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マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」(新潮選書) 冨田 浩司著 [自伝・伝記]


マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」 (新潮選書)

マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」 (新潮選書)

  • 作者: 冨田 浩司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「鉄の女」サッチャーを硬質の文章で

「鉄の女」サッチャーを硬質の文章でとらえた評伝。政治と外交を知る現役官僚(公使・大使経験者)の著作。仕事の傍ら執筆したというが、ため息がでるような本だ。もちろん、ため息は、感嘆してのことで、呆れてではない。政治とは何か、外交とは何か、リーダーシップとは何か考えさせられる。そんな小難しい質問を提起するまでもなく、ただ単に政治家の評伝としてオモシロイ。ムカシは、政治家の粒(つぶ)が大きかったなあと感じることしきり。

「序にかえて」から少し抜粋してみる。〈端的に言えば、サッチャーが目指したことは、戦後コンセンサスの下で形成された国家と個人の間の境界線を引き直し、個人の自由を再び国民の営みの中核に据え直すことであった。彼女はそのことを、かつて聖地エルサレムを奪還するために十字軍が示したのと同様の宗教的確信をもって追及し続けた。そして、個人の自由へのコミットメントは、彼女を冷戦の勝利に向けた闘いにも駆り立て、戦後外交史に大きな足跡を残すことを可能とした。 / 政治指導者としてのサッチャーの凄さは、個人の自由を追求するイデオローグとしての側面と、卓越した行政手腕を持つ実業家としての側面を兼ね備えていたことであり、後者の能力はフォークランド戦争の指導や数々の外交交渉において遺憾なく発揮された。しかしながら、彼女が歴史に名を刻むのは、疑いなく政治の変革者としてである。 / 政治は通常の場合、資源配分の技術である。しかし、時として政治は単なる技術に留まらず、資源配分のあり方そのものを変える必要性に直面する。その時、指導者は国家と個人の関係という核心的な問題に正面から立ち向かわなければならない。
(中略)
サッチャーは人間としての器においてチャーチルには遠く及ばない。しかし、国家と国民の関係を律するという政治の本質的な使命において、彼女が成し遂げたことの高みはーー「良きにつけ、悪しきにつけ」という注釈付きであったとしてもーーチャーチルを確実に凌駕する。 / (チャールズ・)ムーアは、サッチャーがその性別、信念、人格のために国際的にも他のすべての指導者の尺度となる一つの原型となったとした上で、彼女のリーダーシップは一部の指導者にとっては教訓とすべき寓話、他の指導者にとっては道標となると指摘する。/ 政治が大きな変革期を迎える中、この道標が示す方向を吟味することの意味は大きい。本書がその試みにささやかな貢献をなすとすれば幸いである。

2018年12月4日にレビュー

危機の指導者チャーチル (新潮選書)

危機の指導者チャーチル (新潮選書)

  • 作者: 冨田 浩司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/09/01
  • メディア: 単行本



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