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「大泉黒石: わが故郷は世界文学」四方田 犬彦著 岩波書店 [自伝・伝記]


大泉黒石: わが故郷は世界文学

大泉黒石: わが故郷は世界文学

  • 作者: 四方田 犬彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/04/17
  • メディア: 単行本



表紙の写真と「大泉」という姓を見て「アレっ!」と思った。ご存知の方はご存知と思うが、黒石は映画俳優大泉 滉(おおいずみ あきら、1925年1月1日 - 1998年4月23日)の父親である。

黒石は父親がロシア人母親が日本人のハーフで、西洋人の容貌をして明治、大正、昭和、戦時下の日本を生きた。日・露・英・仏語に堪能で、造話力にたけ、たいへん才能のある人物だった。幼少時、父親の故郷を訪ねトルストイ翁に会った逸話の持ち主でもある。大正時代、ベストセラー作家となっていたが、「虚言」を理由に文壇から排斥された。その文学的才能については著者が作品のいくつかを紹介しているが評者には確なものに思える。

その歴史的位置づけについて著者は次のように記す。「大泉黒石は今日、あらゆる日本文学史から排除されている。相当の文学通でないかぎり、その名前を記憶している人はいないだろう。1960年代末から70年代にかけて、夢野久作や久生十蘭、また小栗虫太郎や国枝史郎といった、それまで正統的な文学史では無視されたきた作家たちが次々と復権した時にも、なぜか黒石だけはほとんど話題にならなかった。没後30年にあたり、1980年代後半には緑書房を発売元として全集が刊行された。もっとも残念なことに第一期で終わってしまい、収録されなかった作品は少なくない。研究家が精緻な評伝を執筆することもなければ、晩年に到る正確な年譜も存在していない。端的にいって全体像がいまだに掴めないのである」。

日本という国の文学空間の闇に取り残された黒石に光を投げかけたのが本書と言っていい。評者は、夢野久作らとどのように作風が異なるものか全集にあたってみたく思っている。昭和文壇が「虚言」として退けた部分がもっとも魅力あるものとして、甦ってくるように思う。楽しみである。

風の又三郎   島耕二監督   片山明彦 中田弘二 北竜二 風見章子 大泉滉 林寛 見明凡太郎 1940年
https://www.youtube.com/watch?v=smb7Ngj0-LI

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  • 作者: 大泉 滉
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/07/11
  • メディア: 新書



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