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『植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし』 稲垣 栄洋著 (ちくまプリマー新書) [生物学]


植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)

植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 稲垣 栄洋
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/04/05
  • メディア: 単行本


この本を読んで植物好きになれそう

タイトルを見て「植物はなぜ動かないのかって・・、動いたら動物でしょうが・・」とイチャモンをつけたい気分になった。

「あとがき」を見ると、「生物学のなかでも、植物学はとくに人気がないようだ」と、ある。そうだろうな、著者もわかっているではないかと思う。つづけて、「昆虫や魚や動物たちは、ダイナミックな暮らしぶりを見せるから、人気がある。これに対して、植物は動くこともなく、何となく生えているように見えるかもしれない」と、不人気の理由が記されてある。そうだ、そのとおりだ・・と、思う。

ところが、その後の一文から目が離せなくなった。「しかし、動けない植物の暮らしこそ、本当は、ダイナミックでドラマチックなのだ」と、そこにはあった。きっと、見る人が見ると「動けない植物」の方が、動物よりもダイナミックかつドラマチックに見えるのだろうと興味をもった。自分に見る目がナイので、植物に対して動物ほどの興味をもてないのだろうと思ったのである。

それで、読み始めたら、オモシロイ。まるで、植物に知性があるかに思える仕方で叙述がすすめられていく。そして、著者の言うように、ツマラナク思えた植物の世界が実はそうではナイことを知ることができた。植物関係の本で、これまでマトモに読んだものは、五指にも満たないと思う。それは教科書のようでツマラナカッタからでもあるが、この本は別格だ。

大げさなようだが、本書のオモシロさの根っこには、自分のなかの「思い込み」が反転していく小気味よさがあるように思う。「『強さ』とは何か? これが本書の大きなテーマである」と著者は記しているが、強弱の関係が反転していくのを見るオモシロさであり、ものの見方が変わる心地よさであり、いままで見えなかったモノに気づく嬉しさでもある。

一例をあげるなら、よく道に生えている草に「オオバコ」がある。オオバコの踏まれ強さについて述べたのちに著者はこう記す。「こうなると、オオバコにとって踏まれることは、耐えることでも、克服すべきことでもない。もはや踏まれないと困るくらいまでに、踏まれることを利用しているのである。//「逆境をプラスに変える」というと、「物事をよい方向に考えよう」というポジティブシンキングを思い出す人もいるかもしれない。//しかし、雑草の戦略は、そんな気休めのものではない。もっと具体的に、逆境を利用して成功するのである」。

「中高生」向けにやさしく書かれた本であるが、大人も読んで楽しみ、新たな知見を多く得られるように思う。なにより、この本を読んで植物好きになる人も多いのではないかと思う。

2016年6月26日レビュー



徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか―家康のあっぱれな植物知識

徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか―家康のあっぱれな植物知識

  • 作者: 稲垣 栄洋
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2015/07/03
  • メディア: Kindle版



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『粘菌生活のススメ』新井文彦著 成文堂新光社刊 [生物学]


粘菌生活のススメ: 奇妙で美しい謎の生きものを求めて

粘菌生活のススメ: 奇妙で美しい謎の生きものを求めて

  • 作者: 新井 文彦
  • 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
  • 発売日: 2016/05/06
  • メディア: 単行本


「粘菌目」を涵養できること必定

「年金生活」ではなく「粘菌生活」を勧める本。著者は、粘菌の研究者・学者・専門家ではなく “写真家”。「粘菌はアメーバー動物の仲間で、アメーバーと菌類の中間的な生き方をしている単細胞生物。『変形菌』とも言われ、その一生で姿が大きく変化します。別に珍しい生物ではなく、食料になる微生物がいて適度な温度と湿度があればどこでも繁殖できるのだとか。土壌中の原生生物(真核生物のうち動物界にも菌類にも属さない生物)の多くはアメーバー生物で、粘菌類はその過半数を占めているそうです」とか「中垣(俊之)教授によれば、日々粘菌に接していると、ただぼんやりと生きているわけではなく、それなりに情報処理をしながら、巧みに生きていると、ひしひしと感じるそうです」とか「記憶や学習とみられる能力があるってことは、やはり『知性』を持っているのではないかと思っちゃいます・・・」というシロウトっぽい書き方がされている。それでも、そのことは気にならない。かえって、粘菌大好きな先輩が、後輩に自分の弱点を承知しつつ教示してくれているという風で、好感がもてる。

当然のことながら写真集としても秀逸。マクロレンズを用いての写真は毒々しいもの、美しいもの、いろいろな姿を見事に写し出して、実際にお目にかかりたい気分になる。著者のフィールドは、北海道、東北がメインのようだが、粘菌は東京の公園でも見出せるという。

著者は、都内在住の中学生研究者に訊く。《「粘菌を知らない人に粘菌のことを好きになってもらうにはどうしたらいいと思う?」/ 増井さんは、しばらく考えて、/ 「野外へ出掛けて、実際に粘菌を見つけてもらうことじゃないですか」と、にっこり。/ 「粘菌を見つけた時はいつも、こんな不思議な生きものが、こんなところにもいるのかと本当に感動するんです」》

自然のフィールドへ出かけることを著者は繰り返しススメ・・、《近所の公園だって、神社仏閣だって、木やコケが生えていたら、きっとその場所に適した自然の姿を見ることができます。もし、粘菌が見つからなくても、コケや地衣類ならきっと見つかるはず、ルーペでのぞいてみれば、今まで知らなかったことを後悔するほどの別世界を垣間見ることができます。やがて、粘菌を探しだす目「粘菌目」が鍛えられ、そのうちきっと粘菌と出会えることでしょう》と、保証している。

一度、手にとって、見て欲しい本。「粘菌目」を涵養できること必定。

2016年5月28日レビュー


粘菌―驚くべき生命力の謎

粘菌―驚くべき生命力の謎

  • 作者: 松本 淳
  • 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 大型本



粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う (文春新書)

粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う (文春新書)

  • 作者: 中垣 俊之
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/20
  • メディア: 単行本



猫楠―南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)

猫楠―南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)

  • 作者: 水木 しげる
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1996/10
  • メディア: 文庫



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『地球とヒトと微生物』(山中健生著・技術評論社発行) [生物学]


地球とヒトと微生物 ―身近で知らない驚きの関係― (知りたい!サイエンス)

地球とヒトと微生物 ―身近で知らない驚きの関係― (知りたい!サイエンス)

  • 作者: 山中 健生
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2015/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



生命を支えるこれらのものたちをいつも意識していたい

『はじめに』を見ると、「細菌、カビ、酵母などの微生物は、私たちの周辺にたくさん棲んでいて、私たちに利益をもたらしたり、害を与えたり」することが示されています。「害」という面でいうと、「ある細菌がコンクリートを腐食してぼろぼろにすること」「床下の土の中に」いる細菌が「ある条件下では地面の不均衡な隆起」を引き起こしたり、硫酸を発生させたりして、柱を支える束石やコンクリートををぼろぼろにし、結果、「宅地の盤崩れによる家屋の被害」がある市の周辺では1000戸もあったという驚くべき報告もなされています。

その一方、「益」という面では、「細菌をふくむ微生物は、地球上の、“有機ごみ”を分解して環境をきれいにしてくれる大切な存在です。さらに、たとえば、窒素ガスをアンモニアに変化させて植物に供給する細菌がいるほか、アンモニアから亜硝酸塩を経て硝酸塩にして再び窒素ガスにする窒素の循環に、数種の細菌が関与しています。また、硫化水素が単体硫黄を経て硫酸になり、再び硫化水素になる硫黄の循環にも、数種の細菌が関与しているのです」と、あります。

著者は、「物質循環に関与している細菌には、無機物だけで生きることのできる無機栄養細菌(独立栄養細菌)が多いのです」と述べ、自身が、「約40年間、このような無機栄養細菌の研究をしてきた」者であり、「本書では、主に無機栄養細菌の特徴などを述べ、その地球環境および人間との関係について述べてみようと思います」と、執筆動機を示します。

さらにまた、「地球の表面(海底、大気を含む)には様々な微生物が生息していて、人間はそれらのおかげで生きてゆくことができるともいえます。微生物の中には病原菌など人間にとって都合の悪いものもありますが、ここでは地球環境と密接に関係した微生物を取り上げ、それらが人間の生活にどのように関わっているか考えたいと思います。このように(微)生物を介した人間と地球の相互作用を研究する学問分野を『生物地球化学』といいますが、本書ではその一端をご紹介することができると思います」とも記しています。

当該書籍は、技術評論社の「知りたい!サイエンス」シリーズの一冊として発行されました。新たに加えられた当該書籍も、専門的な情報を、かみくだいて提供してくれるものです。

2015年9月3日レビュー


生き物たちのエレガントな数学 (知りたい!サイエンス 19)

生き物たちのエレガントな数学 (知りたい!サイエンス 19)

  • 作者: 上村 文隆
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2007/08/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



人のアブラはなぜ嫌われるのか -脂質「コレステロール・中性脂肪など」の正しい科学- (知りたい!サイエンス)

人のアブラはなぜ嫌われるのか -脂質「コレステロール・中性脂肪など」の正しい科学- (知りたい!サイエンス)

  • 作者: 近藤 和雄
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2015/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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ボタニカルイラストで見る 園芸植物学百科 (ジェフ・ホッジ 上原ゆうこ訳 原書房) [生物学]


ボタニカルイラストで見る園芸植物学百科

ボタニカルイラストで見る園芸植物学百科

  • 作者: ジェフ ホッジ
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 単行本



実質的には「植物学」の本

たいへんおしゃれな表紙といい、使用されている紙の色質(クリーム色)といい、栞ひも(幅広の光沢のある淡いグリーン)といい、装幀にたいへんなこだわりを感じます。書籍タイトルに「ボタニカルイラストで見る・・」とあるとおり、ほとんどすべてのページに、どこかなつかしさをおぼえる、しかも、色褪せることのない植物のイラストが配置されていて、全体を読まずとも、書棚に置いてたまに見るだけでも、それだけの値打ちのある書籍であるように思います。

書籍タイトルはたいへん長いものですが、その内容は原題の主要部分に“BOTANY for GARDENERS”(「庭仕事を趣味とする人びとのための 植物学」)とあるとおり、実質的には「植物学」の本です。裏表紙には「本書によって読者は、植物学の基本原理と言葉を理解し、ワンランク上のガーデニングを可能にする知識への扉を開くことができるだろう」と保証されています。

当該書籍「本書の使い方」でも、「本書はガーデニングに関心のある人びとのために書いたものだが、植物の科学にも触れていきたい」と、著者は執筆の意図を告げています。そして、さらに続けて「とはいっても・・」と前置きして「この科学はむずかしいものではなく、植物学用語を使う場合はつねに説明をつける。さらに、実際にガーデニングをしている人たちの興味からけっして離れすぎないように注意しており、そのため、説明のために示した多くの例で、ガーデナーが知っていそうな植物、さらには自分で育てたことのあるような植物をとりあげる。」と、読者の興味を減じないよう配慮の言葉を述べています。

しかし、そうは言いましても(翻訳書ですから、いた仕方のないことですが)同様の内容のモノが日本人筆者によって、日本においてフツウに販売されている(あるいは、自生している)植物を主体にして説明されてあるなら、ベストであろうと感じつつ読了しました。しかし、その点を、差し引きましても、たいへん充実した内容の書籍であることはまちがいありません。

2015年7月20日レビュー

(以下目次)
植物学小史//1章:植物界(藻類/セン類とタイ類/地衣類/シダ類とその近縁植物/裸子植物-針葉樹とその近縁植物/被子植物-顕花植物/単子葉植物と双子葉植物/植物の命名法と普通名/植物の科/属/興味深い3つの属/種/亜種、変種、品種/雑種と栽培品種// 2章:成長、形態、機能(植物の成長と発達/芽/根/茎/葉/花/種子/果実/鱗茎とそのほかの地下の養分貯蔵器官// 3章:体内の営み(細胞と細胞分裂/光合成/植物の栄養/栄養素と水の配分/植物ホルモン// 4章:生殖(栄養生殖/有性生殖/植物の育種-栽培下での進化)// 5章:生命のはじまり(種子と果実の発達/種子の休眠/種子の発芽/播種と種子の保存)// 6章:外的要因(土壌/土壌の肥沃度/土壌水分と施肥/地上の生活)// 7章:剪定(なぜ剪定するのか/大きさと形のための剪定/見せるための剪定)// 8章:植物と感覚(光を見る/香りを感じる/振動を感じる)// 9章:有害生物、病気、障害(害虫/そのほかの一般的な有害生物/菌類と菌類による病気/ウイルス病/細菌病/寄生植物/植物はどのようにして防御しているのか/抵抗性育種/生理障害)// 植物学者とボタニカル・イラストレーター(グレゴール・ヨハン・メンデル/バーバラ・マクリントック/ロバート・フォーチューン/プロスペロ・アルピーニ/リチャーズ・スプルース/チャールズ・スプレイグ・サージェント/ルーサー・バーバンク/フランツ・アンドレアス・バウアーとフェルディナント・ルーカス・バウアー/マチルダ・スミス/ジョン・リンドリー/マリアン・ノース/ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ/ ジェームズ・サワビー/ヴェラ・スカース=ジョンソン) 参考文献//索引//図版出典
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「世界一美しい恐竜図鑑」日経ナショナル ジオグラフィック [生物学]


ナショナル ジオグラフィック 世界一美しい恐竜図鑑

ナショナル ジオグラフィック 世界一美しい恐竜図鑑

  • 出版社/メーカー: 日経ナショナル ジオグラフィック
  • 発売日: 2023/01/14
  • メディア: 単行本



表紙に描かれているのはトリケラトプスである。イメージしていたものと色合いが異なる。全体に茶か緑だったように思うが、今そこに生きているのを撮影したきたようだ。書籍タイトルにある「世界一美しい」は本当だ。そう思う。しかし、化石で出土するのは骨格なのによく皮膚の色がわかるものだ。そう思って読んでいたら、次の記述があった。《古生物学者は長い間、恐竜を描くときに地味な色ばかりを使ってきた。特に大型の恐竜になると、灰色や茶色や緑などの色合いで描かれることが多かった。しかし現在では、少なくとも何種類かの恐竜については非常に鮮やかな色をしていたことが分かっている。そして、後期ジュラ紀に生息したカイホン・ユイはまさに虹色の恐竜だった。p150》。カイホンの場合、その根拠はからだを覆う羽毛の中の色素が保存されていたことにあるという。

評者が恐竜にこころときめかせた半世紀前と異なり驚くほどに研究は進んでいるということのようだ。なにしろ知っている恐竜はトリケラトプスとティラノサウルスとイグアノドンしか掲載されていない。あこがれのプロントザウルスがでていないではないかと思ったら、どうもその代わりがスーパーサウルスであるようだ。

ちいさいものからおおきなものまで、鳥のようなもの、トカゲのようなもの、ワニのようなもの、なんとなく動物園にいそうなものもたくさんでている。解説も多く、詳しい。小学生のこどもに買い与えるなら、読めない漢字を教えてくれなど質問攻めにあい、自分でもどんどん調べるようになり、そのうちに恐竜博士になるとか言い出しそうである。どうぞ覚悟して購入されんことを。

追記 (続きを読む)部分に「目次」を引用

小学館の図鑑NEO〔新版〕恐竜

小学館の図鑑NEO〔新版〕恐竜

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: Kindle版


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「タモ網1本ではじめられる魚とり 実践テクニックと生き物図鑑」 仲 義輝著 山と渓谷社 [生物学]


タモ網1本ではじめられる魚とり 実践テクニックと生き物図鑑

タモ網1本ではじめられる魚とり 実践テクニックと生き物図鑑

  • 作者: 仲 義輝
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2022/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



見ていると川にはいりたくなる。そんな本である。わが家のちかくに、小さな川がいくつも流れている。ところが、夏の盛りの時期も、川遊びをしている姿を見ない。公園として整備されているところもあるのだが、誰もいない。散歩の代わりに、川のなかを歩いてやろうかと思うのだが、あまりにヒト気がないので、勇気がいる。「変なおじさんが・・」と警察に連絡されそうである。その点で、本書おススメのタモ網をかついで、川に入るのはカモフラージュにいいかもしれない。それで、実際に魚がとれたなら、それもまたオモシロイ。いつぞやは30㎝ほどの鯉(ニゴイ?)も見た。・・

前置きが長くなってしまった。本書のほとんどのページは河川(上流域から河口部まで)用水路等にいる生物の写真集である。本書をみて川にはいって捕まえたものを確認できる。その生態を知ることができる。自分の住む場所が、どんな生物種の生息域になっているか学べる。

河川にはいるうえでの注意事項、マナーやルールについても記されている。ユーチューブ・チャンネルには「ガサガサ」のチャンネルがあるが、本書は「ガサガサ」入門書と言っていい。

こんな場所でも魚は潜んでいます【用水路ガサガサ】
https://www.youtube.com/watch?v=bNjFG-OJAi8
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「死んだふり」で生きのびる: 生き物たちの奇妙な戦略 / 宮竹 貴久著(岩波科学ライブラリー 314) [生物学]


「死んだふり」で生きのびる: 生き物たちの奇妙な戦略 (岩波科学ライブラリー 314)

「死んだふり」で生きのびる: 生き物たちの奇妙な戦略 (岩波科学ライブラリー 314)

  • 作者: 宮竹 貴久
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/09/15
  • メディア: 単行本



「死んだふり」の極意を学ぶことができるように思った。負担の多いイヤな仕事が回って来そうなときに役立つように思った。

実際のところ「死んだふり行動が観察された生物の分類群と種類」というリストには「脊椎動物/ 哺乳類 / 霊長目(ヒト)/ 成体 / Abrams et al.2009. Volchan et al.2011」(p127)とある。

だが、残念なことにヒトのする「死んだふり」の詳細は記載されない。話の主役は、もっぱら昆虫。体長4㎜足らずのコクヌストモドキである。

ひょんなことで著者は「死んだふり」に興味をもつ。「死んだふり」の(定量的な)研究がなされていないことを知る。ファーブルも気づいていはいたが、追究してはいなかった。それで、アフターファイブを利用し、百均ショップで入手した道具を手に研究を開始する。・・

内容もさることながら、本書の醍醐味は「死んだふり」という「謎多き行動の裏側を、昆虫学者が解き明かす」その過程にある。まるで「桃太郎」よろしく、仲間の助けを得て、研究を推し進めていく。ついにはコクヌストモドキの頭を切り開いて脳を摘出し、ドーパミン量を測定するようになる。ゲノム解析もするに至る。そうして、「僕らが手掛けた研究成果が(欧米の教科書に)10編も引用され」るようになる。感動ものである。

『あとがき』で著者はいう。「25年ものあいだ死んだふりの研究を続けていると、実際に人間の行動や医療の発展につながるかもしれないというところにまで、死んだふりの研究は来た。最初はそんなことまではもちろん考えもせず、ただひたすら死んだふりを観察し、その行動の意味を考え続けた。なぜ飽きもせずに続けられたのか? それは僕が本当に面白がって死んだふりの研究に取り組んできたからだと今になって思う。/ 研究だけではないと思うが、人間のすべての取り組みはその根底に面白く感じる心が大切なのだと僕は思う。研究をしている人間が、また物事を人に伝えようとする人間が、まず自分が面白がってそのテーマに取り組まないことには、その面白さは決して人には伝わらない。使命感で行う研究が大事なのはもちろん言うまでもない。けれども本書を読んでいただいた皆さんが、好奇心から始まる研究の展開も、科学に貢献することに共感してくだされば・・・本懐です」。

そういう楽しさの伝わってくる本である。

参考文献リスト
https://www.iwanami.co.jp/files/moreinfo/0297140/bbl_miyatake.pdf

下記雑誌特集記事p24,25で「偽死」と「乖離」(性健忘・性遁走・性同一障害)との関係が論じられている。

ムー 2022年12月号 [雑誌]

ムー 2022年12月号 [雑誌]

  • 出版社/メーカー: ワン・パブリッシング
  • 発売日: 2022/11/09
  • メディア: Kindle版




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「ゴキブリ嫌い」だったけどゴキブリ研究はじめました [生物学]


ゴキブリ研究はじめました

ゴキブリ研究はじめました

  • 作者: 柳澤 静磨
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2022/07/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



評者はゴキブリが嫌いである。見かけたら最期、ゴキブリの命は無いものとなる。だが、いつも不思議に思う。「なんでそんなに嫌わねばならないのだろう・・」。それで、評者と同じくゴキブリが嫌いだったのに、後に好きになったという方の著作(本書)を読むことになった。

生き物好きが高じて昆虫館の職員になりはしたものの、相変わらずゴキブリ嫌いであった著者が「ゴキブリ展」を開催してから、思わぬゴキブリのパワーを知ることになる。どんどんゴキブリ研究に進む。「35年ぶりに日本産ゴキブリの新種」に関する学術論文を発表するようにもなる。

将来昆虫学者になりたいという子どもさんは少なくない。標本の作り方や分類学の意義などを本書から学べる。さらには、虫が好きなだけでは昆虫学者は難しいこと。嫌いな虫ともお付き合いしなければならない場合もあること、採集のためには毒蛇のいる森に分け入る必要も生じること、「作文がダメ、英語がダメ」と言っていては新種の発表などできないことなど、読みながら自然に学んでいけそうだ。

読みやすい本である。嬉しいことに写真がない。ゴキブリのイラストは掲載されているが細密画ではない。それでも、読むにつれ美しいゴキブリのいることがわかった。その Beautiful G の写真はあった方がいいように思った。どんどん読んでいくうちにゴキブリがだんだん好きになってホンモノの写真を見てもいいと思うようになってきた巻末に「袋綴じ」で写真を用意してもいいかもしれない。

「伝える場」をつくるゴキブリの「存在感」のすごさ
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2022-09-10

ごきぶりをやっつけた話
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2020-09-05


昆虫学者はやめられない: 裏山の奇人、徘徊の記

昆虫学者はやめられない: 裏山の奇人、徘徊の記

  • 作者: 貴, 小松
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/04/26
  • メディア: 単行本



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「深海の生き物 超大全」イラスト・文 石井英雄 彩図社 [生物学]


深海の生き物 超大全

深海の生き物 超大全

  • 作者: 石井 英雄
  • 出版社/メーカー: 彩図社
  • 発売日: 2022/06/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


イラストが見事です。光の届かない深海にふさわしく、多くは真っ黒な背景に描かれています。評者の印象に過ぎませんが、描かれている深海生物のグロテスクな姿から、水木しげるさんの『日本妖怪大全』を思い浮かべました。本書をとおし、私たちの暮らしにたいへん身近な海が、ある意味宇宙よりも遠い場所であり、かつ、魅力的な場所であることを知ることができます。 先にグロテスクなどと記しましたが、多様性と変化にあふれたと改めたいと思います。そうした生物に出会うことができる場所でありながら、深海は、すぐに手の届く世界ではありません。その近くて遠い世界を、本書は身近なものとして展開してくれます。親も子も、年齢に関係なくたのしめると思います。

「海」はどのくらい深い?
https://www.youtube.com/watch?v=frsbVtjCWeo

決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様 (講談社文庫)

決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様 (講談社文庫)

  • 作者: 水木 しげる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/14
  • メディア: 文庫



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『奇想天外な目と光のはなし』入倉 隆著 雷鳥社 [生物学]


奇想天外な目と光のはなし

奇想天外な目と光のはなし

  • 出版社/メーカー: 雷鳥社
  • 発売日: 2022/03/21
  • メディア: 単行本



比較的薄い本ですが、オモシロイ。著者は〈大学の電気工学科で、光の見え方や感じ方を扱う「視覚心理学」の研究を行う〉研究者で、〈大学卒業後は、東京三鷹にある国立研究所で航空灯火について研究をして〉きました。著者は、〈・・光や目にまつわる不思議でアッと驚く話を紹介しながら、普段、何気なく見ている世界を新しい角度で眺めてもらえたらという思いで書〉きました、と「まえがき」に記しています。

人間のとらえる情報の8割は目からくるというので、評者は目に興味をもち、そのスジの本はけっこう見てきたはずですが、これほどおもしろい本ははじめてです。その理由は「奇想天外」な事例が多く取り上げられているからにちがいありません。「まえがき」末尾に〈とにかく私自身が「これは面白い」と思った話題をたくさん集めてみました。ぜひ、私と一緒に目の不思議な世界を探検してみませんか〉とあるように、著者自身のこころが動いた・動いていることが読者に伝わってくるからであるようにも思います。興味深い事例は、その事例が用いられた論点(などという難しい言い回しはありません)を覚えておく助けになりますし、また、それをなにかの機会に話題として提供する助けとなるにもちがいありません。巻末には「参考・引用文献」が85掲載されています。(以下、各chapterの概要を引用します)

chapter 1 目の進化 / 生命はいつ頃から「目」をもつようになったのでしょうか。動物の目は、明るさだけを感知する器官から、形や色を見分けるほど高度な「複眼」や「カメラ眼」へと進化を遂げました。さまざまな形態へと発達した目の進化をみていきましょう。

chapter 2 見る・見られる / 弱肉強食の時代、捕食動物と被食動物も競い合うようにして目を進化させていきました。上空や水中の敵から身を守るため、効率よく餌を探すために視力を高め、時に相手の視覚を欺く術を獲得していったのです。そんな動物たちの奇想天外な「生存戦略」を覗いてみましょう。

chapter 3 見えない世界 / 太陽から届く光のうち、ごく限られた「波長」の光しか人間の目で見ることはできません。一方で鳥や昆虫には「紫外線」が、ヘビには「赤外線」が、ミツバチには「偏光」が見えています。これらの動物たちは一体どんな世界を知覚しているのでしょうか。

chapter 4 どこまで見える? / 人間は成長の過程で、どこまで見えるようになるのでしょうか。また嗅覚や聴覚などの感覚器官の中でも、視覚はどのくらいの範囲を知覚しているのでしょう。目の作りが違えば、眩しさや見分けられる色の数も変わります。ここでは「見える範囲」を比較してみましょう。

chapter 5 感じる光 / 地球に棲む生き物にとって光はなくてはならないものです。生き物の多くは太陽光の下で進化を遂げたため、上からの強い日差しや、地球の自転がもたらす明暗のリズムに身体が適応しています。では、「光」は身体に一体どんな影響を与えているのでしょうか。

「目」に関するオモシロイ本
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2022-05-30


眼はなにを見ているか―視覚系の情報処理 (平凡社 自然叢書)

眼はなにを見ているか―視覚系の情報処理 (平凡社 自然叢書)

  • 作者: 池田 光男
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1988/08/01
  • メディア: 単行本


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