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『牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)』 平凡社 [生物学]


牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)

牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)

  • 作者: 牧野 富太郎
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2016/04/11
  • メディア: 単行本


「朝夕に草木を吾れの友とせばこころ淋しき折節もなし」

牧野富太郎の随筆集。ハードカバーの新書サイズで、ぜいたくな造りだ。

もともと『なぜ花は匂うのか』というタイトルでまとめられ発行されていた本なのだろうか。著者晩年に過去に発表した随筆をまとめて出版したものの絶版になっていて、それをまた新たに平凡社から復刊したということか。いずれにしろ、「はじめに」もなければ「おわりに」もなく、編集の方針も示されていない。

・・と、思ったら、奥付ページの前にたいへん小さな文字で、《『牧野富太郎選集』(全5巻、1970、東京美術刊)を底本としました。・・》とある。そこから、平凡社のSTANDARD BOOKSシリーズの刊行方針に沿って、選ばれたのが本随筆集ということのようだ。その刊行方針については、《境界を越えてどこでも行き来するには、自由でやわらかい、風とおしのよい心と「教養」が必要です。その基準となるもの、それが「知のスタンダード」です。・・》とある。

なるほど、書かれている内容を追っていくと、植物に関する随筆ではあるのだが、その内容そのものよりも、牧野富太郎という存在に圧倒される。こんな自由人が居たのだという思いである。よくもまあ、ここまで、自分の嗜好のままに、一生を過ごしたものである。好きな植物を研究し、その姿を描き、(絵描きは長生きをする商売だが)貧乏のなかでも、94歳まで生きた。本書から、植物の興味深い知識を得られるが、それ以上に、自由人の生きざまを知ることができる。

それでも、その「自由」の中身を見ていくと、なんだか植物のアニマ(精霊)に囚われてしまった一生のように思えもする。《私は植物の愛人としてこの世に生まれてきたように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。(「植物と心中する男」p14)》などと書いている。また、《私はこの楽しみを世人に分かちたい。それは世人がいま少しく草木に気を付けることによって得られるのである。「朝夕に草木を吾れの友とせばこころ淋しき折節もなし」 私は幸いにこの境地に立っている。今世人がみなことごとくわれにそむくことがあったとしても、われはわが眼前に淋しからぬ無数の愛人を擁しているので、なんの不平もないのである。・・(「野外の雑草」p192)》

囚われたにせよ、なんにせよ、ここまで好き合うものを得られたなら幸せにちがいない。

2016年9月27日にレビュー

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