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『面白くて眠れなくなる宗教学』 中村 圭志著 PHP研究所 [宗教]


面白くて眠れなくなる宗教学

面白くて眠れなくなる宗教学

  • 作者: 中村 圭志
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2018/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「人生と社会に対するマクロな展望を身に着けるトレーニング」ができる

眠れなくなるほどではないが、面白い。なによりも平易で取っつきやすい。宗教学にはじめて接する方でも(ある程度の年齢以上であれば)予備知識なしに読み進めることができるにちがいない。宗教学とはいかなる学問か、世界の主要な宗教の概説、宗教学関連用語の説明が親切な仕方でなされていく。読み進めていくうちに、自分は宗教とは無縁であると考えている方ほど、実際のところ巻き込まれていることを知ることができるだろう。無自覚であっただけであるということに気づくにちがいない。

「はじめに」から引用してみる。「宗教学は信仰の世界に入り、奥義を究めるための学問ではありません。むしろさまざまな宗教の教えや習慣を比較や批判の視点をもって分析する学問です。 / 宗教学は宗教に関する人文・社会学系の学問を横断する学際的な性格の学問ですから、方法論的には、社会学あり心理学ありと、多様であり、歴史学や哲学にも広がっています。宗教学にはマクロからミクロまで、非常に幅広いデータや思考が濃縮されているのです。 / 宗教学の扉を開き、この多様性と出会うことは、あなたの世界観に深い影響を与えるはずです。 / 個人的な信仰とは別の次元において、宗教は文化として社会的な制度としてさまざまな働きをしている・・・・。種々の難問が山積する21世紀の世界において、宗教学の知見は大いに役立つでしょう。」p5,6

宗教について考えるにあたって著者は次のように述べる。「これはあくまでも便宜的な指標にすぎませんが、宗教について考えるにあたっては、個人的信仰のレベル、組織や教団のレベル、文化的な語彙と習慣のレベルを分けて考えることが大事なのではないでしょうか。 / 『宗教を信じません』と言う人が、傍目にはその社会の宗教的通念の影響を受けて行動しているように思われることは珍しくないからです。」p71

「宗教家ばかりが何かを信じているわけではなく、人間はすべからく何かを信じています。 / 自分と宗教とは無縁だと思っている人のほうが、自分が無意識に受け入れている根拠なき信念について無知なままにとどまり、宗教を通じて信念の問題と取り組んでいる人のほうが、『自分の信じていることは正しいのでしょうか』と絶えず神仏と対話することによって、信念の相対性を自覚し続ける、ということすらあるのです。」p205

1958年生まれの著者は過去を振り返る。「団塊の世代」が中心となって為された文明批判に彩られた精神の覚醒をめざすサブカルチャーの実践、地下鉄サリン事件など一連のオウム真理教事件、それによる日本人の「宗教」へのアレルギー反応、冷戦終結による政治環境の変化によるイスラム教の復興、キリスト教保守主義の活発化、国際主義よりも各国家の防衛意識の高まり、左派が後退して右傾化の進展、20世紀末頃から資本主義の先鋭化、格差や社会の分断の促進、インターネットやAIなど新しいテクノロジーによる新たな難問、、地球温暖化という『不都合な真実』が全人類的テーマとして急浮上・・・

著者は「60・70年代と世紀の変わり目頃に宗教や政治の『流行』が大きく変化する様子を眺めてきた」。そして、いう。「私自身は、こうした難問を客観的に見据えるためにも、時代の流行的思潮に埋没したくないと考えています。そして私にとって(反面教師的な形のものも含めて)知的バランスの取り方を教えてくれたのが、諸宗教の伝統に対する知識でした。宗教学を通じて、私は人生と社会に対するマクロな展望を身に着けるトレーニングをしてきたようなものなのです。」p240

同様の基礎的トレーニングを本書をとおして受けることができるのは嬉しいことだ。

2018年3月21日に日本でレビュー



教養としての宗教入門 - 基礎から学べる信仰と文化 (中公新書)

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  • 作者: 中村 圭志
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/11/21
  • メディア: 新書



コーランには本当は何が書かれていたか?

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  • 作者: カーラ パワー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
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  • メディア: 単行本



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