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『観察の練習』 菅 俊一著 NUMABOOKS [社会学]


観察の練習

観察の練習

  • 作者: 菅 俊一
  • 出版社/メーカー: NUMABOOKS
  • 発売日: 2017/12/05
  • メディア: 単行本


『観察』の習慣が「自然な行為」となるために

この本で、著者は「自身が日常的に行っている『観察』の例」となる写真(56個)とその解釈・考察を示している。「観察とは、日常にある違和感に、気づくこと。」であると著者はいう。そして、「読者の皆さんも一緒に私が発見した『日常の中の小さな違和感』に気づいてみてください。」と勧めている。

ふつう「観察」というと、“意識的に”ある対象を見つめることが関係しているように思うが、著者にとって「観察とは、『頑張って意識してやる』というものではなく、ごくごく自然な行為」であり、「街を歩いたときに目についたものを写真に撮って、なぜ目についたのか少し考える。この繰り返しを、毎朝歯を磨くように習慣として行っている。〈おわりに〉」という。たしかに、著者のいう「観察」は、ふつうではない。

本書は、著者が違和感をおぼえた対象をとりあえず撮影し、のちにその意味を解釈した事例の集積である。それゆえやはり、ふつうの意味での「観察」とは異なる。しかし、著者は、この「観察」の習慣を高校3年生のころから始めたという。某書籍を読んで、「自分には見えているようで見落としているものがあまりにも多い」ことに気づき、「注意深くみることで何か気づけるのではないかと考え、この本で『観察』と呼んでいることを始めることにした」のだという。それから20年ちかく経過して(著者は1980年生まれ)、普通であるならば意識的に行うものである観察を「自然な行為」として行えるようになるほど訓練習熟した結果が本書ということであろう。その点で、たいへん手間暇年季の入っている本といえる。

写真とともに著者の解釈が出ているが、その点で注意書きがある。「本書に書かれている考察は、著者がその場の状況から推測した仮説です。実際にはまったく異なる理由で存在している場合があります。あくまで、遭遇した状況から一つの解釈を導くまでのプロセスをお楽しみください」とある。記すまでもないことであるように思うが、読者は撮影された写真(また、著者の「観察」)に違和感を覚え、それを観察・考察することができる。さらに、その観察した内容を観察・考察しなおすこともできる。それは、けっこうな訓練、『観察の練習』となるにちがいない。

凝りに凝った本である。文庫サイズ・ハードカバーの写真集で、目次ページの色刷り、多様な印字の種類・・、これでは値段も高くなろうというものである。それでも、「世界に溢れている面白さに気づいて」「前よりも少しだけ、生きることが楽しくな」り、「誰も見えていなかったことに気づ」いて、創造的なアイデアを身近なところから生み出せるようになるなら、それはそれは安い買いものと言えなくもない。

2018年2月13日にレビュー

『観察力を磨く 名画読解』エイミー・E・ハーマン著
http://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2016-12-12


観察力を磨く 名画読解

観察力を磨く 名画読解

  • 作者: エイミー・E・ハーマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/10/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



サウンド・エデュケーション 〈新版〉

サウンド・エデュケーション 〈新版〉

  • 作者: R・マリー・シェーファー
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2009/06/19
  • メディア: 単行本



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