『 モノから見たアイヌ文化史 』関根 達人著 吉川弘文館 [民俗学]
文化の多様性は何物にも代えがたい人類の財産
本書を読みながら、祖母のことを思い出した。南樺太が日本領だったころ、北海道と樺太に行ったことを、繰り返し話してくれた。よく話題に出たのが、アイヌの女性のことだった。くちびるの周囲に入れ墨をしているのだが、それを手で隠して逃げて行くという話だった。子ども心に、なにか可哀そうになったのを思いだす。今となっては、それを、文化には多様性があって、どの文化も尊ばれるべきなのに、自分の文化を恥じたり隠したりしなければならないとは、気の毒だ・・という風に言語化できるのであろうけど・・。
本書は、マイノリティーであるアイヌの人々の歴史を、マジョリティーにありがちな「上から目線」で語ることなく、できるだけ平(タイラ)に語る試みといっていいのだろう。ところが、そうしようとする時に、残念ながら、アイヌには必要とされる文献・記録が残っていない。あるのは、マジョリティーの側の文献・記録だけである。それでも、語るに足るモノはあり、「モノ」に語らせようとしたのが本書である(と、言っていいように思う)。
著者は、「モノ」をとおし、マイノリティーであるアイヌの文化について語るだけでなく、マイノリティー全般に代わって、もっと大事なことを語ろうとしているようにも見える。マジョリティーは、まず経済面でマイノリティーを撫育し、その自立性を奪い、政治面で優越性を示しマイノリティーを「内国化」しようとするが・・・。《 北海道のアイヌが抱える問題と沖縄の基地問題は、元をたどれば日本の内国化に起因する問題である。日本の安全保障に係わる沖縄の基地問題ですら 「本土の人」 はなかなか関心を持とうとしない。 「本土の人」 はアイヌの人々が問題を抱えていることすらあまり認識していない。アイヌの人々が抱えている問題は、従軍慰安婦問題などと同様、日本の歴史認識が問われる問題であることを我々は認識し、歴史に学ばなければならない》。
そして、最後に著者はこう結ぶ。《文化の多様性は何物にも代えがたい人類の財産である。アイヌ文化に対する理解を深めることは、アイヌの人々だけでなく、日本人全体に知的・精神的刺激を与え、新たな文化の創造に寄与するに違いない(「エピローグーー民族共生への道」)》。
2016年8月30日に日本でレビュー
墓石が語る江戸時代: 大名・庶民の墓事情 (歴史文化ライブラリー)
- 作者: 達人, 関根
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 2018/03/16
- メディア: 単行本