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『西洋音楽史再入門: 4つの視点で読み解く音楽と社会』 村田 千尋著 春秋社 [音楽]


西洋音楽史再入門: 4つの視点で読み解く音楽と社会

西洋音楽史再入門: 4つの視点で読み解く音楽と社会

  • 作者: 村田 千尋
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2016/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


音楽と社会の関連性を中心として、音楽史全体を見直したい

『再入門』とあるので、学び直しの機会とせよの意図の下に発行されたのかと思ったが、そういうことではなく、新たな視点で音楽史を論じるから、そのつもりで学べということらしい。そもそも評者は、音楽史をアカデミックにきちんと学んだことなどないので、要はムズカシイかどうか、読み通せるかどうかということだけが気がかりだったのだが、結果からいえば評者にも読むことができた。

「音楽史」で想起するのは音楽室の壁に居並ぶ大作曲家の肖像と「音楽の父」「交響曲の父」「楽聖」、「バロック」「古典派」「ロマン派」といった言葉である。ところが、「音楽史」の本であるにもかかわらず、本書に立てられている4つの章に、それらの言葉はまったく出てこない。(因みに、第1章『楽譜と音楽史』、第2章『楽器と音楽史』、第3章『人と音楽史』、第4章『音楽と社会 音楽の場と社会的機能』)。

『序 新しい音楽史の試み』を見ると、従来の音楽史のように時代を輪切りにして論じることに疑問を抱いたのが本書執筆の動機とある。《「輪切り音楽史」によって、それぞれの時代の特徴、時代の風潮、背景やジャンルを越えた共通点を描くことができる。しかし、時代を跨いだ変化や関連性は、どうしてもわかりにくくなってしまう。たとえば、14世紀のミサ曲が15世紀、16世紀のミサ曲にどのように受け継がれ、何が変わったのかということは、時代を輪切りにしてしまうことによって見えにくくなってしまう》。それで、『縦割り音楽史』の可能性をさぐり、勤務する学校で「音楽史の上級編」として講じてきたという。

著者の目指すところは、「音楽社会史」、「音楽と社会の関連性を中心として、音楽史全体を見直したいという」思いに根ざす。だからなのだろう、“純音楽的な”《 最初期の楽譜(ネウマ譜)は、言葉のアクセント記号から派生したと考えてよい。歌詞/言葉を歌う際のイントネーションやアクセント、旋律の動きを記号化したもので、「音型ネウマ」と呼ばれている。このことから、当時の音楽が言語に支配されていたことがわかる》などの説明による啓発・驚きとは別に、音楽を中心に据えて西洋史(教会、貴族、大衆社会)を見ようとするときに、こうしたモノが見えてくるのか・・という驚きが本書にはある。音楽も人間の生活の一部で社会的なものであるのだから、本書の「試み」は、大いに願わしいものに思う。

2016年8月17日にレビュー

音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学 (朝日新書)

音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学 (朝日新書)

  • 作者: 大黒達也
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2022/02/10
  • メディア: 新書



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『アフリカ音楽の正体』塚田 健一著 音楽之友社 [音楽]


アフリカ音楽の正体

アフリカ音楽の正体

  • 作者: 塚田 健一
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2016/05/16
  • メディア: 単行本


それなりにむずかしくはあるが、読み通させるだけの魅力がある

たまに聞く現地の人びとの合唱の美しさに惹かれ、歌と踊りに見るリズム感のよさに驚き、太鼓のワイルドな響きに魅了されてきただけに『アフリカ音楽の正体』というタイトルはたいへん魅力的に思えた。といっても、評者は、音楽的素養がない。それにも関わらず、本書には、楽譜が登場し、また、音楽学的解説が加えられる。だから、けっこうむずかしい。著者「あとがき」によると、想定されている読者は「“音楽的意識の高い”一般読者」で「アフリカ伝統音楽に関する中級レベルの解説書を目指した」とある。なるほど、評者は音楽的意識は高いツモリだが、音楽的知識は一般以下である。むずかしいのは当然だ。しかし、本書は、それでも、読み通させるだけの魅力がある。

評者は、アフリカの文化の根っこにあるものを(音楽的側面から)いくらか掴まえたように感じている。著者は音楽学者であると同時にアフリカでフィールドワークを重ね、現地の人びとに混じって、楽器の奏法を学び、奏者ともなってきた人である。要するに、民族(俗)学者の風貌も兼ねている。そうした視点からの解説は、いろいろな気づきを与えてくれた(と勝手に思っている)。たとえば、「西洋人は音をつくり出す身体運動よりも、音そのものに関心を払うが、アフリカ人は音を身体運動の副産物と考える(ジョン・ブラッキング )p29)」という引用がある。それに解説が加えられ《つまり、アフリカでは、西洋音楽でいう「強拍」=「下拍」、「弱拍」=「上拍」という関係が逆になるというのだ》とある。それを読んで、アフリカの言語には、「ン・・」から始まる言葉が多い。それもこれと関係があるのカモ・・などと思ったりしている。

そんな、刺激的な情報が多い。そのオモシロサの依るところは、著者の次の態度にあるようにも思う。《ここで、ひとつ注意しておかなければならないことがある。それは、五線譜を使ってこのように説明すること自体、西洋音楽的な説明の仕方であり、多かれ少なかれ偏向を免れないということだ。・・しかし、今のところ、世界のさまざまな音楽の構造をそのような偏向をまったく排除して分析する普遍的な方法が開発されていない以上、重要なことは、われわれが西洋音楽の体験から日頃当然と考えている音楽上のいくつかの前提を、注意深く保留していくことである》。

現地の人と交わり、混じるような経験もしつつ、その渦中でメタ的態度を保ち、『アフリカ音楽の正体』を明らかにしようとする著者の仕事は、その方法からしてオモシロく、そのようにして明らかにされた『正体』もまたオモシロイ。

目次:章立て (理論編)第1章:アフリカ・リズムの衝撃 第2章:アフリカ・リズムの奥義 第3章:アフリカに「ハーモニー」が響く 第4章:アフリカの旋律をたぐる 第5章:太鼓は話すことができるか 第6章:子どもと遊びと音楽と (実践編)第7章:アフリカの太鼓で合奏しよう あとがき 楽譜出典 付録音源一覧 参考文献 索引

2016年8月2日にレビュー

【塚田健一著『アフリカ音楽の正体』付録音源 ストリーミング再生 - 音楽之友社
http://www.ongakunotomo.co.jp/useful/africa/


アフリカの音の世界―音楽学者のおもしろフィールドワーク

アフリカの音の世界―音楽学者のおもしろフィールドワーク

  • 作者: 塚田 健一
  • 出版社/メーカー: 新書館
  • 発売日: 2000/06
  • メディア: 単行本



アフリカ音楽学の挑戦―伝統と変容の音楽民族誌

アフリカ音楽学の挑戦―伝統と変容の音楽民族誌

  • 作者: 塚田健一
  • 出版社/メーカー: 世界思想社
  • 発売日: 2014/02/27
  • メディア: 単行本



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『武満徹・音楽創造への旅』立花隆著 文藝春秋刊 [音楽]


武満徹・音楽創造への旅

武満徹・音楽創造への旅

  • 作者: 立花 隆
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/02/20
  • メディア: 単行本


(以下、当該ブログ 2016-04-14 投稿分)

立花さんの新刊を読み出した。2段組の800ページにおよぶ分厚な書籍だ。

立花さんは、大文学などの「時間コンシュームな作品」を年を重ねて読まなくなったとどこかで書いていたように思う。人生の先の短いのを実感するようになってから、時間の浪費をきらうため、だ。

手にして、「読むのは敬遠するが、書くのは平気・・?」など思いながら読み始めた。「時間コンシュームな作品」に思えたが、読みだしたら、おもしろい。面白いから、時間がかかろうがかかるまいが、そんなことはどうでもよくなった。なにしろ面白いのである。

以前に立花さんが、武満徹にインタビューしたものが元になっている。武満が正直にてらわずに答えているのが印象的で、よくここまで話させたものだと感心している。また100ページほど読んだだけなのだが、たいへんよい出来に思える。

天才というより、当方には「異星人」に思えた武満徹という人物を知ることができる。その創造の過程を追認できる。戦後のどさくさ時代の音楽界について知ることができる。音楽をとおして西洋と東洋のちがいの示唆を受けること大である。

巻末、「おわりに ~長い長い中断の後に」と題して、「本書の成立過程」が記され、そこに、著者の音楽理解に貢献した0・Mなる人物のことが記されている。著者の「がん友」である女性のことだ。本書の完成直前に壮絶な死を遂げた。

なんだか、それを読んでの漠然とした思いではあるが、この出来のいい仕事が、立花隆の「白鳥の歌」にならなければいいがと危惧している。


(以下、武満がのっぴきならなくなって作曲家になったというくだりを引用してみる)

************

ー自分に本当にそういう才能があるんだろうかなんていうことは、心配しなかった。

「ええ、しなかったです」

ー才能に対して、内的確信があった。

「いや、そんなに自信があったわけじゃないんですけど、何かのっぴきならないというか、今風にいえば『やるっきゃない』という感じですよ。いま考えると、ずいぶんあっさり思い切った決断をしたなと思いますよ。ちょっと恐ろしいくらいですね。こんなことは人にすすめられません。最近ときどき、若い人が手紙を書いてきて、自分も作曲家になりたいと思ってるんですが、どうでしょうと、相談してきたりするんですが、ぼくは頑張りなさいなんて励ましたことはありません。音楽は趣味でやる程度にしておいたほうがいいと忠告します。

ぼくの家まで来て、玄関の前にじっと立っている奴もいる。だいたいちょっと変なやつです。もう少し普通のやつが作曲を志望してくれりゃいいと思うのに、だいたいそうじゃないのがやりたがる(笑)」

ーだけど、武満さんだって若いときに清瀬保二さんに師事しようと思って出かけていって、留守宅にあがりこんで6時間も待っていたことがあるんでしょう。客観的に見れば、かなり“変な奴”だったんじゃないですか。

「それはそうかもしれない。だけどね、『何やりたいの』と聞くと、『作曲家になりたいんです、教えていただけないでしょうか』。これはぼくは間違いだと思うんです。作曲家になりたいというのはいけない。『作曲をしたい』か、『音楽をしたい』ならいい。ぼくはさっき作曲家になる決心をしたといったけど、それはそういう職業を選択したということじゃないんです。とにかく音楽をやりたかったんです。作曲を通じて音楽をやりたかったんです。音楽以外何も頭になかった。寝てもさめても音楽のことばかり考えていました。のっぴきならないというのはそういう意味なんです」

ーそれで、学校に行く気はなくなっていたけど、ピアノを弾くために学校に行ったという話になるんですね。

「そうなんです。作曲家になるといってもピアノがないとどうにもならない。どうしてもピアノが弾きたいんです。学校には、音楽室と講堂にピアノがありました。いつも鍵がかかってるんですが、ぼくの友達に不良が一人いて、そいつが鍵をこわしてくれるんです。しかしすぐ見つかって、怒られ、また鍵がかけられる。するとまたその友達がこわしてくれる。そのいたちごっこを繰り返していたわけです。

この時期、社会運動にもふれた。

「戦後の混乱した教室のなかに、私の心を満たすものは何もなかった。共産党の運動に参加したのは、私に深い認識があってしたことではなかった。サークルの会合で読まされたマルクスは、戦争中に、田舎の古本屋が隠しもっていたものを読んだ時ほどに私を動かさなかった。私には、民族とか国家とかいう次元で問題を考えることはどうしてもできなかった」(「暗い河の流れに」)



武満徹著作集〈1〉

武満徹著作集〈1〉

  • 作者: 武満 徹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/04/18
  • メディア: 単行本



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オーケストラ興亡記: 19~21世紀の楽団と指揮者をめぐる物語(ONTOMO MOOK) [音楽]


オーケストラ興亡記: 19~21世紀の楽団と指揮者をめぐる物語 (ONTOMO MOOK)

オーケストラ興亡記: 19~21世紀の楽団と指揮者をめぐる物語 (ONTOMO MOOK)

  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2022/02/10
  • メディア: ムック



2000年から2017年までの『音楽の友』の特集記事に加筆・修正したもの。『音楽の友』の愛読者で該当誌を所持している方は、落胆されるかもしれない。評者にとっては、初出同然なので、それなりに楽しむことができた。 / 筆者の中には故・宇野功芳氏も含まれる。「第3章 20世紀のオーケストラ界を牽引した名指揮者たち」のフルトヴェングラーとクナッパーツブッシュの項を担当している。記事を読むとやはり名評論家であったと思う。運びが巧みで読まされてしまう。ただ、「中には、フルトヴェングラーのワグナーとブルックナーを高く評価する人も居るが、ぼくは買わない。異常な興奮が音楽を矮小化し、ひびきをにごらせてしまうからだ。・・」とあるのを見ると、以前であれば「なるほど、きっとそうだろうな」と納得しそうになるところである。しかし、今日YouTubeでいろいろな音源に接することのできる時代になってみると、宇野氏が「ぼくは買わない」という音源も実際に聴くことができるので、宇野さんとは異なり「ぼくは買う」という気持ちになる。 / 以下に目次を示す。それをご覧になって、自身の興味と合い面白そうであれば入手するのもいいように思う。ちなみに、ぼくは買わない。

[目次]
第1章 欧州のオーケストラ運動
*英国オーケストラの20世紀
*社会主義体制とオーケストラ
*ウィーン・フィル、ベルリン・フィルの20世紀、そして現在
*放送局のオーケストラ
*消えた名門オーケストラ

第2章 アメリカのオーケストラ運動

第3章 20世紀のオーケストラ界を牽引した名指揮者たち
*アルトゥーロ・トスカニーニ
*ブルーノ・ワルター
*オットー・クレンペラー
*ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
*ハンス・クナッパーツブッシュ
*シャルル・ミュンシュ
*ジョージ・セル
*ヘルベルト・フォン・カラヤン
*レナード・バーンスタイン
*カルロス・クライバー
*名指揮者たちのラスト・レコーディング

第4章 古楽オーケストラを率いたマエストロたち
*オリジナル楽器運動の波
[インタヴュー]
*フランス・ブリュッヘン
*グスタフ・レオンハルト
*バルトルド・クイケン
*フィリップ・ヘレヴェッヘ
*トン・コープマン
*鈴木雅明
*ジョン・エリオット・ガーディナー
*トレヴァー・ピノック
*アンナー・ビルスマ

第5章 日本のオーケストラの隆盛
*日本のオーケストラ 巨匠たちとの共演史
*激動の戦後オーケストラ界
*築き上げた黄金コンビ
*朝比奈隆×大フィル
*秋山和慶×東響
……ほか

【高音質復刻】Furtwängler & VPO - Bruckner: Sym.No.8 (1944.10.17)
https://www.youtube.com/watch?v=YeOonmZNJcs
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小澤征爾,兄弟と語る [音楽]


小澤征爾,兄弟と語る: 音楽,人間,ほんとうのこと

小澤征爾,兄弟と語る: 音楽,人間,ほんとうのこと

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/03/18
  • メディア: 単行本



小澤家のファミリーヒストリー。同時代として「昭和」を生きてきた方なら共感するところ大に思う。なんだそんなことで?と言われそうだが、甘夏が出回る前のすっぱい夏ミカンの話が出る。たいへん懐かしい思いをした。音楽・文芸を愛する知人の一家団欒の場に加えてもらったような読後感である。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

小沢3兄弟の鼎談スタイルで話は進められる。皆、一家を成した方たちである。、文学者の2男俊夫(昭和5年生まれ)、音楽家の3男征爾(昭和10年生まれ)、俳優の4男幹夫(昭和12年生まれ)。皆、仲がいい。それぞれ経済的にたいへんな時期には、関係する方たちから目をかけられ愛され扶けられてきた。「運」といってしまえば、それまでだが、助けずにはいられなくなる人柄が関係しているようだ。人間性である。そうした人間性はどのように生まれたか、父親(開作)母親(さくら)の生き方の影響・大である。また、親の用意した教育環境も関係ある。自由にのびのび才能を羽ばたかせ、落ちそうになっても、いざという時に助けになってくれる友人・知人を得るため・得させるためにできることは何かなど考えさせられた。

「わが家に芸術を持ち込んだのは兄貴だもんね」と俊夫が言い、「わが家で一番芸術的だったのは兄貴だよ」と征爾がいう長男克己(昭和3年生まれ、56歳逝去)が、一家の負(マイナス)の部分を一身に背負ってしまったように感じる。彫刻家として一家を成さなかったかもしれないが、一家を成した弟たちの出世に一番貢献したのは「克己兄貴」のように思う。


昔ばなし大学ハンドブック

昔ばなし大学ハンドブック

  • 作者: 小澤俊夫
  • 出版社/メーカー: 読書サポート
  • 発売日: 2016/03/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



小澤征爾さんと、音楽について話をする(新潮文庫)

小澤征爾さんと、音楽について話をする(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: Kindle版



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あとがき『オーケストラの読みかた 改訂版: スコア・リーディング入門』池辺 晋一郎著 学研 [音楽]


オーケストラの読みかた 改訂版: スコア・リーディング入門

オーケストラの読みかた 改訂版: スコア・リーディング入門

  • 作者: 池辺 晋一郎
  • 出版社/メーカー: 学研プラス 児童・幼児事業部 音楽事業室
  • 発売日: 2017/01/24
  • メディア: 単行本



読めるものは何でも読んでやろう。外国語であろうが、数式であろうが、楽譜であろうが・・と稀有壮大な願いをもつものながら、そうそう何でも読めるものではない。

楽譜をよむには、まずは楽典の勉強からなどと思っていたが、もっとずっと楽しく、オーケストラの楽器の話を交えるなどして教示してくれる本を見出した。

駄洒落で有名な作曲家池辺先生の著作である。上記イメージ書籍(『オーケストラの読みかた 改訂版: スコア・リーディング入門』)は、スコアを読むための本である。まさに、何でも読んでやろう人間にはうってつけの著作で、おまけにCDもついての大サービス、なんと1600円。

目次

1部 スコアのかたち
1 スコアって何だろう?
2 楽器の配列はどうなっているの?
3 楽器の特徴を知っておこう
4 楽器の家族
5 ステージ上の楽器の配列
6 オーケストラの編成を見てみよう

2部 スコアを楽しむために
1 音部記号を知ろう!
2 移調楽器って何?
3 スコアに登場する記号

3部 スコアを読んでみよう
1図形的に見てみよう
2 メインメロディーを探してみよう
3 スコアをタテに読んでみよう
4 オーケストラの色彩を味わおう
5 オーケストレーションの魔術

Let's try スコア・リーディング
あとがき

(以下、上記書籍「あとがき」全文)

************

オーケストラという音楽の表現媒体は、ほかの分野で言えば何に似ているだろう。総天然色フィルム、大百科事典、満漢全席、オールスターキャスト...。豪華にして贅沢。

オーケストラは聴くものであり、同時に弾くもの、吹くもの、叩くものだ。組織するもの、運営するものという人もいる。そこに、読むものという概念を加えてみたい。という発想が僕の裡にあった。高校生のころの思い出を綴ってみようーー夜、ベッドに入る。仰向けに寝て、スコアを広げる。大好きな曲、つまりレコード(LPの時代である)などでよく聴く曲、つまりよく知っている曲。

スコアを眺めていると、頭のなかで音が鳴り始める。ほとんど、その曲を聴いている状態になる。スコアだけで音が鳴るなんてすごい!と思うかもしれないが、そうではない。よく知っている曲ゆえに、音符を見ると脳内のどこかが刺激され、聴いたことを思い出すからだと思う。楽しかった。朝、目覚めると広げたスコアが顔をおおっているのだった。

建築家は設計図に完成した建物を見るのだろうし、舞台の演出家は、演じられている芝居を瞼に浮かべつつ戯曲を読むのだろう。指揮者の、仕事前のスコアの読み込みはすごい。すべて覚えてしまうほど、すごい。その時彼の頭のなかでは、音が響き渡っている。もちろん作曲家だって、音が聴こえてこなければスコアの音ひとつ書けない。でもあなただって、大好きなテレビドラマのシナリオをたまたま入手し、目を通せば、ドラマのシーンをかなり正確に思い出せるはず。

だから、エキスパートと同じにはいかなくても、スコアから音を読み取りたいと思う人は少なくないだろう。そこに至る手始めは、よく知っている好きな曲のスコアを見ること。そのための手がかりになればと思った。この書はあくまで、「聴きかた」ではなく、「読みかた」なのである。

2016年12月 

池辺 晋一郎
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