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「創造するということ 続・中学生からの大学講義3」 ちくまプリマー新書


続・中学生からの大学講義3 創造するということ (ちくまプリマー新書)

続・中学生からの大学講義3 創造するということ (ちくまプリマー新書)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/10/05
  • メディア: 新書


年数は経過しているが、「今」も、古くなってはいない。

「創造」をテーマに、宇野重規(政治学者)、東浩紀(作家)、原研哉(グラフィックデザイナー)、堀江敏幸(作家)、稲葉振一郎(社会学者)、柴田元幸(翻訳家)、中島義道(哲学者)の諸氏が桐光学園で行った授業をまとめたもの。2013~2015年に発行された書籍が底本となっている。「若い人たちへの読書案内」は本書への書下ろし。年数は経過しているが、「今」も、古くなってはいない。なにかしらの発見を、若い人だけでなく、経験できるように思う。ざっとまとめると以下のようになるが、その語り口を味わいたい。

宇野重規「新しい民主主義をつくろう」 /少子高齢化の進む難しい状況のなかで、ビジネスを「創造」している人たちの活動に着目し、「文句を言うことが民主主義ではない」、「すべてを一部の人に任せてはダメ」、「みなさんにもつくることができるもの・・」と説く。

東浩紀「人文知と大学 ゲンロンカフェ開設物語」 /著者が実際に見たチェルノブイリ原発の現在は、専門家が語り、一般に知られている「現実」とチガウこと、「現実は切り口によっていろんな姿で見える」ことから説き起こされ、専門家ではない「領域横断的な教養」「文系的な知」の復権の必要性と、そのために新しい学校を「創造」することを願って、ゲンロンカフェを始めたことが記される。活動資金を「創造」するための新たな方法も記されている。

原研哉「日本のデザイン、その成り立ちと未来」 /デザインとは、環境を都合のいいようにつくり変えること。人類はこの先、生き延びるためにどのように地球環境を利用すればいいのか。「それを考えるための知恵の一つがデザイン」。著者は、日本文化の「からっぽ」について説く。それは個性であり、ヨーロッパのシンプルとは異なるエンプティの文化である。「自分が生まれてきたローカルな場所で、可能性をいかに開花させていくか。これが文化の本質」。日本というローカルな場所に根ざしたデザインによって「新しい価値を創造」することの大切さが説かれる。

堀江敏幸「あとからわかること」。自身の創作活動をとおして、文学的「創造」について語られる。「書く」とは言葉が降ってくるのを見つけること。自然に入ってくるノイズを否定せず待ち続ける。わからない状態を否定せずに、真剣に待ち続けることはいいこと。それは結果として「創造」につながるという話。

稲葉振一郎「これからのロボット倫理学」 /「応用倫理学の観点から、ロボットについて考え、未来の宇宙開発を巡る問題にも言及」。「現実のロボット」を創造するにあたっての倫理的問題が扱われ、人間のようなロボットより人間、宇宙のどこかに基地をつくるよりも地球。「つまるところ、私たちにとって最も安全で安楽な生活環境は、この地球なのだ」。「100年以上前に書かれたにもかかわらず、近代日本国家のぶち当たってきた、そしていまもぶち当たっている問題を不気味なまでに言い当ててい」る書籍(中江兆民の著作)が(「若い人たちへの読書案内」で)推薦されているのは興味深い。

柴田元幸「翻訳とは何か」 /「原文の意味に忠実なだけでは翻訳にならない」ことが説かれ、さまざまな訳例を通し、翻訳が文学的なひとつの創造であることが示される。

中島義道「哲学とのつきあい方」 /自身の過去を振り返って、自分の人生をどのように「創造」してきたか示される。それは「自己実現」の過程と呼んでいい。よくもその苦しい時期をよくぞ生きながらえてこられたと感じる経験である。著者はいう。「必ずしも評価されなくてもいのです。自分のしたいことがあって、それが実際にできて、できれば体が動く間はずっと続けられるというのが、たぶん一番いい人生なのでしょう」。

2019年1月7日にレビュー

三酔人経綸問答 (岩波文庫)

三酔人経綸問答 (岩波文庫)

  • 作者: 中江 兆民
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1965/03/16
  • メディア: 文庫



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