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「ブラック・ハンドーアメリカ史上最凶の犯罪結社」スティーヴン トールティ著 早川書房 [自伝・伝記]


ブラック・ハンド―ーアメリカ史上最凶の犯罪結社

ブラック・ハンド―ーアメリカ史上最凶の犯罪結社

  • 作者: スティーヴン トールティ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/10/18
  • メディア: 単行本


孤独と「パッツィエンツァ」をディカプリオがどう演技するか楽しみ

タイトルにある「ブラック・ハンド(イタリア語でマーノ・ネーラ)」という犯罪結社への言及はほとんど無い。その組織の構造が明確にされているわけでもない。脅迫を主にして金銭をまきあげる凶悪なグループの暗躍が記されてはいるものの、その頭目の系譜が記されるわけでもない。「ブラック・ハンド」と称するグループは数多くあり、その標的は、主にイタリア系アメリカ人である。そして、「ブラック・ハンド」自体、その構成員はイタリア系アメリカ人である。そのグループが国家的脅威となるように思われる中で活躍する、ひとりの刑事ペトロシーノ(表紙写真・左側の人物)に焦点が当てられる。

実質的に本書は、その最初期からのイタリア人のアメリカ流入の歴史であり、イタリア系アメリカ人がアメリカ社会で受けた扱いを「ブラック・ハンド」を介して知ることのできる本である。ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント(ワスプ)が社会の優位で主たる位置を占めるなか、「ホワイト」とは見なされず、「アングロサクソン」でも「プロテスタント」でもなく、しかも遅れてあとから来た移民として蔑まれ利用され、社会の下層に位置した彼らがとった・とらざるを得なかった生き方が示される。

また、本書はイタリア移民の子として生まれ、靴磨きから刑事となり、後に「イタリア人街の内でも外でも、アメリカ的な成功物語の体現者と思われ」るようになるペトロシーノの評伝でもある。彼は同胞イタリア系移民の社会的立場を劣悪なものとして固定しかねない「ブラック・ハンド」を一掃しようと闘う。しかし、その上昇志向のゆえに、同胞の間で、またワスプ社会の中で孤独を経験する・・・。

ディカプリオ主演で映画化されるという。〈意志の力と体力に加えて、十代のペトロシーノはイタリア人が「パッツィエンツァ」と呼ぶものを示しはじめた。直訳すれば「忍耐力(ペイシェンス)だが、イタリア南部の文化においては特別な意味をもっている。それは「心の奥深くの感情を外に出さず、解き放つべきときが来るのを待つ」ことだ。イタリア南部では、男はそうでなければならないとされている。それでこそ迫害や苦難(ミゼーリヤ)に耐えられるのだ。〉とある。孤独と「パッツィエンツァ」をディカプリオがどう演技するか楽しみである。

蛇足だが、読んでいる間、ボブ・ディランが、クレージー・ジョー(Crazy Joe):ジョーイ・ギャロのことを歌った「ジョーイ」のメロディーが頭のなかで流れていた。『欲望』というアルバムに収められている一曲である。

2019年1月7日にレビュー

欲望(紙ジャケット仕様)

欲望(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2014/04/23
  • メディア: CD



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