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『トマス・アクィナス 理性と神秘』 山本芳久著 岩波新書 [哲学]


トマス・アクィナス――理性と神秘 (岩波新書)

トマス・アクィナス――理性と神秘 (岩波新書)

  • 作者: 山本 芳久
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/21
  • メディア: 新書


血肉をそなえた人間として目の前に

トマス・アクィナスについては、歴史の教科書で学んだ。アウグスティヌスと並び称される人物であること、『神学大全』という著作があること。そして、その人物と業績についての大筋は、百科事典で読むことができる。が、どこまでいっても、それは単なる知識に過ぎない。人間であれば、いわば骸骨である。それが、血肉をそなえた人間として目の前にあらわになってきた。本書のおかげである。

トマス・アクィナスの論議が、引用される。そのままでは、歯が立たない。用いられている言葉そのものが難しい。それを、言語(ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語)の面から解きほぐし、身近なたとえを用いて著者は解説していく。分からなかったものが、分かった気になってくる。(そうは、言ってもやはり、分かってなぞいないのだが)時間をかければ、しっかり解きほぐせそうに思えてくる。ありがたいことだ。

以下、引用してみる

〈「中道的アリストテレス主義」の場合には、アヴェロスとは異なる仕方で、テクストにより密着して解釈し直すことによって、アリストテレスの理解を刷新する。そして、刷新されたアリストテレスの理性的な世界理解を援用することによって、キリスト教神学をより理性的な仕方で構築し直し、それらをダイナミックな相互理解のなかに置き直すことが試みられていた。そうした斬新な試みのうちにこそトマス・アクィナスの残したテクストの魅力がある。〉(p11 「第1章 トマス・アクィナスの根本精神」〉

〈人間は、物事を直観的に把握する「知性的存在者」である「天使」や「神」との対比のなかで、「理性的存在者」と呼ばれている。「理性的」とは、人間理性にすぐに把握できることに自足してそれ以外のものを拒否するような態度なのではない。むしろ、多様な推論の積み重ねを通して全体的・総合的な理解へと到達しようと試み続ける自己超越的な在り方を意味している。「理性的」とは、自らの限界を十分に弁えながらも、どこまでもあらゆる実在ーーそれは人間理性を超えた神の神秘をも含むーーに対して自らを知的に開いていこうとする根源的に開かれた態度を意味している。そして、そうした意味での理性的な態度こそが、トマス哲学を貫いている根本精神なのである。〉(p25 「同上 理性的存在としての人間」)

〈どのような小さなテーマについて考察するさいにも、常により大きなテーマとのつながりを視野に入れて、いやもっと言えば常にこの世界全体とのつながりを視野に入れて考察しようとするトマスの姿勢がこのような問いの構成の仕方から読み取ることができるだろう。逆の角度から言えば、「神とは何か」「人間とは何か」「キリストとは何か」といった大きなテーマについて考察するさいに、一挙に全体を解決しようとするのではなく、いくつかの問題群へと問題を細分化し、一つ一つの問題の焦点を具体化し明確化することによって、取り組みやすくする。そして、取り組みやすくなった一つ一つの問題の解決を積み重ねていくことによって、当初は漠然としていてどこから手を付ければいいか見えにくかったような大問題に対する解決が次第に見えてくるようになる。 / こうした仕方で、神をも含めたこの世界の全体像を人間理性に可能な限り探究していこうとする方向性と、微細な論点に徹底的にこだわって細密に論じていこうという姿勢が、絶妙な仕方で両立しているところにトマスのテクストの魅力がある。〉(p34「同上 著作の形式」)

700年以上前の人物であるトマスの残したテクストに「現代的意義」があるとすれば、それは、現代にも通用しやすい角度から、すなわち現代的な視点から都合のいい箇所を恣意的に選別してトマスの残した言葉を読むことによって見出されるではなく、トマスにとって何が問題であったのかという観点から、残されたテクストの全体を丁寧に読み解くことによって初めて見出されるからだ。現代では論じられることの少ない問題を、現代とは異なる角度から取り上げているトマスのテクストにありのままに密着することによって、我々は、現代では当たり前だと思っている物事を捉える観点を相対化する新たな視点を獲得できる。現代におけるものの考え方の基本的な枠組みを突き放して捉え直すための一つの拠点を獲得すること。トマスを読むことに「現代的意義」があるとすれば、むしろそのようなところにこそ見出すことができるのだ。p67〉(第2章 「徳」という「力」・・キリスト教固有の「神学的徳」)

〈このような論の構成は、極めてトマスらしいものと言える。すなわち、トマスは、アリストテレスを中心とするギリシア伝来の哲学的伝統に依拠しつつも、聖書に由来するキリスト教的な視点を手がかりとしながら、自らが依拠する哲学的伝統を相対化する観点を提示してくる。だが、そのキリスト教的な視点というものは、「神の言葉だから」といった問答無用の仕方で持ち出されてくるのではない。むしろ、聖書の物語を手がかりとすることによって、理性的な哲学探究自体に新たな観点を普遍的な仕方で持ち来たらせることをトマスは試みているのである。〉(第2章 「同上」・・アリストテレスの受容と変容)

2018年2月12日にレビュー

神学大全I (中公クラシックス)

神学大全I (中公クラシックス)

  • 作者: トマス・アクィナス
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/07/24
  • メディア: 単行本



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