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『世界裁判放浪記』原口 侑子著 コトニ社 [法律]


世界裁判放浪記

世界裁判放浪記

  • 作者: 原口 侑子
  • 出版社/メーカー: コトニ社
  • 発売日: 2022/03/30
  • メディア: 単行本



弁護士資格をもつ女性が、世界の「裁判」を見て回る内容。評者は、世界各国のお国柄、国民性を裁判をとおして知る機会となると期待して手に取った。それは、よほど言語能力のある方でなければできない。ところが、著者が堪能なのは英語のみで、多くは現地の友人やガイドの通訳に頼っての記述になっている。また旅程の関係もあって、ほとんどは「裁判」というより「裁判所」訪問記となっている。傍聴もするが、裁判所内の様子を記す程度である。つまり、評者が期待した世界各地の裁判の個々の中身をとおして、訪問国を知る内容とは言えない。とはいえ、本書の魅力は、そうしたあやふやで中途半端な立ち位置を著者自身が了解したうえで、世界の「裁判」の周辺を見聞きし、ルポしていくところであるように思う。たとえば、次のような記述がある。

〈私は、法廷の時間を「秘境ツーリズム」的に消費する、「観光的な裁判傍聴」に飽きているかもしれない。そう思った。表層だけを見て旅をすることに飽きているのと同じように、その国の言語も、法律の仕組みも分からないまま裁判傍聴をすることにも、裁判を見ることを「観光」の枠の中に作り替えてしまっていることにも、飽きているのかもしれないと。(p192)〉

そうした立ち位置で著者はふわふわと飽きるほどに世界を見て回る。そして、ルポする。そうした中に、日本の裁判事情が『番外編』として挟まれる。著者自身の経験や始まって10年経過した裁判員裁判のことが記される。その比較をとおして、日本という国が逆照射される。

世界放浪記はいろいろ出版されているが、法曹関係者の目線で記されたものは初めてかもしれない。とはいえ、全然お堅い印象はない。著者は、飲んだり食べたり交友を楽しんでいる。それでも、フツウの放浪記に以下のような話はでないだろう。「Lady Justice Njoki Ndung'u」の言葉が取り上げられる。「自分自身が主張しないと、あなたの権利もないものとして扱われる。(If you are absent at the table, so are your interest)。権力というのは、たとえば西洋人や白人、たとえば健康な人々、それから男性の側にある。私たちは、その逆サイドに生きている。だから私たちは、『声を上げること』をつづけないといけない(p80)」。

裁判とは直接関係のない部分の記述だけでも十分に訪問国の国柄、国民性を知るものとなる。自分の旅行先に、本書の記述があるなら、そこを読んで出かけるのも一興であろう。以下、目次にそって記述されている土地を示す。イスタンブール、パリ、ダッカ、タンガイル、アディスアベバ、ナイロビ、リロングウェ、ンカタベイ、ダルエスサラーム、ストーンタウン、モシ、ブジュンブラ、マンジニ、ウィントフック、ダッカ、タンガイル、トリノ、ハワイ州、ブラジリア、ソフィア、サンクトペテルブルク、成都、ダッカ、タンガイル、アピーア、ヤサワ諸島、ラウトカ、オークランド、クライストチャーチ、トンガタプ、ハアパイ。


My Brain is Open―20世紀数学界の異才ポール・エルデシュ放浪記

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  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2003/09/15
  • メディア: 単行本



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  • 発売日: 2018/11/15
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