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『日本人とリズム感 ―「拍」をめぐる日本文化論―』 樋口桂子著 青土社 [音楽]


日本人とリズム感 ―「拍」をめぐる日本文化論―

日本人とリズム感 ―「拍」をめぐる日本文化論―

  • 作者: 樋口桂子
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


著者のリズム感の悪さを寿ぎたくなる本

L. クラーゲス著『リズムの本質』という本がある。そこでは拍子とリズムの違いが論じられ、リズムが生命を高揚させ充実感をあたえるものとなることが示される。また別な本だが、古来宗教的なトランス(催眠)状態にはいるのにリズム楽器(特に太鼓)が利用されてきたことなども関係して学んだ。リズムはわれわれの生活とたいへん密着してあるのだが(そして重要なのだが)、意識されていない。そういう読書経験から、面白そうな本が出てきたぞと本書を手にした。

実際、たいへん面白い内容だ。著者の経験が裏打ちされている。ただの論考ではない。「まえがき」ではイタリア人と日本人の「相槌とうなづき方が全く逆」であることが示され、「あとがき」ではチェロの「地獄のレッスン」の話がでる。事実が述べられるだけでなく、自・他を体験観察した得がたい経験として了解できる。

著者は告白する。「私はリズム感が悪い」、そして、「それだからこそこの書を書こうと思い立った」と書く。おかげで読者は、日本文化に流れるリズムを意識化する助けを得られる。論議は、他の文化との比較のうちに進められる。話題は、言語、身体運動、音楽・絵画等の芸術活動など多岐にわたる。これでもかと披瀝される話からリズムのいろいろなあり様を知ることができる。

著者はいう。「リズムは常にかたちになることを希求し、外へと出たがっている。リズム感は日常生活の中での人の動作や仕草を律しているだけでなく、表現の方向を司って、時間的な動きの中で表現される音楽、舞踊や韻律のある詩歌だけでなく、絵画や彫刻、デザイン、装飾や建築などの造形表現の中に表れて出てくる。こうした表現全体の中にあるリズム感を、とりわけ日本人の感性の中に見てゆこうとしたのが本書である」。

「外へ出たがっているリズム」を意識化し、それに上手に乗っていくなら生活を(ひいては人生)を高揚充実させることができるにちがいない。著者のリズム感の悪さを寿ぎたくなる本である。

2018年3月20日にレビュー

リズムの本質 新装版

リズムの本質 新装版

  • 作者: ルートヴィヒ・クラーゲス
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: 単行本



ドラミング―リズムで癒す心とからだ

ドラミング―リズムで癒す心とからだ

  • 作者: ロバート・ローレンス フリードマン
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2003/03/01
  • メディア: 単行本



アフリカ音楽の正体

アフリカ音楽の正体

  • 作者: 塚田 健一
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2016/05/16
  • メディア: 単行本



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