『アフリカ音楽の正体』塚田 健一著 音楽之友社 [音楽]
それなりにむずかしくはあるが、読み通させるだけの魅力がある
たまに聞く現地の人びとの合唱の美しさに惹かれ、歌と踊りに見るリズム感のよさに驚き、太鼓のワイルドな響きに魅了されてきただけに『アフリカ音楽の正体』というタイトルはたいへん魅力的に思えた。といっても、評者は、音楽的素養がない。それにも関わらず、本書には、楽譜が登場し、また、音楽学的解説が加えられる。だから、けっこうむずかしい。著者「あとがき」によると、想定されている読者は「“音楽的意識の高い”一般読者」で「アフリカ伝統音楽に関する中級レベルの解説書を目指した」とある。なるほど、評者は音楽的意識は高いツモリだが、音楽的知識は一般以下である。むずかしいのは当然だ。しかし、本書は、それでも、読み通させるだけの魅力がある。
評者は、アフリカの文化の根っこにあるものを(音楽的側面から)いくらか掴まえたように感じている。著者は音楽学者であると同時にアフリカでフィールドワークを重ね、現地の人びとに混じって、楽器の奏法を学び、奏者ともなってきた人である。要するに、民族(俗)学者の風貌も兼ねている。そうした視点からの解説は、いろいろな気づきを与えてくれた(と勝手に思っている)。たとえば、「西洋人は音をつくり出す身体運動よりも、音そのものに関心を払うが、アフリカ人は音を身体運動の副産物と考える(ジョン・ブラッキング )p29)」という引用がある。それに解説が加えられ《つまり、アフリカでは、西洋音楽でいう「強拍」=「下拍」、「弱拍」=「上拍」という関係が逆になるというのだ》とある。それを読んで、アフリカの言語には、「ン・・」から始まる言葉が多い。それもこれと関係があるのカモ・・などと思ったりしている。
そんな、刺激的な情報が多い。そのオモシロサの依るところは、著者の次の態度にあるようにも思う。《ここで、ひとつ注意しておかなければならないことがある。それは、五線譜を使ってこのように説明すること自体、西洋音楽的な説明の仕方であり、多かれ少なかれ偏向を免れないということだ。・・しかし、今のところ、世界のさまざまな音楽の構造をそのような偏向をまったく排除して分析する普遍的な方法が開発されていない以上、重要なことは、われわれが西洋音楽の体験から日頃当然と考えている音楽上のいくつかの前提を、注意深く保留していくことである》。
現地の人と交わり、混じるような経験もしつつ、その渦中でメタ的態度を保ち、『アフリカ音楽の正体』を明らかにしようとする著者の仕事は、その方法からしてオモシロく、そのようにして明らかにされた『正体』もまたオモシロイ。
目次:章立て (理論編)第1章:アフリカ・リズムの衝撃 第2章:アフリカ・リズムの奥義 第3章:アフリカに「ハーモニー」が響く 第4章:アフリカの旋律をたぐる 第5章:太鼓は話すことができるか 第6章:子どもと遊びと音楽と (実践編)第7章:アフリカの太鼓で合奏しよう あとがき 楽譜出典 付録音源一覧 参考文献 索引
2016年8月2日にレビュー
【塚田健一著『アフリカ音楽の正体』付録音源 ストリーミング再生 - 音楽之友社
http://www.ongakunotomo.co.jp/useful/africa/