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『ぼくはただ、物語を書きたかった。』ラフィク・シャミ著 ・松永美穂訳 西村書店 [エッセイ]


ぼくはただ、物語を書きたかった。

ぼくはただ、物語を書きたかった。

  • 出版社/メーカー: 西村書店
  • 発売日: 2022/02/15
  • メディア: 単行本



薄く小さな本だが、重量感がある。この重量感は、著者の背負ったモノからくる。著者ラフィク・シャミは、アラビア語圏の出自である。亡命せざるを得なくなってドイツに赴き、ドイツ語で小説等の作品をモノすようになった。それから50年、いまだ愛する故国の土を踏むことができないでいる。

本書を一貫通底するキーワードは「亡命」。亡命とそれに伴うものごとの重さが否応なく伝わってくる。母語で書くのでさえたいへんであろうに、なぜ母語ではなく、ドイツ語で書くのか?『ぼくはただ、物語を書きたかった。』からである。そうせざるを得なかった事情、他言語で物語を書くうえでの工夫と忍耐、他文化で暮らす戸惑い、憤り、亡命作家としての日常、そうした中で多くの賞を得てきた作家としての成功の秘訣などなどが示される。

暗く陰鬱で、通読に難儀する本ではない。著者「の仕事場には・・古いアラビア語の箴言が、額装されて壁にかかっている」。そこには、『忍耐とユーモアは、それがあればどんな砂漠でも横断できる二頭のラクダだ』とある。ラフィク・シャミのユーモアと翻訳に助けられて、読者もらくに横断できる。


言葉の色彩と魔法

言葉の色彩と魔法

  • 出版社/メーカー: 西村書店
  • 発売日: 2019/05/20
  • メディア: 大型本



空飛ぶ木―世にも美しいメルヘンと寓話、そして幻想的な物語

空飛ぶ木―世にも美しいメルヘンと寓話、そして幻想的な物語

  • 出版社/メーカー: 西村書店
  • 発売日: 1997/08/01
  • メディア: 単行本



夜と朝のあいだの旅

夜と朝のあいだの旅

  • 出版社/メーカー: 西村書店
  • 発売日: 2002/07/01
  • メディア: 単行本



片手いっぱいの星

片手いっぱいの星

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1988/07/20
  • メディア: 単行本



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ひとり老後、賢く楽しむ 岸本葉子著 [エッセイ]


ひとり老後、賢く楽しむ

ひとり老後、賢く楽しむ

  • 作者: 岸本葉子
  • 出版社/メーカー: 文響社
  • 発売日: 2019/07/19
  • メディア: Kindle版


日々の暮らしを大切にして先々に備えたい

「老後に向けてあれこれ悩んだり不安に思ったりというのは、要するに知識、情報の不足からくるのだな。現状を把握して、とりあえずは直近の未来に備えればいいのだな。取り越し苦労は愚かであるし、愚かさかくるのだな。・・」などなど、考えつつ読み終えました。

当初、書籍タイトルから「ひとり老後を」趣味に没頭して「楽し」んでいるなどのちまちました内容かと思いましたが、予想に反し、著者は自分を変化させ、外に向かって開いていきます。自分ひとりの世界に引きこもったりはしません。その点で著者は、身近に接する老後を生きる方々から触発されます。プロフェッショナルからの教示に応じます。そのようにして自分を変化させ、外に向かって開いていきます。

本書表紙の図柄、タイトルの配置を見て、どこかで見た覚えがあります。しばらく考えて『暮らしの手帖』の本に同様のものがあったのを思い出しました。椿の絵は竹久夢二によるものです。著者のこだわりを示すものといっていいでしょう。著者は、住まいにもたいへんこだわりのある方です。テイストを大事にします。そうしたこだわりが生き生きした張りのある生活を生み出すものとなっているようです。それは、暮らし全体に対するこだわりといっていいように思います。

不安とは地面に足がついていないような感覚をいうのでしょう。本書を読んで、老後についての不安も同様だと感じました。日々の暮らしを地に足がつくようなものとしていくなら、老後をしっかり切り抜けていけそうです。良い教唆を受けました。

2020年2月29日にレビュー

土と暮らす家

土と暮らす家

  • 出版社/メーカー: エクスナレッジ
  • 発売日: 2023/07/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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「市原悦子 ことばの宝物」 主婦の友社 [エッセイ]


市原悦子 ことばの宝物

市原悦子 ことばの宝物

  • 作者: 市原 悦子
  • 出版社/メーカー: 主婦の友社
  • 発売日: 2019/04/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


市原悦子語録(いかにも市原悦子さんだなあ・・)

雑誌「ゆうゆう」「婦人公論」などで、インタビューを受けたり対談したなかから、市原さんの言葉が取り上げられている。いわば、「市原悦子語録」である。俳優一筋に人生を送った市原さんの、その時々の肉声が拾いあげられ、それらが、「生きるということ」「戦争の経験」「演じるという仕事」「語るという仕事」「男と女、そして夫婦」「本当の美しさ」「老いるということ」「死ぬということ」の章にしたがって掲載されている。

読みながら、いかにも市原悦子さんだなと感じた。想像からハズレてはいなかった。それだけ、俳優役回りのなかに市原悦子その人が明らかに示されていたのだと思う。その中から、ひとつだけ印象に残ったものを引用してみる。テレビ放映されていた『まんが日本昔ばなし』に関する言葉だ。

「番組が終わって思ったのは、『人間って、ちっぽけだな』と。でも、それは結論ではなかったんですね。人間てどんなに努力しても、報われるとは限らない。信心しても当てにならないし、恐ろしいお化けに遭ったりもする。20年近くやって、ああ、生きるって、世の中って残酷だな、理不尽だなという思いが残ったのね。でも、大事なのはその先で、『けれど、そのなかで一日、一日、生きていくんだ』と。そのことを『昔ばなし』が教えてくれました」(『女性自身』2011年6月7日号) (第4章 語るという仕事 055 p129から引用)

2019年7月30日にレビュー

日本昔ばなし 市原悦子 差別用語を用い、NHKでご難
https://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-05-24


日本残酷物語1 (平凡社ライブラリー)

日本残酷物語1 (平凡社ライブラリー)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1995/04/12
  • メディア: 文庫



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日本人よ! (伊丹十三選集 第一巻)岩波書店 [エッセイ]


日本人よ! (伊丹十三選集 第一巻)

日本人よ! (伊丹十三選集 第一巻)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/12/21
  • メディア: 単行本


ツカミ、ヒッパル力が並々でない

マルチタレントのハシリともいうべき伊丹十三の本。創作したもの、インタビュー、テレビ放映時の脚本のようなものが掲載されている。

後に映画監督として大活躍する素地が、本選集(第一巻)からもよく見える。好奇心旺盛だったのだなとつくづく感じる。世界にくすぐられることの多い人だったから、大衆をくすぐる術にも長じていたのだろう。ツカミ、ヒッパル力が並々でない。

「天皇日常」もそうだが、伊丹の切り口は、即物的だ。食す、排泄するといった人間だれしも、避けることのできないことがらを取り上げていく。誰しものことだから、分かりやすいし、オモシロイ。その切り口で、天皇様もまつり上げるのである。いわば、タブーへの接近といったところだが、陰湿なところがない。タブーも明るく取り上げられる。そうした、明るさは、全編を覆っている。

「人世劇場 神兵衰弱篇」、終戦直前の宮古島に駐屯していた方への聞き書きはスサマジイ。沖縄本島に出撃するアメリカ艦隊を見送るだけの島で、生き残ったのは四分の一、亡くなった人々の半数(だったかな)は自殺という話もでる。話し手の死にゆく仲間への観察、それを日常として語るどうということない語り口ゆえに、かえって悲惨さが際立つ。

日本の古代史、日本文化について多く記されている。チンパンという中国の秘密結社の話も出る。いまの若い、戦争を知らない、右よりの影響受けている人々は、自虐史観だの自虐文化観だのというかもしれない。それでも、読んでみる価値はある。なにせ、オモシロイ。(以下、目次)

天皇(天皇日常/天皇の村/人世劇場 天壌無窮篇) 古代への旅(赤い米・白い骨・青い島/三千年前のシンセサイザー/東京の縄文人/貝塚の特別料理人/お米は西からやってきた/光る森の文化説/半島・列島・直行便/ドキュメント倭人伝/謎の鉄器来襲/「卑彌呼」を求めて韓国までいった/気になる倭人伝/日本人のことば/四世紀のデモクラシー) 戦争(人世劇場 神兵衰弱篇/チンパンの嘆き) 日本文化(肋骨/冑建築/悪魔の発明/インヴァネス/パッパカパーノ、パッパ) ミドルクラス(机の上のハガキ/ダンヒルに刻んだ頭文字/日暮れて道遠し/ロンドンからの電報/息詰る十分間) 日本人の舌(乾いた音/水の味/イカモノについて/スキヤキ戦争/箸の汚れ/唇の感触) 日本人のいる風景(三船敏郎氏のタタミイワシ/地震のない国/クダショー/塩田/人世劇場 色即是空篇/ポセイドン・アドヴェンチュア/スーパー民主主義/香水/日記まで/プ) 英語(ミルク世紀/ステレオホニックハイハイ/ハイ・スクール・イングリッシュ/和文英訳/アイ・アム・ア・ボーイ/この道二十年/母音/子音) 日本の街(失楽園/素朴な疑問/都市論 槙文彦) 日本人よ!(塀のいろいろ/契約 山本七平/日本人論 佐々木孝次)/出典/編集解説・松家仁之 

2019年3月9日にレビュー

伊丹十三の本

伊丹十三の本

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/04/21
  • メディア: 単行本



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「私が作家になった理由」 阿刀田 高著 日本経済新聞出版社 [エッセイ]


私が作家になった理由

私が作家になった理由

  • 作者: 阿刀田 高
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 単行本


作家仲間や読書法に関するエッセイも収録

「あとがき」に〈本書は日本経済新聞の“私の履歴書”に連載したもの(2018年6月1日~30日)と、東京新聞の“この道”欄に連載したもの(2017年6月5日~8月29日)を合わせ、取捨選択のうえまとめたものです。/ 類似の企画であったため、文章・内容に重複するところが残ったことをお許しください。/ つたない一書ですが、いつのまにか小説家になったプロセスを、そのまま綴った次第です。気軽にお読みいただければ、この上ない喜びです。ありがとうございました。 著者〉と、ある。

「つたない一書」とあるが、一緒にお茶を飲みながら、お話を聞くような印象だ。大上段に構えて、作家として文筆の才を存分に示して・・という本ではない。それだけに、かえって心にふっと入ってくる気がする。

「いつのまにか小説家になったプロセス」だけでなく、作家仲間(井上ひさし、星新一、向田邦子、高行健、莫言)、国語審議会、国際ペン、山梨県立図書館のこと、読書法についてのエッセイも収められている。

著者が勧めるように「気軽に」読むといい。

2019年2月19日にレビュー

源氏物語を知っていますか (新潮文庫)

源氏物語を知っていますか (新潮文庫)

  • 作者: 阿刀田 高
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/11/28
  • メディア: 文庫



古書店のオヤジが教える 絶対面白い世界の名著70冊 (知的生きかた文庫)

古書店のオヤジが教える 絶対面白い世界の名著70冊 (知的生きかた文庫)

  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2017/10/18
  • メディア: Kindle版


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新版-犬が星見た-ロシア旅行 (中公文庫) 武田 百合子著  [エッセイ]


新版-犬が星見た-ロシア旅行 (中公文庫)

新版-犬が星見た-ロシア旅行 (中公文庫)

  • 作者: 武田 百合子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/10/23
  • メディア: 文庫


ここには人間がいる。描かれている。

武田百合子のロシア旅行記。百合子は、武田泰淳の妻。とは言うものの武田泰淳を知る人は少なくなっているにちがいない。なにしろ、昭和51(1976)年に64歳で亡くなっている人物だ。しかし、昭和の作家としては、埴谷雄高、野間宏、椎名麟三らと並び称されるビッグネームである。埴谷雄高は、その対話する様子から、文学仲間のなかで、武田泰淳の頭の回転は最速で、三島由紀夫よりも速いと書いた。

野間宏について
https://bookend.blog.so-net.ne.jp/2006-04-03-1

本書タイトルは、10歳以上年の離れた夫から「やい、ポチ。わかるか。神妙な顔だな」と(仕事部屋の本を掃除の手を休めてものめずらしげに覗いている時に、おかしがって)言われたことから来ている。「ビクターの犬」さながら不思議そうに星空を見上げる犬を例にあげ、「まことに、犬が星見た旅であった」と百合子は『あとがき』に記している。

そもそも、この旅は夫・泰淳が「竹内(好)と百合子と俺で旅行しておきたいと思ってたんだ。それに三人で行けるなんてことは、これから先、まあないだろうからな」と言ったことにはじまる。本書には「巻末特別エッセイ」として、旅をともにした中国文学者竹内好の『交友四十年』も掲載されている。

記録されているのは、昭和44年6月10日から7月4日まで。行き先は、ハバロフスク、タシケント、サマルカンド、グルジア共和国の首都トビリシ、ヤルタ、レニングラード、モスクワ、コペンハーゲン、ストックホルムなど。当時の船、飛行機の旅の様子を知ることもできる。

「犬」呼ばわりされた著者の感性をとおして見た「星」の輝きが本書の醍醐味だ。星の中には、出向いた先の土地や人、共に旅行することになった人々、さらには夫・泰淳と竹内好も入る。本書にみる二人は酒好きのただのおっさんである。そのダークな面、ケッサクな面も知ることができる。一緒に旅行した人々の中では、とりわけ錢高老人が魅力的。

たいへん即物的で、うんこやゲロの話もでる。著者が好き嫌いのハッキリした方だったことも分かる。それと同時に、人生の深い考察も記される。読んでいて、感じるのは、ああ、ここには人間がいる。描かれているという思いだ。

2019年1月19日にレビュー

武田泰淳と竹内好――近代日本にとっての中国

武田泰淳と竹内好――近代日本にとっての中国

  • 作者: 渡邊 一民
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2010/02/25
  • メディア: 単行本



武田泰淳伝

武田泰淳伝

  • 作者: 川西 政明
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/12/15
  • メディア: 単行本



竹内好――ある方法の伝記 (岩波現代文庫)

竹内好――ある方法の伝記 (岩波現代文庫)

  • 作者: 鶴見 俊輔
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/09/17
  • メディア: 文庫


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『説教したがる男たち』 レベッカ ソルニット著 左右社 [エッセイ]


説教したがる男たち

説教したがる男たち

  • 作者: レベッカ ソルニット
  • 出版社/メーカー: 左右社
  • 発売日: 2018/09/07
  • メディア: 単行本


本来、糸を紡ぐのは女たちの仕事である

9つの小品から成っている。表題作はブログ媒体に書かれて広く拡散したものだという。全編ほぼ一貫した内容といえる。巻頭エピグラフには「祖母たちに、平等主義者たちに、夢見る者たちに、理解ある男性たちに、歩み続ける若き女性たちに、道を開いた年上の女性たちに、終わらない対話に、そして2014年1月生まれのエラ・モスコビッツが存分に生きおおせるような世界に」とある。

『説教したがる男たち』の前には、沈黙している女たちがいた。しかし、著者は黙っていない。ユーモアをまじえてやりかえす。それは単に、対話における一場面ではなく、権威と力の問題だ。女たちは、男たちの権威と力にクモの巣によるように絡め取られ拘束されてきた。そのことを著者はプロテストする。

『グランドマザー・スパイダー』では、絵画論、『ウルフの闇』では文学論から自由の問題が扱われる。男たちにからめ取られてきた女たちではあるが、本来、クモのように糸を紡ぐのは女たちの仕事であることが示される。著者はウルフ同様、これからも言葉を紡ぎ続けるのだろう。「本書を訳すことは、この本が今紡がれるべくして紡がれた言葉でできており、一刻も早く世に出さなければいけない、という切迫感とともになされたものだった」と(『訳者あとがき』に)あるのも興味深い。

評者は、はじめてソルニットの著作に触れたが、その紡がれた言葉を奴隷となるためでなく、自由のためにくりかえし読むことになるように直観する。

2018年11月17日にレビュー

ウォークス 歩くことの精神史

ウォークス 歩くことの精神史

  • 作者: レベッカ ソルニット
  • 出版社/メーカー: 左右社
  • 発売日: 2017/07/07
  • メディア: 単行本



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「ハラスのいた日々」 中野 孝次著 文藝春秋 [エッセイ]


ハラスのいた日々 増補版 (文春文庫 な 21-1)

ハラスのいた日々 増補版 (文春文庫 な 21-1)

  • 作者: 中野 孝次
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1990/04/10
  • メディア: 文庫


犬好きのヨシミで推奨いたします。
2004年8月29日にレビュー

犬を飼う。ありふれた事柄です。
犬なんぞどこにでも転がっています。
そのどこにでもいるイヌコロの一匹が、いざ、一緒に暮らしてみると、いつの間にやら掛け替えのない何かになります。
この本には、「ハラス」と名づけた柴犬との暮らしが淡々と綴られています。山で生じた失踪事件もありますが、多くは日常の出来事が描かれています。しかし、描かれている犬へと向かう感情はたいへん深いものがあります。
犬と暮らし、犬とともに年を重ね、ともに年老いていく。
そうした中で得られる、その深いものが日常の出来事の中に滲み出ていて、この本を読む者はこころ打たれます。
文庫版の方が売れているようですが、ハードカバーのこちらを手元に置いて、だいじに繰り返し読んで欲しいですよね。中野センセ。


すべての愛犬家に
2005年10月26日にレビュー

愛犬を亡くしました。16歳と9ヶ月でした。
詩歌の才の無いわたしには、他の方の詩歌をリフレインして悲しみを堪えることしかできません。
この著作は「ハラスが死んだあと、あんまり悲嘆にくれているのを見かねて・・『それならいっそその思い出を全部書いてしまわれたらいかがですか』とすすめ」られて書いたものであると「あとがき」にあります。
そして「私はこの文章が、犬を失った飼主の感傷以外の何物でもないことを承知している。だが、それが最も愛した相手であったとき、その死に人と犬との差があろうかと開き直る気持ちも私にはある。人は愛した者のためにしか悼むことはできはしない、とも思うのだ。」(「いないという事」)ともあります。
そのような著者の思いが全編に漲って(散文ではありますが)この著作は詩歌の響をともなうものともなっています。
今特に、この著作を読むことはわたしにとっての大きな慰めです。


中野孝次
1925年(大正14年)1月1日 - 2004年(平成16年)7月16日)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E5%AD%9D%E6%AC%A1


清貧の思想 (文春文庫)

清貧の思想 (文春文庫)

  • 作者: 中野 孝次
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1996/11/08
  • メディア: 文庫



良寛にまなぶ「無い」のゆたかさ(小学館文庫)

良寛にまなぶ「無い」のゆたかさ(小学館文庫)

  • 作者: 中野孝次
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/07/01
  • メディア: Kindle版



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『人を見る目 (新潮新書)』 保阪 正康著 [エッセイ]


人を見る目 (新潮新書)

人を見る目 (新潮新書)

  • 作者: 保阪 正康
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/04/13
  • メディア: 新書


「時代に生きる人間の素顔を受け止めてもらいたい」

著者の読書の守備範囲の広さを実感できる本だ。

ギリシャのアリストテレスと同時代の人テオプラストスは人間の性格を30に分けて、当時の人間のありのままの姿を描く。著者は「この書(『人さまざま』)に触れたとき、2400年という時間は一気に縮まり、人間はまったく変わらないのだなと感動した。そして昭和史に限らず近代日本を見ていて、権力者を中心に演じられる百態は、まさに『人さまざま』と思ったものだ」と書く。

いわば、本書は、テオプラストスに倣って、著者の見聞きした『人さまざま』を記した本だ。と、同時に、間もなく80歳になる著者の人生観(時間観、歴史観、人間観・・・)を自ずと反映して、「人生かくあるべし」という著者の願いを示していると言っていいだろう。(もっとも、模範とすべきでない例の方が多いのではあるが・・)。


主に登場する「人」は、昭和の人々、戦時中・戦後のどさくさを生きた方々が多いのだが、最近では、「しみったれ / 哲学や思想なき打算」の項で、元都知事の舛添要一氏、「空とぼけ / 人を騙す手法の罪」の項で、現首相の安倍晋三氏、「人の操もかくてこそ / 一人になっても、見事に生きる」の項で、著述家の西部邁氏が取り上げられている。

第二次世界大戦時、主要国が用いた戦費の比率は、アメリカ:6に対して日本:1であったこと、孫文の訪問を断った南方熊楠の逸話、中江兆民の長男:丑吉の「精神」、清水の次郎長の晩年の生き方などなど、興味深い話題に尽きない。

最後に著者『あとがき』から抜粋。「本書を通じてそれぞれの世代なりに、時代に生きる人間の素顔を受け止めてもらいたいと思う。私たちはそれぞれの時代という舞台で、80年、90年、自らの役を演じきって亡くなっていくのである。せめてその間だけでも、充足感を味わいつつ、自らの役を演じきってみようじゃないか、と思う。」

2018年7月11日にレビュー

人さまざま (岩波文庫 青 609-1)

人さまざま (岩波文庫 青 609-1)

  • 作者: テオプラストス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2003/04/16
  • メディア: 文庫


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「嫌なこと、全部やめても生きられる」プロ奢ラレヤー著 扶桑社 [エッセイ]


嫌なこと、全部やめても生きられる

嫌なこと、全部やめても生きられる

  • 作者: プロ奢ラレヤー
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2019/12/21
  • メディア: Kindle版



著者は人から奢ってもらって生活している。いわば不特定多数の人に寄生している。パラサイトである。奢るのは誰でもいいわけではなくスクリーニングされる。著者の好奇心をくすぐる経歴能力のある人でないと外される。著者への興味から奢り人として応募してきた人は著者のメルマガに掲載される。それを面白がって読む人がいるので、著者の懐にはお金がなだれ込む。

著者の人生観は「額に汗し」「汗水を流し」て働くことを「是」とする観点からは「非」とされるだろう。だが、人を集めSNSに記事をアップするのもりっぱな仕事である。要するに、著者は自分の好きなこと興味あることをして世渡りをしているにすぎない。あくせく苦労してガマンの毎日を送るのも人生なら楽して生きるのも人生である。

著者は賢い人である。「嫌なこと、全部やめても生きられる」のを証明してしまった。その賢さが道徳基準に真っ向から反するものであれば詐欺や犯罪の類となる。しかし著者は、自分のデキルことを賢く行っているにすぎない。著者の賢さもさることながら、著者が奢ラレヤーとして暮らせること、その筋のプロとして生きることができる日本という国の懐の深さを感じる。

江戸時代の職人は半日しか働かなかったと聞くし、座布団に座ってハテナ?と頭をひねれば何万両と儲ける人もいた。むかしも今も世間のシバリに縛られるままにもがく人もいれば、そこから脱してうまく世渡りする人もいる。その縛りに気づいて「おれは嫌だ、ヤッテラレナイ」と体が反応できるかどうかで、その後の人生が変わる。多くの人が分かってはいてもシバリに縛られ、そこに留まるなか自分に正直になって世間から空中浮揚した著者はやはりすごいと言わねばならないように思う。


塩原多助一代記 (国立図書館コレクション)

塩原多助一代記 (国立図書館コレクション)

  • 出版社/メーカー: Kindleアーカイブ
  • 発売日: 2014/12/01
  • メディア: Kindle版



NHK落語名人選(4) 五代目 古今亭志ん生 塩原多助一代記

NHK落語名人選(4) 五代目 古今亭志ん生 塩原多助一代記

  • アーティスト: 古今亭志ん生(五代目)
  • 出版社/メーカー: ポリドール
  • 発売日: 1990/05/25
  • メディア: CD



西国立志編 (講談社学術文庫)

西国立志編 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1981/01/07
  • メディア: 文庫



現代語訳 西国立志編 スマイルズ『自助論』 (PHP新書)

現代語訳 西国立志編 スマイルズ『自助論』 (PHP新書)

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/05/30
  • メディア: Kindle版



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