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『ムハンマド・アブドゥフ―イスラームの改革者(世界史リブレット人)』松本 弘著 山川出版社 [自伝・伝記]


ムハンマド・アブドゥフ―イスラームの改革者 (世界史リブレット人)

ムハンマド・アブドゥフ―イスラームの改革者 (世界史リブレット人)

  • 作者: 松本 弘
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2016/06
  • メディア: 単行本


ムハンマド・アブドゥフの名をイスラーム世界で知らぬ者はいない

カバー・袖(折り返し部)に、《近代エジプトのウラマー、ムハンマド・アブドゥフの名をイスラーム世界で知らぬ者はいない》と、ある。そして、知らぬ者がナイほど著名な人物でありながら、「いったい何をなした人物なのかとなると知る者は少ない」ともある。これは、イスラーム世界において、ということなのであろうか・・。なんとも不思議な人物である。要するに「知る人ぞ、知る」人、ということなのだろうが、その人物はまた、《ウラマー》なのだという。本文・頭注によればウラマーとは、《「学者」を意味するアーリムの複数形。神学ウラマー(ムタカッリム)と法学ウラマー(ファーキフ)に分かれる。イスラームは聖職者を認めておらず、イスラーム諸学を修めたウラマーが信徒の指導や儀礼をおこなう》と、ある。(イスラーム世界独自の用語が多く登場するが、本文中、頭注が用意されている)。そして、《この不思議な人物は、伝統と近代文明に引き裂かれる社会にあって、その二極分化の解消に努めた。彼の「中間を行く」姿勢は、現代イスラームがもっとも必要としているものを指し示しているように見える》と、つづく。

アブドゥフは、エジプトの人である。年譜を見ると、1849年誕生となっている。日本でいえば、嘉永2年にあたる。同年生まれに、西園寺公望 、乃木希典がいる。西欧列強の圧力を受けた幕末を知る人たちである。(などということは、本書に記載がない。日本の情勢と比較してくれたなら、より分かりやすかろうと思う)。アブドゥフのエジプトも、大英帝国の圧力、影響下にあった。《イギリスの顧問とは単なるアドバイザーではなく、実質的には閣僚級の権限を有して、重要な決定事項にはその承認が必要とされた》という記述もある。

そのような中で、重要なポストにアブドゥフは就く。《アブドゥフは政府の支援をえてイスラームの宗教機構の改革に取り組みながら、それと同時にイギリスとエジプト政府の宗教機構に対する影響力行使の阻止に努めていた。そこでは当然、イギリスおよびエジプト政府とイスラーム宗教機構との深い溝のなかに身をおかざるを得ない》。《アブドゥフは、保守派からはムータジラ派、ヨーロッパかぶれと非難され、外国支配の打破をめざす民族主義者からは「親英派」とののしられた。それでもなお、エジプト社会の分裂を解消することに、多大の貢献をなした》とある。本書のなかでは、その難しい立場でエジプトに和合を生み出すため、アブドゥフが採った方法も示されている。それは、伝統への回帰であり、ある解釈をめぐるアブドゥフの思想と関係するものだ。それは、今日でも有効だろうか・・・。巻末に次のような節がある。

《現代におけるアブドゥフの意義とは、何であるのだろう。エジプトのみならず、アラブ諸国の現状は、史上もっとも深刻な二極分化に陥っているようにみえる。ムスリム同胞団のような西洋との融合をめざす立場・運動に飽き足らない人々、幻滅した人々は、サラフィー主義やサラフィストと呼ばれる勢力を形成した。これは西洋的なものをいっさい拒絶し、彼らが信じるかぎりのイスラームにのみ立脚するもので、アルカイーダやイスラム国のような過激派もこれに入る。初期イスラームに回帰することによって思想や学問の自由な状況を取りもどそうとした、アブドゥフのサラフィーヤとは似ても似つかないものである。(中略)アブドゥフのような「中間」をめざす勢力が、現代のアラブやイスラーム世界には必要なのではないだろうか》。

「アブドゥフのサラフィーヤ」とは如何なるものか、本当に今日でも有効か・・関心ある方はどうぞ・・。

2016年8月29日にレビュー

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  • 作者: 松本 弘
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2015/02/27
  • メディア: 単行本



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