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『ショアの100語』文庫クセジュ 白水社 [世界史]


ショアの100語 (文庫クセジュ)

ショアの100語 (文庫クセジュ)

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2022/01/13
  • メディア: 新書


ナチズム関連のコンパクトで貴重な情報源・・

書籍タイトルの「ショア」の意味も知らずに入手した。

「ショア」は、本書の中で立項されていて、そこには次のように記されている。

古代ヘブライ語「ショア」shoahには多くの意味がある。破滅、荒廃、破壊、雷雨、嵐、災害、騒動などである。フルブンやホロコーストのような語とは違って、典礼後や聖性の領域に属する語ではない。中世には、この語は、そのさまざまな意味の、一種の凝縮語である災害と同義語となった。19世紀末、語彙学者エリエゼル・ベン・イエフダ〔1858-1922、リトアニア生まれのユダヤ系ロシア人〕の指導下でヘブライ語が近代化されると、「ショア」はイシューブYishouv〔イスラエル国家建設前のパレスチナに住むユダヤ人共同体〕という、パレスチナにおけるユダヤの原始国家の言語の日常的語彙の一部になった。1930年代には、この語の意味が変化する。・・後略・・

とあるように、言語の歴史的変遷など記されていくのだが、要領を得ない。どうも「アングロ・サクソン世界のホロコースト」と同義にちかいものらしいということは分かる。

翻訳が字義訳にちかいのだろう。こなれた日本語になっていない。フランス語原書を(ある程度解する力があるのであれば)本書と並べて読むと少しは理解しやすいように思う。背景的な出来事など多々記されているが、脚注等用意されていないので、よほどナチズム関連に関心があって、(裏表紙に示されているように)「決まって議論になる」という「言葉の使用の適切さに関して」その正しい理解を得たいと切望する方でもなければ、読み進めるのは(少々大袈裟だが)苦行になるように思う。

とはいえ、歴史的背景や当時の入り組んだ人種問題など知るうえで、たいへん参考になる。一例をあげれば、「ジプシー」の項目に次のようにある。〈ジプシーに対するナチ・イデオロギーは複雑である。ナチは彼らを「アーリア人」と見なすが、また同時に、彼らには泥棒、乞食、詐欺師となるような人種的特性があるとしている。その矛盾に応えるため、ナチズムは大部分のジプシーが人種的混淆によって「アーリア性」を喪失し、人種として堕落していると理論化し、ごく少数者だけがその純粋さを保っているとする。この論拠に基づいて、帝国の擁するジプシー35000人のうち、3万人以上がユダヤ人用に開設されたゲットーか、アウシュビッツ収容所に強制収容され、後者では、ビルケナウのジプシー収容所に集められた。彼らに課された状況は恐るべきもので、大量死を招いた。後略〉

「翻訳者あとがき」に〈本書『ショアの100語』はご覧の通り、ナチズム関連小辞典の観を呈している〉とある。辞典として活用しやすいように、見出し語にフランス語を併記し、あいうえお順で示して欲しいところである。

類書があるか不明だが、無いのであれば、コンパクトな辞典で貴重な情報源ということになる。

2022年3月2日にレビュー

ナチズムの時代 (世界史リブレット)

ナチズムの時代 (世界史リブレット)

  • 作者: 山本 秀行
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 1998/12/01
  • メディア: 単行本



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