「音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バッハ」 ひの まどか著 ヤマハミュージックメディア [音楽]
音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バッハ (音楽家の伝記―はじめに読む1冊)
- 作者: ひの まどか
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックメディア
- 発売日: 2019/03/23
- メディア: 単行本
家庭人としても苦闘した「音楽の父」をよく知ることができる
音楽室に肖像画が堂々と飾られていたヨハン・セバスティアン・バッハ。「音楽の父」という一語とともにすべて了解した気になっていたが、まったくもって何も知らなかったことを知った。
存命時、「無知・不理解」のうちにあった様子を本書をとおして知ることができる。創造性に富む芸術家は保守的な環境にあっては、苦闘せざるを得ない。小説という形式もあって、その心情が、単なる伝記よりも伝わってきた。また、芸術家としてだけでなく、夫であり父親であり家庭をもつ人間としてのバッハの苦労を知ることもできた。
また、さらに、ドイツの当時の様子、都市と都市との関係や教会や宮廷とそこで奉仕する音楽家たちとの関係なども知ることができる。
なお、本書は1981年にリブリオ出版から刊行された作曲家の物語シリーズ『バッハ』を増補改訂したもの。
*****以下、引用*****
マグダレーナは、強い口調でこう励ましながらも、夫の疲れきった悲しげな様子に胸をつかれる思いだった。セバスティアンの顔には、いくら働こうとも正当に評価されないという、創作者にとっての決定的な苦しみがにじみ出ていた。
ーーこの小さな世界の、きわめつきの小心者たちが、夫をおしつぶしていく・・・。
マグダレーナにはいまはっきりと、夫の才能が、このライプツィヒにはおさまりきらないほど大きいものだとわかるのだった。
ーーセバスティアンには、もっと広い、もっと大きな、もっと進歩的な、そして次元の高い世界こそふさわしいのだわ。
そうわかっても、マグダレーナはその場所がどこにあるのかはわからなかった。ドイツのほかの大都市にあるのか、あるいは、音楽に理解のあるほかの国にあるのか、あるいは、この地上以外の、より高いところにあるのかは・・・。(p226)
2019年6月28日にレビュー
Johann Sebastian Bach, Helmuth Rilling : Complete Bach Set 2010 - Special Edition (172 CDs & CDR)
- アーティスト: Various,Various,Johann Sebastian Bach,Helmuth Rilling
- 出版社/メーカー: Haenssler
- 発売日: 2010/09/20
- メディア: CD
当時、つまり18世紀には、正確にはドイツという国家は存在していなかった。そこにあったのは、いちおうドイツ帝国という名前のもとにより集まった300を越える大小の国家で、それぞれ独自の法律を守りながら独立していた。
よりくわしく説明すると、その三百余の国家は、絶対的な権力を持つ領主によっておさめられる専制国家と、市民たちの代表によっておさめられる帝国自由都市の二つにわかれていた。その割合は、専制国家の方が圧倒的に多く、とくに強力な王や貴族によってひきいられるプロイセン国やザクセン国が、ドイツ全土に強い勢力をふるっていた。
ライプツィヒは、この少ない方の帝国自由都市で、市民の代表たちによる市参事会が、人口3万の都市の政治をつかさどっていた。とはいえ、市の周囲は、ぐるりとザクセン国にかこまれていたので、都市の平和はいやおうなしにザクセン国に守られる形となり、したがって、ライプツィヒ市の重要な法律の決定権も、ザクセン国の領主、ザクセン選帝侯にゆだねられていた(選帝侯というのは、ドイツ帝国の皇帝を選ぶ資格を持つ有力貴族のこと。当時のドイツには、全部で7人の選帝侯がいた)。
セバスティアンは、それほどの権力を持つ選帝侯に、直接手紙を書いて自分の苦境をうったえようと決心したのだ。そのことからも、彼が大学当局のやり方にどれほど怒り、傷ついていたのかがわかる。(p142~144)