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『世界を一枚の紙の上に 歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生』 大田 暁雄著 [教育・学び]


世界を一枚の紙の上に 歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生

世界を一枚の紙の上に 歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生

  • 作者: 大田 暁雄
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2021/12/17
  • メディア: 単行本


偉大な先達たちの精神に触れることができて仕合せ

自分の住む世界を認知し把握して掌中の珠のごとくにし、必要に応じてホイとばかりに提示できたならいいであろうと本書を手にした。そのような認識のヒントが、また提示する知恵や指針が『世界を一枚の紙の上に』とタイトルされた本書から得られるように思ったのである。

「一枚の紙の上に」描かれているのは、多くの情報を盛り込んだ地図である。単なる所在を示す地図ではない。その情報は観察や計測によって得られた科学的知識であったり、調査によって得られた統計であったりする。それを示すにあたって、多くの先達が、直観的に理解把握できるよう種々の工夫(それはグラデーションなどの絵画的表現であったり、統計グラフ等の視覚的表現や幾何学的表現であったりする)をこらしてきた。本書は、その歴史といっていい。

表紙にしめされているのは、海流にも名を残すアレクサンダー・フォン・フンボルトの「赤道直下地域の植物地理学:アンデスと周辺地域の自然画(タブロー・フィジック)」。著者は第1章を「自然世界のミニアチュール 垂直植生分布図と生態系の目覚め」と題して、その情報盛りだくさんの自然世界のミニアチュールである「自然画」から説き起こす。

著者「まえがき」には〈「世界を描く」。この本は、そんな不可能ともいえる課題に挑戦した西欧近代人の、思考の軌跡を追ったものである。より正確にいえば、19世紀初頭の探検科学者アレクサンダー・フォン・フンボルトから、戦間期・第二次世界大戦中に活動した社会活動家オットー・ノイラートに至るまでの、およそ150年間に及ぶ科学的グラフィズムを辿ることが本書のテーマである〉と、ある。

また、執筆にあたっての努力目標については次のように記されている。〈これはデザインの文献一般についてもいえることだが、図があくまでも結果(つまり見た目)としてしか提示されず、それが描かれた経緯や、背後にある問題意識に言及されていないことが多い。こうした事態を解消するため、本書では図に一体何が描かれていて、どのような意図のもとにそれを視覚化しようとしたのかを可能な限り辿り、図を思考のプロセスの一環として捉えるように努めた〉と、ある。

じっさいのところ図に示された工夫内容もさることながら、その工夫にいたる「思考の軌跡」「問題意識」も深堀りされている。先達が「1枚の紙の上に」世界を収めようとするに際しての視覚化の意図が説明される。たとえばフンボルトの「自然画」については次のようにある。〈徹底的に経験に基づいて世界を観察しつつも、最終的には人々の自然への感受性を喚起して、合理主義以来分離された心身の結合へと至らなければならない。フンボルト科学の画期的な点は、近代科学とロマン主義的な芸術の融合にあった(p021)〉。

さらに、こういう記述もある。〈ノイラートの博物館構想の背後には、社会民主主義の思想と論理実証主義的な方法論、それに生活世界を背景とした実際主義の徹底があった。彼はのちに教育を「人間化=ヒューマニゼーション」のプロセスであると述べている。人間化とは、人々が自ら思考することで、生活環境・生活様式を自主的に選択し行動できるようになることとされる。それに対して「大衆化=ポピュラリゼーション」とは、専門家によって上から教育を施すことだとされる。われわれは「大衆化」ではなく「人間化」によって、貧困、労働環境、住宅問題、ひいては戦争を解決しなければならない。「人間対人間の争い」よりも「共通の危機に対する共闘」の方へーーそのためには「視覚教育」が大いに役に立つとノイラートは考えたのである。/ / 彼のいう「視覚教育」とは、よく規則化された絵ことばを用いた視覚資料によって、直感的に理解可能なやり方で教育を施すことである。映画や広告などに見られる近代的な視覚化技術を教育に転用すれば、文字や数字による教育では興味をもちづらい子どもたちや、一般の人々の興味を引きつけ、劣等感を感じることなしに思考する機会を与えられるーーそれがアイソタイプの狙いであり、やがては「人間化」を達成する手段となりうるのである。「よく開発された視覚言語は、共同の文化的生活、共同の文化的な関係性の基盤となる」(p220)〉。

全体を一度通読したまでであるが、偉大な先達たちの精神に触れることができて仕合せな気分である。

2022年2月26日にレビュー

“忘れられた科学の巨人”フンボルトの本当のすごさ
『フンボルトの冒険』
東嶋和子 (科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/10403


フンボルトの冒険 自然という<生命の網>の発明

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  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2017/02/27
  • メディア: Kindle版



インフォグラフィックスの潮流:情報と図解の近代史

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  • 作者: 永原 康史
  • 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: Kindle版



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