SSブログ

『モチベーションの心理学―「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛 雅治著 [心理学]


モチべーションの心理学-「やる気」と「意欲」のメカニズム (中公新書 2680)

モチべーションの心理学-「やる気」と「意欲」のメカニズム (中公新書 2680)

  • 作者: 鹿毛 雅治
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/01/19
  • メディア: 新書


即効性はありません

「やる気」と「意欲」のメカニズムを知ることのできる本である。では、「やる気」を高め、意欲を奮い起こすのに役立つかというと、役立つには役立つが迂遠である。即効性はない。そもそもノウハウを示すビジネス書ではない。

メカニズムを知ることができるが、そのメカニズムが一筋縄ではない。複雑である。それゆえに、だれにでも即効で使えるノウハウなどないことを知ることができる。その代わりに、ひとりひとり個別に慎重に対応すべきことを学べる。安易な解決策などないことを知ることができるのが、本書の一番の効能に思う。

出版社情報には次のようにある。〈「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」。人間の場合はなおさらでやる気がない人にいくら無理強いしても無駄である。そもそも、やる気はどう生まれるのか。報酬を与えるのか、口で褒めるのか、それとも罰をちらつかせるのか。自分の経験と素朴な理論で対処しても、うまくいくとは限らない。本書は、目標説、自信説、成長説、環境説など、心理学の知見からモチベーションの理論を総ざらいする。〉

「モチベーション理論の総ざらい」とある。それぞれの「説」を考慮するにあたっては、腰を据えて取り組む必要がある。とはいえ、論議は難解ではない。身近なたとえや事例、著名な本が引き合いに出される。著者の人柄が想起される。

〈本書はモチベーション研究の入門書である。その目的は、モチベーションに関する代表的な心理学理論を整理して紹介することを通じて、やる気や意欲という身近な心理現象に関する理解を深めてもらうことにある〉と序文「はじめに」記されている。その執筆目的は十分に果たされているように思う。

目次
はじめに やる気と意欲を問う
第1章 モチベーションとは何か
第2章 モチベーション理論の展開
第3章 達成と価値―目標説
第4章 成功と自尊心―自信説
第5章 学びと発達―成長説
第6章 習慣と態度―非意識説
第7章 場とシステム―環境説
終章 「モチベーションの心理学」に学ぶ

2022年3月1日にレビュー

【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践 (Harvard Business Review Anthology)

【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践 (Harvard Business Review Anthology)

  • 作者: DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2009/10/09
  • メディア: 単行本


以下『はじめに やる気と意欲を問う』からの抜粋

*********

「部屋の掃除をついつい先延ばしにしてしまう」「毎日、コツコツと試験勉強ができない」「ダイエットの挑戦が三日坊主で続かない」などなど、「やる気」は悩ましい問題である。このように「やらなきゃ」と思ってもやる気が出ずに、結局やれなかったという苦い経験は、誰にでもあるのではなかろうか。

一般に、やる気は、特定の行動を引き起こす”原動力”として理解されている。とりわけ、「やる気があれば頑張れる」というように、われわれはやる気を 努力 と結びつけて理解している。やる気は努力を促して行動を引き起こすと考えているわけだ。

やる気に似た言葉として「意欲」がある。やる気と同様、自分の心理状態(「今日は意欲的だ」)や他者の様子(「あいつにはまったく意欲が感じられない」)に対して用いられる日常語である。

以上のように考えると、やる気と意欲の微妙な違いがわかってくる。やる気が短期的で不安定な状態を指すのに対し、意欲には意志のはたらきが加わるため、「粘り強い」(持続性)、「確実に行為が起こる」(確実性)、「いつでも発揮される」(安定性)といった意味が含まれるのである。

「やる気」とは何か」「意欲とは何か」という原理的な問いよりも、むしろ世の関心を集めているのは「やる気」であれ、「意欲」であれ、「それらの高め方」というトピックであろう。

やる気と意欲は“日常語”である。

本書では、やる気と意欲を心理学の観点から理解するために、モチベーション(motivation)という“学術用語”を取り上げることにする。

モチベーションの語源は、「動かす」という意味のラテン語movere だという。簡潔にいうなら、人や動物の「動き」を理解することがモチベーション研究の目的であり、その「動き」の説明がモチベーション理論なのである。

留意したいのは、やる気や意欲のイメージとは程遠い、心拍、体温の調整といった自律神経による生理的な「動き」や、表情、ジェスチャーといった意識を媒介しない「動き」もモチベーションの研究領域に含まれているという点である。

また、当人や社会にとって望ましくないとされる行動(依存症、凶悪犯罪など)もモチベーション研究の範疇である。たとえば、そこには虐待というテーマも含まれるのだが、「虐待のモチベーション」という表現が成立する一方で、「虐待するやる気」とか、「虐待の意欲」とはまずいわないだろう。

つまり、やる気や意欲といった言葉は、社会的に望ましく、どちらかというとポジティブな意味あいを持つ行動に対して用いられるのに対し、モチベーションという用語は、「動き」全般を対象とし、価値中立的に、つまり「良い」「悪い」といった判断をまずは棚上げにして用いられる学術用語なのである。

さらに、一口に「動き」といっても、目で確認できる身体的な活動ばかりではない。「心の動き」といった言い回しがあるように、外からの観察が困難であっても、気づく、感じる、考えるといった個人内で生じる「動き」もある。つまり、われわれの行動には観察可能な外的活動と、観察不可能な内的活動があるのである。

このように、モチベーションとは「動き」を説明するために心理学によって“発明”された概念である。そしてモチベーション研究とは、「動く」という心理現象(外的および内的活動)を解明する研究群の総称なのだ。

本書は、モチベーション研究の入門書である。その目的は、モチベーションに関する代表的な心理学理論を整理して紹介することを通じて、やる気や意欲という身近な心理現象に関する理解を深めてもらうことにある。

本書を通じて、やる気や意欲という概念について「わかり直し」をしていただければ幸いである。また、その結果として、読者の生活に向けるまなざしや、人生に対する展望に少しでも変化が生じるのであれば、それはまさに心理学理論の効用であり、本書のねらいもそこにある。

***********

出版社内容情報
「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」。人間の場合はなおさらでやる気がない人にいくら無理強いしても無駄である。そもそも、やる気はどう生まれるのか。報酬を与えるのか、口で褒めるのか、それとも罰をちらつかせるのか。自分の経験と素朴な理論で対処しても、うまくいくとは限らない。本書は、目標説、自信説、成長説、環境説など、心理学の知見からモチベーションの理論を総ざらいする。

内容説明
「やる気が出ない…」。職場で、学校で、家庭で、悩んでいる人は多い。自分だけでなく、他者のやる気も気がかりである。口でほめるのか、報酬を与えるのか、罰をちらつかせるのか。自らの経験と素朴な理論に基づいて対処しても、なかなかうまくいかない。そもそもモチベーションはどのように生じ、何に影響を受け、変化していくのか。目標説、自信説、成長説、環境説など、モチベーション心理学の代表的な理論を整理、紹介する。
nice!(1) 
共通テーマ:

nice! 1