「昭和史の隠れたドン―唐獅子牡丹・飛田東山」 西まさる著 新葉館出版 [自伝・伝記]
飛田東山は「弱きを扶け強きを挫く」を自らの信条とした。自身を幡随院長兵衛になぞらえ「生きた町奴」と称していた。小説『人生劇場』の吉良の仁吉、映画『唐獅子牡丹』の高倉健演じるモデルは東山である。東山を知る人は自ずと彼について書きたくなるようである。それは、本書を読んで頷くことができる。
読みながら山岡鉄舟が思いに浮かんだ。山岡は最後の将軍徳川慶喜とも明治天皇とも深いつながりをもつと同時に町火消の新門辰五郎や侠客の清水次郎長とも親交を結んだ。仏教界の重鎮とも市井の乞食とも分け隔てなくつきあった。無私の精神の持ち主だった。
これは三島由紀夫について聞いたことだが、三島は自身のシナリオの最後となった市ヶ谷駐屯地に向かう車の中で、盾の会メンバーと「義理と人情をはかりにかけりゃ~」と歌ったという。ノーベル賞候補にもなったハイブロウな作家の最後に選んだ愛唱歌が『唐獅子牡丹』というのはオモシロイ。日本人に通底する精神を知る意味でも本書は役立つように思う。
続刊を大いに期待したい。