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「不良老人の文学論」 筒井康隆著  新潮社 [文学・評論]


不良老人の文学論

不良老人の文学論

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/11/22
  • メディア: 単行本


まだまだ行けます

「不良老人」:筒井康隆の文学論。ただし、直接的なものではない。交友(大江健三郎・・)・追悼文(井上ひさし、丸谷才一、星新一、小松左京、久世光彦・・)を介し、谷崎潤一郎賞(13編)・三島由紀夫賞(3編)・山田風太郎賞(8編)の選考委員として記した「選評」をとおして、ソレは示される。読者は、氏の文学観をソコから読みとる必要がある。

巻頭掲載の「宗教と私」で、氏は「小生の最後の長編『モナドの領域』」について触れ、「小生現在八十二歳。馬鹿な長編を書いてしまって天罰が下るかどうか。まあ死にかたを見ておいて下さい。(月刊住職2017年1月号)」と結ぶ。ところが、(これが最後と宣言しながら、最後にならないのが氏のいいところだが)、巻末掲載の「附インタビュー 作家はもっと危険で、無責任でいい」では、「いずこも後から来た世代は大変だ、という時代になってしまったんですね。」と話を向けられると氏は、「『何かやろうと思っても、筒井康隆がみんなやってしまっている』と文句を言われたことがありますけどね。そんなの知らんがな(笑い)。 (新潮45 2016年1月号)」と意気軒昂だ。

「今、二極分化の中で」と題する三島由紀夫賞選評の結びは、「好々爺と頑固爺とどちらを選ぶかと言われたら小生断然後者を選ぶ。今までは候補者を顧慮して悪口はなるべく控えてきたが、小生今や七十二歳、もうよかろうということで、今回は言いたいことを言わせてもらった。憎みたい人はどうぞ憎んでください。 (新潮2007年7月号)」。 と、氏は書いているが、「今回」どころか、それ以前の選評も、「言いたいことを言わせてもらっ」ているように思う。決して甘くはない。それゆえ、本書はオモシロイ。

2019年1月3日にレビュー

モナドの領域

モナドの領域

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/03
  • メディア: 単行本


以下、抜粋引用

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文壇バーの「眉」で飲んでいる時、彼(井上ひさし)がおれに「あなたは都会の天才で、ぼくは田舎の努力家なんです」と言ったことがある。彼とは二カ月違いの同い年生れだが、おれより早くから東京に出てきていて、ずっと浅草にいて何が田舎者かと思ったものだが、作品のために、それで図書館ができるほどの膨大な資料を買い込んでいる彼のことを知っていたから、この発言はまさに自分の軽薄さを思い知らされる思いだった。 / 一度彼の真似をしようとしたことがある。「四千万歩の男」の向こうを張って関孝和を書こうとしたのだ。和算の本をたくさん買い込んだものだが、とりかかろうとしても一指も動かなかった。彼の努力に勝てる作家は今後も出るまいなあ。(「井上ひさしのこと」から)

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薀蓄を面白く読ませる技術を持つことでは誰も丸谷才一には敵わなかった。処女作の「笹まくら」から最近作の「持ち重りする薔薇の花」に到るまで、時には一見本筋と関係なさそうに思える薀蓄が登場人物や語り手によって語られるのだが、これはごく普通の知識や知性を持つ読者にとっても実に面白く、しかもそこいら辺の専門書などでは享受できない新鮮なモダニズム思想による薀蓄だからこたえられないのである。丸谷さんには「文学のレッスン」という、もと「文學界」編集長でわが担当でもあった湯川豊のインタヴューによる著作があるが、その造詣の深さは驚くばかりであり、おれはこんな凄い人と平気で対談などで話していたのだと思うと慄然としたものだが、よく考えてみれば話す以前からその凄さはよく知っていたのであり、蛇に怖じない盲である無謀さこそがおれの作家性であり小説家としての良さなのだと自分を慰めるしかない。 / 丸谷さんとは八年間にわたって谷崎賞の選考委員をさせていただいたのだが、選考が終わって食事をする時も丸谷さんは座を楽しませることを好まれていた。面白い話を面白く語る話術、話芸と共に、あの大笑いは忘れられない。それが聞きたいばかりに井上ひさし、池澤夏樹らとギャグを競いあうような形になったものだ。丸谷さんを大笑いさせた時の歓びというのは観衆に受けた時の喜劇役者のそれに匹敵する。真面目な文学的議論は別として、小説、エッセイ、座談、すべてにわたり丸谷さんは笑いに拘り続けていた人だと思う。(「面白さに拘り続けた人」から)

https://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2015-11-25-1

文学のレッスン (新潮選書)

文学のレッスン (新潮選書)

  • 作者: 丸谷 才一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/04/27
  • メディア: 単行本




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