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『雄弁の道――アリー説教集』 アリー・イブン・アビー・ターリブ 書肆心水 [宗教]


雄弁の道――アリー説教集

雄弁の道――アリー説教集

  • 作者: アリー・イブン・アビー・ターリブ
  • 出版社/メーカー: 書肆心水
  • 発売日: 2017/12/30
  • メディア: 単行本


結び付きを考えるのが、本書の読み方なのかもしれない

『雄弁の道』というのでイスラム世界における修辞学の本であるかの印象をもった。しかし、そうではなかった。「訳者序文」は次のように始まる。「イスラームという教えの理解の要とされている本書は、ムスリムの基礎的教養の最良の礎とされており、本書の日本語訳の刊行は、イスラームという教えの正確な理解のための金字塔となるであろうことは疑いがない」。

「訳者序文」にはこのあと、正統4代カリフである作者アリーの説教、書簡、祈祷文からなるのが、本書であると説明され、その後、アリーの経歴が示されたのち、「カリフ(代理者、代理人を意味する)と呼ばれる存在には二種類があ」ること、一つは「神の直接の代理人である一人一人の人間個人」であり、もう一つは「神の預言者ムハンマドの代理人」として「信者たちの長に当たり、信者たちを統べる役割を果たす」者であるという。そしてその関係において「各信者の存在の方が、彼等の長よりも一段と重みを持つこと(優位であること)・・が極めて重要」と強調される。そして、「このようなウンマを構成する個々の人間の優位性が獲得されるためには、独自の世界観、思想的条件が不可欠である。この問題、つまりイスラームの基本的な政治体制について明快な解説を行っているのが、アリーの説教集『雄弁の道』が説いている政体論である」と続く。さらには、資本主義が地に堕ちたことを指摘し、「参加者すべての公正を保障する仕組みを持ち合わせない社会が、成功するためしなどありえない」とあって、「アリーの『雄弁の道」には、上述のような欠点とは無縁なイスラームの民主主義に関する重要な指摘がある。」と続く。つまり、イスラムの民主主義の特殊性(卓越性)が示される。

総合して『雄弁の道』に収められている160の個々の説教から把握できる・すべき考え(「ムスリムの基礎的教養」)とは、イスラムの民主主義、その政体の卓越性とそのあり方、また、そうあるための個々人の責任を指し示すものであるらしい。個々の160ある説教はすべてがそこに収束していくものと考えていいのだろう。

しかし、取りあげられている160の説教を見ても、よく分からない。いろいろな話をただ寄せ集めたもののように見える。本来、それぞれが独立した詩篇のようなものであったのであろう。イスラムの基礎的教養に欠ける評者としては、各説教がイスラム政体論とどう関わってくるのか、その説明を各説教ごとに脚注表示して欲しいところである。もっとも、そこの結び付きを考えるのが、本書のしかるべき読み方なのかもしれない。「ムスリムの基礎的教養」の土台のない者が、本書を読んで「金字塔」と感じるまでには、だいぶ時間がかかりそうである。

2018年3月20日にレビュー

イスラーム基礎講座

イスラーム基礎講座

  • 作者: 渥美 堅持
  • 出版社/メーカー: 東京堂出版
  • 発売日: 2015/07/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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