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『森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界』 塚谷 裕一著 岩波書店 [生物学]


森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界

森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界

  • 作者: 塚谷 裕一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「腐生植物」と「森」と「植物学者」について知ることのできる本

腐生植物とは「森の生態系に取り入り、寄生する存在」「森を食べて暮らす植物」。

森を食べるといっても直接にではなく間接的にである。「森の樹と共生したり、森の落ち葉や枯れ枝を栄養源とすることによって、暮らし」「森から栄養をとっている」カビやキノコから、栄養を奪い取って暮らしを立てている。腐生植物には、光合成をする緑の葉がナイので、そのようにして暮らすしかないのだ。

評者は、はじめて「腐生植物」という言葉を知った。はじめて写真を見た。「ギンリョウソウ」のなんと妖艶なこと。高山植物のコマクサを思わせる姿だが、花の色は白。ただし、シロが透けて蛍光を放つ印象。別名「ユウレイタケ」。なるほどである。そうした妖艶な腐生植物たちと宿主たちとのカケヒキが面白い。他の植物と光をめぐる争いから自由であることは優雅といえるが、確実に、栄養を奪わねばならない宿主との関係では、そうばかりではない。

この本は、「腐生植物」の本であるとともに、「森」の本でもある。《腐生植物が豊富に見られる森というのは、生態系が安定した、余裕のある森であると言える。そうした森は一目でわかる。かつかつの状態で暮らしている森は、しばしば荒れた感じがするものだ。・・よく熱帯のジャングルというと、鬱蒼と木や草が茂り、1m先も見渡せないような込み入った情景を思い浮かべる人が多い。だがあれは、荒れた森の典型である》とある。「一目で」森の良し悪しのわかる著者の森をめぐる話は興味深い。

さらに本書の魅力は、新属新種の発見に携わるような植物学者という生き物について知ることができる。(などと記すと叱られそうだが)著者は、自分の経験を豊富に披瀝している。《子どもの頃、NHKの『趣味の園芸』のテキストで、腐生植物を栽培したいのだが、という相談記事が載っているのを見かけたこともある》という記述もある。やはり「栴檀は双葉より芳し」であることよと思いつつ読了。

2016年7月22日にレビュー
植物のこころ (岩波新書)

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  • 作者: 塚谷 裕一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/05/18
  • メディア: 新書



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  • メディア: 文庫



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