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『ブラック・ホークの自伝』 高野一良訳 風濤社 [自伝・伝記]


ブラック・ホークの自伝

ブラック・ホークの自伝

  • 作者: ブラック・ホーク
  • 出版社/メーカー: 風濤社
  • 発売日: 2016/10/22
  • メディア: 単行本


アメリカ合衆国という国家の生い立ちに(否応なく立ち合わされ)翻弄されて

ブラック・ホーク(1767~1838)本人から、当時の経験を直接語り聞かせられている気分になる書籍だ。「訳註」、「解説」共に充実していて、ブラック・ホークの属するソーク族をはじめ彼らインディアンらを取り巻く諸情勢を詳しく知ることもできる。それは、つまり、アメリカ合衆国という国家の生い立ちに(否応なく立ち合わされ)翻弄される彼らの姿を示すものといっていい。

「解説」には、《ブラック・ホークの生きていた時代はまさしく北米大陸における白人たちの領土争いが頂点に達した時代だった。アメリカ合衆国が成立し、領土を大西洋沿岸から五大湖地域、ミシシッピー川流域へと拡大していく中、1803年のルイジアナ買収により、ブラック・ホークらソーク族の者たちの生活圏は完全にアメリカ合衆国の領土へと吞み込まれるようになった。そして、それまでは穏やかだった入植者の流入も一気に激しくなり、ソーク族の生活は一変していくことになる》とある。

以下は、本書の内容をしめす訳者・解説と原著・編者による「お知らせ」からの引用。

《本書は、19世紀前半、北米大陸の五大湖地域で波乱万丈の一生を送った一人のアメリカン・インディアン、マカタイミーシーキアキアク、英語名ブラック・ホークの『自伝』である。アメリカン・インディアンは固有の書き言葉を持たず、当然書物のようなものを出版、流通させるような文化を持っていなかった。そのアメリカン・インディアンが、アメリカの歴史上初めて、自らの一生を書物の形に仕立て上げ、世に問い、大いに反響を巻き起こしたのが本書である。/ ちなみに、19世紀を通じて、アメリカ合衆国政府に戦いを挑み、その名を全米中にとどろかせたアメリカン・インディアンとしては、ショーニー族のテカムセ、スー族のシッティング・ブル、クレイジーホース、アパッチ族のジェロニモなどがいるが、ブラック・ホークのように自らの生涯を書物の形にし、白人にメッセージを送った者は一人もいない。それゆえ、本書は白人に抗ったアメリカ先住民の生の声を伝える稀有な読み物と評することができる(フロンティアを飛翔した「黒いタカ」:訳者解説から )》。

《アメリカを代表する偉人たちの中でも、今や最高の位置づけを与えられることもある英雄ブラック・ホークの伝記を公にすることについて、余計なことをくどくど述べる必要などなかろうとは思う。本書の中で立ち現れる彼の姿は時に戦士、時に愛国者、そして最終的にはアメリカ合衆国の捕虜となるが、忘れてはならない、彼はどんな場面においても部族の長としてふるまっている。彼は自らの部族が持つべき権利について威厳に満ちた態度で、決然と、そして果敢に意見を主張し続けた。彼が引き起こした戦争をめぐってはいくつかの資料が公開されたが、それを読むと彼はこう考えているようだ。 / 自分、そして我が部族に対して正義が行われていない。 / それゆえ、ブラック・ホークは以下のようなことを世に伝えたいと決断するに至った。すなわち、部族の者たちが白人から受けた危害や屈辱、なぜ父祖の地で戦争をするに至ったのか、その理由、そして戦争全般の経緯。 / 今世に出まわっている風説の類から、彼と共に勇敢に戦ってくれた者の生き残りや家族の者など数少ない部族の者たちを救うためには、自らが語るしか道は残っていない。これがブラック・ホークの切ない思いだ(ブラック・ホークのために口述筆記を行った「編者からのお知らせ」から)》。

2017年1月14日にレビュー

スピリット島の少女―オジブウェー族の一家の物語 (世界傑作童話シリーズ)

スピリット島の少女―オジブウェー族の一家の物語 (世界傑作童話シリーズ)

  • 作者: ルイーズ アードリック
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2004/09/10
  • メディア: 単行本



コヨーテ 太陽をぬすむ――アメリカインディアンのおはなし――

コヨーテ 太陽をぬすむ――アメリカインディアンのおはなし――

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 風濤社
  • 発売日: 2016/09/23
  • メディア: 単行本


我々は数日の間ごつごつとした山岳地域の道を進んだ。だが、山道はよく整備されていて、馬車の通行にはまったく支障がなかった。この道を建設するために白人たちはずいぶんと苦労し痛みをこらえたはずで、驚くべき行為と言わざるを得ない。この道は岩石や木々に覆われた無数の山を越えて延びているのだが、とても通行しやすい道なのだ。

こんな岩だらけの山岳地帯であるにもかかわらず、道沿いには多くの家が建てられ、小さな集落がいくつもあった。私からすれば、こんな土地に生活したいと思わせるようなものは何一つ見出せないのだが、なぜこれほど多くの白人たちは山の上で暮らしているのだろう。

後に私は解放され、仲間たちのところに戻ることができたわけだが、その時からずっとあの山岳地帯に住んでいた白人たちのことについてはよく思い出すのだ。彼らは自分達が居を構えている山岳地帯での生活に満足しており、他の白人たちの多くがしでかしてきたようなこと、すなわち我々インディアンの土地にやってきて、我々を追い出し、自分たちの生活圏を築くといった行いには興味がないのではないかと思われるのだ。

そういう彼らのことを思い起こすと、私の気持ちも少しは晴れる。〈大いなる神秘〉が各々の人間に対して用意してくれた土地での生活に満足し、感謝の気持ちを持つことこそ肝要なのだ。たとえ〈大いなる神秘〉が他人に与えた土地の方が自分たちの土地より良いものに思えたとしても、だからといってその良さそうな土地から本来の土地所有者を追い出すなどというのは論外だ。白人たちと長年つきあってきて、白人たちが信じる宗教では以下のような言葉が大切な教えになっていると聞いている。

「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」

あの山岳地帯に暮らしていた人たちは、この教えに従って生きているのだと思う。だが、我々が生活していた土地、フロンティアにやってきた白人たちは、どう考えてもこの大切な教えのことなど歯牙にもかけない連中なのだろう。

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以上は、p162-4

南北戦争中に南部アメリカ連合国を構成したヴァージニア州から現在のウェスト・ヴァージニア州が分離独立した際に州都となった町:ウィーリングからメリーランド州にある町ヘイガーズタウンへの旅の途中におけるブラック・ホークの見聞と感想 
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