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家族と国家は共謀する 信田さよ子著(角川新書) [社会学]


家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ (角川新書)

家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ (角川新書)

  • 作者: 信田 さよ子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/03/10
  • メディア: 新書


「無法地帯」「ブラックボックス」に分け入って

当初、なんの本かよくわからずに入手した。タイトルだけを見て手に取ったのである。「国家」と国家を構成する最小単位である「家族」をめぐる話で、それらに内在する共通点をとりあげた政治的な内容かと想像した。

実際のところは、直接的には、家庭内暴力をめぐる内容である。家庭という「無法地帯」でおこなわれる虐待とDVをめぐる論考である。日本の伝統的価値観からいけば、それは「しつけ」と称されたり、(一般的に犬も食わない)「夫婦喧嘩」とされてきた。しかし、そこに見られる家父長による権威の行使は、明らかに「暴力」であり犯罪であり、非とされるべきものである。そして、暴力をふるう者とふるわれる者との関係は、加害者と被害者の関係に置かれるべきものである。虐待・DVという言葉によって、そのことが世間で認知されるようになってきてはいるが、未だに負傷し避難せざるをえない子どもや女性たちがいる。場合によって死に至る。

著者はそうしたDV被害女性たちのカウンセリングに携わってきた。本書は、その肉声に接し共に考えてきた方ならではの(学者という肩書だけで生きてきた人にはない)迫力に満ちている。『全国にあふれている虐待例(p84~)』には、著者が「架空の家族」として貧窮下の若い夫婦とその子に生じたことを示している。なんとリアルであろう。虐待死にいたる経緯として素直に腹に落ちる。

国家の問題としては『臓躁病』という聞きなれない言葉が示される。中村江里著『戦争とトラウマ』が参照される。先の戦争中、『臓躁病』を発症した方が多数いたようである。しかし、隠ぺいされた。カルテも廃棄された。日本の家庭内における暴力が隠ぺいされて露見せずに長くきたのと同じである。

本書は、日本の家族について日本という国家の「無法地帯」「ブラックボックス」に分け入ることのできる本である。くりかえし読んで考えるに値する。

2022年1月25日にレビュー
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『新装版 ピーターの法則 / 「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』 ローレンス・J・ピーター著  ダイヤモンド社 [社会学]


[新装版]ピーターの法則――「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由

[新装版]ピーターの法則――「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由

  • 作者: ローレンス・J・ピーター
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018/03/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

「イグ」い というか 「エグ」い というか・・・

2003年に発行された書籍の新装版。原著は1969年、邦訳は翌70年に出版され、著者は1990年に没している・・・という本だが、評者は、はじめて読む機会を得た。事例・経験をもとにして論じられるたいへん読みやすい本ではある。

本書の重要なキーワードに「昇進」がある。階層社会、つまり会社などでの「昇進」に関する事例が多々登場する。多くは嘆かわしく好ましくない事例である。昇進すると「無能」が明らかになるという話だ。

ウィキペディアによると、ピーターの法則を用い、「計算機を使ってその動向をモデル化し、様々な昇進ルールを比較した」研究が「2010年のイグノーベル経営学賞を受賞」したという。

ピーターの法則
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87

本書も、「イグ」い というか 「エグ」い というか・・・そういう内容である。階層社会の「外」にいる方が読めば笑いを催すものであろうし、「内」にいる方が読めば身につまされるものとなるにちがいない。本書の読書感によって、自分が精神面・文字通りいずれであれ、「外」にいるか「内」にいるかが、分かる本とも言えそうだ。

「昇進」という言葉に含まれるのは、階層社会における出世だけでない。人類の進歩も「昇進」していくものとして捉えられている。文明もその範疇に入る。これを読むと、登りつめた山は、いつかは降りるべきであろうななど思う。

2018年5月15日にレビュー


3:「市民」のあるべき姿とは(梅棹忠雄の場合
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2011-06-17


本書中、マルクスが批判され(p113)、フロイトが批判され(p115)ている。そして、次のようにある。
(以下、引用)。

人類のおかれた状況を改善し、種として生き残るために、さまざまな提言がなされています。しかし、そのなかで唯一、ピーターの法則だけが、人間がつくった組織の実態に即して現実的な知識を提供できるのです。階層社会学は人間の本性を明らかにしてくれます。つまり、人間は絶えず階層をつくり続け、それを維持する手段を求め続け、それなのに逆に階層を破壊しようとする指向性があるというのです。ピーターの法則と階層社会学は、すべての社会科学を統合する要素を持っています。(p223)



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『サンプリングって何だろうーー統計を使って全体を知る方法 (岩波科学ライブラリー)』 [社会学]


サンプリングって何だろう――統計を使って全体を知る方法 (岩波科学ライブラリー)

サンプリングって何だろう――統計を使って全体を知る方法 (岩波科学ライブラリー)

  • 作者: 廣瀬 雅代
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/03/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「入門一歩手前の内容を解説し」たたいへん理解しやすい本

統計数理研究所の先生方(廣瀬雅代:統計学、稲垣佑典:社会学・社会心理学、 深谷肇一:生態学)による著作。「サンプリングっていったい何のことだろう? そんな疑問やちょっとした関心を持っている人向け」に「入門一歩手前の内容を解説し」たたいへん理解しやすい本。

第1章は統計学的解説となっている。「母集合」「標本」「非復元単純無作為抽出法」「推定」「大数の法則」「中心極限定理」など難しい用語もでてくる。Σ(シグマ)を使った数式も出てくる。しかし、内容は「統計数理研究所で毎年開催されている、子ども見学デーでのBB弾サンプリング実験の話を下敷きに」したもので、用語説明をしつつ丁寧に解説がなされ、「Σ(シグマ)の意味」というコラム記事も用意されている。

2章では、社会調査、3章では「野生生物の社会調査」ともいえる生態調査が、サンプリングの具体例として取り上げられ、1章のBB弾サンプリング実験と重ねて解説がなされていく。(以下、目次・コラムは省略)

第1章 サンプリングの有用性(その科学的根拠)
水槽内にあるBB弾の黒玉の数 / BB弾サンプリング / 非復元単純無作為抽出法 / だいたい同じとは? / BB弾サンプリング実験 / BB弾サンプリング実験の視覚化 / サンプルサイズによる推定精度の変化 / 大数の法則 / 中心極限定理 / 実践面でのサンプリングの問題 / おわりに

第2章 世の中の動向を捉える(社会調査とサンプリング)
社会調査とは? / 適切な調査対象を選ぶことが重要 / 実際に誰を調査するのか? / BB弾サンプリング実験を社会調査に置き換えて考えてみる / 有意抽出法と無作為抽出法 / 社会調査における単純無作為抽出法 / 社会調査の現場で用いられるサンプリング法 / 社会調査の現状と直面している困難 / おわりに

第3章 生物を数える(生態調査におけるサンプリング)
すべてを数えるのは難しい / 捕獲再捕獲法 / 個体数推定の仕組み / 背景にある前提 / 綿密な計画が必要な野外調査 / さまざまな捕獲再捕獲法 / 生態調査と社会調査 / 個体数推定のためのサンプリング法 / おわりに

もっと深く学びたい人に向けてー文献案内 // あとがき

2018年5月9日にレビュー


統計数理研究所
http://www.ism.ac.jp/


入門統計解析

入門統計解析

  • 作者: 倉田 博史
  • 出版社/メーカー: 新世社
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: 単行本



新・社会調査へのアプローチ―論理と方法

新・社会調査へのアプローチ―論理と方法

  • 作者: 大谷 信介
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2013/04/01
  • メディア: 単行本



データサンプリング (データサイエンス・シリーズ 2)

データサンプリング (データサイエンス・シリーズ 2)

  • 作者: 北田 修一
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2002/06/01
  • メディア: 単行本



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『観察の練習』 菅 俊一著 NUMABOOKS [社会学]


観察の練習

観察の練習

  • 作者: 菅 俊一
  • 出版社/メーカー: NUMABOOKS
  • 発売日: 2017/12/05
  • メディア: 単行本


『観察』の習慣が「自然な行為」となるために

この本で、著者は「自身が日常的に行っている『観察』の例」となる写真(56個)とその解釈・考察を示している。「観察とは、日常にある違和感に、気づくこと。」であると著者はいう。そして、「読者の皆さんも一緒に私が発見した『日常の中の小さな違和感』に気づいてみてください。」と勧めている。

ふつう「観察」というと、“意識的に”ある対象を見つめることが関係しているように思うが、著者にとって「観察とは、『頑張って意識してやる』というものではなく、ごくごく自然な行為」であり、「街を歩いたときに目についたものを写真に撮って、なぜ目についたのか少し考える。この繰り返しを、毎朝歯を磨くように習慣として行っている。〈おわりに〉」という。たしかに、著者のいう「観察」は、ふつうではない。

本書は、著者が違和感をおぼえた対象をとりあえず撮影し、のちにその意味を解釈した事例の集積である。それゆえやはり、ふつうの意味での「観察」とは異なる。しかし、著者は、この「観察」の習慣を高校3年生のころから始めたという。某書籍を読んで、「自分には見えているようで見落としているものがあまりにも多い」ことに気づき、「注意深くみることで何か気づけるのではないかと考え、この本で『観察』と呼んでいることを始めることにした」のだという。それから20年ちかく経過して(著者は1980年生まれ)、普通であるならば意識的に行うものである観察を「自然な行為」として行えるようになるほど訓練習熟した結果が本書ということであろう。その点で、たいへん手間暇年季の入っている本といえる。

写真とともに著者の解釈が出ているが、その点で注意書きがある。「本書に書かれている考察は、著者がその場の状況から推測した仮説です。実際にはまったく異なる理由で存在している場合があります。あくまで、遭遇した状況から一つの解釈を導くまでのプロセスをお楽しみください」とある。記すまでもないことであるように思うが、読者は撮影された写真(また、著者の「観察」)に違和感を覚え、それを観察・考察することができる。さらに、その観察した内容を観察・考察しなおすこともできる。それは、けっこうな訓練、『観察の練習』となるにちがいない。

凝りに凝った本である。文庫サイズ・ハードカバーの写真集で、目次ページの色刷り、多様な印字の種類・・、これでは値段も高くなろうというものである。それでも、「世界に溢れている面白さに気づいて」「前よりも少しだけ、生きることが楽しくな」り、「誰も見えていなかったことに気づ」いて、創造的なアイデアを身近なところから生み出せるようになるなら、それはそれは安い買いものと言えなくもない。

2018年2月13日にレビュー

『観察力を磨く 名画読解』エイミー・E・ハーマン著
http://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2016-12-12


観察力を磨く 名画読解

観察力を磨く 名画読解

  • 作者: エイミー・E・ハーマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/10/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



サウンド・エデュケーション 〈新版〉

サウンド・エデュケーション 〈新版〉

  • 作者: R・マリー・シェーファー
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2009/06/19
  • メディア: 単行本



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『宗教社会学を学ぶ人のために』井上順孝・編 世界思想社 [社会学]


宗教社会学を学ぶ人のために

宗教社会学を学ぶ人のために

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 世界思想社
  • 発売日: 2016/04/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


宗教社会学を学ぶ人たちの標準的なテキスト:きちんと読めば、きっと新しい視野が開けるはず

副題に「宗教社会学の基礎理論 現代社会と宗教社会学」とある。序章では「ファジーな宗教社会学」を学ぶにあたって、「宗教社会学の考え方、視点についての基礎的な知識を得」、「現代社会の宗教状況の概要を把握する目を養う」ことを目指すよう勧められ、「何事も自分の身近な問題」と考え、机上の学びで終わらせないよう励まされている。

第Ⅰ部は、4章から成る。『宗教社会学の基礎理論』と題されている。

1章は「宗教社会学の源流」と題され、ウェーバー、ジンメル、デュルケムが立項されている。彼らの著作には「宗教現象を読み解くときに役立つ視点や概念がいくつも散りばめられている」とあり、「草創期の宗教社会学において、彼らが何を明らかにしようとしたかを、3人の代表的な著作を中心に概観する」とあって、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』//『宗教生活の原初形態』『自殺論』//『宗教』『貨幣の哲学』が挙げられている。

2章は「宗教社会学の周辺」と題され、「周辺分野の研究」が紹介されていく。①人類学からの影響 ②呪術論からの影響 ③心理学からの影響 が立項され、フレイザー『金枝篇』、モース『贈与論』、エルツ『右手の優越』、エヴァンズ=プリチャード『呪術論』、さらにフロイト、ユング、W・ジェイムズの論考が紹介され興味深い。

3章は「宗教社会学の展開」と題され、「アメリカにおける宗教社会学と機能主義の展開、宗教教団に関する理論などに焦点」があてられ、また「最近の認知科学や脳科学など」の新たな研究が紹介されている。①パーソンズの構造機能主義、②マートンの構造機能分析、③べラーの市民宗教 が章の前半立項されている。

4章「日本の宗教社会学」では、「日本における宗教社会学の受容と、日本社会の特徴に基づく研究について紹介」されている。①伝統宗教・民俗宗教の研究 ②民衆宗教研究と新宗教研究 ③スピリチュアリティ研究 ④「カルト問題」研究 が立項されている。柳田國男、原田敏明、森岡清美、井門富士雄、柳川啓一//中義能、中山慶一、鶴藤幾太//村上重良、安丸良夫などの名前が挙げられる。

5章から第Ⅱ部に入る。「第Ⅱ部は具体的な宗教の社会的展開に即して、宗教社会学的な視点からの分析や説明を行う。 第5章では、近代化が日本宗教に与えた影響を考えていく。近代国家の宗教政策、都市化、家族の変動、法的な条件がどのように影響したかを説明する。 第6章では、近現代の日本社会の変化とそれに対応する宗教の変化をみるときに最も注目される現象に焦点を当てる。新宗教の展開と活動の特徴、そして現代宗教をめぐる主要な社会的トピックをいくつか扱う。 第7章では日本の宗教状況をより広く世界的視野からみていく。現代世界の宗教分布を確認し、世界で起こっている宗教的トピックを扱う。 第8章では宗教についての情報があふれる一方の現代社会において、より的確な宗教情報を得るための注意点をあげ、宗教情報リテラシーという考え方について説明する(「序章」)」。

巻末、付録として、文献解題、基本統計、参考となるウェブ情報一覧、事項・人名索引が用意されている。

「あとがき」に「本書は宗教社会学を学ぶ人たちの標準的なテキストになるようにと考えて編集されたもの」とある。むずかしい点もあるが、論述の印象はたいへん明晰である。「きちんと読んでいただければ、きっと新しい視野が開けるはずと考えている」とあるので、きちんと読みたい。

2016年6月24日レビュー

《参考となるウェブ情報一覧》から
「宗教と社会」学会
http://jasrs.org/

日本宗教学会
文化庁文化部宗務課 「宗教年鑑」
総務省統計局 人口統計
外務省
NHK放送文化研究所 日本人の意識調査
統計数理研究所 日本人の国民性調査
宗教情報リサーチセンター
宗教文化教育推進センター

Pew Research Center

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目次 『入門 貧困論――ささえあう/たすけあう社会をつくるために』 金子充著 明石書店 [社会学]


入門 貧困論――ささえあう/たすけあう社会をつくるために

入門 貧困論――ささえあう/たすけあう社会をつくるために

  • 作者: 金子 充
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2017/08/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


はじめに

第I部 貧困とは何か

第1章 身近にある貧困をとらえる――貧困・低所得・生活困窮の理解
1 誰が貧困状態にあるのか?(「貧困者」という聞き慣れないことば/ 低所得者 / 「貧困線」以下の人々 / 生活困窮者 / 生活保護受給者)

2 見えにくい貧困者をとらえる視点(ワーキングプア / 失業者 / ホームレス / 多重債務者 / 女性 / 子ども / 若者と高齢者 / マイノリティ〈傷病・障害者、性的マイノリティ、外国人)

3 貧困の場所/貧困の経験(「スラム街」はどこに? / ドヤ街から宿泊所へー貧困の不可視化 / 「貧困経験者」の語り / 作品から知る貧困)

第2章 何が貧困で、何がふつうの暮らしなのか――貧困の概念と定義
1 貧困とはどのようなことか(貧困とは「受け入れがたい」こと / 「貧困」と「貧困でないこと」 / 「絶対的」と「相対的」 / 「財」と「関係」)

2 「生存ライン」の貧困――最低限とは何か(ブースの貧困研究ー階層論 / ラウントリーの貧困研究ー最低生活費論 / 「第2次貧困」というジレンマ / 最低生活費の応用ーマーケット・バスケット方式)

3 「ふつう」が奪われた状態としての貧困(タウンゼントの貧困研究ー相対的剥奪論 / 暮らしにおいて何が剥奪されているか / 暮らしの実態や市民の意見を重視する / 時間的・関係的に貧困をとらえるー社会的排除論 / 貧困ではなく社会的排除がつかわれる政治的意図)

4 貧困の政治――「不正義」としての貧困を語る(貧困の「再概念化」 / 貧困者の行為主体性〈エージェンシー〉)

第3章 社会は貧困をどう見ているか――保守化する貧困観
1 貧しい人の肩をもつ人とそうでない人(貧困者にやさしく、でも少し厳しく / 貧困観の「転換」?)

2 貧困者はなまけている――「自己責任論」(自助こそが社会を良くする / 劣等処遇論 / 経済成長の「おこぼれ」をまわす)

3 貧困者が秩序を乱す――「貧困の文化論」(「美しい日本」をかき乱す人々 / 救済に値しない者がいる / 恥ずべき「貧困の文化」 / 貧困は遺伝するー貧困の優生学 / 当事者避難)

4 個人主義的貧困観はなぜ支持されるのか(消費される貧困観 / ネトウヨの貧困観察)

第4章 なぜ貧困が生じるのか、そして何をもたらすのか――スティグマ・不自由・不平等
1 貧困と救済のスティグマ(烙印を押さえるー「スティグマ」とは / 自助・自己責任から逸脱する者への軽蔑 / 「社会への負荷/ 迷惑」という罠)

2 貧困は不自由である――ケイパビリティ論(所得、幸福、生活の質 / 自由を奪われている状態としての貧困ーケイパビリティとは / 権原をもたないことによる貧困 / 積極的な自由の追求)

3 ぜんぶ資本主義のせいだ! ――搾取と抑圧からの解放の理論(貧困は必然的・法則的に生じる / 貧困を根本的になくすには / 脱工業化社会・消費社会における「新しい貧困」 / 「本質主義」と「段階論」を超えて)

4 格差・不平等はコントロールできる(日本が「格差社会」って、本当なのか? / 上位1%が冨を独占 / 平等・不平等は税と社会保障しだい)

第II部 貧困対策としての社会保障

第5章 政府が貧者をたすける理由――公的扶助の思想・理念
1 ナショナル・ミニマム――生産主義と「最低限」(混乱しているナショナル・ミニマム概念ーその源流は? / ナショナル・ミニマムと生産主義 / 最低生活基準としてのナショナル・ミニマム / ナショナル・ミニマムの限界)

2 生存権とシチズンシップ(生存権は「実質的」なものか / 生存権とナショナル・ミニマム / どのような意味の生存権かー社会権の広がり / 幸福追求の重要性 / 社会が市民に付与する「シチズンシップ」)

3 セーフティネットとワークフェア(「セーフティネット」が好んで使用される背景 / セーフティネットは3つの思想的立場から支持される / ワークフェアー「就労」を導く支援 / アクティベーションー活動や参加を導く支援 / 「働かない」を支援しなくていいのか)


第6章 公的扶助という名の貧者の管理――貧困対策と福祉国家の統治
1 「解放」と「抑圧」の貧困対策(人々を貧困から解放する、けれど抑圧する? / 社会保障は「発展」してきたのか)

2 近代化する欧米で救貧制度が生まれた意味(教会と国王の「施し」が救貧制度に代わってゆく / 国家の暴力を象徴する救民法 / 貧困者には労働を課すべき? / 自己責任と劣等処遇を強調する「改正救貧法」)

3 戦争と経済成長が福祉国家をささえた(救貧から防貧へー「扶助」の誕生 / 福祉国家の形成をうながした「総力戦」 / 公的扶助の終わり?)

4 「富国強兵」のなかの日本の公的扶助(新しい国づくりにおける救貧制度ー恤救規則と米騒動 / 戦争のための福祉は「福祉」なのかー軍事救護法 / 「労働能力のある貧困者」には救済よりも戦争をー救護法 / 生活保護に何が「移植」されたか)

第7章 公的扶助は「恥」なのか――社会保障のなかの公的扶助
1 公的扶助なのか、社会扶助なのか(「公的扶助」は最後のセーフティーネット? / 「公的」と「扶助」の意味 / どこの誰が最初につかいはじめたか)

2 救貧制度から脱却できない日本の公的扶助(「社会扶助」への発展を目標に / 現代における社会扶助・公的扶助の一般的定義 / 「公的扶助」を構成する6つの要素)

3 社会扶助における「社会」の意味を考える

4 社会保障における公的扶助の特性――4つの視点から(保険・扶助 / 資力調査・所得調査 / 普遍主義・選別主義 / 現金給付・現物給付)

第8章 生活をまるごと保護するとはどんなことか――生活保護の目的と原理
1 「最低生活」を約束する生活保護(生活保護の法律と考え方 / 健康で文化的な最低限度 / 最低限度でいいのか、という問い)

2 「自助」が基本、ゆえに資力調査をおこなう(自助および他の制度を「補足」する / 権利性を低めている資力調査 / 「適正実施」というスローガン)

3 「自立」の支援に力を入れる(最低生活保障+自立助長とは?/ 自立助長をセットでおこなうことは誰にとってメリットか?/ 自立支援プログラムの広がり? / 公的扶助におけるソーシャルワークはどこへ行くか)

第9章 保護は「依存」を生み出すのか――生活保護の内容・方法・水準
1 どのような給付があり、どのような保障をするのか(生活保護の8種類の給付 / 扶助の内容にかんする論点 / 就労自立をうながす控除と給付)

2 いくらもらえるのか、その基準は高すぎるのか?(どれくらいの水準で、どうやって決めているか / 低所得世帯にあわせて生活保護基準も下げるべきか)

3 「実質的な権利」と義務について考える(手続的権利と実質的権利 / 住所のない人に権利はあるか / 国籍のない人に権利はあるか / 「なまけ者」や「暴力団」に権利はあるか / 働ける人に権利はあるか / 生活保護法に書かれた権利・義務)

4 最後の最後のセーフティネットといわれて――生活保護施設(生活保護には「施設保護」という手段がある / 「廃人の収容施設」とされていた / 重複障害者や精神障害者の必要にこたえる / 地域における貧困者支援の拠点となるのか)

第10章 生活を保護する側の論理と苦悩――ケアとコントロールのジレンマ
1 福祉事務所と窮地に立つケースワーカー(期待されてきた福祉事務所 / 脱専門職化するケースワーカー)

2 管理統制と低コスト化――LCC化する福祉事務所(実施要領と「水際作戦」 / ケースワーカーの裁量と権力 / ストリートレベル官僚制 / 自立支援というソーシャルワーク / 低コスト化のなかのソーシャルワーク / ラディカル・ソーシャルワークと貧困の政治)

3 切り取られた受給者像――政府は何に悩んでいるか(生活保護受給者の数とその割合 / 受給世帯はどのような世帯か / 保護を受けはじめた理由・やめた理由 / 地域格差から見える生活保護の闇 / 逸脱への過剰反応が生み出す「不正受給」 / どれだけの貧困者が救われているかー捕捉率 / 統計による生活保護受給者の「他者化」)

4 生活保護費は悩みの種か?――財政をめぐる実像と虚像(生活保護費はどこから、どれだけ支払われているか / 生活保護費が自治体の財政を圧迫? / カネがないから保護を削れ、でいいのかー課税と所得再配分)

第11章 セーフティネットがたくさんあれば安心か――公的扶助の周辺
1 「第2のセーフティネット」への期待と現実(生活困窮者自立支援制度 / 求職者支援制度 / 生活福祉資金貸付制度 / ホームレス自立支援制度 / 児童扶養手当 / 無料低額診療事業 / 災害救助)

2 生活保護のほころびに「つぎあて」をする(「第2のセーフティネット」の位置づけ / 「防貧」なのか「救貧」なのか / 「第2のセーフティネット」は公的扶助なのか)

第12章 ジモトに広がる「ソーシャル」なたすけあい――非政府はどこまでやれるか
1 政府によらない支援のかたち(貧困にかかわる市民やNPO / ソーシャル・ビジネスと「新しい生活保障」 / ソーシャル・ビジネスと「貧困ビジネス」)

2 自助グループと当事者参加(「当事者」における貧困とのたたかい / 当事者参加を導く「地域のセーフティネット」)

3 窮地に立つ、公的扶助における「政府から非政府へ」(非政府による貧困者支援の特徴と課題 / 非政府は独立性を保ち、必要充足にかかわれるか / 政府の「見張り番」としての「非政府」)

第13章 貧困者を生まない社会保障は実現できるか――対貧困政策の国際的動向と展望
1 求められるベーシックインカム(現金給付のイノベーション / ロボットが働く時代の失業ー「技術的失業」は加速するか? / ベーシックインカムによる社会革命)

2 税制を用いた所得再分配のしくみと課題(負の所得税 / 給付付き税額控除 / 参加所得などの条件付き現金給付 / BI導入実験と財源確保)

3 海外の公的扶助はどうなっているか(公的扶助の国際比較 / 公的扶助の「レジーム論」 / 海外の公的扶助とその周辺の「厚い制度群」)

4 所得とケアを保障する対貧困政策の充実に向けて(生活保護をベーシックインカムに代える議論の危うさ / 個別的必要に応じる「ケア」はどうするのか)

おわりに
文献


世界「比較貧困学」入門 (PHP新書)

世界「比較貧困学」入門 (PHP新書)

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/04/16
  • メディア: 新書



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