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「死んだふり」で生きのびる: 生き物たちの奇妙な戦略 / 宮竹 貴久著(岩波科学ライブラリー 314) [生物学]


「死んだふり」で生きのびる: 生き物たちの奇妙な戦略 (岩波科学ライブラリー 314)

「死んだふり」で生きのびる: 生き物たちの奇妙な戦略 (岩波科学ライブラリー 314)

  • 作者: 宮竹 貴久
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/09/15
  • メディア: 単行本



「死んだふり」の極意を学ぶことができるように思った。負担の多いイヤな仕事が回って来そうなときに役立つように思った。

実際のところ「死んだふり行動が観察された生物の分類群と種類」というリストには「脊椎動物/ 哺乳類 / 霊長目(ヒト)/ 成体 / Abrams et al.2009. Volchan et al.2011」(p127)とある。

だが、残念なことにヒトのする「死んだふり」の詳細は記載されない。話の主役は、もっぱら昆虫。体長4㎜足らずのコクヌストモドキである。

ひょんなことで著者は「死んだふり」に興味をもつ。「死んだふり」の(定量的な)研究がなされていないことを知る。ファーブルも気づいていはいたが、追究してはいなかった。それで、アフターファイブを利用し、百均ショップで入手した道具を手に研究を開始する。・・

内容もさることながら、本書の醍醐味は「死んだふり」という「謎多き行動の裏側を、昆虫学者が解き明かす」その過程にある。まるで「桃太郎」よろしく、仲間の助けを得て、研究を推し進めていく。ついにはコクヌストモドキの頭を切り開いて脳を摘出し、ドーパミン量を測定するようになる。ゲノム解析もするに至る。そうして、「僕らが手掛けた研究成果が(欧米の教科書に)10編も引用され」るようになる。感動ものである。

『あとがき』で著者はいう。「25年ものあいだ死んだふりの研究を続けていると、実際に人間の行動や医療の発展につながるかもしれないというところにまで、死んだふりの研究は来た。最初はそんなことまではもちろん考えもせず、ただひたすら死んだふりを観察し、その行動の意味を考え続けた。なぜ飽きもせずに続けられたのか? それは僕が本当に面白がって死んだふりの研究に取り組んできたからだと今になって思う。/ 研究だけではないと思うが、人間のすべての取り組みはその根底に面白く感じる心が大切なのだと僕は思う。研究をしている人間が、また物事を人に伝えようとする人間が、まず自分が面白がってそのテーマに取り組まないことには、その面白さは決して人には伝わらない。使命感で行う研究が大事なのはもちろん言うまでもない。けれども本書を読んでいただいた皆さんが、好奇心から始まる研究の展開も、科学に貢献することに共感してくだされば・・・本懐です」。

そういう楽しさの伝わってくる本である。

参考文献リスト
https://www.iwanami.co.jp/files/moreinfo/0297140/bbl_miyatake.pdf

下記雑誌特集記事p24,25で「偽死」と「乖離」(性健忘・性遁走・性同一障害)との関係が論じられている。

ムー 2022年12月号 [雑誌]

ムー 2022年12月号 [雑誌]

  • 出版社/メーカー: ワン・パブリッシング
  • 発売日: 2022/11/09
  • メディア: Kindle版




この本では読者にとってわかりやすくするために、死んだふりの定義を「外部刺激に対して一定の時間、動かなくなる独特の不動のポーズをとる行動」として話を進めることとする。そうすることで、少なくとも擬死行動と独特のポーズをとらないフリーズ行動を分けて話を進めることができるし、意識した行動か無意識の行動かという複雑な問題も回避することもできる。p8

研究の真の価値は、世界の誰もわかっていないことを明らかにすることだ。どんな小さな分野でも構わない。それが世界で初めての発見ならば、人類にとって1つの知識が増えたことになる。たとえその発見が、すぐに人の役に立たなくても(人の役に立つほうが良いことは言うまでもない)、最初、偶然発見されたペニシリンと名付けられたアオカビが、抗菌作用を持つことがわかり後に人命を救ったのと同じように、いつかは人類の役に立つ日が来るかもしれない。この点に基礎研究と学問の多様性に価値があると考える。p24
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