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家族と国家は共謀する 信田さよ子著(角川新書) [社会学]


家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ (角川新書)

家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ (角川新書)

  • 作者: 信田 さよ子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/03/10
  • メディア: 新書


「無法地帯」「ブラックボックス」に分け入って

当初、なんの本かよくわからずに入手した。タイトルだけを見て手に取ったのである。「国家」と国家を構成する最小単位である「家族」をめぐる話で、それらに内在する共通点をとりあげた政治的な内容かと想像した。

実際のところは、直接的には、家庭内暴力をめぐる内容である。家庭という「無法地帯」でおこなわれる虐待とDVをめぐる論考である。日本の伝統的価値観からいけば、それは「しつけ」と称されたり、(一般的に犬も食わない)「夫婦喧嘩」とされてきた。しかし、そこに見られる家父長による権威の行使は、明らかに「暴力」であり犯罪であり、非とされるべきものである。そして、暴力をふるう者とふるわれる者との関係は、加害者と被害者の関係に置かれるべきものである。虐待・DVという言葉によって、そのことが世間で認知されるようになってきてはいるが、未だに負傷し避難せざるをえない子どもや女性たちがいる。場合によって死に至る。

著者はそうしたDV被害女性たちのカウンセリングに携わってきた。本書は、その肉声に接し共に考えてきた方ならではの(学者という肩書だけで生きてきた人にはない)迫力に満ちている。『全国にあふれている虐待例(p84~)』には、著者が「架空の家族」として貧窮下の若い夫婦とその子に生じたことを示している。なんとリアルであろう。虐待死にいたる経緯として素直に腹に落ちる。

国家の問題としては『臓躁病』という聞きなれない言葉が示される。中村江里著『戦争とトラウマ』が参照される。先の戦争中、『臓躁病』を発症した方が多数いたようである。しかし、隠ぺいされた。カルテも廃棄された。日本の家庭内における暴力が隠ぺいされて露見せずに長くきたのと同じである。

本書は、日本の家族について日本という国家の「無法地帯」「ブラックボックス」に分け入ることのできる本である。くりかえし読んで考えるに値する。

2022年1月25日にレビュー
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