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「野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物」羽根田治著 山と渓谷社 [生物学]


新装版 野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物

新装版 野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物

  • 作者: 羽根田 治
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2014/06/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


非常に実用的です。

身近にお目にかかるアマガエル(危険度3)やムカデ(危険度3)をはじめとして、深く深く自然に入り込むと出くわしかねないナンジャコリャ!(こういう名前の生物はいません)という生物まで、索引を見るとほぼ400種ほど取り上げられています。そして、そのうち250種ほどは巻頭カラー写真でご覧になることができます。図版も多くあります。ですから、危険生物の読本であるだけでなく図鑑としても楽しめると思います。野外に出る前に読んでもいいですし、持参しても良いと思います。版型は 19x13x2(各cm単位)で、そんなに大きくありません。取り上げられている生物1種につき見開き2ページくらいで簡潔にまとめられています。

危険度の大きい季節はいつか?予防法は?実際に出くわしたらその対処法は?被害にあった場合の応急措置は?など各項目ごとに親切に書かれていますし、心肺蘇生法、止血法、嘔吐物の除去の仕方、搬送法など連続写真で説明されています。他の参考文献、関連のホームページの紹介など、至れり尽くせりです。

この本を読み、現地での情報に謙虚に耳を傾けることができれば「毒」に当てられることはまず無いように思います。(編集者へ蛇足的一言:、「野外『毒』本」と洒落ているところで、危険生物(危険度1+)として「人間」も入れてはどうでしょうか?)

2004年9月26日にレビュー


ヤマケイ文庫 野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物

ヤマケイ文庫 野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物

  • 作者: 羽根田 治
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2021/01/30
  • メディア: 文庫



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カマドウマとハリガネムシと渓流魚と腐生植物(『したたかな寄生』 成田 聡子著 から) [生物学]


したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様 (幻冬舎新書)

したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様 (幻冬舎新書)

  • 作者: 成田 聡子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/09/28
  • メディア: 新書



上記書籍(『したたかな寄生』)のなかで、とりわけ面白く感じたのは、ハリガネムシに関する記述だ。

ハリガネムシが、カマドウマに寄生して入水自殺させるのだという。

カマドウマは、別名「便所コオロギ」と言われる。バッタのように跳ねる長い足をもち、コオロギよりずっと柔らかく、ちょっとさわるとツブレル。

最近、タレントのふかわりょう氏が、コオロギはさわれても、カマドウマは・・・と、「きらクラ!」というNHK-FMの音楽番組で話していたと思う。虫の苦手な面々には、たいへん抵抗のある虫だ。

ところが、そのカマドウマが、われわれの食と深く関係していることが、『したたかな寄生』に示されている。

なんとその(実験の)結果、川の渓流魚が得る総エネルギー量の60パーセント程度が、寄生され川に飛び込んでいたカマドウマであることがわかったのです。実際にカマドウマが水に飛び込むのは1年のうちで3ヶ月ですが、その時期に渓流魚が得る総エネルギー量の9割以上がカマドウマとなります。そしてその3ヶ月間というのは渓流魚が1年のうちで一番たくさんエネルギーを得られる時期で、冬に比べると100倍にもなります。それを踏まえて計算した結果、年間の60パーセントのエネルギーがカマドウマ由来ということがわかったのです。(「ハリガネムシがつなぐ森と川」p70、71)

さわるのもたいへん抵抗のある虫が、イワナなどの餌になって、それを「美味い」などと言って食していたことになる。

もしかすると、直接たべても美味いのかもしれない。

昆虫食古今東西

昆虫食古今東西

  • 作者: 三橋 淳
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



そういえば、カマドウマについて、最近、ニュースがあった。

暗い森、ひそかな種まき=寄生植物、カマドウマと共生-神戸大
https://www.jiji.com/jc/article?k=2017112700123&g=soc

光合成をやめた寄生植物:腐生植物とカマドウマが共生関係にあることがそこには示されている。

世界はさまざまな共生関係にある。その関係は驚嘆すべきものだ。


森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界

森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界

  • 作者: 塚谷 裕一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



余談だが・・・

著者は「あとがき」で、「私たちホモサピエンスは地球のすべての大陸に生息し、・・・略・・・私たちは疑いようもなく現在地球上で最も繁栄している生物種といえます。」と、述べ、次のように続ける。

西暦元年には3億人、その1000年後には3億1000万人になっていました。西暦1000年というと、日本では平安時代です。その頃には、世界全体で人類は3億1000万人、日本全体では600万人程度の人口でした。つまり、平安時代には日本全体で現在の東京都の人口の半分しか存在していなかったのです。 / かつて、1000年間かかって世界全体で1000万人しか増加しなかった人口は、次の1000年ちょっと(西暦1000年~2017年現在まで)で70億人増加し、2017年現在の世界人口は73億人となっています。つまり、現在の人口増加はかつての1000年間での人口増加の700倍でおこなわれており、この瞬間にも1日で20万人もの人間が増え続けています。

その繁栄ゆえにも、他の生物種への影響力甚大な、知性をもつ生物種である人類は、地球上に共生する他の(いまだ知られていないものも含め)生物種すべてに対して責任を負っているのではないか、と思ったしだいである。

2017-12-15

IUCN レッドリスト 世界の絶滅危惧生物図鑑

IUCN レッドリスト 世界の絶滅危惧生物図鑑

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 丸善出版
  • 発売日: 2014/01/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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*したたかな寄生  脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様』 成田 聡子著 幻冬舎新書 [生物学]


したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様 (幻冬舎新書)

したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様 (幻冬舎新書)

  • 作者: 成田 聡子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/09/28
  • メディア: 新書


生物の世界の驚異を家族で実感できる

寄生に関する本。副題にあるとおり、宿主に寄生して、宿主を乗っ取る事例が豊富に出ている。

『はじめに』で著者のいうには、生物学では、寄生も共生の一つ。「生物種同士が助け合う関係も、害を与える関係も、何の影響もない関係もすべて『共生』」で、「異種の生物同士が同所的に存在することを」「共生」と呼ぶのだそうだ。

そして、「本書では、それらの共生関係の中でも、小さく弱そうに見える寄生者たちが自分の何倍から何千倍も大きな体を持つ宿主の脳も体も乗っ取り、自己の都合の良いように巧みに操る、恐ろしくも美しい生き様を紹介し」ている。

ひとつひとつの事例を見ていくと、寄生するモノらの生存戦略に驚くと共に、トンデモナイ悪であるように思いもするが、なんのことはない、地球に「共生」する生物のなかで、いちばん影響力を示しトンデモナイ悪を成しているのは、ほかならぬ人間ではないか・・。他の生物種を、「自己の都合の良いように」利用し、あるいは無視し、どんどん絶滅のレッドゾーンへと追い込んでいるのも人間ではないか・・・。

そう思えてくるのは、著者の視点が、地球を俯瞰する高みにあるからである。と、同時に、それらの生物たちとおなじ生き物としての自覚をつよく持っているからである。そして、それが、本書の内容の恐さとはうらはらに、たいへん爽やかな印象を与えるものとなっている。

居間で、ホーっとため息をつきつつ、スゴイねーとうなりつつ本書を読んだ。そして、読んだ内容を、家人に話し聞かせ迷惑がられた。思わず話したくなる内容なのだから仕方ない。それでも、内容を話し聞かせると家人もホー、スゴイねーと興味を示した。子どもででもあれば、なおさらだろう。

生物の世界の驚異を家族で実感できる、たいへん良い本であるように思う。

2017年12月14日にレビュー

以下、目次

はじめに
1  自然界に存在するさまざまな共生・寄生関係
2  ゴキブリを奴隷化する恐ろしいエメラルドゴキブリバチ
3  体を食い破られても護衛するイモムシ
4  テントウムシをゾンビボディーガードにする寄生バチ
5  入水自殺するカマキリ
6  アリを操りゾンビ行進をさせるキノコ
7  ウシさん、私を食べて!と懇願するアリ
8  あなたがいないと生きられないの!蜜依存にさせるアカシアの木
9  カニの心と体を完全に乗っ取るフクロムシ
10 寄生した魚に自殺的行動をさせる
11 エビに群れを作るように操るサナダムシ
12 脚が増えるカエル
13 巣を乗っ取り、騙して奴隷としてこき使う寄生者たち
14 自分の子を赤の他人に育てさせるカッコウの騙しのテクニック
15 怒りと暴力性を生み出す寄生者
16 操られ病原体を広めていく虫たち
17 幼虫をドロドロに溶かすウイルスの戦略
18 私たちの腸内の寄生者たち
19 私たちの脳を乗っ取る寄生虫
おわりに 参考文献 


海の寄生・共生生物図鑑: 海を支える小さなモンスター

海の寄生・共生生物図鑑: 海を支える小さなモンスター

  • 作者: 星野 修
  • 出版社/メーカー: 築地書館
  • 発売日: 2016/07/20
  • メディア: 単行本



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『虫の目になってみた: たのしい昆虫行動学入門』 海野 和男著 河出書房新社 [生物学]


虫の目になってみた: たのしい昆虫行動学入門

虫の目になってみた: たのしい昆虫行動学入門

  • 作者: 海野 和男
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/09/27
  • メディア: 単行本


昆虫たちのど迫力の写真が多数取り上げられている

本書には、標本を撮影した図鑑のような写真ではなく、まさにイキモノとして迫ってくる昆虫たちのど迫力の写真が多数取り上げられている。それもそのはず、著者は「日高敏隆研究室で昆虫行動学を学」んだ昆虫写真家。冒頭、写真撮影についてのマニアックな記述に少々抵抗を感じもしたが、昆虫の生態についての記述には、それだけ撮影にコル方ならではの観察する目の確かさを感じて、脱帽であった。

以下、「第3章 昆虫の運動能力」からの引用。「人は飛行機を作り、1万キロ以上の距離を時速1000キロメートルもの速さで無着陸で飛ぶことができる。かつてのB747ジャンボ機は全長70メートル、重さは満載で350トン近くあるそうだ。70メートルと言えばミツバチのおよそ5000倍の大きさだ。ジャンボ機をそのままミツバチほどの大きさにできたとすると重さはいったいどれくらいになるか計算してみた。すると重さはなんと0.003グラムほどにしかならない。そして速度はだいたい時速0.2キロメートルということになる。 / ミツバチの体重はおよそ0.1グラム。ミツバチがジャンボ機の大きさだったらと計算してみると何とジャンボ機の36倍近い重さがあることになる。さらにその速度はジャンボ機のおよそ250倍になってしまうのだから驚いてしまう。 / ジャンボ機を36倍の重さにした飛行機など、人類はいまだ作ることができない。この重さで自在に飛ぶことがでくるミツバチはたいしたものである。そして昆虫の作りが、人間の作った飛行機械と比べていかに合理的にできているか、とも思うのだ」。

2017年1月5日にレビュー

世界を、こんなふうに見てごらん (集英社文庫)

世界を、こんなふうに見てごらん (集英社文庫)

  • 作者: 日高 敏隆
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/01/18
  • メディア: 文庫



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『街なかの地衣類ハンドブック』 大村 嘉人著 文一総合出版 [生物学]


街なかの地衣類ハンドブック

街なかの地衣類ハンドブック

  • 作者: 大村 嘉人
  • 出版社/メーカー: 文一総合出版
  • 発売日: 2016/10/07
  • メディア: 単行本


自然探索に、本書を持って街なかへ出よう!

「都会に自然はない」ように言われもするが、そんなことはないと著者はいう。「都市部の自然は、見慣れてしまって一見すると面白みがないと感じるかもしれません。しかし、木の幹や古いコンクリートなどに近づいてみると、今まで気づかなかった地衣類が織りなす“別世界”を発見できるかもしれません」/「皆さんが普段見ている景色の中には、必ずと言っていいほど地衣類が生えています。しかし、視界に入っていても気づかずに通り過ぎていく人がほとんどでしょう。コンクリートや岩の表面などにペンキの染みのようになっているあの『汚れ』や、木の幹にべったりついている灰色や黄色っぽい『コケ』だと思っていた生き物の正体は、地衣類かもしれません」/「地衣類は私にとって小宇宙のような存在です。・・・中略・・・皆さんが地衣類を“宇宙”と思うかどうかはさておき、その存在を知ると今まで見ていた景色と違う世界に見えてくるかもしれません」とある。

本書のコンセプトは「遠くから色合いで地衣類を見つけて、近づいて観察する」。《本書の使い方・凡例》には「これから地衣類を観察してみたいという方を対象に、都市部に生育する地衣類の見つけ方や見分け方にポイントをおいて解説しています」とあり、「入門書である本書では、遠目で見たときの色合いと、近くで観察したときの “絵合わせ” で、おおよその名前を調べられるように58種を選んで紹介しています」とある。10倍程度(望ましいのは15倍)のルーペを用意するよう勧められている。

ページ構成は、地衣類のある種がどこに発生しているのかわかる「遠目」の写真と拡大写真とからなり、分類、分布、見つけやすさ、生育場所、野外での識別(肉眼で直接観察でき、識別に役立つ情報)、特徴が簡潔に示されている。ページ最上部(天小口)には、「地衣類全体が与える色の印象に基づいて掲載種を6色に分け」検索・同定の目安としている。

厚さ5ミリ、大き目のスマホ程度の、まさに「ハンドブック」で、地衣類の“小宇宙”を発見・識別するのに便利。自然探索に、本書を持って街なかへ出よう!

2016年11月29日にレビュー

校庭のコケ―野外観察ハンドブック

校庭のコケ―野外観察ハンドブック

  • 作者: 中村 俊彦
  • 出版社/メーカー: 全国農村教育協会
  • 発売日: 2002/09
  • メディア: 単行本



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『苔の本―苔で作るナチュラルインテリアと、身近な苔の種類がわかる図鑑』大野 好弘著 グラフィス  [生物学]


苔の本―苔で作るナチュラルインテリアと、身近な苔の種類がわかる図鑑

苔の本―苔で作るナチュラルインテリアと、身近な苔の種類がわかる図鑑

  • 作者: 大野 好弘
  • 出版社/メーカー: グラフィス
  • 発売日: 2016/08
  • メディア: 単行本


「癒しの空間」を身近に

「これはいい本を見つけた」と思った。みどりをながめると免疫機構(たしか、ナチュラルキラー細胞)が活発になるとか聞いていたからだ。脳みそは、森林浴で森のみどりを見ても、写真の植物を見ても、みどりに反応して、NK細胞を活性化するとも聞いたので、これまで、(苔とは意識せずにいたのだが)、みどりいっぱいの苔の「絵(写真)葉書」をときどきながめては「目の保養」としてきた。

この本は、みどりづくしで、目の保養になる。これからは、意識して「苔」をながめることにしようと思う。著者はイントロダクションで「これらの美しい苔たちを身近に置くことで、癒しの空間が広がります。コケリウムとは苔を主体とし、森や水辺を再現アレンジしたテラリウムのひとつです」と述べている。実際のところ、評者は、コケリウム製作にまで至らないように思いもするが、癒しのために本書を活用しようと思う。それでも、見ているうちに、やってみようということになるかもしれない。

若い人たちを読者に想定しているのだろうか。写真と印字のバランスがほどよく、詩・写真集のようなおしゃれな体裁だ。用いられている3mm角ほどの印字は、年配者には、少々小さめに感じられるかもしれない。

目次(章だて) イントロダクション // Part 1 苔のアレンジ // Part 2 アレンジの手順 // Part 3 苔の図鑑 // Part 4 苔を知ろう / /あとがき / 苔の名前のさくいん

2016年10月19日にレビュー

森を歩く―森林セラピーへのいざない (角川SSC新書カラー版)

森を歩く―森林セラピーへのいざない (角川SSC新書カラー版)

  • 作者: 田中 淳夫
  • 出版社/メーカー: 角川SSコミュニケーションズ
  • 発売日: 2009/03
  • メディア: 新書



日本森林インストラクター協会選定 日本の森100

日本森林インストラクター協会選定 日本の森100

  • 作者: 社団法人日本日本森林インストラクター協会
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)』 平凡社 [生物学]


牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)

牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)

  • 作者: 牧野 富太郎
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2016/04/11
  • メディア: 単行本


「朝夕に草木を吾れの友とせばこころ淋しき折節もなし」

牧野富太郎の随筆集。ハードカバーの新書サイズで、ぜいたくな造りだ。

もともと『なぜ花は匂うのか』というタイトルでまとめられ発行されていた本なのだろうか。著者晩年に過去に発表した随筆をまとめて出版したものの絶版になっていて、それをまた新たに平凡社から復刊したということか。いずれにしろ、「はじめに」もなければ「おわりに」もなく、編集の方針も示されていない。

・・と、思ったら、奥付ページの前にたいへん小さな文字で、《『牧野富太郎選集』(全5巻、1970、東京美術刊)を底本としました。・・》とある。そこから、平凡社のSTANDARD BOOKSシリーズの刊行方針に沿って、選ばれたのが本随筆集ということのようだ。その刊行方針については、《境界を越えてどこでも行き来するには、自由でやわらかい、風とおしのよい心と「教養」が必要です。その基準となるもの、それが「知のスタンダード」です。・・》とある。

なるほど、書かれている内容を追っていくと、植物に関する随筆ではあるのだが、その内容そのものよりも、牧野富太郎という存在に圧倒される。こんな自由人が居たのだという思いである。よくもまあ、ここまで、自分の嗜好のままに、一生を過ごしたものである。好きな植物を研究し、その姿を描き、(絵描きは長生きをする商売だが)貧乏のなかでも、94歳まで生きた。本書から、植物の興味深い知識を得られるが、それ以上に、自由人の生きざまを知ることができる。

それでも、その「自由」の中身を見ていくと、なんだか植物のアニマ(精霊)に囚われてしまった一生のように思えもする。《私は植物の愛人としてこの世に生まれてきたように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。(「植物と心中する男」p14)》などと書いている。また、《私はこの楽しみを世人に分かちたい。それは世人がいま少しく草木に気を付けることによって得られるのである。「朝夕に草木を吾れの友とせばこころ淋しき折節もなし」 私は幸いにこの境地に立っている。今世人がみなことごとくわれにそむくことがあったとしても、われはわが眼前に淋しからぬ無数の愛人を擁しているので、なんの不平もないのである。・・(「野外の雑草」p192)》

囚われたにせよ、なんにせよ、ここまで好き合うものを得られたなら幸せにちがいない。

2016年9月27日にレビュー

内なる異性―アニムスとアニマ (バウンダリー叢書)

内なる異性―アニムスとアニマ (バウンダリー叢書)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 海鳴社
  • 発売日: 2013/03
  • メディア: 単行本



94歳: 花らんまんに元気

94歳: 花らんまんに元気

  • 作者: 牧野 富太郎
  • 出版社/メーカー: 興陽館
  • 発売日: 2023/04/12
  • メディア: 単行本



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『海の寄生・共生生物図鑑: 海を支える小さなモンスター』 星野 修 写真・著 築地書館 [生物学]


海の寄生・共生生物図鑑: 海を支える小さなモンスター

海の寄生・共生生物図鑑: 海を支える小さなモンスター

  • 作者: 星野 修
  • 出版社/メーカー: 築地書館
  • 発売日: 2016/07/20
  • メディア: 単行本


身近な海で『寄り添って生活する生物たち』の写真集

「東京湾のすぐ先にある伊豆大島の身近な海にいる」生物たちの、寄生・共生関係をとらえた写真集。ハードカバーのしっかりした表紙。その間にちょっと薄手の50枚強の絵(写真)葉書が挿入されたかのような造本。1枚づつ外して切手を貼れば、ポストに投函できそうだ。

『特殊撮影! 甲虫の世界』(科学雑誌『ニュートン』別冊)の、「深度合成」技術による、被写体全面にピント・ドンピシャの写真を見たせいもあってか、本書掲載写真をパッと見・・、「ピントが甘いな」と感じた。しかし、それもそのはず。本書で紹介される生物たち(つまり被写体)の大きさはほとんどが10ミリ以下で、宿主4mm、寄生生物1.5mmの寄生関係を撮影する際、両者を写しこむのに可能な被写界深度(ピントが合う範囲・深さ)は0・2mm以下になるという。0.2mmの間に、両者の表情を捉えることが求められているということだ。撮影の苦労話も出ているが、事情がわかると、「よくぞ撮られました」と感心する。

たいへん生き生きとした写真で、撮影者(星野)の名前のついた『ホシノノカンザシ』に寄生されたハゼなど見ていると、カラダ中がむずむずしてくる。その点、「深度合成」写真の甲虫のグロテスクな姿を見ても、ドウってことなかったのは、ソレらが、文字どおりに「生きている」甲虫の写真ではないからであろう。

撮影者によると、寄生・共生の区別を厳密にするのは、実のところ「相当に厳しい」そうである。「そこで、最近は、生物がともに寄り添っている現象をまず『共生』と呼ぶことにし、『寄生』はそのなかの特殊な例と考えられるようになってきた」という。「しかし、フィールドにおいては・・・」と撮影者は自分の撮影スタンスを示す。「生物間の関係を寄生や共生といった先入観を持たずに観察することが大切である。目の前の小さな生物たちが多様な生活を送っていることを素直に観察することが重要で、このことが次の観察と理解に繋がる。私は、今後も伊豆大島で、『寄り添って生活する生物たち』をしっかり観察していきたいと思っている」とある。

共著者:斎藤暢宏氏、編著者:長澤和也氏の役割は、「星野さんが撮影時の状況について執筆し、これを著者らが繰り返して読んで検討し、海洋生物の分類や生態に関する記述を整えた。また、次項に示した海洋生物の専門家に、それぞれの分野に関する原稿を読んでいただいて・・・(その)コメントに基づいて、必要な修正を行った」とある。

そうして、ちいさいが立派な本ができあがった。

2016年9月6日にレビュー

特殊撮影! 甲虫の世界 (ニュートン別冊)

特殊撮影! 甲虫の世界 (ニュートン別冊)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ニュートンプレス
  • 発売日: 2016/06/18
  • メディア: ムック



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『特殊撮影! 甲虫の世界』 写真 小檜山賢二( ニュートン別冊) [生物学]


特殊撮影! 甲虫の世界 (ニュートン別冊)

特殊撮影! 甲虫の世界 (ニュートン別冊)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ニュートンプレス
  • 発売日: 2016/06/18
  • メディア: ムック


甲虫(地球最大勢力中の最大勢力)の「深度合成」による高細密な写真集

《現在、細菌を除いた生物全体の種類は、数百万から数千万種前後と推定されている。発見され、分類されたものはわずか約125万種にすぎないが、そのうち昆虫が占めるのは約100万種。既知の生物のおよそ4分の3は昆虫なのだ。さらに、毎年多数の新種が発見されている。// ここでいう昆虫とは、生物学上は「昆虫綱」に分類される生物である。昆虫綱は、クモ綱や甲殻綱と並んで、無脊椎動物の中の節足動物の仲間だ。ほとんどの昆虫に共通して、2対の翅があり、節のある3対の肢(脚)が胸から生えている。// 昆虫綱は、さらに「目」に分けられる。チョウ目やハエ目、ハチ目、カメムシ目、カマキリ目、ゴキブリ目などだ。その中の一つが、カブトムシやゾウムシの属する甲虫目である。// 甲虫目の総数は約40万種だ。昆虫全体の4割にあたる計算で、ほかのどの目よりも多い。地球最大の勢力の中の、そのまた最大勢力である》と、プロローグに記されている。

目次は Part.1 異形のカブトムシ// Part.2 謎めいた虫 ゴミムシダマシ// Part.3 長い“鼻”をもつ昆虫 ゾウムシ// Part.4 きらびやかで個性あふれる ハムシ// Part.5 その他の不思議な昆虫たち// Part.6 深度合成のメカニズム// となっている。

本書の最大のウリは「特殊撮影!」。マクロレンズでは、被写界深度の関係でかならず被写体のどこかにボケが発生するが、特殊撮影「深度合成」の技術で、全面シャープな画像が得られる。「とても地球上の生き物にはみえない」 「プラスチックでできているかのような見た目」の ツシマチビコブツノゴミムシダマシは毛やらコブやら角やらついている。「実物の大きさ」は、3mm程度のようだが、『ニュートン』見開きサイズでデカデカと紹介される。こうした「地球最大勢力中の最大勢力」の面々が大挙して人類に反旗をひるがえしたなら、と思うと恐ろしい。

写真提供は、『象虫:マイクロプレゼンス』等を出版している小檜山賢二氏。Part.6 深度合成のメカニズム の監修者でもある。そこには、「深度合成を実践してみよう(撮影編、合成編)」「深度合成機能内蔵カメラ」という項目もある。

肉眼では決して捉えられないモノを捉えた高細密な図鑑。こうした迫力ある図鑑が手に入るようになったことを賀としたい。

2016年9月5日にレビュー

象虫:マイクロプレゼンス―小檜山賢二写真集

象虫:マイクロプレゼンス―小檜山賢二写真集

  • 作者: 小檜山 賢二
  • 出版社/メーカー: 出版芸術社
  • 発売日: 2009/08/01
  • メディア: 大型本



兜虫 (マイクロプレゼンス4)

兜虫 (マイクロプレゼンス4)

  • 作者: 小檜山賢二
  • 出版社/メーカー: 出版芸術社
  • 発売日: 2014/07/18
  • メディア: 大型本



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『森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界』 塚谷 裕一著 岩波書店 [生物学]


森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界

森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界

  • 作者: 塚谷 裕一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「腐生植物」と「森」と「植物学者」について知ることのできる本

腐生植物とは「森の生態系に取り入り、寄生する存在」「森を食べて暮らす植物」。

森を食べるといっても直接にではなく間接的にである。「森の樹と共生したり、森の落ち葉や枯れ枝を栄養源とすることによって、暮らし」「森から栄養をとっている」カビやキノコから、栄養を奪い取って暮らしを立てている。腐生植物には、光合成をする緑の葉がナイので、そのようにして暮らすしかないのだ。

評者は、はじめて「腐生植物」という言葉を知った。はじめて写真を見た。「ギンリョウソウ」のなんと妖艶なこと。高山植物のコマクサを思わせる姿だが、花の色は白。ただし、シロが透けて蛍光を放つ印象。別名「ユウレイタケ」。なるほどである。そうした妖艶な腐生植物たちと宿主たちとのカケヒキが面白い。他の植物と光をめぐる争いから自由であることは優雅といえるが、確実に、栄養を奪わねばならない宿主との関係では、そうばかりではない。

この本は、「腐生植物」の本であるとともに、「森」の本でもある。《腐生植物が豊富に見られる森というのは、生態系が安定した、余裕のある森であると言える。そうした森は一目でわかる。かつかつの状態で暮らしている森は、しばしば荒れた感じがするものだ。・・よく熱帯のジャングルというと、鬱蒼と木や草が茂り、1m先も見渡せないような込み入った情景を思い浮かべる人が多い。だがあれは、荒れた森の典型である》とある。「一目で」森の良し悪しのわかる著者の森をめぐる話は興味深い。

さらに本書の魅力は、新属新種の発見に携わるような植物学者という生き物について知ることができる。(などと記すと叱られそうだが)著者は、自分の経験を豊富に披瀝している。《子どもの頃、NHKの『趣味の園芸』のテキストで、腐生植物を栽培したいのだが、という相談記事が載っているのを見かけたこともある》という記述もある。やはり「栴檀は双葉より芳し」であることよと思いつつ読了。

2016年7月22日にレビュー
植物のこころ (岩波新書)

植物のこころ (岩波新書)

  • 作者: 塚谷 裕一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/05/18
  • メディア: 新書



漱石の白百合、三島の松-近代文学植物誌 (中公文庫 つ 34-1)

漱石の白百合、三島の松-近代文学植物誌 (中公文庫 つ 34-1)

  • 作者: 塚谷 裕一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/06/22
  • メディア: 文庫



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