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松本清張推理評論集-1957-1988 中央公論新社 [文学・評論]


松本清張推理評論集-1957-1988 (単行本)

松本清張推理評論集-1957-1988 (単行本)

  • 作者: 松本 清張
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/07/20
  • メディア: 単行本



どうしてタイトルに「推理」と入れたのだろう。たしかに「推理小説」に関する論評は多いが、文学一般についてのモノもある。講演もあるし、対談も掲載されている。評者自身「推理小説」を読んでこなかったこともあるが、「推理小説」愛好家を読者対象と想定しての刊行であれば、一般読者にとって損失である。

清張理論は推理小説に限らず「文学」一般にも十分通じる。ざっと読んだ印象からいって、もともと推理小説家として名を成そうなどと考えていたわけではなかったようである。たまたま、デビュー作(「西郷札」)との絡みで、また時代の要請でそうなっていっただけのようである。作家・読書家として文学全般に対する自身の見方が提示されており、他作家、評論家(自分を褒める人であっても)への言辞は厳しい。そして、外れていない。

自身の創作の動機については次のように語っている。「私の文学的な動機はやはり人間的な興味です。サマセット・モームも、人間というものは観察すればするほどおもしろくてしょうがないと、人間の存在がおもしろくてしょうがないという意味のことを言っていますが、そういうヒューマン・インタレストというのか、人間への興味、それが私の創作の動機ということですね。(〈面白さ〉の発見 p280)

些末なところではあるが、「文壇の長者番付け第一位」をなんども経験した清張さんが、所得の7割を国税に、2割を地方税に取られているにもかかわらず「知らない人はあれが全部収入だと思っちゃうんですね(笑)」とボヤいているところが面白かった。そうした肉声が対談に残されているのが嬉しい。

また、講演では(作品を掲載する場を設けて日本の貧乏作家の救世主となった)菊地寛へのリスペクトが示されている。大江健三郎がやはり菊池寛へのリスペクトを表明した講演が、『文藝春秋』に掲載されたことがある。そこでも菊地文学の特徴が「ヒューマンインタレストの小説」として括られていた。それを思いだしつつ読んだのだが、いい文章である。(以下、引用)

菊池寛の歴史小説の解釈については、私は教えられるところが多い。それから菊池寛の小説のつくり方、これも大きな教訓であります。もし私がもう少し早く生れ、あるいはもう少し早く菊池寛と機縁を持つことがあったならば、私は菊池先生の門下生になっていたろうと思う。門下生でも俊足の一人になり得たろうと思います(会場、拍手)。というのは、菊地先生の境涯と私の境涯とよく似ている。感情にも共通するところが多いからであります。 / 菊池寛は孤独でありました。友人は多かったように見えるけれども、ほんとうの親友、心の許せる親友があったかということ、私は疑いを持つ。・・後略・・(「菊池寛の文学」p320)



松本清張社会評論集 (講談社文庫)

松本清張社会評論集 (講談社文庫)

  • 作者: 松本清張
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: Kindle版


目次

『小説研究十六講』を読んだころ
推理小説に知性を
推理小説の独創性
ブームの眼の中で
推理小説のヒント
推理小説の文章
懸賞小説に期待する
一人の芭蕉


森鴎外
 鴎外の暗示
仁木悦子
 『猫は知っていた』
角田喜久雄
 角田さんの受賞 / わが理想の人
江戸川乱歩
 対談・これからの探偵小説 / 江戸川乱歩論 / 偉大なる作家江戸川乱歩 / 江戸川乱歩を惜しむ / 弔辞
木々高太郎
 木々先生のこと / 追悼・木々高太郎 / 木々作品のロマン性 / 半七とホームズ
坂口安吾
牧逸馬
 牧逸馬の「実話」手法
平野謙
 活字と肉声
J・S・フレッチャー / E・C・ベントリー
ジョルジュ・シムノン
 メグレ文学散歩 / 愛欲を包む霧


新しい推理小説 ― 生まれよ本格派
新本格推理小説全集に寄せて
推理小説と旅
推理小説の凝集を
推理小説年鑑序文
 一九六四 / 一九七〇 / 一九七一
『最新ミステリー選集』まえがき
推理小説の題材
小説と取材
コーヒーと推理小説と古代史と
私の小説作法 ― 自作解説
〈面白さ〉の発見 ― 推理小説と実生活
菊池寛の文学
グルノーブルの吹奏
国際推理作家会議で考えたこと ― ネオ「本格派」小説を提唱する

初出・註・解題
松本清張略年譜
解説 巽昌章



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