「考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話」ポプラ社 [考古学]
考古学者が遺跡を掘れば遺骸やミイラに出くわすであろう。その種の怖い話、怪談めいた経験が出ているものと思った。実際のところ背筋の寒くなる話は2題ほど出ている。発掘現場のもつ「悪いエネルギー」に当てられたという話である。やはり、そのような場所はそのような雰囲気があるようで、地元の人々も敬遠する場所でのことだ。
それ以外はもっぱら、著者御三方(大城道則、芝田幸一郎、角道亮介)の発掘地シリア、エジプト、ペルー、中国での考古学を志したいきさつやそれら地域の文化的話題である。人々、食、性といった分野の「怖い目にあった話」が示される。
本書を読んで一番に感じるのは考古学で食っていく(考古学者になる)には発掘が好きでないと務まらないというもの。そして、知らず知らずのうち「いつの間にやら危険な冒険に」足を踏み込んでしまうということ。何事も夢中になるとはそういうことであろう。
夢中で何事かに取り組んでいる人の話はオモシロイものだ。本書は誰もが読んで楽しめるように思う。
2023-08-23 11:45
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『 マヤ文明を知る事典 』青山和夫著(東京堂出版) [考古学]
マヤ文明の諸事象の宇宙に身を浸すかの感があります
当該書籍は、岩波新書 『マヤ文明―密林に栄えた石器文化』(2012年刊)の著者による新刊で、「世界で初めて」「マヤ文明だけを詳述した事典」です。通常、これだけ多岐にわたる内容となりますと分担執筆とあいなるのでしょうが、単独でなされたとのこと。「たいへんなチカラわざであることよ・・」と感心いたします。
巻末の「参考文献」欄をみますと内外の書籍が多数紹介されており、それらからの引用傍証という作業の末に成った書籍であるということのようです。それでも、海外の学術書を、その言葉に通じた翻訳家が、ただ訳出しただけのものとは異なるように思います。30年ものあいだ「マヤ文明」の地で発掘調査し、生活をされてきた著者ならではの(マヤへの愛情や自分の見聞を加味した)良い意味でのフィルターがかかっているのは必定でしょう。
当該書籍をとおし、マヤ文明に関わる諸事象(地理・環境、交通・交易、暦・算術・天文学、文字、歴史、諸王朝・都市、戦争、建築、日常生活・家族、儀式・行事、世界観・神話・宗教、美術・工芸、生業・作物・食料、現代に生きるマヤの人々の暮らしなどなど)の宇宙に身を浸すかの思いをいたしました。
マヤ文明については未知であり、まったく無知であったのですが、信頼度の高い情報源を見いだすことができたのは幸運でした。
その点で、著者(青山和夫)と猪俣 健氏による著作 『メソアメリカの考古学(世界の考古学)』(同成社 1997年刊)のアマゾン・レビューに、マヤ、アステカ関連の著作の複数ある山瀬暢士氏が、「あえて辛口の書評」と題して投稿したものは参考になりました。長い書評ですが、簡単にいうなら 「(メソアメリカ全体を扱うのでなく) 専門分野であるマヤ地域に限定した物を書いていれば素晴らしい物が出来たであろうに・・」と、まとめることができそうです。その意味でも、「マヤ文明だけを詳述した」当該事典は、山瀬氏の苦言にも応える「素晴らしい物」といえそうです。
2016年1月5日レビュー