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評伝 小室直樹:現実はやがて私に追いつくであろう 村上篤直著 ミネルヴァ書房 [自伝・伝記]


評伝 小室直樹(下):現実はやがて私に追いつくであろう

評伝 小室直樹(下):現実はやがて私に追いつくであろう

  • 作者: 村上篤直
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2018/09/18
  • メディア: 単行本


小室直樹が復活した

プロフィルによると著者は、同じくミネルヴァ書房から刊行された『小室直樹の世界』に著作目録と略年譜を執筆したという。本書を読んで第一に感じたのは、その作製した著作目録と略年譜に肉付けをして出来たモノという印象だった。出来事と関連するエピソード、著作の要約とながながとした引用などなどがバラエティー豊かに、悪く言えば粗雑に並べられている。

しかし、対象が超弩級、ウルトラヘビー級のオモシロイ人物なので、そんな瑣末な欠点はすべて吹っ飛んでしまう。昭和・平成の世に南方熊楠がよみがえったという感じである。その博識、ハチャメチャ、人間的な可愛さ:純情・シャイな点において、度を越している。ふつうのハカリでは計測不能・・・。

残念ながら、その「超天然記念人物」と称された小室直樹先生はもういない。評者は、亡くなる2年ほど前、古書店で山本七平との対談本(『日本教の社会学』)を105円で入手し、はじめて小室直樹を知り、その学識に驚嘆した。そして後に、その絶版となっていた本がオークションに出品されて3万8千円で落札されているのを知ってまたまた驚いた。それでも、手元にその本は残してある。売ることはなかった。

そうこうするうち、訃報を知る。巨星落つ。大きなメガネのふくろうのような写真が新聞に掲載されていた。「ミネルヴァのふくろうは、夜に飛びたつ」という言葉が思い浮かんだ。ふくろうは、この世を去ったのである。

著者は、飛び去ったフクロウを蘇生させる。評伝としてである。『あとがき』で、「小室先生は私の命の恩人です」と著者は記している。「科学はすべて仮説、モデルだ」と教えられ生きる希望を絶やすことなく保てたという。恩人に対する、深い感謝が本書に示されている。著者は、小室本人だけでなく、その父祖たちも蘇生させる。小室の曽祖父は会津藩士・宗像虎四郎という仮説を立て、検証する。評伝を外れて著者の創作的な部分も収められた本書は、恩人小室直樹への卒業論文のようなものかもしれない。博士存命であれば「よく調べました。よく出来ました」と褒めてくれるにちがいない。

2019年2月9日にレビュー

小室直樹さん、亡くなる:「日本教講義」動画
https://bookend.blog.so-net.ne.jp/2010-09-29

新版 三島由紀夫が復活する

新版 三島由紀夫が復活する

  • 作者: 小室 直樹
  • 出版社/メーカー: 毎日ワンズ
  • 発売日: 2023/04/16
  • メディア: 新書



小室直樹の世界―社会科学の復興をめざして

小室直樹の世界―社会科学の復興をめざして

  • 作者: 宮台真司
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 単行本



くまぐす外伝 (ちくま文庫)

くまぐす外伝 (ちくま文庫)

  • 作者: 平野 威馬雄
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1991/06
  • メディア: 文庫



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「ブラック・ハンドーアメリカ史上最凶の犯罪結社」スティーヴン トールティ著 早川書房 [自伝・伝記]


ブラック・ハンド―ーアメリカ史上最凶の犯罪結社

ブラック・ハンド―ーアメリカ史上最凶の犯罪結社

  • 作者: スティーヴン トールティ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/10/18
  • メディア: 単行本


孤独と「パッツィエンツァ」をディカプリオがどう演技するか楽しみ

タイトルにある「ブラック・ハンド(イタリア語でマーノ・ネーラ)」という犯罪結社への言及はほとんど無い。その組織の構造が明確にされているわけでもない。脅迫を主にして金銭をまきあげる凶悪なグループの暗躍が記されてはいるものの、その頭目の系譜が記されるわけでもない。「ブラック・ハンド」と称するグループは数多くあり、その標的は、主にイタリア系アメリカ人である。そして、「ブラック・ハンド」自体、その構成員はイタリア系アメリカ人である。そのグループが国家的脅威となるように思われる中で活躍する、ひとりの刑事ペトロシーノ(表紙写真・左側の人物)に焦点が当てられる。

実質的に本書は、その最初期からのイタリア人のアメリカ流入の歴史であり、イタリア系アメリカ人がアメリカ社会で受けた扱いを「ブラック・ハンド」を介して知ることのできる本である。ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント(ワスプ)が社会の優位で主たる位置を占めるなか、「ホワイト」とは見なされず、「アングロサクソン」でも「プロテスタント」でもなく、しかも遅れてあとから来た移民として蔑まれ利用され、社会の下層に位置した彼らがとった・とらざるを得なかった生き方が示される。

また、本書はイタリア移民の子として生まれ、靴磨きから刑事となり、後に「イタリア人街の内でも外でも、アメリカ的な成功物語の体現者と思われ」るようになるペトロシーノの評伝でもある。彼は同胞イタリア系移民の社会的立場を劣悪なものとして固定しかねない「ブラック・ハンド」を一掃しようと闘う。しかし、その上昇志向のゆえに、同胞の間で、またワスプ社会の中で孤独を経験する・・・。

ディカプリオ主演で映画化されるという。〈意志の力と体力に加えて、十代のペトロシーノはイタリア人が「パッツィエンツァ」と呼ぶものを示しはじめた。直訳すれば「忍耐力(ペイシェンス)だが、イタリア南部の文化においては特別な意味をもっている。それは「心の奥深くの感情を外に出さず、解き放つべきときが来るのを待つ」ことだ。イタリア南部では、男はそうでなければならないとされている。それでこそ迫害や苦難(ミゼーリヤ)に耐えられるのだ。〉とある。孤独と「パッツィエンツァ」をディカプリオがどう演技するか楽しみである。

蛇足だが、読んでいる間、ボブ・ディランが、クレージー・ジョー(Crazy Joe):ジョーイ・ギャロのことを歌った「ジョーイ」のメロディーが頭のなかで流れていた。『欲望』というアルバムに収められている一曲である。

2019年1月7日にレビュー

欲望(紙ジャケット仕様)

欲望(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2014/04/23
  • メディア: CD



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マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」(新潮選書) 冨田 浩司著 [自伝・伝記]


マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」 (新潮選書)

マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」 (新潮選書)

  • 作者: 冨田 浩司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「鉄の女」サッチャーを硬質の文章で

「鉄の女」サッチャーを硬質の文章でとらえた評伝。政治と外交を知る現役官僚(公使・大使経験者)の著作。仕事の傍ら執筆したというが、ため息がでるような本だ。もちろん、ため息は、感嘆してのことで、呆れてではない。政治とは何か、外交とは何か、リーダーシップとは何か考えさせられる。そんな小難しい質問を提起するまでもなく、ただ単に政治家の評伝としてオモシロイ。ムカシは、政治家の粒(つぶ)が大きかったなあと感じることしきり。

「序にかえて」から少し抜粋してみる。〈端的に言えば、サッチャーが目指したことは、戦後コンセンサスの下で形成された国家と個人の間の境界線を引き直し、個人の自由を再び国民の営みの中核に据え直すことであった。彼女はそのことを、かつて聖地エルサレムを奪還するために十字軍が示したのと同様の宗教的確信をもって追及し続けた。そして、個人の自由へのコミットメントは、彼女を冷戦の勝利に向けた闘いにも駆り立て、戦後外交史に大きな足跡を残すことを可能とした。 / 政治指導者としてのサッチャーの凄さは、個人の自由を追求するイデオローグとしての側面と、卓越した行政手腕を持つ実業家としての側面を兼ね備えていたことであり、後者の能力はフォークランド戦争の指導や数々の外交交渉において遺憾なく発揮された。しかしながら、彼女が歴史に名を刻むのは、疑いなく政治の変革者としてである。 / 政治は通常の場合、資源配分の技術である。しかし、時として政治は単なる技術に留まらず、資源配分のあり方そのものを変える必要性に直面する。その時、指導者は国家と個人の関係という核心的な問題に正面から立ち向かわなければならない。
(中略)
サッチャーは人間としての器においてチャーチルには遠く及ばない。しかし、国家と国民の関係を律するという政治の本質的な使命において、彼女が成し遂げたことの高みはーー「良きにつけ、悪しきにつけ」という注釈付きであったとしてもーーチャーチルを確実に凌駕する。 / (チャールズ・)ムーアは、サッチャーがその性別、信念、人格のために国際的にも他のすべての指導者の尺度となる一つの原型となったとした上で、彼女のリーダーシップは一部の指導者にとっては教訓とすべき寓話、他の指導者にとっては道標となると指摘する。/ 政治が大きな変革期を迎える中、この道標が示す方向を吟味することの意味は大きい。本書がその試みにささやかな貢献をなすとすれば幸いである。

2018年12月4日にレビュー

危機の指導者チャーチル (新潮選書)

危機の指導者チャーチル (新潮選書)

  • 作者: 冨田 浩司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/09/01
  • メディア: 単行本



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『自動車王フォードが語るエジソン成功の法則』 言視舎 [自伝・伝記]


自動車王フォードが語るエジソン成功の法則

自動車王フォードが語るエジソン成功の法則

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 言視舎
  • 発売日: 2018/05/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


フォードによるエジソン伝(「成功」の意味を知ることができる)

「成功の法則」とタイトルにあるが、法則を列挙解説したビジネス書ではない。ガソリン車の大量生産によって名を成したフォードによるエジソン伝である。フォードがエジソンに認知されるにいたったいきさつから語りだされる。

当時、「馬なし馬車」つまり自動車は、電気によって大衆化されるものと多くの人は見ていた。そのような中、ガソリン車を開発したフォードに、エジソンは言う。「きみ、それだよ、やったじゃないか、がんばって続けなさい。電気自動車は発電所の近くに居なければならない。バッテリーは重すぎる。蒸気自動車はどちらも駄目だ。ボイラーと火元を持たなければならないからね。きみの自動車は、なんでもそろっている(自前の動力装置を積んでいる)火を使わず、ボイラーもない、煙も蒸気もない。よくやったね。がんばりなさい」。

開発の点で迷いを抱えていたフォードは、いう。「ここで一挙に雲が晴れた。世界最高の発明の天才から全面的な賛同を与えられたのだ。世界で最もよく電気を知っている人が、この目的(自動車)に関しては私のガス発電機のほうが電気モーターより適していると言ってくれたのだ。」

そして、つぎのように語る。「視野の広さはエジソン氏の特にすぐれた能力である。電力利用についても、特定の分野においてはほとんど無限に広がるであろうが、そうでない所では一時しのぎに過ぎないことをよく知っていた。エジソンの数多くの能力のうちで、全体像をつねに把握するところは実に稀有のものである。盲目的にものを信じるということは絶対にない。」

巻末に年譜がある。エジソンは1847年、フォードは1863年に生まれ。フォードは、自分より16歳年長のエジソンの会社に16歳で働き出す。二人共に目論見がはずれたり、研究所が全焼したりなどの難儀難題をかかえる。それにもめげず「成功」をおさめていった、というところが凄いところだ。そして、その「成功」は、単なる発明品を得ることではない。開発普及し大衆化させることまでが含まれる。まったくのゼロから素材の選択吟味からはじめて白熱電灯を開発普及させたエジソンの凄さを改めて感じた。きっと、フォードも語りながら、あらためて畏敬の念を新たにしていったことであろう。学ぶことの多い本だ。

目次(章立て) // 1 エジソンとの出会い 2 少年時代の我が理想の人 3 エジソンがもたらした恩恵 4 実用の意味 5 エジソンの天才 6 発明の方法 7 成功のよろこび 8 あらゆるものへの興味 9 いつ仕事をして、いつ眠るのか 10 書物を超えた教育 11 エジソンの精神は生きていく / トーマスエジソン年譜


2018年8月13日にレビュー

大人が読みたいエジソンの話 発明王にはネタ本があった! ? (B&Tブックス)

大人が読みたいエジソンの話 発明王にはネタ本があった! ? (B&Tブックス)

  • 作者: 石川 憲二
  • 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
  • 発売日: 2017/03/24
  • メディア: 単行本



快人エジソン―奇才は21世紀に甦る

快人エジソン―奇才は21世紀に甦る

  • 作者: 浜田 和幸
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 1996/08
  • メディア: 単行本


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「江戸時代のハイテク・イノベーター列伝」出川通 編 言視舎 [自伝・伝記]


江戸時代のハイテク・イノベーター列伝

江戸時代のハイテク・イノベーター列伝

  • 出版社/メーカー: 言視舎
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



日本人は捨てたものではないのだぞ、こんなにすごい人たちがかつてはいたのだぞ、読者がもし将来に不安や危機感を持っているとしたなら、そのようなものを吹き飛ばして欲しい という願いの込められた本である。

副題に【「近代日本」を創った55人のエンジニアたち】 とある。1名につき6ページが当てられている。執筆したのは「NPO法人テクノ未来塾」の会員19名。技術畑の人たちでライターとしてはアマチュアと言っていいだろう。技術者が技術者について書いた本である。

掲載されている人物たちそれぞれに簡単な説明が付されている。たとえば『杉田玄白』には「江戸のプロデューサー」である。『解体新書』『蘭学事始』の著者としてしか見ていない評者からすると驚きである。記事にはまた、執筆者個人の特別な思い入れがあっておもしろい。「筆者は玄白のように、世の中に新しい衝撃を与えることに憧れを抱いています」といった具合である。

各人物を扱うに「1 なぜこの人物を取り上げるか」「2 人物紹介」「3 フィールドガイド」「4 参考文献」となっている。人物の来歴・事績の説明。それから由緒ある場所や関連書籍の紹介となっている。百科事典を見れば出ていそうな記事ではあるのだが、短い文章のなかでハッとさせられることがある。

たとえば、『吉田光由』の項で「数学はエンジニアにとって『言葉』です」。『関孝和』の項では「この点竄術により『言葉』を得た算学は独自にそして高度に発展する基盤を得ました」とある。その学問領域における「言葉」いわば共通語、皆で共有できる便利なモノを創出することが学問や産業の発展に大きく貢献するものとなることを知ることができた。

それは「触発」と言っていい。技術者が技術者について書いた本だからこそ受けることのできた触発であるように思う。百科事典の一般的な記述では同じ内容を扱っていても素通りしてしまったような気がする。読む人によって啓発・触発されるところは異なるだろう。自分は誰に、どの点に啓発・触発されるか読んでみるのも一興に思う。


江戸のミリオンセラー『塵劫記』の魅力―吉田光由の発想

江戸のミリオンセラー『塵劫記』の魅力―吉田光由の発想

  • 作者: 佐藤 健一
  • 出版社/メーカー: 研成社
  • 発売日: 2023/07/13
  • メディア: 単行本



江戸の宇宙論 (集英社新書)

江戸の宇宙論 (集英社新書)

  • 作者: 池内 了
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2022/03/17
  • メディア: 新書


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「大泉黒石: わが故郷は世界文学」四方田 犬彦著 岩波書店 [自伝・伝記]


大泉黒石: わが故郷は世界文学

大泉黒石: わが故郷は世界文学

  • 作者: 四方田 犬彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/04/17
  • メディア: 単行本



表紙の写真と「大泉」という姓を見て「アレっ!」と思った。ご存知の方はご存知と思うが、黒石は映画俳優大泉 滉(おおいずみ あきら、1925年1月1日 - 1998年4月23日)の父親である。

黒石は父親がロシア人母親が日本人のハーフで、西洋人の容貌をして明治、大正、昭和、戦時下の日本を生きた。日・露・英・仏語に堪能で、造話力にたけ、たいへん才能のある人物だった。幼少時、父親の故郷を訪ねトルストイ翁に会った逸話の持ち主でもある。大正時代、ベストセラー作家となっていたが、「虚言」を理由に文壇から排斥された。その文学的才能については著者が作品のいくつかを紹介しているが評者には確なものに思える。

その歴史的位置づけについて著者は次のように記す。「大泉黒石は今日、あらゆる日本文学史から排除されている。相当の文学通でないかぎり、その名前を記憶している人はいないだろう。1960年代末から70年代にかけて、夢野久作や久生十蘭、また小栗虫太郎や国枝史郎といった、それまで正統的な文学史では無視されたきた作家たちが次々と復権した時にも、なぜか黒石だけはほとんど話題にならなかった。没後30年にあたり、1980年代後半には緑書房を発売元として全集が刊行された。もっとも残念なことに第一期で終わってしまい、収録されなかった作品は少なくない。研究家が精緻な評伝を執筆することもなければ、晩年に到る正確な年譜も存在していない。端的にいって全体像がいまだに掴めないのである」。

日本という国の文学空間の闇に取り残された黒石に光を投げかけたのが本書と言っていい。評者は、夢野久作らとどのように作風が異なるものか全集にあたってみたく思っている。昭和文壇が「虚言」として退けた部分がもっとも魅力あるものとして、甦ってくるように思う。楽しみである。

風の又三郎   島耕二監督   片山明彦 中田弘二 北竜二 風見章子 大泉滉 林寛 見明凡太郎 1940年
https://www.youtube.com/watch?v=smb7Ngj0-LI

ぼく野菜人―自分で種まき、育て、食べようよ! (カッパ・ブックス)

ぼく野菜人―自分で種まき、育て、食べようよ! (カッパ・ブックス)

  • 作者: 大泉 滉
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/07/11
  • メディア: 新書



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「相場師一代」是川 銀蔵著(小学館文庫) [自伝・伝記]


相場師一代 (小学館文庫)

相場師一代 (小学館文庫)

  • 作者: 是川銀蔵
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: Kindle版


高邁な気概にあやかれます
2005年8月19日にレビュー

1992年9月に95歳でお亡くなりになった著者が、死の前年4月に『自伝 波乱を生きる』と題して上梓したものが当該書籍です。「天晴れさわやかな」自伝で、「よくぞ書き残してくださいました」と申し上げたくなるような読後感があります。当人が残さなければ城山三郎さんあたりが伝記として纏めてくださったかもしれません。しかし、伝記ものの達人城山三郎とはいえこれ以上のものは纏めえないのではないかと思われます。

城山三郎さんの著作に『粗にして野だが卑ではないー石田礼助の生涯』『もう、きみには頼まないー石坂泰三の世界』という伝記ものがあります。どちらも明治生まれの気骨のある財界人の「天晴れさわやか」な伝記ですが、当該書籍からもそのような感慨を得ました。

明治生まれの高邁な気概にほれ込んで著作にとりかかり、敬愛の念を深めつつ城山さんはお二方の著作を纏めていかれたにちがいありませんが、当該書籍には、90歳を越えてまだまだという“ご当人の”気概があふれています。

この気概はいったいどこからくるのでしょうか?相場に手を出し、限られたパイを奪い合い、利益を求めるという姿勢自体、日本の文化的背景に照らして考えるならば「卑しい」とみなされうるところ大でありますが、そうした世界に身を置いてなお高邁さが感じられるというのはなぜでしょうか?

これは『自伝』です。自分を美化しているところも大いにあるかもしれません。是川銀蔵氏ご本人を知る人々の中には「いやいやトンデモナイ・・」と悪評を浴びせる方もあるいはいるかもしれません。しかし、そうした点を割り引いてもなお拝読するに値する書籍であると私は思います。

そろばん (PanRolling Library)

そろばん (PanRolling Library)

  • 作者: 山崎 種二
  • 出版社/メーカー: パンローリング
  • 発売日: 2009/01/23
  • メディア: 文庫



論語と算盤

論語と算盤

  • 出版社/メーカー: パンローリング株式会社
  • 発売日: 2015/06/08
  • メディア: Audible版



石田禮助の生涯 「粗にして野だが卑ではない」 (文春文庫)

石田禮助の生涯 「粗にして野だが卑ではない」 (文春文庫)

  • 作者: 城山 三郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1992/06/10
  • メディア: 文庫



石坂泰三の世界 もう、きみには頼まない (文春文庫)

石坂泰三の世界 もう、きみには頼まない (文春文庫)

  • 作者: 城山 三郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1998/06/10
  • メディア: 文庫



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『藤沢周平 遺された手帳』遠藤展子著 文藝春秋 [自伝・伝記]


藤沢周平 遺された手帳

藤沢周平 遺された手帳

  • 作者: 遠藤 展子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/11/29
  • メディア: 単行本


藤沢周平の作家としての成長、その生き様を知ることができる

藤沢周平(昭和2:1927年~平成9:1997年)が遺した手帳には、昭和38(1963)年から51(1976)年まで、藤沢周平36歳から49歳までの出来事、思いが綴られている。本書は、昭和38年生まれの著者(展子)が、周平の没後20年を経て、『遺された手帳」を引用しつつ、読み解いたもの。

著者は、「父が小説を書く理由としてあげていた、言葉では言えない(「人に言えない」)『鬱屈』の正体を知りたくて」この本を書き始めたという。口数の少ない父が、遺してくれた手帳には、「私の知らなかった父の気持ちや考えが書かれてい」た。執筆を終えて著者は、「今回真正面から向き合ったおかげで、母を亡くした父が、どんな気持ちで私を育ててくれたかがとてもよくわかりました」と記す。

そう書くと、『遺された手帳』は、単なる家族のことを記した身辺雑記と勘ちがいされる方もいるに違いない。しかし、そうではない。昭和39年元日の記述にはこうある。「いま、幸福が手の中にあった時去ったお前が哀れでならぬ。展子を守り私はもう一度生きてみる。お前も一緒にだ。展子の中にお前がいる。悦子よ、安らかに眠れ。・・略・・」。そして、1月21日の記述には、こうある。「会社で新しい机と上衣をもらった。やはり貧しいために悦子を殺してしまったような気がする。貧しさを二人とも苦にしなかったのだが。 / 昨日『上意討』を出し、山戸氏と懇談。三月号もらって帰る」。その記述に対して著者は次のように記す。「父がそのせいで自分を責める気持ちになるのは仕方のないことですが、その後の人生でも父はお金に執着することはありませんでした。やはり父には、人生にはお金よりも大切なものーー小説があったからです。『上意討』は「読切劇場」の四月号に掲載されています」。

『遺された手帳(昭和40年4月)』の記述に対して著者は次のように述べる。「父の小説の書き方は、一つの作品をじっくり何度も書き直して、完成形に近づけていくやり方でした。それは私の夫(引用者注:周平の著作権管理をしている)が父の原稿を整理していて見つけた、草稿の多さからわかりました。ですが気持ちについては、いつまでも同じところにとどまっているのではなく、思い切り良く切り替えて、次の賞を狙うところなどは、三十代の若い父の作家への情熱を感じるのです。 / 父はこの頃から、明確に、芥川賞ではなく直木賞を目指していました。とはいえ、まだオール讀物新人賞を受賞する前ですから、驚きました。しかし、そのくらいの強い意志と実行力がなければ、小説家として生きることは難しい。高校生の頃、父に私が『私、将来は小説書きたい』と言った時に、即座にまじめな声で、『お前のようにのほほんと生きてきたものには小説は書けない』と言われました。今思えば、ただ小説を読むのが好きとか、何となく小説を書いてみたいなどという程度で出来るはずもないわけです。 / 小説を書くのが『体力的』と表現するあたりは、実体験なのだと思います。父は生前、小説を一本書くと、三キロ体重が減ると言っていたことを思い出します。もともと軽量級なので、父にとって三キロは大変なことです。それをもとに戻すのが、また一苦労だといつもぼやいていました。小説を書くには体力が必要だとこの時から感じていたのでしょう」。

『遺された手帳』を読む者は、娘(展子)の成長とそれを見守る者たち(親族、後添い)を背景・遠景として、サラリーマン・作家の「二足のわらじ」から直木賞を受賞して専業作家となり、次々と作品を書いていく周平の作家としての成長の様を知ることができる。まだ、ファクスも電子メールもない時代であり、編集者とのやりとりも、電話や直接会ってである。おのずと人間関係は濃密になる。そうしたなか、義理堅く、丁寧に人に接する周平の姿(家族から見ると「外面のいい」様子)も知ることができる。昭和の時代の人間味を感じさせるほのぼのとした本である。周平ファンのみならず、一読をお勧めしたい。

2018年1月31日にレビュー

父・藤沢周平との暮し (新潮文庫)

父・藤沢周平との暮し (新潮文庫)

  • 作者: 遠藤 展子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/09/29
  • メディア: 文庫



三屋清左衛門残日録 (文春文庫)

三屋清左衛門残日録 (文春文庫)

  • 作者: 藤沢 周平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1992/09/01
  • メディア: 文庫



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『大人が読みたいエジソンの話 発明王にはネタ本があった! ?』石川 憲二著 日刊工業新聞社 [自伝・伝記]


大人が読みたいエジソンの話 発明王にはネタ本があった! ? (B&Tブックス)

大人が読みたいエジソンの話 発明王にはネタ本があった! ? (B&Tブックス)

  • 作者: 石川 憲二
  • 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
  • 発売日: 2017/03/24
  • メディア: 単行本


エジソン伝の「裏」(ホントウのところ)を知ることができ、誰かとエジソンのことを話すときのネタとして十分に過ぎる

子どもたちにもよく知られる「偉人」のひとりエジソン。しかし、流布されている伝記の記述には、ちょっと考えると、そのまま信じることの難しいものもある。著者はソコに突っ込みを入れる。そして、ホントウのところを示していく。そのツッコミの入れ方が軽快で、たのしい。記述されている中には、エジソン自身・本人が明らかにしたものを伝記作者がそのまま受け入れて記したものもあるという。発明家であると同時に企業家でもあったエジソンには、ときに宣伝も必要であったのだ。

著者が本書を書いたきっかけについては、一冊の本が関係している。「子供時代にたくさんの本を読んだ(読まされた)エジソンだが、当時の彼がもっとも興味をもち、大きな影響を受けたのがリチャード・グリーン・パーカーという著者の科学入門書『A School of Natural and Experimental Philsophy』(以下、『自然と実験の哲学』とする)であることは多くの資料が記している。ところが、それほど重要な1冊でありながら、これまで詳しく解説されることはなかった。このため、エジソンの生涯を探るうえでミッシングリングのような存在になっていたのである」。筆者は、その本を入手し苦労して読み進める。そして、「あの発明はここからヒントを得たんだ!」と思える箇所を次々と見つける。「発明王の人生の設計図を盗み見ているような気分にすらなる。

本書は、厚さ1センチに満たない本ではあるが、著者のそうした興奮が伝わってくる内容で、エジソン伝の「裏」(ホントウのところ)も知ることができ、誰かとエジソンのことを話すときのネタとして十分に過ぎる。

2017年5月29日にレビュー
*********

〈以下は、著者が「次の3冊は、比較的、信頼できると判断したので(ただし、すべての情報が正確だとは限らない)、基礎資料として重宝させていただき、文中でも何度か引用している」本〉


エジソンの生涯 (1962年)

エジソンの生涯 (1962年)

  • 作者: マシュウ・ジョセフソン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1962
  • メディア: -



エジソン―20世紀を発明した男

エジソン―20世紀を発明した男

  • 作者: ニール ボールドウィン
  • 出版社/メーカー: 三田出版会
  • 発売日: 1997/04
  • メディア: 単行本



エジソン―電気の時代の幕を開ける (オックスフォード 科学の肖像)

エジソン―電気の時代の幕を開ける (オックスフォード 科学の肖像)

  • 作者: ジーン アデア
  • 出版社/メーカー: 大月書店
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 単行本



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序文『わが師・先人を語る 3』 上廣倫理財団  弘文堂 [自伝・伝記]


わが師・先人を語る3

わが師・先人を語る3

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2017/02/09
  • メディア: 単行本


薫陶を受けた人物の語りをとおして知る「師」「先人」の姿

上記書籍は、講演会で話されたものを、書籍化したもの。著名な方がたが、“自分の”恩「師」・について語っている。それゆえ、単なる伝記・評伝とは異なり、本書にはふたつの楽しみがある。ひとつは、薫陶を受けた人物の語りをとおして・のみ得られる(しか得られない)恩「師」の像を思い描くことのできること。そして、もう一つは、「師」について語る「語り手」自身を知ることのできること。その語りには、深いかかわりならではの微妙な感情も揺曳している。語られたものを通して、読者は、「師」と「語り手」(弟子)との関係、そして「師」の仕事をどのように継承している(いく)のか吟味できる。その語りをとおして見えてくる恩「師」の像は、欠点と思われるものも、たいへん輝いてみえる。「語り手」たちの、ふかい敬愛の念のなせるわざであるように思う。

本書中、例外的存在は、靖国神社宮司:徳川康久氏。氏は、「わが先祖、慶喜様のひととなり」と題して曽祖父:徳川慶喜について語っている。

NHKラジオ第2の『文化講演会』で放送されたものもいくつかある。聞き逃した方は、必見。

2017年4月18日にレビュー


目次

濱田純一(東京大学前総長) ―『銀の匙』の国語教師・橋本武先生と私

久留島典子(東京大学附属図書館長) ―日本中世史研究の先達・石井進先生と私

平岩弓枝(作家) ―文学の師・長谷川伸先生と私

林望(作家、国文学者) ―対照的な二人の恩師、森武之助先生と阿部隆一先生

山極壽一(京都大学総長) ―二人の恩師の夢、今西錦司先生と伊谷純一郎先生

位田隆一(滋賀大学学長) ―日仏の恩師、田畑茂二郎先生とシャルル・ショーモン先生

徳川康久(靖国神社宮司) ―わが先祖、慶喜様の人となり

川淵三郎(日本サッカー協会最高顧問) ―少年期と青年期の師、吉岡たすく先生とクラマーさん

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(濱田純一・元東大総長が、本シリーズの特性をよく捉えた序文を記している。以下は、その引用)。

誰しも人生において、師として、あるいは先人として意識する人がいることであろう。それは、幸せなことである。そして、そうした人が身近に接してきた人であればあるほど、「わが師、先人を語る」機会を持つのは、ちょっとした誇りである。しかし同時に、「わが師・先人を語る」ということには、何やら気恥ずかしさのようなものが付きまとうのを感じることも事実である。それは、「わが師・先人を語る」ということが、ただ師の卓越した業績や人格の素晴らしさを語るだけではなく、同時に、語り手自身の内面や成長の過程、ときには自分の未熟さをさらけ出すという面も持つからであるように思う。

この「わが師・先人を語る」という講演シリーズは、「偉人伝」とは異なる。つまり、優れた人の業績や人格を客観的に(あえて言えば、第三者的に)評価しようというものではない。むしろ、その語り手が、対象となる人への思い入れや、その人からの教えを、気恥ずかしいまでに率直にさらけだす。そこにこそ、「わが師・先人を語る」ことの意義がある。その意味で、本書は、語られる人と語る人がともに奏でる協奏曲であると言ってもよい。

人は自然をはじめ、さまざまな事象や事物から学ぶことができるが、何より本質的であるのは、人と人との相互作用を通じての学びである。相互作用による学びは動物一般の属性として備わった本能ともいえるが、学びの相手を師あるいは先人として意識するというのは、すぐれて人間的な営みである。また、人間として、研究者として、あるいは作家などとしていかに優れた人であっても、「わが師・先人」として語られるときには、その人と共振できるだけの力が語り手の側になければならない。この講演シリーズでは師あるいは先人として取り上げられている人たち自身には、おそらく、師たろう、先人たらんと自ら意識した人はいないはずである。「わが師・先人」を生み出すのは、学び感じ取る側の力でもある。

こうした意味で、この書『わが師・先人を語る』に目を通して下さる読者には、その共振のプロセスにこそ面白さを感じ取っていただければと思う。もちろん、共振の仕方は実にさまざまである。一瞬の所作、一つの言葉にはっとすることもあれば、長い触れ合いの中で深い影響をじわりと感じることもある。「教えない」という教え方で学ばされることもあれば、手を取るようにして学びを受けることもある。また、出会いの初めからその人を師として意識することもあれば、時を経て後に師としての存在の重さに突然気づくこともある。

こうした師・先人には、どうやら共通する特徴があるように見える。それは、何よりも、自分が行っている研究にしろ執筆にしろ、あるいは組織の運営などにしろ、それを(やや妙な言い回しになるが)情熱的に楽しんでいる姿勢である。他方、語り手の中には誰も学びを強制された人はいない。むしろ、師・先人が自らすすんで楽しむ姿に接することで、周囲の人間が自然とそれにつられて自分も深く考え、その力や感性を磨きあげていく風景が、それぞれの語り手の言葉の中から浮かび上がってくる。それは、たんなる知識の継承や伝承といった平板な用語では表現し尽くせないものである。

この序文では、師や先人という言葉の意味にはことさらに触れなかった。その解釈は読者によってさまざまであって良いと思う。一つのヒントは、この「わが師・先人を語る」というテーマの下に一連の講演会を主催した上廣倫理財団が考える、「倫理」というものの捉え方にあるであろう。それは、「人々がよりよい人生を送るために役立つ叡智やその実践」とされているが、その指針をとりわけて与えてくれたと感じる人を師あるいは先人として受け止めるのかと思う。本書において師や先人について語る一人一人が、いかなる叡智をどのようにして学び、感じ取っていったのか、また、それをどのように実践していったのか、そのプロセスの読み解きを楽しんでいただければ幸いである。

2017年1月3日
濱田純一


わが師・先人を語る 1

わが師・先人を語る 1

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2014/11/04
  • メディア: 単行本



わが師・先人を語る 2

わが師・先人を語る 2

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2015/12/15
  • メディア: 単行本



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