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〈学問の発見  数学者が語る「考えること・学ぶこと〉 広中 平祐著 (講談社ブルーバックス) [数学]


学問の発見 数学者が語る「考えること・学ぶこと」 (ブルーバックス)

学問の発見 数学者が語る「考えること・学ぶこと」 (ブルーバックス)

  • 作者: 広中 平祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/18
  • メディア: 新書


岡潔にはなれそうにもないが、広中平祐にはなれそうだ

数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞した著者の学びの経験、数学の道に進んだ経緯が幼少時から語られていく。両親との関係、中学・高校時代、京大・ハーバード大時代の恩師・学友との関係、そこでの切磋琢磨が記される。そうした経験をとおして学んだ「考えること・学ぶこと」の意義が披歴される。

本書を読んでの率直な感想は、「岡潔にはなれそうにもないが、広中平祐にはなれそうだ・・」と、いうもの。業績において同様の結果を出せるということでは、もちろんなく、その学ぶ姿勢・態度において・・ということだ。「運・鈍・根」の石の上にも8年の歳月をかけて「特異点の解消」問題を解決した著者の、その姿勢には、見習えなくもないというところからきた感想だ。その点で、なによりも、著者自身が自分は天才ではない、凡庸であると記していることは、凡庸な読者にとっては、たいへんありがたい。

評者ははじめて著者の本を読んだ。本書は1982年に刊行された本の復刊(写真一部変更)であるという。刊行からすでに40年ちかく経過している。刊行当時に読んでおきたかったと、いま思っている。まもなく90歳になんなんとする著者の経験には、戦後の窮乏生活も含まれる。話題はたしかに古いが、窮乏・逆境をものともせず学ぶことを喜びとしてきた著者から学ぶことは多い。

2018年9月5日にレビュー

やわらかな心をもつ―ぼくたちふたりの運・鈍・根 新潮文庫

やわらかな心をもつ―ぼくたちふたりの運・鈍・根 新潮文庫

  • 作者: 小澤 征爾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/10/29
  • メディア: 文庫



岡潔 数学を志す人に (STANDARD BOOKS)

岡潔 数学を志す人に (STANDARD BOOKS)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2015/12/14
  • メディア: 単行本


(著者が)2年間も費やして取り組んだ数学の理論が、若い学者によって(「ワイヤストラスの定理」を用いて)解かれたことの事実は、大きなショックであったが、しばらくして、私はそのショックから立ち直ることができた。なぜか。「およばぬこと」とあきらめ、「ぼく、アホやし」と、居直ったからである。また、そういう風に頭を切り替え、前向きに思惟をめぐらしていかなければ、次の新しい問題に取りかかれないし、ひいては新たな創造に旅立てないのである。数学という学問はそういうものである。 / ところで、私はこの時の大失敗で、ものを創造していく上で、おそらく最も大切であると思われることを学んだ。p114
中略
にもかかわらず、今度はどうしてこの定理(「ワイヤストラスの定理」)を用いればいいことに気づかなかったのか。 / 思いあたることがあった。きっかけは、ハーバード大学のセミナーで研究発表をした時、マサチューセッツ工科大学の教授から、「美しい(ビューティフル)!」と賞賛されたことである。これに気をよくした私は、以後、自分の方法に固執するようになったのである。そして、固執は偏見を呼び、その偏見にまた固執して、そういう悪循環をくり返すうちに、ついには、物事を新しい角度から観る態度が妨げられて、つい自分の偏見で一方的に観てしまい、「この方法で解けなければ、現代数学で解けるはずがない」という、巨大な偏見が私の中に形成されていったのだ。p115
中略
素朴な心、「素心」を失わないこと。創造の方法の基盤となるのはそれではないか、そう思いついた時、はや黄昏せまっていた大樹の下で、私はいくらか元気を取り戻したのである。p116 (cf、p147)

低次元の幾何からポアンカレ予想へ ~世紀の難問が解決されるまで~ (数学への招待)

低次元の幾何からポアンカレ予想へ ~世紀の難問が解決されるまで~ (数学への招待)

  • 作者: 市原 一裕
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2018/01/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



完全なる証明―100万ドルを拒否した天才数学者 (文春文庫)

完全なる証明―100万ドルを拒否した天才数学者 (文春文庫)

  • 作者: マーシャ ガッセン
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/04/10
  • メディア: 文庫



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