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『明治のワーグナー・ブーム 近代日本の音楽移転』竹中 亨著 中公叢書 [音楽]


明治のワーグナー・ブーム 近代日本の音楽移転 (中公叢書)

明治のワーグナー・ブーム 近代日本の音楽移転 (中公叢書)

  • 作者: 竹中 亨
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/04/19
  • メディア: 単行本


西洋音楽の日本への「音楽移転」の「複合的な現象」を、ずっと追いかけ、「明治のワーグナー・ブーム」の謎を解く

本書は、「音楽史の書物」ではなく、「音楽を素材として文化史研究を試みた」もの。焦点となるのは、「音楽そのものではなく、音楽を取り巻く社会文化的側面」にある。と記すと、なにやら、むずかしそうだが、たいへん面白い本で、簡単にいえば、明治期の日本において、西洋の音楽(洋楽)はどのように受容されていったかを示す研究。

明治維新なって、アチラの音楽が日本に入ってくる、当初、聞くに堪えないものとされた洋楽が、徐々に(忍耐のうちに)受け入れられ、後に、一大ブームを巻き起こす。ワーグナーのブームである。著者は「明治のワグネリアンは、いったいワーグナーのなかの何にそこまで惹かれたのか。また、崇拝の対象が他の作曲家ではなく、ワーグナーだったということに何か意味があったのか」という疑問をいだき、その謎に迫ろうとする。

副題に「音楽移転」と、あるが、本書中つぎのように説明されている。《音楽学の方面では「文化横断」(transculturation)という概念を使う論者もいるが、いずれにしてもある地域の音楽文化が他の地域に移しかえられる現象を指す》。《単に歌や楽器をよそにもっていけば移転になるのではない。というのも、音楽は音だけでなりたっているのではなく、それを含めた社会文化的な営みだからである。だからたとえば、音楽がどんな社会的機会に、だれによって、いかなる目的で演奏され、かつ享受されるかというような次元まで含めて考える必要がある》。《したがって、移転された音楽が移転先で定着するには、一定の社会的条件が必要だし、逆にもちこまれた音楽が移転先の音楽文化状況に変化を与えることもある。また、移転を通じて音楽そのものに何がしかの変化が生じることも多い。つまり、音楽移転は複合的な現象であり、したがってそう単純に進行するものではない》とある。

著者は、西洋音楽の日本への「音楽移転」の「複合的な現象」を、ずっと追っていく。ワーグナー・ブームの謎も解く。そして、こう結ぶ。《洋楽がわが国にもたらされて150年になる。日本の音楽文化がその間に著しく西洋化したことは紛れもない事実である。しかし、音楽との付きあい方という点に関していえば、われわれは意外に明治を引きずっているかもしれない》。

2016年9月10日にレビュー

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  • 作者: 竹中亨
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: Kindle版



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