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『人と数学のあいだ』加藤文元x竹内薫x岩井圭也x上野雄文ⅹ川上量生 [数学]


人と数学のあいだ

人と数学のあいだ

  • 出版社/メーカー: トランスビュー
  • 発売日: 2021/12/06
  • メディア: 単行本


刺激があっておもしろい数学異分野対談

加藤文元東工大理学院数学系教授と他の4氏それぞれとの対談をまとめた本。4氏とは東大理学部・マギル大大学院で物理を専攻し「広く科学のすばらしさや面白さを社会に発信するために、日ごろ活躍」している竹内薫氏。数学者を題材に小説を書いた岩井圭也氏。医学博士で数理科学のトップ教育を目指すNPO「数理の翼」理事長上野雄文氏。KADOKAWA取締役ドワンゴ顧問で学校法人角川ドワンゴ学園理事川上量生氏。要するに、数学を愛する諸氏との異分野対談集ということになるのだろう。

話題は、プログラミングとアルゴリズム、ルービックキューブと群論、「ABC予想」を証明した望月新一教授のミーハー気質、離散数学のキス数問題と超弦理論との関係、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生の研究室の本棚と数学書、グロタンディークと圏やトポスという概念、ロジャー・ペンローズの宇宙論 / 数学者(ペレルマン、ラマヌジャン、ガロア)と孤独、谷山豊ら「新数学者集団(S.S.S.)」や「ブルバキ(Bourbaki)」による共同研究、ブルバキのメンバー、アンドレ・ヴェイユのいう「共鳴箱の理論」、「背理法」の流れと文学・音楽性、リーマンの離れ業 / 数学脳はあるか、ガロアの死亡診断書・脳所見、前頭葉と頭頂葉の発達、アインシュタインの脳のグリア細胞、「ブーバ・キキ効果」、数学における「正しさ」、体性感覚と抽象的思考、「ミラーニューロン」/ 一般人向け数学娯楽雑誌『数学セミナー』、現代数学は仕事や人生に役立つか、仕事のモチベーションを微分で管理、プログラムや法律条文の複雑度を「幾何学的」思考で測る、現代数学の可能性・・。

むずかしいところも多々あるが、たのしく読むことができる。個人的には、抽象的なものをビジュアライズし空間的に把握する能力の大切さについて学ぶことができた。刺激のあるおもしろい本である。

2022年3月2日にレビュー

数学する精神 増補版-正しさの創造、美しさの発見 (中公新書)

数学する精神 増補版-正しさの創造、美しさの発見 (中公新書)

  • 作者: 加藤 文元
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/06/22
  • メディア: 新書



数学の想像力: 正しさの深層に何があるのか (筑摩選書)

数学の想像力: 正しさの深層に何があるのか (筑摩選書)

  • 作者: 加藤 文元
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/06/12
  • メディア: 単行本


数学の概念は抽象的で、それこそ加藤さんのような数学者の方だと頭の中ですべて浮かんでしまうのかもしれないですが、僕は残念ながらそうではありません。だから、コンピュータの持つ強力なグラフィック化の力を借りて、数学世界をビジュアライズする、つまり誰の目にも見えるようにすることができるのは、とても助かります。032 

前にも言いましたが、僕は数学が好きだけれども、頭の中だけで抽象的なものをイメージするのは得意ではないので、こうやってコンピュータ・グラフィックスの力を借りて可視化するのが楽しいんです。やっぱり、頭の中だけでできるのは、すごいなと・・・。060

超ひも理論とはなにか―究極の理論が描く物質・重力・宇宙 (ブルーバックス)

超ひも理論とはなにか―究極の理論が描く物質・重力・宇宙 (ブルーバックス)

  • 作者: 竹内 薫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/05/21
  • メディア: 新書



数学の論文を読んで感動するのは滅多にありません。それでも、稀に本当に感動してしまう数学の論文というものがあります。/ 私にとっては、それは例えばベルンハルト・リーマンです。39歳という若さで亡くなりましたが、彼の論文を読むとものすごく壮大なことを頭の中に描いていたんだなということが伝わってくる。/ 彼は代数関数の積分という、そのままではどうしようもなく複雑な式でしか表現できなかったことを、面という図形によるビジュアルでいっぺんに表現してみせる離れ技をした人ですが、その発想のダイナミックさにはただただ感服させられます。そしてその現代数学への影響は甚大です。私には分からないけれど、ずっと先まで見ていたんだということで感動するのだと思います。112

永遠についての証明 (角川文庫)

永遠についての証明 (角川文庫)

  • 作者: 岩井 圭也
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
  • メディア: Kindle版


数学の問題を考えていて、「分かった」となった時の感覚は、「見えた」というのと非常に近いものがあるんです。もちろん、高度に抽象的になれば具体的な絵ではないのですが、本当に視覚的なものだと言える。やはり、数学の能力というのは、論理だけでなく体性感覚や視覚と渾然一体なものではないかという気がします。133

上野:ただし、リーマンのような天才は、普通の人が一つの方向に進もうとするのに対して、逆の方向から見たほうがいいということに気づくことができるわけです。例えば、ガウスなどに始まり複雑化されてきた代数函数論を「面」という概念で捉え返すというようなことは、リーマンのすごさです。/ ただ、それらもやはり経験に裏打ちされた知識の立脚点があって、そこから逆の見方や発想が生まれたということではないでしょうか。143

上野:つまり、このことは視覚や聴覚から得た情報を、脳はなんらかの形で統合しているということの証明でもあります。ケーラーたちは、人間の言語というものも、このミラーニューロンから生まれてくるものではないかと言っています。体性感覚野や視覚野が頭頂葉で統合されて、それらがさらに前頭葉で抽象的な概念となっているだろうというわけです。/ 頭頂葉と前頭葉というのは、この対談の最初で見たように、ガロアの脳において発達していたと思われる二つの部分に相当するわけで、このことは非常に興味深いと思います。158

こうした現代数学の性質は、物事を概念的・定性的・大域的に処理できる人間の脳における思考のパターンをある意味、素直に表現したものになっているのではないでしょうか。
川上:局所的と大域的というのは耳慣れない言葉ですね。
加藤:それについては、もう少し詳しくお話したいと思います。例えば、絵画や彫刻などの美術作品を見る時に、絵画のタッチや彫刻面の質感がすべすべしている、あるいはざらざらしているというように細かな点を集中的に見るという方法があります。一方で、少し遠ざかって全体像を眺めるというように、形態そのものを直感的に捉えるという見方もありますよね。数学もそれと同じで、ミクロに見るのが局所的、マクロに見るのが大域的ということです。/ もちろん、作品の見方としてはどちらも必要ですが、やはり重要になってくるのは全体としてその作品を理解するということでしょうし、より物事の理解を早めることにつながるのではないかと思います。そして、数学においても同じような動機があったのだと考えているのです。/ この大域化ということをより具体的に言うと、「空間化」ということなんです。先ほど川上さんがおっしゃっていた、物事を図形化して考えたり、フローチャートの循環的複雑度を求めたりするというのはまさに大域化をしていることなんだと感じました。そういう意味では、私が普段から数学に対して考えていることと非常に似ていると言うことができます。
川上:数学における空間というのは特殊ですよね。一般人の価値観だと、空間のイメージというのは3次元かせいぜい相対性理論を加味した4次元まででしょう。数学では、それを超えてとんでもない次元数まで考える。
加藤:そうですね。一つひとつの物事について考えるのではなく、それらを「空間」というフレームに当てはめて考えることで、「もの」と「もの」との関係性について大域的に把握していくということです。そして現代の数学は単に次元が上がるだけでなく、固定された空間の中で考えることを超えて、空間そのものを対象として考えるようになってきます。/ それはすなわち抽象化するということなんですけれど、やはり我々が大域的な「構造」を理解するには「見る」ことが必要になってきます。そして、見るためには「空間化」が必要になってきます。189-190


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