、祖母のことを思い出した。南樺太が日本領だったころ、北海道と樺太に行ったことを、繰り返し話してくれた。よく話題に出たのが、アイヌの女性のことだった。くちびるの周囲に入れ墨をしているのだが、それを手で隠して逃げて行くという話だった。子ども心に、なにか可哀そうになったのを思いだす。今となっては、それを、文化には多様性があって、どの文化も尊ばれるべきなのに、自分の文化を恥じたり隠したりしなければならないとは、気の毒だ・・という風に言語化できるのであろうけど・・。

本書は、マイノリティーであるアイヌの人々の歴史を、マジョリティーにありがちな「上から目線」で語ることなく、できるだけ平(タイラ)に語る試みといっていいのだろう。ところが、そうしようとする時に、残念ながら、アイヌには必要とされる文献・記録が残っていない。あるのは、マジョリティーの側の文献・記録だけである。それでも、語るに足るモノはあり、「モノ」に語らせようとしたのが本書である(と、言っていいように思う)。

著者は、「モノ」をとおし、マイノリティーであるアイヌの文化について語るだけでなく、マイノリティー全般に代わって、もっと大事なことを語ろうとしているようにも見える。マジョリティーは、まず経済面でマイノリティーを撫育し、その自立性を奪い、政治面で優越性を示しマイノリティーを「内国化」しようとするが・・・。《 北海道のアイヌが抱える問題と沖縄の基地問題は、元をたどれば日本の内国化に起因する問題である。日本の安全保障に係わる沖縄の基地問題ですら 「本土の人」 はなかなか関心を持とうとしない。 「本土の人」 はアイヌの人々が問題を抱えていることすらあまり認識していない。アイヌの人々が抱えている問題は、従軍慰安婦問題などと同様、日本の歴史認識が問われる問題であることを我々は認識し、歴史に学ばなければならない》。

そして、最後に著者はこう結ぶ。《文化の多様性は何物にも代えがたい人類の財産である。アイヌ文化に対する理解を深めることは、アイヌの人々だけでなく、日本人全体に知的・精神的刺激を与え、新たな文化の創造に寄与するに違いない(「エピローグーー民族共生への道」)》。

2016年8月30日に日本でレビュー

中近世の蝦夷地と北方交易: アイヌ文化と内国化

中近世の蝦夷地と北方交易: アイヌ文化と内国化

  • 作者: 関根 達人
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2014/10/25
  • メディア: 単行本



墓石が語る江戸時代: 大名・庶民の墓事情 (歴史文化ライブラリー)

墓石が語る江戸時代: 大名・庶民の墓事情 (歴史文化ライブラリー)

  • 作者: 達人, 関根
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2018/03/16
  • メディア: 単行本



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『 明治・大正・昭和の化粧文化―時代背景と化粧・美容の変遷 』ポーラ文化研究所 [民俗学]


明治・大正・昭和の化粧文化―時代背景と化粧・美容の変遷

明治・大正・昭和の化粧文化―時代背景と化粧・美容の変遷

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ポーラ文化研究所
  • 発売日: 2016/06
  • メディア: 単行本


化粧・美容という観点で見えてくる歴史も興味深い

ポーラ文化研究所の新刊案内には《明治維新以降、日本人の化粧は、伝統的な化粧から西洋文明の化粧を取り込み、模倣し、また、それまで培ってきた日本独自の化粧意識との融合をはかりながら、近代化の道を走るように進んできました。明治以降、121年間に大きく変化した化粧文化について、15期に分けて、各時代の社会像や化粧・美容の状況を解説しています》とある。

「15期に分け」たというその時代の区切り方への興味がひとつにはあって手にしたのだが、化粧・美容の本というにしては、思いのほか図版等がないので驚く。巻頭口絵・写真として、14ページが備えられているのみで、服飾、化粧(法)などの歴史的図版は本文中ひとつもない。実質的には、歴史的記述に満ちた本で、まずは『時代概要』の記述があり、次いで、『政治』、『生活』、『文化』、『女性』、『服装』、『髪型』、『化粧/美容』と説明がなされていく。

『はじめに』には《 本書は、化粧と女性に関わる明治時代、大正時代、昭和時代の各年に起きた事象を年表に編纂した『近・現代化粧文化史年表』の副読本としえ編纂したものです。年表に記載された事象がどのような時代背景のもとで生じ、どのような変遷をたどったのかを年表記載にそって補完、解説しています。// ・・中略・・ // 明治以降、121年間に大きく変化した化粧文化について、新たな発見や理解の進展の役に立てれば幸いです》とある。

視点が異なれば、見えてくるものも違ってくるが、化粧・美容という観点で見えてくる歴史も興味深い。管見ながら、ひとつ発見した(と思える)点は、女性の社会進出と化粧・美容は大いに関係するということだ。また、社会的であろうとする人ほど、それへの関心は高まるということ。その点で、ひとつ引用してみる。《女性の洋装の先駆者となったのは、明治4年にアメリカに留学した、津田梅子、永井しげ子、山川捨松、上田てい子、吉益より子の5人の女性たちである。アメリカ留学時に、着ていたのは振袖の和服であった。アメリカに上陸当初は、同行の世話役であるアメリカ公使夫人が振袖を賞賛して、洋服に着替えさせなかった。しかし、留学女性たちは、振袖を着て大勢の見物人にかこまれ好奇の目にさらされることを嫌い、洋服着用を希望したのである》。これは分かりやすい。面白いのは次である。《一方、男性などの洋装化に、いち早く反応したのは、遊里の女性たちであったという。中山千代著『日本婦人洋装史』によると、・・中略・・遊里の洋装は、新聞などで報道され、遊女たちにとっては、重要な宣伝衣裳だったといえる》。そして、それに反し、《この時期、一般女性の洋装化については、関心が持たれなかった。洋装は文明開化の先端的流行であったが、異文明に対する拒否現象もはげしかった。・・》とつづく。因みに、本書の記述をとおして、評者は、はじめて、留学女性のひとり山川捨松が後の大山巌夫人となったことを知った。これも、本書ならではの、「化粧・美容という観点」に立ってはじめて見えてくるものなのかもしれない。

記述は、簡潔明瞭で、歴史のおさらいをするにもたいへんいい本に思う。

2016年8月27日にレビュー

近・現代化粧文化史年表/明治・大正・昭和の化粧文化―デジタル年表 デジタルブック 時代背景と化粧・美容 (<CDーROM>)

近・現代化粧文化史年表/明治・大正・昭和の化粧文化―デジタル年表 デジタルブック 時代背景と化粧・美容 (<CDーROM>)

  • 作者: ポーラ文化研究所
  • 出版社/メーカー: ポーラ文化研究所
  • 発売日: 2016/02
  • メディア: 単行本


津田梅子: 科学への道、大学の夢

津田梅子: 科学への道、大学の夢

  • 作者: 古川 安
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2022/01/21
  • メディア: 単行本



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『金太郎の母を探ねて 母子をめぐる日本のカタリ』西川 照子著 講談社選書メチエ [民俗学]


金太郎の母を探ねて 母子をめぐる日本のカタリ (講談社選書メチエ)

金太郎の母を探ねて 母子をめぐる日本のカタリ (講談社選書メチエ)

  • 作者: 西川 照子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/04/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「母子をめぐる日本のカタリ」をめぐるカタリの旅の途上・・

著者はこの本を産み出すのに10年の歳月を必要としたという。中沢新一氏に「西川さん、『山姥』について、書いてみたら・・」と勧められ、講談社の編集者には「3ヶ月もあれば・・」と答えたのが、3年経ち、8年経ちして、ついに・・ということだ。ガングロの山姥ギャルが横行していた時期なので、当初は『山姥』を主題にするわけだったが、流行も去ったあとなので、いろいろあって、現行の主題になったという。『おわりに』に、そんな話が出ている。フツウ出産までの期間は、10ヶ月である。そこを、10年もかかるとは、著者の西川さんも山姥同様、異類に属するのかもしれない。

しかし、なかなかどうしてたいへんな本だ。著者は、「この国に脈打つ母子神信仰を追跡する」。主題は『金太郎の母』だが、金太郎だけではすまない。桃太郎も浦島太郎もでてくるし、記紀神話の海彦山彦、神功皇后・応神天皇をはじめ、建礼門院・安徳天皇、和泉式部、常盤御前など歴史上の人物など多彩である。あちらこちらの祭りの紹介もある。

当該書籍の副題は「母子をめぐる日本のカタリ」だが、こちらの方が内容全体を捉えているように思う。歴史的なことに対する著者の態度は次のようなものだ。「(文脈省略) ただ “正史”では、この地の豪族の名が宇津氏で、それが地名になったという。しかし、ここでは “歴史”に入らない。なぜなら、土俗の伝承こそが、“真実”だと思うからである」。

最近、「謎の大王」と称されることもある古代の天皇を扱った新刊が出た。関連する文献・考古学史料を追究した歴史的に一級の研究といっていいと思う。しかし、読むのに難儀した。理由は、簡単にいえば、限られた事実の羅列で、叙述が無味乾燥に思えたからだと思う。しかも、結論は、その人間像はよくわからないというようなものだった。人間はどうも、点と点があると、そこを結ぶ線を引き、さらには、架空の線を加えたりして筋をつけ、自分なりに納得できるかたちにして、物事をカタリたくなるものだが、その書籍には人間が感じられなかったといっていい。ところが、当該書籍の著者の関心は、歴史的事象そのものではなく、カタリの方にあるようで、その点、たいへん面白い。点と点をつなぐうえで、並外れた(人間離れした)力技を示している。

こんな記述もある。「この二作品(『嫗山姥』『孕常盤』)をもって、私は近松門左衛門もまたカタリの徒の系譜にあると思う。全国を遊行し、物語をカタって歩いた徒を祖にもつ人だと思う。近松の本名は杉森信盛。『近松』というペンネームは近江の近松寺(ゴンショウジ)から採っている。近松寺は言わずと知れた物語の徒の寄る寺であった。『蝉丸』伝承を支えた『関清水大明神蝉丸宮(現・関蝉丸神社)の別当寺であった。ただ、近松寺が蝉丸宮の別当寺となるのは近世のことである。とんでもない。蝉丸の徒は、中世、近松寺のある地を宿としていて、ここから全国へ遊行の旅に出た」。

著者は、「あとがきーつけたり」で、「(「金太郎の母を探ねて 母子をめぐる日本のカタリ」という)このタイトルは、私がまだ旅の途上にあることを言っている」と記している。一読者としては、「どんどん探ね、カタリつづけてください」と応援したいところだ。

2016年6月29日レビュー

物語と人間の科学

物語と人間の科学

  • 作者: 河合 隼雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1993/07/15
  • メディア: 単行本



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