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『インド残酷物語 世界一たくましい民(集英社新書)』池亀彩著 [文化人類学]


インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書)

インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書)

  • 作者: 池亀彩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/11/25
  • メディア: Kindle版



『インド残酷物語』のタイトルを見て、宮本常一や山本周五郎が編集委員となって出版された『日本残酷物語(平凡社ライブラリー)』を想起した。そこでは江戸から明治あたりの話が集められている。「残酷」の中身としては、飢饉のときに間もなく亡くなる親を食べ合う約束をする隣人同士の話など出ていた。それに比べると本書の「残酷」は、予想の範囲ではあったが、それでもびっくりな内容である。なにしろ、こちらは今世紀しかも2010年代の話である。

「世界一たくましい民」とあるが、置かれている環境・状況がこのようであれば、たくましくならざるを得ない。その状況は、カースト制度に由来するものがもっぱら取り上げられる。バラモン、クシャトリア、バイシャ、スードラなどと学んだアレである。しかし、それとはまた別なモノもある。それらが複雑に絡み合っている。そして、社会にどっしり根を張っているから、上から法律でなんとかしようとしても、そうそう直るようなものではない。そういう中で、草の根から努力を積み上げているNGOの話が取り上げられる。

インドの今日、その現場の実況を見るような面白い本だが、そのことよりも、著者が親しく接するようになった人たちがたいへん魅力的に示される。家事手伝いのアムダ―、運転手のスレ―シュ、NGOを運営しているM・C・ラージ、それにシリゲレ・グル(シヴァムールティ・シヴァーチャーリア師)といった人たちである。なかでも、魅力的なのは、そうした現地で奮闘する著者自身かもしれない。現地で、たくましさを身につけて、著者あとがき(「おわりに」)を次のように締めくくる。「最後に、私が執筆に集中できるよう家事の大半を引き受けてくれた夫に感謝したい」。


日本残酷物語1 (平凡社ライブラリー)

日本残酷物語1 (平凡社ライブラリー)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1995/04/12
  • メディア: 文庫



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『シャーマン 霊的世界の探究者』グラフィック社 [文化人類学]


シャーマン 霊的世界の探求者

シャーマン 霊的世界の探求者

  • 出版社/メーカー: グラフィック社
  • 発売日: 2022/01/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


変性意識やトランスに関して啓発・受容的

写真・図版が多くもちいられ見て読んで楽しめる。変性意識やトランスに関して啓発的内容である。

副題「霊的世界の探究者」はなかなかかっこいい。とはいえ、その探究のありさまは西洋世界の観点からは跳んだり跳ねたり叫んだりうなったりの狂気じみたものとみなされてきた。多くの引用がなされ、書籍全体を通して、そうした見方が変わってきたことを示している。本書は、西洋世界中心の視点で、世界に散在する「霊的探求者」たちを歴史・地理的に論じている。

人類学的内容である。世界にいる「シャーマン」として括られる人たちの様子が示される。話しはあちらこちらに飛ぶ。ヨーロッパ、アジア、南北アメリカの「霊的探求者」たちのあり様が示される。「シャーマン」と総称される人々が、実際にはどんな存在か、各自考えてみて欲しいという示し方である。彼らが各地で何と呼ばれているか、その意味そして、その活動・役割が(受容的に)しめされる。

共著者コリーヌ・ソンブランの「トランスと神経科学」が『付録』となっている。BBCの取材先のモンゴルで太鼓の単純なリズムに感応しオオカミになって、シャーマンからシャーマンの資質を見出された女性の報告である。本稿ではその後の研究が示される。実のところ、シャーマン適性は、ほぼすべての人がもっているようである。

(以下、「トランスと神経科学」から抜粋)

「変性意識状態とは異なる意識の連続体なのではないか、という考えに、私たちは近づきつつあります。脳の各領域間の共鳴や相互作用に応じて、それぞれの意識状態が少しずつ混じり合い、特徴が出てきます。このような意味において、トランス状態で知覚が増幅するということは、意識による精神のコントロールが抑制されることで、極めて精巧に潜在意識が働き出すことを意味しています。したがって、トランス状態から通常の意識状態への帰還は、意識的なコントロールを抑制するプロセスが段階的に停止していくことに他なりません。

もちろん、こうしたトランスのプロセスを理解し、人間の脳やその能力を解明するには、まだ長い道のりが必要です。しかし、伝統文化が実践、継承、発見してきたことを研究することで、科学はすべてを手に入れることができるに違いありません。なぜなら私たちの社会や人類の未来は、高度なテクノロジーを運用するだけではなく、脳の潜在的な知覚能力をもっと理解して運用できるかにかかっているからです。

もちろん、脳だけで人間存在の複雑さを説明することはできません。脳は私たちと世界をつなぐインターフェイスにすぎません。現時点で我々が知るところでは、生命や意識、感情の謎を完全に説明できる科学的な研究はありません。しかし少なくともトランスの技術は、生命・意識・感情にかかる諸現象の謎に対して安心材料を提供してくれます。こうしたトランスの技術は、シャーマニズムの伝統を通して私たちの祖先が残してくれた宝物だと言えるでしょう。・・・後略・・・p185

蛇足ながら、p94にある以下の文章を読んで横尾忠則さんを思いだした。

ビル・ジェンセン≪レインダンス≫部分、1980-81年
「私は美しい風景を見て絵を描きたくて芸術家になったわけではない。ものづくりを通して、私とこの別の世界をつなげる何かを見たのだと思う。その昔、シャーマンたちは儀礼を通して、私たちとこの別の世界をつなげていた。部族が精神的なバランスを保つには、部族全員にこうした接触の経験が必要だった。現代アートの芸術家は、儀礼や伝説なしで同じことをしているのだと思う。彼らは不可視のものを見えるようにする力をもっている」

2022年2月6日にレビュー

アホになる修行 横尾忠則言葉集

アホになる修行 横尾忠則言葉集

  • 作者: 横尾忠則
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2018/07/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



創造&老年 横尾忠則と9人の生涯現役クリエーターによる対談集

創造&老年 横尾忠則と9人の生涯現役クリエーターによる対談集

  • 作者: 横尾 忠則
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2018/01/20
  • メディア: 単行本



高学歴男性におくる 弱腰矯正読本―男の解放と変性意識

高学歴男性におくる 弱腰矯正読本―男の解放と変性意識

  • 作者: 須原 一秀
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2022/02/06
  • メディア: 単行本



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「世界一おもしろいお祭りの本」 ロブ・フラワーズ著 創元社 [文化人類学]


世界一おもしろいお祭りの本

世界一おもしろいお祭りの本

  • 作者: ロブ・フラワーズ
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2019/04/19
  • メディア: 単行本


人間とは何か “感じ・考える” きっかけになる一冊

評者に言わせるなら、本書は「世界の奇習・奇祭をめぐる旅の絵本」。とはいえ、本書に出会わなければ、一生知らずに終わった「お祭り」を知ることができた。それには、紹介されている日本の「お祭り」も含まれる。それらが、色彩ゆたかで躍動感のあるイラストで示されていく。

「お祭り」には、共通性がある。仮面、仮装、音楽などなど。そうしたものの起源は、わからないまでも、人間精神の深いところで繋がっているのだろう。ふかく踏み込んだ解説はないが、子供たちをふくめ見る者に「なぜ人種も言語もちがいながら共通性が存在するのだろう?」という疑問をいだかせるにちがいない。

奇祭についてさらに知りたければ、「ユーチューブ」などで検索して実物を“見る”こともできる。検索するには、「お祭り」の呼称を知ることがまず必要だが、その点で本書は漢字・カナだけでなくローマ字での表記もあり、十分な情報を提供している。

個人的には、「巨人」、「カウベル」がお祭りに多数登場することを知り、マーラーの楽曲にも、こうした文化的深層が関係しているのではないかと考えさせられもした。

人間とは何かを“知る”というよりも“感じ・考える”きっかけになる一冊だと思う。

2019年6月30日にレビュー

ビジュアル版 世界のお祭り百科

ビジュアル版 世界のお祭り百科

  • 作者: スティーヴ・デイヴィ
  • 出版社/メーカー: 柊風舎
  • 発売日: 2015/01/12
  • メディア: 大型本



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『アフリカのことわざ』 アフリカのことわざ研究会 東邦出版 [文化人類学]


アフリカのことわざ

アフリカのことわざ

  • 作者: アフリカのことわざ研究会
  • 出版社/メーカー: 東邦出版
  • 発売日: 2018/08/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


家族で楽しめる

以下は、本書『はじめに』と『おわりに」記されている「ことわざ」についてのアフリカのことわざ。「ことわざのない話は塩気のない料理のようなもの」// 「ことわざとは、言葉を食べやすくさせるヤシ油のようなもの」 / 「ことわざとは、言葉を乗せる馬である。言葉が失われたとき、ことわざはそれを見いだすのに役立つ」。

ことわざの題材は、ふつう身近なところから取られ、それをネタにして話す。それゆえ、理解と共感を得やすく、特定の地域における知恵の源泉になったりする。本書はアフリカのことわざの本である。アフリカの人には身近でも、日本人にとっては縁遠いネタで語られる。だから、「この世はニワトリの尻。今日は卵、明日は糞(p10、11)」など、一読しても、理解できずにウーンと唸ってしまうようなものがある。これは「生きている限り、思いがけないことが起こるもの」という意味だそうである。そうかと思えば、「あなたが退出したとたん、それまでの会話は変わります(p46)」などというスグに分かって笑えるものもある。(ちなみに、「その場では話を合わせていても、本音はどこにあるのかわからないという意味」)。そのように、スグ分かる、分からないとりまぜてイロイロ出ているが、懐かしいようなイラストとともに楽しめた。「これ、どういう意味だと思う?」のやりとりで、けっこう家族で盛りあがった。このイラストとことわざの組合せはカルタ取りになりそうである。「アフリカのことわざ研究会」の皆さんで、「アフリカいろはカルタ」を作ってみてはどうだろうか。異文化を考えながら、同時に同じ人間であるこことを感じつつ、家族や友人で楽しむことができるように思う。

2018年10月14日にレビュー

日本のことわざかるた ([かるた])

日本のことわざかるた ([かるた])

  • 作者: いもと ようこ
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2002/11/01
  • メディア: 単行本



故事俗信 ことわざ大辞典 第二版

故事俗信 ことわざ大辞典 第二版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/02/20
  • メディア: 大型本



ことわざ大辞典―故事・俗信

ことわざ大辞典―故事・俗信

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1982/02
  • メディア: 単行本



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『笑いの力』河合 隼雄・養老孟司・筒井康隆・三林京子 岩波書店 [文化人類学]


笑いの力

笑いの力

  • 作者: 河合 隼雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/03/16
  • メディア: 単行本


「笑い」について真面目に考えさせられ、大いに笑わされもするオモシロおかしな本

本書は、「絵本・児童文学研究センター」主催第9回文化セミナー「笑い」(コーディネイター工藤左千夫氏、2004年11月14日、小樽市民会館)の記録。

まずお三方の講演(河合隼雄「児童文化のなかの笑い」・養老孟司「脳と笑い」・筒井康隆「文学と笑い」)、つづいて、桂米朝に師事し「桂すずめ」の名を許された女優の三林京子さんを交えてのシンポジウム「笑いの力」が掲載されている。

当初、緊張気味だったのが、気持ちがほぐれるにしたがい、参加者の面々からオモシロおかしな話がどんどん出てくる。一神教の欧米社会と多神教の日本との笑いの違い、ひいては文化の違いついての話は興味深い。日本社会に閉塞感が蔓延するのは、欧米に追いつき追い越せといった態度が影響しているような話もでる。

シンポジウムの見出しは以下のようになっている。「笑いを考えることとは」「文化の中の笑い」「笑いと真面目の反転」「落語の奥深さ」「武器としての笑い」「上下関係と笑い」「笑いと虚構」「反権力としての笑い」「上方の笑い、江戸の笑い」「子供の文化と笑い」「いま、笑いの力とは」

「笑い」について真面目に考えさせられ、大いに笑わされもするオモシロおかしな本である。

2018年9月7日にレビュー

笑いと治癒力 (岩波現代文庫―社会)

笑いと治癒力 (岩波現代文庫―社会)

  • 作者: ノーマン・カズンズ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/02/16
  • メディア: 文庫



日本語と日本人の心

日本語と日本人の心

  • 作者: 大江 健三郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1996/04/26
  • メディア: 単行本



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『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』 奥野 克巳著 亜紀書房 [文化人類学]


ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと

ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと

  • 作者: 奥野 克巳
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2018/05/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


異文化で、人は哲学者に

異文化に入ると、人は、カルチャー・ショックを受ける。そのチガイがあまりにも大きいと、人は哲学者に変貌するようである。根源的にモノを考えざるをえなくなる。

感謝や謝罪を必要としない、ある意味「ナイ」文化において、「アル」文化にいた著者は考える。考えざるをえない。「アル」日本で考え、「ナイ」ボルネオの地で考え、行き来を繰りかえし、その思索はどんどん深くなる。

本書の各章冒頭で、必ず引き合いに出されるのはニーチェである。ニーチェの著作からのながながしい引用がある。しかし、むずかしくはない(と、言っていいと思う)。なぜなら、引用の後、ニーチェ理解の助けとなる生生しく面白いフィールドでの経験が語られていくからだ。

現代社会のマトモなところ(裏を返せばヘンテコなところ)がつくづく見えて有益である。文化人類学とは何か、そのフィールドワークはどのようになされるのかを知るうえでも役に立つ。

一読して思うに、有益かどうか、役に立とうが立つまいが、読んでオモシロイ本であるのはまちがいない。

2018年8月29日にレビュー
*********

巻頭『はじめに』において、著者の若い日、文化人類学へ傾倒する「ことはじめ」が語られる。メキシコへ旅をし、先住民と暮らして日本に帰ると、「日本でおこなわれていることが、何もかも虚しく感じられるようにな」る。種々の問題におのずと気づくようになる。そして、「現代日本社会の私たちの周りで進行する諸問題の底の部分には、世界に囚われたかのような思い込みと言っていいほどの前提があるのではないか」と疑うようになる。「思い込み」「前提」「常識」「習慣」に囚われて生きていながら、それを知らずにいて、もがいている。それが、現代社会、現代人というものではないか。

「私たちがそうしなければならない。そうなっていると思いこんでいる習慣や一般常識こそが、実は、問題そのものを複雑化させているのではないか。通念から身を翻したり、世を統べる法に対して無関係な位置に至ることはできないだろうか。思いこみのような前提がないか極小化されている場所から私自身の思考と行動の自明性を、照らし出してみることはできないだろうか。そんなところに出かけて行って、人間の根源的なやり方かについて考えてみることはできないだろうか。そういった思いが、つねに私の頭のなかにあった。」

それで、著者は、「そんなところ」に出かけて行く。狩猟採集生活をしているボルネオ島のプナンの人々と暮らす。しかし、彼らは、原始的な狩猟採集生活をしているわけではない。資本主義の経済の末端に組み込まれていて、「見た目は、現代人とそれほど変わらない」。しかし、著者はいう。「とはいうものの、プナンは、日本を含む現代社会で営まれている暮らしとは『別の可能性』を私たちに示してくれるように思われる。・・略・・科学とテクノロジーに頼って近未来を志向する、現代に生きる私たちにとって、そんなものがほとんど想像されたことがないという点で、新しいのである」。


文化人類学のレッスン―フィールドからの出発

文化人類学のレッスン―フィールドからの出発

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学陽書房
  • 発売日: 2011/01/19
  • メディア: 単行本



森は考える――人間的なるものを超えた人類学

森は考える――人間的なるものを超えた人類学

  • 作者: エドゥアルド・コーン
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 単行本



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『世界神話入門』 篠田 知和基著 勉誠出版 [文化人類学]


世界神話入門

世界神話入門

  • 作者: 篠田 知和基
  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2017/04/30
  • メディア: 単行本


「世界の神話」入門ではなく、「世界神話」入門

「世界の神話」入門ではない。ギリシャ神話でもローマ神話でもなく「世界神話」入門が本書のタイトルである。

「世界神話」は、本書の提唱する考えといっていいのだろう。「1-1世界神話へむけて」の冒頭は「世界各地の神話には共通の物語や、共通の構造がある。各国ごとに別々な神話をもっているようでも、もとは同じものであることが多い。」と始まるが、それに続く部分を(評者なりに)要約すると、世界にあるさまざまな神話は、民族集団が相互に移動と交渉をくり返すなかで、形成されてきたが、それらには共通する部分があり、それらを抽出した祖形のようなものを「世界神話」と呼びうる・・・、ということかと思う。

そもそも「神話」については、次のように説明されている。「神話は物語である」「神の啓示である聖典が一方にあり、反対側に人の創作である文学がある。神話は作者を特定せず、人々が集団で語り伝えるものではあるが、神の言葉ではない。むしろ最初の文学である。神々の物語ではあっても、それを語り出したのは人間である。内容は世界のなりたち、宇宙の根源、生と死の起源、そして神々の物語と、地上の王や英雄の物語までふくみうる(「神話とは」p22)」。

当初、「入門」と題された本にしては、難しく感じた。初学者にとって当面不必要なところはすべて割愛するという記述をとるのではなく、ひとつの論点のなかに例外的事例も盛りだくさんに出してくることから、内容が錯綜しているように感じた。また、神の名前なども多く出てきて、ギリシャ神話中の主だった神々の名しか知らない程度であれば、その多さに驚くにちがいない。それが、ギリシャ神話だけではない。扱っているのは、“世界中の”神話、伝説、叙事詩、昔話なのである。

しかし、本書の内容紹介にある〈『世界神話伝説大事典』との姉妹編。世界神話を知るための最良の入門書がここに。〉の言葉で納得した。要するに、本書で未知の事象は、『世界神話伝説大事典』を座右に置いて調べるようにということなのだろう。世界神話入門の敷居はたいへん高いようである。

言語はインド・ヨーロッパ語族、アフロ・アジア語族などとグループ分けされる。そのような言語と世界の諸文化との関係を考察するように、文化を形成する言語のより深い「神話」レベルのあり方と世界の諸文化とがどのように絡みあっているのかを、本書と姉妹書等で考えてみるのはおもしろいように思う。

2018年4月8日にレビュー

世界神話伝説大事典

世界神話伝説大事典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2016/07/31
  • メディア: 大型本



西欧言語の歴史

西欧言語の歴史

  • 作者: アンリエット・ヴァルテール
  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2006/09/01
  • メディア: 単行本



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『コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から』 西原 智昭著 現代書館 [文化人類学]


コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から

コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から

  • 作者: 西原 智昭
  • 出版社/メーカー: 現代書館
  • 発売日: 2018/01/20
  • メディア: 単行本


読み物として単に面白いだけでなく、地球環境をめぐる世界の最前線に触れた印象

コンゴ在住日本人による、現地の自然を報告する本かと手にした。が、より深い内容である。読後感は、生き方を示す本という印象だ。モノのあふれた日本から遠く、モノに恵まれない国でまなんだ知恵というだけでなく、強烈に伝わってくるのは著者の真摯な生き方・生き様である。そして、その視座から見たゴリラ、マルミミゾウ、先住民(ピグミー)のこと、自然保護と開発、貨幣経済の弊害のことなどが示される。

京都大のフィールド研究の一環として現地に赴いたのち、係わるようになった自然保護活動、そこでは仕事のデキナイ人間の居る場所はない。密猟者に休みがないように、保護活動にも休みがない。そして、うっかりすれば、象や毒蛇に殺されかねない環境だ。実際、著者を乗せた飛行機は熱帯林に落ちそうになるし、著者はゾウの鼻にまかれて落とされたりもする。そうした現場でもみくちゃになりながら見たこと考えたことが記される。だから、データに基づくだけのお話しにはない迫力がある。

象牙消費量世界一の日本にいて、象牙を実際に利用しながら、象の密猟に憤る矛盾を実感させられる。熱帯林を開発・伐採した樹木をわが家に用いながら、開発を断罪する愚かさを悟らされもする。しかし、著者はただ単に「開発=悪」「保護=善」という図式で扱わない。供給国には供給国の、需要国には需要国の、それぞれの事情があるのだ。いまや貨幣経済の中に組み込まれてしまった先住民にとって、密猟は現金を手に入れるために“必要”なことでもあるのだ。そうしたことどもが、本書でつまびらかにされる。現場でもみくちゃになりながら考えた著者の思索は、こころに刺さるものがある。捕鯨の話しもでる。ヨウムの話しもある。動物園(の「行動展示」)、水族館(のエサ)の話題もある。日本のテレビ局から協力を求められたものの、断った話もある。

フィールドワークについて記された部分を引用してみる。〈 ぼくが若い院生だった頃、研究室はとても“おっかない”ところだった。ただ活気はあり、皆それぞれ自由に研究はできた。そしてぼくは一人アフリカに放り出された。基本的に誰も何も教えてくれない。先輩たちが問うてくることは研究の「動機」であり、大きな「目標」であった。何よりも重視したのは個々の細かいデータではなくフィールドへの覇気と野心であり、現地での純粋な「生の」経験や印象であった。 / 確かにその通りだと思う。自分の地に着いていない浅薄な経験談しか言えないなら、フィールドに行った価値などないと思う。日本にいる私はこうで、アフリカにいる私はこうなのよ、そうした分裂的な態度ではフィールドワークは成り立たない。フィールドには自分自身を100%持っていく場であり、それこそ全身で感じてきたこと、素直な自分が見て経験した「自己の反映」こそが意味を持つのである。ぼくはそんな中で鍛えられていった(「研究者のあり方と学校教育」)p216、217〉。

読み物としてもたいへん面白い本だが、著者が全身で感じてきた「生の」経験をとおして、地球環境をめぐる世界の最前線に触れた印象である。

2018年4月2日にレビュー

「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

  • 作者: 石川 薫
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 単行本



アフリカの老人 ― 老いの制度と力をめぐる民族誌

アフリカの老人 ― 老いの制度と力をめぐる民族誌

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 九州大学出版会
  • 発売日: 2016/03/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



人類学者への道

人類学者への道

  • 作者: 川田 順造
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2016/09/01
  • メディア: 単行本



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『動物殺しの民族誌』 シンジルト、奥野克巳編 昭和堂 [文化人類学]


動物殺しの民族誌

動物殺しの民族誌

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 昭和堂
  • 発売日: 2016/11/15
  • メディア: 単行本


自ら慣れ親しんできたものとは全く異なる世界を追体験し、多様な生命観、環境観の存在に気づき、自己と他者、死と生をめぐる思考を深めることができる

『動物殺し』とは、物騒なタイトルである。そして、それに『民族誌』が付言されている。「民族誌とはフィールドワークという経験的調査手法を通して、人々の社会生活について具体的に書かれた「体系的体裁によって*」整えられた記述のこと」と池田光穂氏(本書第2章を担当)はいう。なるほど、本書を通読しての印象と重なるもので、わかりやすい。

http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/990204dokkai1.html

どっしりと重い内容である。本書『序』を記しているシンジルト氏によると、「『世界屠畜紀行(内澤旬子 2007)』が世界の屠畜事情に関する日本初のルポルタージュだとすれば、本書『動物殺しの民族誌』は、世界の動物殺しを主題化した日本初の学術書になるだろう」と書いている。そして、「本書は、家畜のみならず、野生動物を殺す行為も扱う。また、食べるための狩猟・漁撈・屠畜はもとより、神に捧げるための供犠も射程に収めており、これらの行為すべてを本書では『動物殺し』という用語で表す」とある。そして、実際には、さらに「動物殺し」が敷衍されて、「嬰児殺し」「棄老」「ホロコースト」といった「人殺し」も範疇に入ってくる。

シンジルト氏の『序』は、「2009年に出版された絵本『いのちをいただく』が日本国内で広く読まれ、多くの感動を呼んだ」ことから始まる。そして、「なぜ、当然のことしか言っていない絵本が、これほど広く受け入れられたのだろうか」と疑問を呈しつつ、その社会的意義として「日本では、屠る現場が不可視な存在にされ、屠るという実践が日常生活から除外されており、その結果、命と肉のつながりは分断されているのである。家畜を屠るあるいは殺す現場を描き、殺しという実践そのものに対する理解を国民一般に呼びかけたこと」であると記している。その後、各章の要約を記したのち、最後をこう締めくくる。

「多くの人は、自らが持つこの種のネガティブな感覚を、世界共通のもので、人間が生得的に持つ本能によるものだと思い込んでいる。しかし、おぞましく感じることの是非はともあれ、動物殺しをめぐる特定の感覚自体は決して人間の本能によるものではない。このことを読者に伝えるのが本書である。読者は、自ら慣れ親しんできたものとは全く異なる世界を追体験し、そこにみられる多様な生命観、環境観の存在に気づき、自己と他者、死と生をめぐる思考を深めることができるであろう」。(以下、目次)

序 肉と命をつなぐために シンジルト

第Ⅰ部 動物殺しの政治学 / 第1章 儀礼的屠殺とクセノフォビア(残酷と排除の政治学)花渕馨也 / 第2章 子殺しと棄老(「動物殺し」としての殺人の解釈と理解について) 池田光穂 / 第3章 殺しと男性性(南部エチオピアのボラナ・オロモにおける「殺害者文化複合」) 田川玄 

第Ⅱ部 動物殺しの論理学 / 第4章 狩猟と儀礼(動物殺しに見るカナダ先住民カスカの動物観) 山口未花子 / 第5章 毒蛇と獲物(先住民エンベラに見る動物殺しの布置) 近藤宏 / 第6章 森と楽園(ブラガの森のプナンによる動物殺しの民族誌) 奥野克巳

第Ⅲ部 動物殺しの系譜学 / 第7章 供犠と供犠論(動物殺しの言説史) 山田仁史 / 第8章 狩猟・漁撈教育と過去回帰(内陸アラスカにおける生業の再活性化運動) 近藤祉秋 / 第9章 優しさと美味しさ(オイラト社会における屠畜の民族誌) シンジルト /後記、索引

2017年2月16日にレビュー

絵本 いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日 (講談社の創作絵本)

絵本 いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日 (講談社の創作絵本)

  • 作者: 内田 美智子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/03
  • メディア: 単行本



世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

  • 作者: 内澤 旬子
  • 出版社/メーカー: 解放出版社
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 単行本


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『アメリカ先住民を知るための62章』 阿部 珠理編著 明石書店 [文化人類学]


アメリカ先住民を知るための62章 (エリア・スタディーズ149)

アメリカ先住民を知るための62章 (エリア・スタディーズ149)

  • 作者: 阿部 珠理
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2016/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



明石書店のエリア・スタディーズ・シリーズをはじめて手にした。世界各地の地理・歴史・文化を扱った観光ガイドのように表紙カバーから連想していたが、たいへん学術的な内容に驚く。

本書の表紙から、“南北”「アメリカ先住民」について記されたものと思ったが、それもハズレタ。もっぱら北アメリカの「先住民」(インディアン)を取り扱っている。しかし、『はじめに』をみると、「先住民」と一括りにすること自体に無理があると記されている。言語、文化が異なる多数の部族社会からなり、現在も200以上の言語が用いられ、連邦から承認を受けた部族は、悠に500を越えるからだ。

それでも、《北アメリカ大陸での西欧列強の植民地事業から、アメリカ合衆国の建国を経て現代にいたるまで、彼らが被害者として被った植民地主義の歴史的体験は共通している。本書では、そのような共通のベース部分に、部族文化のような固有な部分を加え、総じてアメリカ先住民族の全体像がより広く、かつ深く紹介できるように努めた》と、ある。

『Ⅰ部 連邦ーーインディアン関係』では、過去から現在にいたる連邦インディアン政策の重要部分、またそれら政策へのインディアン社会の対応が項目化されている。

『Ⅱ部 現代社会問題』では、インディアン社会の今日の現実が詳らかにされ、インディアン社会共通の負の体験から導きだされる経済や健康といった深刻な社会問題、インディアン社会の民族再生に向けての取り組み、部族民認定等の部族社会の今日的課題、戦跡保存や博物館設置のための合衆国との交渉など、先住民が直面する現代的イシューが取り扱われる。

『Ⅲ部 文化と宗教」では、信仰心に支えられ、現在も力強く実践され、先住民の「代表的」儀式と呼びうるものが紹介されている。メディスンマン、ベルダーシュ、トリックスター、パウワウ、インディアンアートなど興味深い。

『Ⅳ部 人物』では、歴史的人物、インディアン社会の著名人、インディアン社会を描いた白人たちが紹介されている。巻末には『インディアン史 略年表』が付されている。

62の各項は4ページほどで、全体に網羅的だが、たしかに「アメリカ先住民族の全体像」を把握できるように思う。

アメリカ・インディアンの歴史―ビジュアルタイムライン

アメリカ・インディアンの歴史―ビジュアルタイムライン

  • 出版社/メーカー: 東洋書林
  • 発売日: 2023/06/08
  • メディア: 大型本



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