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『奇想天外な目と光のはなし』入倉 隆著 雷鳥社 [生物学]


奇想天外な目と光のはなし

奇想天外な目と光のはなし

  • 出版社/メーカー: 雷鳥社
  • 発売日: 2022/03/21
  • メディア: 単行本



比較的薄い本ですが、オモシロイ。著者は〈大学の電気工学科で、光の見え方や感じ方を扱う「視覚心理学」の研究を行う〉研究者で、〈大学卒業後は、東京三鷹にある国立研究所で航空灯火について研究をして〉きました。著者は、〈・・光や目にまつわる不思議でアッと驚く話を紹介しながら、普段、何気なく見ている世界を新しい角度で眺めてもらえたらという思いで書〉きました、と「まえがき」に記しています。

人間のとらえる情報の8割は目からくるというので、評者は目に興味をもち、そのスジの本はけっこう見てきたはずですが、これほどおもしろい本ははじめてです。その理由は「奇想天外」な事例が多く取り上げられているからにちがいありません。「まえがき」末尾に〈とにかく私自身が「これは面白い」と思った話題をたくさん集めてみました。ぜひ、私と一緒に目の不思議な世界を探検してみませんか〉とあるように、著者自身のこころが動いた・動いていることが読者に伝わってくるからであるようにも思います。興味深い事例は、その事例が用いられた論点(などという難しい言い回しはありません)を覚えておく助けになりますし、また、それをなにかの機会に話題として提供する助けとなるにもちがいありません。巻末には「参考・引用文献」が85掲載されています。(以下、各chapterの概要を引用します)

chapter 1 目の進化 / 生命はいつ頃から「目」をもつようになったのでしょうか。動物の目は、明るさだけを感知する器官から、形や色を見分けるほど高度な「複眼」や「カメラ眼」へと進化を遂げました。さまざまな形態へと発達した目の進化をみていきましょう。

chapter 2 見る・見られる / 弱肉強食の時代、捕食動物と被食動物も競い合うようにして目を進化させていきました。上空や水中の敵から身を守るため、効率よく餌を探すために視力を高め、時に相手の視覚を欺く術を獲得していったのです。そんな動物たちの奇想天外な「生存戦略」を覗いてみましょう。

chapter 3 見えない世界 / 太陽から届く光のうち、ごく限られた「波長」の光しか人間の目で見ることはできません。一方で鳥や昆虫には「紫外線」が、ヘビには「赤外線」が、ミツバチには「偏光」が見えています。これらの動物たちは一体どんな世界を知覚しているのでしょうか。

chapter 4 どこまで見える? / 人間は成長の過程で、どこまで見えるようになるのでしょうか。また嗅覚や聴覚などの感覚器官の中でも、視覚はどのくらいの範囲を知覚しているのでしょう。目の作りが違えば、眩しさや見分けられる色の数も変わります。ここでは「見える範囲」を比較してみましょう。

chapter 5 感じる光 / 地球に棲む生き物にとって光はなくてはならないものです。生き物の多くは太陽光の下で進化を遂げたため、上からの強い日差しや、地球の自転がもたらす明暗のリズムに身体が適応しています。では、「光」は身体に一体どんな影響を与えているのでしょうか。

「目」に関するオモシロイ本
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2022-05-30


眼はなにを見ているか―視覚系の情報処理 (平凡社 自然叢書)

眼はなにを見ているか―視覚系の情報処理 (平凡社 自然叢書)

  • 作者: 池田 光男
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1988/08/01
  • メディア: 単行本


(chapter2 section08 「動いているものは目立って見える」動くモノしか知覚しないカエル p81,82)
あまり知られていないことですが、カエルは静止しているものを認識することができません。例えば、大好物の昆虫がすぐ近くにいても、止まっているとそこにいることさえ気づかないのです。/ カエルの目は静止した背景の中で動くものがあると、それを餌だと認識します。そのため、パソコンの画面に動く昆虫を映すと、餌とまちがえて捕えようとするのです。カエルの目は人間と同じカメラ眼ですが、静止したものに対する視力が極端に低く、動体視力のみが優れています。つまり、動くものを捕らえる能力が特化しているということです。// カエルは視野に動く小さなものを見つけると、獲物の正面に身体を向けて獲物を両目で見ることで距離を測ります。ヒキガエルの場合、舌の伸びる距離はおよそ20センチメートルもあるため、その射程距離も長く、舌を打ち出してから餌を捕らえるまでは、なんと0.03秒という早業です。昆虫の複眼は動きに対してとても敏感ですが、カエルの舌打ちの速さに対しては太刀打ちできません。

(chapter4 section06 「何色まで見分けることができる」人間の4倍の色覚をもつシャコ p147,8)
海に棲む節足動物の仲間のシャコは、錐体の数がずば抜けて多いのが特徴です。その数、なんと12種類、当然人間(3種類)よりも色の識別能力が高いだろうと予想されていたのですが、最近の研究ではあまり色の識別が得意でないことが分かってきました。/ 人間は光の波長が数ナノメートル異なれば色の違いが識別できますが、シャコはその10倍程度の差がないと分からないそうです。/ 例えば、黄色とオレンジの光の波長の差は約15ナノメートルで、人間の目にはその差がはっきりと区別できるのですが、シャコには見分けがつきません。人間は3種類の視細胞の情報を網膜内の神経細胞で組み合わせることによって、多くの色を脳で識別することができます。一方シャコは、人間よりも情報処理の仕方が単純で、12種類の視細胞の情報を単独で処理しています。/ つまり、12種類の視細胞はそれぞれが特定の色のみに反応するだけで、情報を相対的に比較していないため、多くの色を識別することができないということです。/ ただし、こうした仕組みは脳への負担が軽いので、その分、情報の処理速度が速くなります。シャコは視細胞の種類を複数もつことで、脳への負担を軽減しつつ、数多くの獲物や敵を即座に見分けることを可能にしているのです。/ このように視細胞の種類が多くても、多彩な世界を見ているとは限りません。
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