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『勝ちきる頭脳』囲碁棋士 井山裕太著 幻冬舎 [自伝・伝記]


勝ちきる頭脳

勝ちきる頭脳

  • 作者: 井山 裕太
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/02/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


教育、ビジネス面でも活かせそう

囲碁の経験者でなければ、読むに難解ではないかと当初おもったが、「五目並べ」しかできない評者でも、じゅうぶん楽しむことができた。囲碁棋士の生活とは、その苦労とは、世界に広がる囲碁界のなかで日本の占める位置とは、人口知能の成長甚だしいなかで囲碁の将来とは・・など知ると同時に考える機会となった。さらには、著者のすさまじいまでの「成長への意欲」向上心や囲碁を通して自分を表現したいという強い願いも知ることができた。そして、「好き」であるということが一つの才能であることも。たいへん、読みやすい本であり、思考力をもちいた盤上の戦いの魅力も感じることができる。そして、それは〈かつてある超一流の先生が「対局中に吐いたことがない棋士は一流ではない」との発言をされたそうですが、この発言の意味はよくわかります(「第6章 棋士という職業;対局中の極限状態」)と著者に言わせるほどのものであるということも。囲碁と囲碁棋士、著者に関心のある方はもちろんのこと、その内容は教育、ビジネス面でも活かすことができそうである。

2017年4月24日にレビュー


UCLAで学んだ「超高速」勉強法 (青春新書INTELLIGENCE 642)

UCLAで学んだ「超高速」勉強法 (青春新書INTELLIGENCE 642)

  • 作者: 児玉光雄
  • 出版社/メーカー: 青春出版社
  • 発売日: 2022/01/06
  • メディア: 新書


つづく部分に「目次

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『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』門田 隆将著 角川文庫 [自伝・伝記]


死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発 (角川文庫)

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発 (角川文庫)

  • 作者: 門田 隆将
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/10/25
  • メディア: 文庫


「死の渕を見た」人間たちのナマの声、ナマの姿

2012年11月にPHP研究所から刊行された単行本『死の渕を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五百日』を一部改題し、加筆・修正して文庫化したもの。文庫版解説は、福島県いわき市出身の社会学者・開沼博 立命館大学衣笠総合研究開発機構准教授。

2011・3・11の地震・大津波のあと、福島第一原発が「全電源喪失」「注水不能」「冷却不能」となって「水素爆発」を起こし、放射線を放出し猛威をふるっているさなか、その『現場』を離れなかった人々がいたという事実に圧倒される。千人近い人たちが、女性もふくめ、そこにはいたのだ。取り残されたのではない。逃げそびれたのではない。それは必ずしも「殉職」を望んでのことなどではないが、自らの意志でそうしたのだ。暴れる原発を手ずから押さえ込もうとしたのだ。吉田昌郎所長をはじめ、責任ある人々は、「注水し」「冷却」するため手動でバルブを開けることを繰り返し試みる。「決死隊」である。・・・その圧倒的な内容は、実際に『現場』にいたひとたちへのインタビューの積み重ねから来る。引用されているナマの声から来る。そこに披瀝されてあるのは、「死の渕を見た」人間のナマの姿だ。

本書を読みつつ、つねに思いに揺曳していたのは『現場』という言葉である。そして、『現場』と人との距離である。「決死隊」がソレへの至近距離にあるとして、関係する人々各自の配されたそれぞれの位置である。そして、そうした中でウゴメク人間模様。その中には、一国の首相も含まれる。そして、問いが突きつけられる。「お前は、その時、どのあたりに居た・・?」。そして、ある講演で聞いた言葉が重く響く。「どんなことであれ、それに参加しないものに、発言する権限はない」。

〈星の王子さま〉とは誰かーその1-
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2008-02-28

著者はいう。《本書は、原発の是非を問うものではない。あえて原発に賛成か、反対か、といった是非論に踏み込まない。なぜなら、原発に 「賛成」か「反対」か、というイデオロギーからの視点では、彼らが死を賭して闘った「人としての」意味が、逆に見えにくくなるからである。/ 私はあの時、ただ何が起き、現場が何を思い、どう闘ったか、その事実だけを描きたいと思う。原発に反対の人にも、逆に賛成の人にも、あの巨大地震と大津波の中で、「何があったのか」を是非、知っていただきたいと思う》。

評者にとって本書は、「遅れ馳せ」ながらも『現場』に参入する助けとなったように思う。

2017年2月2日にレビュー

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

  • 作者: 門田 隆将
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2012/11/24
  • メディア: 単行本


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らんまんの笑顔 「人間・牧野富太郎」伝:谷 是による語り下ろし 集英社 [自伝・伝記]


らんまんの笑顔 「人間・牧野富太郎」伝

らんまんの笑顔 「人間・牧野富太郎」伝

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/03/24
  • メディア: 単行本



植物学者 牧野富太郎の伝記。地元史家:谷是氏による「です・ます調」の語り下ろしによるもので、親しみやすく読みやすい。富太郎を知るいい本に思う。評者にとって、富太郎の著作ではなく、その伝記を読むのは初めてである。うわさに聞いてはいたが、なかなかの奇人変人である。

その貧乏暮らしについては、落語家の古今亭志ん生を思い出しながら読んだ。志ん生は昭和の大名人としてその道で名を成すが、せがれの馬生や志ん朝に言わせれば「あんなものを親にした日には・・」という話になる。貧乏になったのは、そもそもが志ん生の道楽にあった。富太郎も、共に生活する家族としてはたまらなかったろうと思う。たとえ、それが飲む、打つ、買うによる貧乏ではないにせよである。

富太郎の娘さんたちは、谷氏のインタビューに際して「お母さんのことは、あまり言いたくありません。言うのが嫌です。聞かないでください。思い出すのもかわいそうです」と言っている。ところが、その「かわいそう」なご本人が一番の富太郎の理解者であり擁護者であったところが面白い。志ん生が叙勲(紫綬褒章)された時、一番喜んだのは奥さんで「おめえがもらったみてえだな」と志ん生は言ったというが、そういうことが重ねて思い出された。明治という時代が生んだ男と女ならではの物語ということになりそうである。

なんだかだ言って、一生をその道に捧げ、一筋に生きると信奉者やら援助者がおのずと出てくるものらしい。本当に窮乏し助けが必要なときには、助け船が現れる。同郷の土方寧、田中光顕、岩崎弥太郎、後には山本松之助、長谷川如是閑、久原房之助、池長孟、安達潮花、中村春二、津村重舎といった名前が挙げられている。

富太郎は自叙伝をものしているという。そちらも読んでみたい。世間的には奇人変人とされるところを自身どのように書いているか興味のわくところである。


牧野富太郎自叙伝

牧野富太郎自叙伝

  • 作者: 牧野富太郎
  • 出版社/メーカー: 千歳出版
  • 発売日: 2023/05/26
  • メディア: Kindle版



牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)

牧野富太郎 なぜ花は匂うか (STANDARD BOOKS)

  • 作者: 富太郎, 牧野
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2016/04/11
  • メディア: 単行本


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『我が師、おやじ・土門拳』牛尾喜道・藤森武著 朝日新聞出版 [自伝・伝記]


我が師、おやじ・土門拳

我が師、おやじ・土門拳

  • 作者: 藤森武
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/11/18
  • メディア: 単行本


「写真の鬼」は、いい「おやじ」でもあった

土門拳は1909(明治42)年生まれだから、存命なら108歳になる。その一番弟子:牛尾喜道氏(1941年生まれ)と二番弟子:藤森武氏(1942年生まれ)が、(おもに1960年代の内弟子時代の)「我が師」について語った貴重な記録。

「写真の鬼」と称された師匠は、気のきかない弟子たちに「拳」骨をふるい、二番弟子の頭を「少し陥没」させてもいる。写真のためだ。それでもその弟子は、「昔にもどったら、もう一度、土門拳の弟子をやりますか」の問いに、「やると思います。こんどはもっとうまく」と答える。今日なら、パワハラと訴えられるところだろうが、そうはならない。「写真の鬼」は、こわい師匠であると同時に、思いがけない優しさを示すいい「おやじ」でもあった。

本書を「他人の仕事を見て、盗め」といわれた時代の師弟関係のもっともわかりやすい事例として読むこともできよう。思わず話したくなるエピソードがたくさん出ている。土門拳を「師匠」、「おやじ」と呼んで、直接指導を受けられるなら、頭が少しくらい陥没してもいいように思う。頭のくぼみは一生の勲章みたいなものだ。(以下、引用)

もともと撮影中は 「何が何して何とやら」と細かく指示されることは絶対になく、せいぜい、「エレアップ」とか、「ウッ」「ヨシ」といったぐらいで、ほとんど無言。言葉を発すると「気合が抜ける」からなのです。/ なぜ「気合が抜けるからほとんど無言」なのか。それはもしかしたら文楽の撮影に源があるのかもしれません。/ 先生は以前、キャビネの低感度の乾板で、文楽の一瞬の間を撮影した際、・・・(「カミナリとパンチ」から)

「いい写真というのは、写したのではなく、写ったのである。計算を踏みはずしたときにだけ、そういう写真ができる」と先生がおっしゃっていた。失敗を成功に結びつけることを土門先生は「鬼がついた」とか「鬼が手伝った」などとよく口にしていた。・・・(「『古事巡礼』の撮影機材」から)

2017年1月31日にレビュー

鬼の眼 土門拳の仕事

鬼の眼 土門拳の仕事

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 光村推古書院
  • 発売日: 2016/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



土門拳 腕白小僧がいた (小学館文庫)

土門拳 腕白小僧がいた (小学館文庫)

  • 作者: 土門 拳
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2002/08
  • メディア: 文庫



土門拳 (別冊太陽)

土門拳 (別冊太陽)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2009/02/13
  • メディア: 大型本


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福翁自伝 (ワイド版 岩波文庫) [自伝・伝記]


福翁自伝 (ワイド版 岩波文庫)

福翁自伝 (ワイド版 岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/06/26
  • メディア: 単行本


やはり壱萬円札にふさわしい・・

近世から近代への移行期、渡欧した作家たちの諸作品には、往々にして帰国して見た「近代日本」社会への厭世感が漂っております。

たとえば夏目漱石の諸作品には、まだ封建制を引きずり旧態依然の「近代日本」の中で、近代的自我を持った(「開眼」し、いわばトンデル)人間が持つ厭世感や苦しみが表現されています。(『それから』然り。『野分』然りです。)

日記などを読みますと、当の漱石自身もそれが遠因で胃潰瘍で苦しんだように見受けられます。森鴎外もドイツから帰国して見た日本社会を近代化への発展途上段階にある『普請中』と表現しています。そこにもやはり厭世感が漂っているように思います。

ところがです。福翁自伝を読みますとそうした厭世感が感じられません。

諭吉が、近世日本にとっては根っからのアウトサイダーであったことがその理由ではなかろうかと、自伝を読んで思います。近代人諭吉は、渡欧・渡米するまでもなく「近世日本」が大手術を要する病人であることを元来感じていたので、帰国してもどうってことはなかったのでしょう。行うべきことは明確でした「啓蒙」その一語です。

初めて著作を読んだのですが、なんと「骨太」な人物だろうと思います。やはり壱萬円札に肖像が出るだけのことはある、と思いました。

2005年6月2日にレビュー

日本人病の元祖:夏目漱石(小林秀雄と絡めて)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2007-07-28

新訂 福翁自伝 (岩波文庫)

新訂 福翁自伝 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/06/12
  • メディア: 文庫



パリの福澤諭吉 - 謎の肖像写真をたずねて

パリの福澤諭吉 - 謎の肖像写真をたずねて

  • 作者: 山口 昌子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/11/16
  • メディア: 単行本



ヴォルテールの世紀 精神の自由への軌跡

ヴォルテールの世紀 精神の自由への軌跡

  • 作者: 保苅 瑞穂
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/11/20
  • メディア: 単行本



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『わたしはこうして執事になった』 ロジーナ・ハリソン著 白水社 [自伝・伝記]


わたしはこうして執事になった

わたしはこうして執事になった

  • 作者: ロジーナ・ハリソン
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: 単行本


(以下2017-01-27記)

アンソニー・ホプキンスが『日の名残り』で“執事”を演じるに際して、誰からか聞いたことを、「アクターズ・スタジオ」でのインタビューで話していた。それは、執事の(働いて)いる部屋(空間)はたいへん殺風景に見えるというものだった。

確かにそこに居ながら、居ないかのような空間を演出できるとは、まさに、黒子のような(と、当方は思うのだが)役回りの執事にはふさわしいように思った。透明人間のように姿を消す術を彼らはどのようにして身につけるのだろう。

そんな興味から、本書を手にした。

日の名残り コレクターズ・エディション [SPE BEST] [DVD]

日の名残り コレクターズ・エディション [SPE BEST] [DVD]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD



(以下は、上記書籍「1 プロローグ」からの抜粋)

***********

わたしは45年にわたってお屋敷奉公をしました。(略)

1964年にレディ・アスターが亡くなられたのを機に引退したものの、それでお屋敷奉公とすっぱり縁が切れたわけではありません。それからもかつての同僚たちに会いに行き・・・(略)

というわけで、わたしは5人の友人たちの目と口を通して、20世紀はじめから現在までのすべての期間、また聞きも含めればさらに長い期間について、男性使用人がどのような立場に置かれていたかを紹介するとともに、2度の世界大戦がもたらした変化や、イギリスの(そして、ときにはアメリカの)人々の社会に対する姿勢を描きだすことができるのです。文章を書いたのはわたしですが、少しでも語り手が語っている感じが出るように、できるかぎり5人の個性を捉え、それぞれに独特の言い回しや話し方の癖を再現するよう心がけました。

もっとも、この本に登場するのは使用人だけではありません。使用人の世界があるところには雇い主の世界もあるわけで、となれば、もうひとつの肖像、すなわち貴族や地主階級の人々の生活ぶりやふるまいも描かれることになります。これはいわば使用人の手になる肖像だけに、とりわけ主従が対立している場面では、片寄った描き方をされているように思えるかもしれません。けれども、たとえお屋敷の旦那様や奥様が批判されることがあっても、そこには悪意ではなく親しみが感じられるはずです。

中略

ロンドンの大邸宅で暮らす一家とそこに住みこんでいる使用人たちの生活を描いた連続テレビドラマ『アップステアーズ・ダウンステアーズ(上の階、下の階)』は、かつてのお屋敷奉公がどんなものだったかを広く世間に紹介し、ドラマという制約のなかでとはいえ、その世界をほぼ正確に描きだしています。そして使用人の立場から言わせてもらえば、あのドラマの功績はそれだけではありません。あのドラマのおかげで、わたしが生涯を捧げた仕事は、いままでは見過ごされていた重みと意義を持つものとして見直され、わたし自身やわたしの友人・同僚たちも、血が通った社会の一員として描いてもらえたのですーー先行きが明るいとは思えないことも手伝って、今日の人々が郷愁とともにふり返るひとつの社会の、誠実で有益な一員として。


Upstairs Downstairs
https://en.wikipedia.org/wiki/Upstairs,_Downstairs_(1971_TV_series)


Upstairs Downstairs The Complete Series [Import anglais]

Upstairs Downstairs The Complete Series [Import anglais]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: DVD



おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想

おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想

  • 作者: ロジーナ ハリソン
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2014/08/12
  • メディア: 単行本



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『ブラック・ホークの自伝』 高野一良訳 風濤社 [自伝・伝記]


ブラック・ホークの自伝

ブラック・ホークの自伝

  • 作者: ブラック・ホーク
  • 出版社/メーカー: 風濤社
  • 発売日: 2016/10/22
  • メディア: 単行本


アメリカ合衆国という国家の生い立ちに(否応なく立ち合わされ)翻弄されて

ブラック・ホーク(1767~1838)本人から、当時の経験を直接語り聞かせられている気分になる書籍だ。「訳註」、「解説」共に充実していて、ブラック・ホークの属するソーク族をはじめ彼らインディアンらを取り巻く諸情勢を詳しく知ることもできる。それは、つまり、アメリカ合衆国という国家の生い立ちに(否応なく立ち合わされ)翻弄される彼らの姿を示すものといっていい。

「解説」には、《ブラック・ホークの生きていた時代はまさしく北米大陸における白人たちの領土争いが頂点に達した時代だった。アメリカ合衆国が成立し、領土を大西洋沿岸から五大湖地域、ミシシッピー川流域へと拡大していく中、1803年のルイジアナ買収により、ブラック・ホークらソーク族の者たちの生活圏は完全にアメリカ合衆国の領土へと吞み込まれるようになった。そして、それまでは穏やかだった入植者の流入も一気に激しくなり、ソーク族の生活は一変していくことになる》とある。

以下は、本書の内容をしめす訳者・解説と原著・編者による「お知らせ」からの引用。

《本書は、19世紀前半、北米大陸の五大湖地域で波乱万丈の一生を送った一人のアメリカン・インディアン、マカタイミーシーキアキアク、英語名ブラック・ホークの『自伝』である。アメリカン・インディアンは固有の書き言葉を持たず、当然書物のようなものを出版、流通させるような文化を持っていなかった。そのアメリカン・インディアンが、アメリカの歴史上初めて、自らの一生を書物の形に仕立て上げ、世に問い、大いに反響を巻き起こしたのが本書である。/ ちなみに、19世紀を通じて、アメリカ合衆国政府に戦いを挑み、その名を全米中にとどろかせたアメリカン・インディアンとしては、ショーニー族のテカムセ、スー族のシッティング・ブル、クレイジーホース、アパッチ族のジェロニモなどがいるが、ブラック・ホークのように自らの生涯を書物の形にし、白人にメッセージを送った者は一人もいない。それゆえ、本書は白人に抗ったアメリカ先住民の生の声を伝える稀有な読み物と評することができる(フロンティアを飛翔した「黒いタカ」:訳者解説から )》。

《アメリカを代表する偉人たちの中でも、今や最高の位置づけを与えられることもある英雄ブラック・ホークの伝記を公にすることについて、余計なことをくどくど述べる必要などなかろうとは思う。本書の中で立ち現れる彼の姿は時に戦士、時に愛国者、そして最終的にはアメリカ合衆国の捕虜となるが、忘れてはならない、彼はどんな場面においても部族の長としてふるまっている。彼は自らの部族が持つべき権利について威厳に満ちた態度で、決然と、そして果敢に意見を主張し続けた。彼が引き起こした戦争をめぐってはいくつかの資料が公開されたが、それを読むと彼はこう考えているようだ。 / 自分、そして我が部族に対して正義が行われていない。 / それゆえ、ブラック・ホークは以下のようなことを世に伝えたいと決断するに至った。すなわち、部族の者たちが白人から受けた危害や屈辱、なぜ父祖の地で戦争をするに至ったのか、その理由、そして戦争全般の経緯。 / 今世に出まわっている風説の類から、彼と共に勇敢に戦ってくれた者の生き残りや家族の者など数少ない部族の者たちを救うためには、自らが語るしか道は残っていない。これがブラック・ホークの切ない思いだ(ブラック・ホークのために口述筆記を行った「編者からのお知らせ」から)》。

2017年1月14日にレビュー

スピリット島の少女―オジブウェー族の一家の物語 (世界傑作童話シリーズ)

スピリット島の少女―オジブウェー族の一家の物語 (世界傑作童話シリーズ)

  • 作者: ルイーズ アードリック
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2004/09/10
  • メディア: 単行本



コヨーテ 太陽をぬすむ――アメリカインディアンのおはなし――

コヨーテ 太陽をぬすむ――アメリカインディアンのおはなし――

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 風濤社
  • 発売日: 2016/09/23
  • メディア: 単行本


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『乾浄筆譚 1 朝鮮燕行使の北京筆談録 (東洋文庫)』 洪 大容著  [自伝・伝記]


乾浄筆譚 1: 朝鮮燕行使の北京筆談録 (東洋文庫)

乾浄筆譚 1: 朝鮮燕行使の北京筆談録 (東洋文庫)

  • 作者: 洪 大容
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2016/11/14
  • メディア: 単行本


清朝・乾隆帝時代の中国・朝鮮知識人たちのあり様を知ることができる

清の乾隆帝の時代、属国であった朝鮮の知識人(洪 大容 ホンデヨン)が、友を国外に求め、北京の乾浄という名の街路にある宿舎で、筆談によって中国人と交際した記録。

当時、漢民族は、満州族から辮髪を強いられ、清朝を批判する言説など到底できない状況だった。朝鮮はといえば、辮髪を強いられることもなく、明時代の装束を身につけるなどずっと寛容な取り扱いを受けていた。それゆえ、朝鮮知識人は、自分たちが明の後継者であるかの意識をもち、清に隷属する立場の漢民族を(同じ立場にありながら)見下す気分があった。

洪 大容 は、同じ儒教を奉じる者として腹蔵なく話し合える友を必要としていた。朝鮮国内では話にくいこともあったのである(その点は、『解説』燕行の動機に詳しい)。燕行(清への朝貢)に連なって北京に赴いたおり、眼鏡が縁でたまたま知り合った中国知識人・科挙試験のため北京に来ていた杭州出身の厳誠らと知り合う。

厳誠らとの交わりがムズカシイものであったこと、洪 大容の友を選ぶメガネが厳しいものであったことは『解説』からわかる。厳誠らと出会う前 《『 乾浄衕筆談』では、洪 大容は、紫禁城東華門の路で翰林院の官僚二人とめぐり遭って語り、その後彼らの家を探し出して訪問し、問答をしたのだが、文学の出来が極めて劣っていた。また中国人だ外国人だという区別の問題、つまり満州族による中国支配の問題で二人を恐れさせてしまい、話の内容も卑俗であったので、交際するまでもないと考え、一度二度会っただけでやめたという》。この後、厳誠らと知り合い、礼をつくした、そして腹蔵のないやりとりが展開するのである。

本書から、当時の科挙制度や中国、朝鮮の知識人のあり様を知るだけでなく、ありのままの姿が想起できて愉しい時間を過ごせた。それもひとえに、夫馬 進京大名誉教授の注・解説によるところ大である。その『解説(1 東アジアの奇書、2 洪大容、その人となり、3 燕行の動機、4 三人の中国知識人 5 『乾浄衕会友録』 から『乾浄筆譚』へ、6 おわりに)』自体が、たいへん詳しい、ひとつの読み物となっていることも明記したい。

2017年1月12日にレビュー


[PDF]洪 大容と清朝 ー 洪大容の学者像と学問観  小川晴久
https://nishogakusha.repo.nii.ac.jp/index.php?active_action=repository_view_main_item_detail&page_id=13&block_id=21&item_id=665&item_no=1


朝鮮燕行使と朝鮮通信使

朝鮮燕行使と朝鮮通信使

  • 作者: 夫馬 進
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2015/03/07
  • メディア: 単行本


http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0800-6.html

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『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』ブルース・クック著 世界文化社 [自伝・伝記]


トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 ハリウッド映画の名作を残した脚本家の伝記小説

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 ハリウッド映画の名作を残した脚本家の伝記小説

  • 作者: ブルース・クック
  • 出版社/メーカー: 世界文化社
  • 発売日: 2016/07/02
  • メディア: 単行本


「物質主義で、仕事への野望を抱き、映画の脚本に注ぎ込んだロマンティシズムに半ば酔いしれていた(典型的なアメリカの)共産主義者」の評伝

映画『トランボ』の原作。脚本を担当したジョン・マクナマラが「この本との出会い」と題してたいへん魅力的な序文を書いている。原作の映像化を念頭においた友人(プロデューサー)との会話は《「主人公は共産主義者だぞ」。「ハリウッドについての話だ。それに政治。時代ものだから、金がかかる。セックスも暴力もなしで、どうするんだい?まあ、俺はこの本が好きだから、10回は読んだけどね。ハリウッドも政治もこの時代も好きなんだよ。だけど、実際にこれをどうやって映画にできるっていうんだ?まして、誰かが観たいと思うような映画に」》。2008年のその会話が発展し、09年に脚本が完成し、本年16年の映画公開となる。脚本家、監督、俳優、撮影各部門の責任者のほとんどが本書を「料理本」と呼んで参考にしたという。

本書を、思いっきり煎じつめれば、第二次大戦時、またそれ以降の冷戦時、民主主義を標榜するアメリカにおいて、共産主義・共産党的思想傾向をもつ個人を、米市民(司法、行政、業界団体、市井の人々)がどのように扱ったかを示す書籍で、その中で闘い、闘いぬいた(そして、勝利した)トランボという類いまれな文才をもつ個人をめぐる評伝といえよう。そして、それは愛国主義的思想傾向が高まる時代に、国民全体が巻き込まれる状況を示すものであり、時流に合わない思想傾向をもつ少数派が受ける仕打ちを示すものともなっている。

本書から、映画製作の裏面、脚本家の立ち位置についても知ることができる。アメリカの憲法や法廷での闘い方について知ることもできる。結婚して後のトランボの生活(姿勢)からは、家族を愛し、友人・仲間を大切にする、(戦後の貧しくひもじい頃の日本人があこがれた)良きアメリカの家族(生活)を想起させられもする。(以下、引用)。

《トランボの人生が何かを語っているのだとすれば、私たちすべてがそうであるように、よくも悪くも、時流や状況によって方向づけられたということだ。彼が変わった共産主義者だとすれば、それはそのことを認めた最初の共産主義者だという点だろう。そして、グランド・ジャンクションやデーヴィス・パーフェクション・ベーカリーで過ごした子ども時代や青年時代から、生まれるべくして生まれた共産主義者だった。つまり、典型的なアメリカの共産主義者である。物質主義で、仕事への野望を抱き、映画の脚本に注ぎ込んだロマンティシズムに半ば酔いしれていた共産主義者だ。p447》

2016年10月26日にレビュー

TRUMBO

TRUMBO

  • 作者: Bruce Cook
  • 出版社/メーカー: Grand Central Publishing
  • 発売日: 2015/09/08
  • メディア: ペーパーバック




Trumbo トランボ (Blu-ray + Digital HD)

Trumbo トランボ (Blu-ray + Digital HD)

  • 出版社/メーカー: Universal
  • 発売日: 2016/02/16
  • メディア: Blu-ray



Johnny Got His Gun (Penguin Modern Classics)

Johnny Got His Gun (Penguin Modern Classics)

  • 作者: Dalton Trumbo
  • 出版社/メーカー: Penguin Classics
  • 発売日: 2009/07/30
  • メディア: ペーパーバック



ジョニーは戦場へ行った [DVD]

ジョニーは戦場へ行った [DVD]

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • メディア: DVD


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*アフリカで老いを生きる―看護師・助産師として人々と共に」徳永 瑞子著 青海社 [自伝・伝記]


アフリカで老いを生きる―看護師・助産師として人々と共に

アフリカで老いを生きる―看護師・助産師として人々と共に

  • 作者: 徳永 瑞子
  • 出版社/メーカー: 青海社
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


*ほんとうの豊かさ

アフリカを含めた途上国は、貧困も現実であるが、その中に豊かさがあることも現実である。途上国の人々が持っている豊かさは、「足るを知る」であると思う。人間の欲望にはきりがないが、今自分が置かれている環境の中で喜びを見出す術を知っているので、心豊かに生きてゆけるのではないだろうか。

大学生も同じで、彼らに「アフリカの貧困」を語ると納得するが、「アフリカの豊かさ」を語っても本当かなあと首を傾げられてしまう。しかし、日本の学生がアフリカに来ると、彼らの目の輝きは一変する。アフリカの人々の笑顔と陽気さの中に身を置き交流をしていくと、日本の学生が今まで持っていたアフリカ観が次第に変わっていくのが分かる。

また、日本では知ることができなかったもっと悲惨な現実を知ることにもなる。つまり、学生たちはアフリカの真実を知ることになるのだ。それから、彼らは生きるとはどういうことなのか、何をすべきなのかを考えていくのである。

*幸せな光景

私はアフリカで、思わず立ち止まって眺めてしまうほど幸せな光景に出くわすことがしばしばある。

陽が降りそそぐ午後、マンゴーの木陰で娘の髪を編む母親の姿を見るのが私は好きだ。ゴザの上に投げ出した母親の太ももに抱きついて眠る娘の髪にカラフルな人工の髪を付けている光景は、静止画像にしても動画にしても幸せ以外の言葉が見つからない。母親は眠るわが娘の呼吸音を感じながら、手際よく人工の髪をつけていく。言葉もまく、音もなく、灼熱の太陽が大きなマンゴーの樹を照らしているだけである。

アフリカを訪問された日本人の小児科医がこの光景を見て、「これが子育ての原点ですね。アフリカではキレルという子どもがいないのがよく分かりました」としみじみ言われた。アフリカの子育てを見ていると、子育てとは子どものために時間を使うこと、つまり、子どもに手をかけることであるということが分かる。子育ては、子どものためにお金を使うことではないということだ。

(以上 第1章 アフリカでの日々と希望 4 幸せな光景 p34-6 から抜粋)


プサマカシ―若き助産婦のアフリカ熱中記

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  • 作者: 徳永 瑞子
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  • 発売日: 2023/06/03
  • メディア: 単行本



コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から

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