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『ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? 』吉田 信夫著  技術評論社 [数学]


ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? ~数学から物理へ 名著「新科学対話」からの出題~ (知りたい! サイエンス)

ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? ~数学から物理へ 名著「新科学対話」からの出題~ (知りたい! サイエンス)

  • 作者: 吉田 信夫
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2016/10/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


少ない道具を使いこなして高度な結果を導くことができる人こそ、真に「すごい人」と言えるのではないか

ガリレオの著作『新科学対話』を、わかりやすくひも解きながら、「既存の概念にとらわれず、最新の科学的手法・実験結果を用いて、数学的論証を重ねることで、知の世界を切り開いていったガリレオ」を広くしってもらうことが本書の目的。

『新科学対話』には、3人の人物(ヴェネチア市民のサグレド、ガリレオをあらわす新しい科学者サルヴィヤチ、アリストテレス哲学に通じた学者シムプリチオ)が登場する。「対話相手に古い理論を語らせて、それを否定して、新しい理論の正当性を実験と数学的手法によって証明していく」。物理的内容が多く扱われているが、実際には数学の本だと言えるくらいのもの。物理を生み出した人というイメージの強いガリレオだが、数学にも長けていたことがよく分かる。

古代の科学を盲信し続けていた時代の中、観察と数学によって真の科学を切り開いたガリレオ・ガリレイ。現代の視点から見ると議論が不十分であったり、結論が間違っていたりすることもあるが、そんなことで彼の偉業が色あせるものではない。

当時は、微分積分などの高度な数学が発展していないため、論証は幾何的に行われている。ユークリッドの原論とあまり変わらない論法だ。時間を表す長さを設定して議論したり、高度な算数のようなやり口である。しかし、少ない道具を使いこなして高度な結果を導くことができる人こそ、真に「すごい人」と言えるのではないか。

本書では、数学と物理に関連して、ガリレオの手法、現代の手法を両方取り入れながら、ガリレオの解いた問題を考えていく。

以上は、「まえがき」と「あとがき」から、本書の内容をおおまかにまとめたもの。評者の印象としては、高校生レベルの数学と物理の問題がたいへん丁寧に解説されているように思う。紙面レイアウトも見やすい。

2016年12月25日にレビュー


“数学ができる

“数学ができる"人の思考法~数学体幹トレーニング60問~ (数学への招待)

  • 作者: 吉田 信夫
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? ~数学から物理へ 名著「新科学対話」からの出題~ (知りたい! サイエンス)

ガリレオ・ガリレイは数学でもすごかった!? ~数学から物理へ 名著「新科学対話」からの出題~ (知りたい! サイエンス)

  • 作者: 吉田 信夫
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2016/10/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



以下、上記書籍からの抜粋。(「です、ます」の文を改変してある)。

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(ユークリッドの「原論」については、拙著「ユークリッドの原論を読み解く」で解説)。

「原論」における論証方法は、現在と大きく異なる。代数計算ではなく図形的に計算していく。だが、「こんな煩雑な計算方法で理論を作っていた古代ギリシャ人は何と偉大!」と感じることができるはず。p14

定義と公理だけから証明するガリレオのやり方 p44

ガリレオの時代には、「放物線は2次関数のグラフだ」という捉え方ではない。古代ギリシャから続く「円錐曲線」の考え方を踏襲していた。/ つまり、円錐が2つくっついた図形を平面で切って得られる曲線。その際に、平面がどれくらい傾いているかによって、切り取られる図形は変化する。円錐の1つの「母線」と平行な平面で切ると、「放物線」になる。/ ただし、当時の心情としては、これが「放物運動」と関連することが周知の事実ではないので、「パラボラ」と呼んでおくのが良いかもしれない。円錐曲線の1つである「パラボラ」が「放物運動の曲線」と一致するというのは、実はすごい事実。/ 残り2つの円錐曲線は、円がつぶれた「楕円」と、反比例のグラフの仲間である「双曲線」。これらは古代ギリシャ時代から研究されてきた対象で、ガリレオ時代にも学ばれていたもののようである。/ 私たち現代人にとっては、放物線は2次関数のグラフとして考えると分かりやすいので、その方向で説明していく。p61-2

(『新科学対話』のなかで)質問に対して答えながらも、さらに大きな問題点があることを自らさらけ出している。そして、それらを合わせてどう解決していくかを考えている。/ このような適当な仮定のもとで議論するのは、物理の基本になっている。/ 現実をある程度理想化したモデルを考えるということをちゃんと考えていたわけ。さすがはガリレオ、科学を生み出した男。p65

実際は、aの値は重力加速度g=9.8で、ガリレオ時代には未知のもの。/ このような未知の部分がいくつかある上で議論を組み立てているので、運動をキッチリ式で表すことをガリレオ時代には行えていない。2つの運動を比較して、時間や速さや到達距離などの比を求める形になっている。/ 微分積分を用いないと定式化するのはなかなか大変。/ それでも、比という形でしっかりした結果を得ているのはすごいこと。実験結果を元に理論を組み立て、その理論に従って結果を予想し、さらに、実験によってその結果が正しいことを証明するのだ。このような科学の姿勢を作りだしたのが、ガリレオの一番の功績と言えるだろう。 p70

ガリレオの考えたことがすべて正しいわけではない。大事なことは、実験結果を合理的に説明するために数学的な手法をとりながらモデルを構築していること。過去の理論を盲信している人ばかりの時代に、このような姿勢を貫き通したガリレオの偉大さは特筆に値する。p85

ガリレオの功績として有名な、落下と振り子について見てきた。実験と観察を繰り返すことで、現代物理に通じる法則を発見していた。当時の数学では完全な証明を行うことができなかった。ガリレオが微分積分を知っていたら、きっと証明していたろう。/ 実験から法則を読み取り、その正しさを検証する。まさに科学の基本だ。この基本的な姿勢を実践したのがガリレオ。以降の科学にも決定的な影響を及ぼしたと言っても良い。/ 次章も、そのことを実感できる内容。こんなことよく考えたな、と感じるものだが、それを生み出す前には、きっと数え切れないほどの実験を繰り返しているにちがいない。p98-9

現実の世界では、玉と斜面の間に摩擦があり、位置エネルギーのいくらかは熱に変換される。ゆえに、答えのvよりも少し小さくなる。摩擦によるエネルギーの損失は、斜面の材質や長さによって変わるので、速さも斜面によって変わる。/ このように、現実世界でエネルギー保存則の成立を厳密に確かめるのは至難の技。本当にエネルギー保存則が成り立つことを確認するには、地球全体のエネルギーを考えても不十分で、宇宙全体で考えねばならない。もちろん、それは不可能。ゆえに、モデルを作る。理想的なモデルを作り、現実を近似的にとらえていくのが物理。p150

(『新科学対話』の)4日間の議論をザッと追いかけた。実際のガリレオの著作では、もっと細かいことを議論しているし、もっと幾何的なものになっている。もっと生々しく議論している。もっともっと多くのテーマを話している。正直、何を言っているのか解読しにくい部分も多々ある。/ 現在、絶版になっているはずで、古書店などで探さないと本は見つからない。もしも入手できるなら、現物を読んでもらえると面白いだろう。オリジナルと本書を比較して「全然違うじゃないか!」と思われるはず。それくらい現代とは違う手法を用いている。その世界にどっぷり浸かって解説をすると、現代人にはとても読みにくくなってしまう。それゆえ、ガリレオのすごさを損なわないよう気をつけながら、現代風に説明をしてきた。p71


新科学対話 上 (岩波文庫 青 906-3)

新科学対話 上 (岩波文庫 青 906-3)

  • 作者: ガリレオ・ガリレイ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/10
  • メディア: 文庫



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