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『どこまでやるか、町内会』 紙屋 高雪著 ポプラ新書 [社会・政治]


(118)どこまでやるか、町内会 (ポプラ新書)

(118)どこまでやるか、町内会 (ポプラ新書)

  • 作者: 紙屋 高雪
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2017/02/09
  • メディア: 単行本


日本の悩める町内会と個人への福音ともいうべき本

町内会活動の負担の多さにうんざりしている人と、町内会活動を熱心にやっているものの後継の担い手がなかなか現れないことを嘆いている人との、両方の悩みに応える本。町内会、自治会の本来のあり方とは何かが示され、行政のあるべき姿・責任も示される。そして、本書にしたがうなら、行政の「下請」としていいように利用されることのないよう助けられる。任意加入団体のボランティア組織である町内会は、そのあるべき位置にあるべきで、過剰な負担を行政から強いられるべきではないし、任意加入の町内会に、入るよう・責任を担うよう隣人に強制すべきでもない。では、過剰な負担・活動を、減らすために具体的に何ができるか、そのためには、従来の町内会のあり方にアタマが凝り固まって(活動のリストラは不可と信じ込んで)いる人々との折衝もときに必要となるが、その際に示すことのできる対案、制度設計案等も示されている。そして、なによりも大事なこととして、町内会が確保すべきコミュニティ意識(お隣さん意識)が強調され、それをどのように育むことができるか、新しい仲間を呼び込むことができるか実例からも示されている。日本の悩める町内会と個人への福音ともいうべき本。

2017年4月24日にレビュー


はじめに

第1章 ごみ出し問題には町内会の抱える問題が集約されている
町内会が抱える問題とは / 町内会とは何か / 任意なのに強制させられる / 「フリーライダー」への批判・敵意 / 行政の責任なのに町内会が「下請」 / 市町村側の言い逃れ / ごみ出し問題が町内会トラブルの縮図であるというわけ / 解決策が示すこれからの町内会 // コラム 町内会(自治会)と管理組合は違うの? 老人会や婦人会とは違うの? 自警団や自主防災組織とは?

第2章 「担い手がいない」という悩みへの「解決策」の罠
なぜ、町内会に人が集まらないのか / 「担い手がいない」という悩みとその「解決策」 / 町内会の仕事が増えすぎている / 任意加入を前提にすれば引き受ける仕事には限界がある / 行政からの依頼以外にもそもそも仕事が多すぎる / 任意であるという前提をつい忘れがちになる / なぜこんなことに? 背景を考える(1) / なぜこんなことに?背景を考える(2) // コラム 賃貸契約で町内会をやめられるか?

第3章 その事業は本当に必要か
町内会の「神話」を解体する / 防犯灯 / 防犯パトロール / 防災(1)名簿づくりは義務なのか / 防災(2)町内会があっても役に立たないこと / 防災(3)公助がまず大事 / 高齢者の見守り / 行政の広報物配布 / 推薦の依頼 / 行政区長制度/ 貧困対策 / 「必須」の神話を解体する3つのポイント // コラム 公営住宅の共益費は誰が集めるのか

第4章 町内会はどこまでリストラできるか
町内会にとって不可欠なたった一つの仕事(コミュニティ意識を育てる) / 夏祭りを手伝ってくれたおばあちゃんへの「おせっかい」 / 災害時に発揮されるのは「共助」ではなく「近助」ではないか / 行政や企業にはできないこと / お隣さん意識が生まれる現場 / 熊本地震の避難所と仮設住宅で見られたお隣さん意識 / 万能細胞としてのお隣さん意識 / 著者のかかわったミニマム町内会(会費なし・義務なし・手当てなし) / ボランティア(志願)の原理 / サークル・NPO原理への転換 / 地域を代表するという性格 / ゆるやかな町内会が増えている / 町内会・自治会活動本来の楽しさが浮かび上がる // コラム 自治会と管理組合がごっちゃに?

第5章 今すぐできるリストラ策 「おまとめ事業」と手続きの簡素化
今ある事業は、こう変わる
Ⅰ「おまとめ事業」
散歩のついでに防犯パトロール / 「防災といわない防災」 / 「おまとめ」を逆提案する / 地域の運動会などの考え方 / 「回覧板をなくす」という問題を考える
Ⅱ手続きの簡素化
町内会の民主主義 / くり返される町内会会計の不正 / 厳格化が答えか / 町内会の規模を縮小する / すぐにできる簡素化案 // コラム 高齢者の犯罪を防ぐ

第6章 行政、連合体、町内会、住民への提言
誰もが引き継げる町内会にするために
Ⅰ 行政への提言
行政としての責任を果たす / 「やりたくない」という人や地域が出ることに対応できる制度設計を
Ⅱ 連合体への提言
連合体は個別町内会の「上部組織」ではない / 対等平等な連絡協議体に
Ⅲ 町内会への提言
行政や連合体からの無理な要請はきっぱり断ろう / 請願を縦横に使おう / 事業ごとに少数のボランティアが核になって楽しむ方式で
Ⅳ 住民一人ひとりへの提言
理想は「同志」をつくって役員になってみる / まずはできないこととできることを告げて交渉してみる

おわりに

“町内会

“町内会"は義務ですか? ~コミュニティーと自由の実践~ (小学館新書)

  • 作者: 紙屋 高雪
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2014/10/01
  • メディア: 新書


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『国家を考えてみよう』橋本 治著 ちくまプリマー新書 [社会・政治]


国家を考えてみよう (ちくまプリマー新書)

国家を考えてみよう (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 橋本 治
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/06/07
  • メディア: 新書


「あっちへ行ったりこっちへ行ったりして」ながら、著者と共に考え、思いを深めていく醍醐味

2016年6月10日が初版第1刷の日付となっている。本日(7/10)の参院選挙を意識して急遽発行された本であるようだ。巻末ちかくに、次のようにある。《 この夏から、参政権ーつまり選挙権は18歳にまで引き下げられます。政治に参加するのが「権利」であるのは、国民が長い間政治から排除されて、権力者の言いなりになっていたことの結果なのです。// 参政権を与えられるということは、政治に参加する義務を与えられたことで、「自分達がこの政治を支えていかなければならない」ということを自覚させられることです。// ちゃんと考えられるだけの頭を持たなければ、ちゃんとした政治を支えることはできません。ちゃんとした判断力を持たなければどうなるのでしょう? 「民主主義はバカばっかり」と言われる、その「バカ」の一人になるだけです。// はっきりしているのは、「たいせつなことはちゃんと考えなければならない」-これだけです。・・ちゃんと考えて、うっかりして人に騙されないようにしなければならない 》。

著者『あとがき』には、執筆の意図が次のように明らかにされている。《 「誰かに決めてもらう前に、自分で決めておかなければなりません。どうしてかと言えば、国家というものが「我々国民」のものだからです。だから、大事にしなければいけないし、ちゃんと考えなければいけないのです。なによりも大事なのは、そのことです。「国家は我々国民のものである」-このことをはっきりさせるために、私はこの本を書きました。・・略・・》

若い人向けに、講堂で、身近なたとえを用いつつ話しかけるような書きぶりで、《私の話はあっちへ行ったりこっちへ行ったりしているので、そろそろ「この人はなにを言おうとしているんだろうか?」と思う人も出て来るかもしれませんが、話にはいろいろと段取りがあるので、私も大変です》などと、ある。

その「段取り」が、その「大変」なところが、たいへん興味深い。(以下、たいへんひどく大雑把な要約というか、“当方なりに”まとめたものにすぎないのだが、あえて記すと・・)著者は「国家を考える」にあたって国家を考えないことを前提にしようとする。「国家」というとき、それはひとつの「家」であり、家は家長(というリーダー)を必要とする。そのような呪縛のもとに、我々はあり、第二次大戦後までそれはつづいた。「国家」における家長は天皇であり、国家は天皇のものであり、そして事実(実質)上は、国家は天皇を擁した政府のものであり、そうした政府のもと、国民は(臣民として)いいようにあしらわれてきた。戦後、日本国民は、臣民ではなくなったハズだが、その延長(伝統)上にいまだにいて、「うっかりして」「騙され」バカにされ、いいようにあしらわれる可能性は高い。それゆえ、ちゃんと自分の頭で考えなければならない・・・。

著者は、漢字の「國(国)」という文字のこと、封建制度のこと、大政奉還・王政復古の大号令のこと、福澤諭吉の「学問のすすめ」のことなどなど「あっちへ行ったりこっちへ行ったりして」話しを進めていくのだが、著者と共に考え、思いを深めていく醍醐味が、まさにそこに存するように思う。

若い人たちだけではなく、誰もが(とりわけ「民主主義における政治参加は『権利』であって『義務』ではない」などと思っている方は特に)読むべき(に値する)本であると思う。

2016年7月10日レビュー


天皇畏るべし 日本の夜明け、天皇は神であった

天皇畏るべし 日本の夜明け、天皇は神であった

  • 作者: 小室 直樹
  • 出版社/メーカー: ビジネス社
  • 発売日: 2016/04/30
  • メディア: 単行本



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「霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界」霞いちか著 カンゼン [社会・政治]


霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界

霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界

  • 作者: 霞いちか
  • 出版社/メーカー: カンゼン
  • 発売日: 2023/02/17
  • メディア: Kindle版



現役「霞が関の人」の現場報告。著者は「霞いちか」。もちろんペンネームだろう。本当は「いちかばちか」としたかったのではなかろうか(笑)。以下、思いつくまま・・

「霞が関」は仙人になる修行をするところ、仙人になるところと聞いていたが、本書を読んで思うに、とても仙人の住む場所ではナイ。

仙人はカスミを食べて生きるという。雲の上に住むという。霞が関の官庁に務めるお役人も一般庶民から見れば雲の上に住まうように見える。いわば仙人である。

「久米の仙人」は雲から落ちたと聞く。下界をのぞき見たのがそもそも間違いだった。洗濯する女性の白い脛を見たのが命取りになった。まるで谷崎潤一郎の「刺青」の世界である。雲から落ちた仙人は、白い脛の女性を妻とし俗にまみれた。

久米仙人(読み)くめのせんにん
https://kotobank.jp/word/%E4%B9%85%E7%B1%B3%E4%BB%99%E4%BA%BA-56070

多くは高いこころざしをもって「霞が関」に入る。ところが、雲の上にあるにもかかわらず、驟雨のように俗塵を浴びる。それでいてシャーシャーとしていられないと官僚は務まらないもののようである。そんな生業は務まる人と務まらない人とに当然わかれることだろう。無理に務めるなら人格が分離してしまう。ふつうなら壊れる。

ところが、壊れない人が現に居る。しかも活き活き務めている人もいる。それは超俗としか言いようがない。つまるところやはり「霞が関の人」は仙人か・・


霞が関のリアル

霞が関のリアル

  • 作者: NHK取材班
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2021/06/18
  • メディア: 単行本



ブラック霞が関 (新潮新書)

ブラック霞が関 (新潮新書)

  • 作者: 千正 康裕
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/11/18
  • メディア: 新書



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日本の論点 2022~23――なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか。 [社会・政治]


日本の論点 2022~23――なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか。

日本の論点 2022~23――なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか。

  • 作者: 大前 研一
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2021/12/11
  • メディア: Kindle版



図書館の新刊書案内に掲載されていたので予約して借りることにしました。そうしましたら、たいへん小さな本になってしまって、しかも、大前研一氏の著作になっている。おかしいなと思いましたら、おかしいのは自分の方で、自分が『日本の論点』と思っていたのは、文藝春秋社からでているムック本の方だったのです。そちらは、本書の3倍ほどの厚みがありましたが、今では、本書と同程度の紙数になっているようです。一般に、活字を敬遠する傾向が日に日に強まっているのを感じます。

日本の論点 2010 (文春ムック)

日本の論点 2010 (文春ムック)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: ムック



巻頭の(本書タイトルにもなっている)「なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか」を読みました。最近、似たようなタイトルの書籍:藤井聡著『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか (ポプラ新書) 』を読みました。そちらでは、もっぱら日本の経済政策から論じていますが、本書においては企業・個人の在り方から論じられて興味深く思いました。ちなみに、本書のその部分全体を「試し読み」することがAmazon対象ページでできます。

本書の目次を見ますとPART 1〔国内編〕PART 2〔国外編〕に分かれています。それぞれに付された巻頭言として〈「安いニッポン」にこれからの課題すべてが凝縮されている〉、〈欧米中心ではない、複眼的な国際情勢を見る視点を養え〉と、あります。

世界地図を見るようにモノを見ることができればと思います。地球儀と世界史を併せ見るような観点で世界を捉えることができるようになりたいものだと思います。そうした点で、本書は参考になります。


内容紹介(「BOOK」データベースより)
日本人の給料を上げるためには、経営者がまず動かなければ何もはじまらない。まず経営者から21世紀型に生まれ変わる必要がある。若い世代に目を向けるなら、プログラミングができる中高生は、起業をめざすべきだ。日本の産業界が変わり、学校教育の内容が変われば、解決の道は開けるはずだ。

目次
1 国内編(巻頭言:「安いニッポン」にこれからの課題のすべてが凝縮されている/“さらばNBC、さらばぼったくり男爵”。オリンピック改革の鍵はクラウドファンディングだ/格安料金プラン投入の裏で進む、NTTグループの再統合/コロナ収束後、日本企業の人事制度や求められる人材はどう変わる/「答えのない時代」の人材の育成には、「私塾」が必要だ/新型コロナウイルスによる人口流出で日本の不動産価値はどうなるか/日本のシステム開発が失敗ばかりを犯す根本原因とデジタル庁の課題/令和の政治家が、田中角栄と中曽根康弘から学ぶべきもの/デジタル民主主義の時代にふさわしい憲法改正論議を深めよ/再否決された「大阪都構想」から浮かび上がる令和の地方自治の問題点/未曽有の大事故から10年。現在も福島原発が抱える3大問題/奴隷的な技能実習制度を改め、ドイツ式の移民政策へ移行せよ)

2 海外編(巻頭言:欧米中心ではない、複眼的な国際情勢を見る視点を養え/アメリカ大統領選の結果が示す、“分断国”への構造変化/バイデン政権の外交戦略を検証する。最重要ポイントは台頭する中国との関係だ/米中対立でにわかに高まってきた「台湾有事」の元凶はアメリカ外交政策だ/なぜテスラは時価総額でトトヨタを超え、世界ナンバー1自動車メーカーになったか/ブレグジットで「UK崩壊&再没落」の道を選択したイギリスの末路/中国“三人子政策”導入からも読み取れる習近平の遠大な野望とは/中国最強企業アントグループが持つ金融事業の破壊力/文在寅政権の掲げる反日路線は、いつ転回されるのか/「イスラエルVSアラブ」だけでは読み取れない、中東の新しい地政学/「危機感」「語学力」「理系重視」「スマホセントリック」イスラエルと台湾が持つ4つの強さ)

大前研一「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」 複眼的な視点で世界を見よ
プレジデント 2022年2月4日号
https://president.jp/articles/-/53674


文藝春秋オピニオン2022年の論点100 (文春MOOK)

文藝春秋オピニオン2022年の論点100 (文春MOOK)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/11/08
  • メディア: 雑誌



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『あとがき』から(『主権の二千年史 (講談社選書メチエ)』 正村 俊之著) [社会・政治]


主権の二千年史 (講談社選書メチエ)

主権の二千年史 (講談社選書メチエ)

  • 作者: 正村 俊之
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



あとがき

本書は、前著『変貌する資本主義と現代社会ー貨幣・神・情報』(有斐閣、2014)の姉妹編にあたる。前著と本書は、それぞれ資本主義と民主主義をテーマにしているが、共通の論理構成をとっている。貨幣と権力を分析の中心に据え、両者の歴史的起源に立ち返った上で、貨幣と権力の現代的なあり方を問うている。なぜ、そのような迂遠な方法をとったのかといえば、現代の資本主義と民主主義を理解するためには、既存の貨幣観や権力観を見直すところから始めなければならない、と考えたからである。

これまで資本主義と貨幣、民主主義と権力を研究してきたのは、主に経済学と政治学だった。多くの経済学理論は、貨幣を最初から商品市場の中で働く媒体として位置づけてきた。貨幣の機能として交換機能の他に価値尺度機能があることは以前から知られているが、その価値尺度機能というのは、商品交換を可能にする働きとして理解されている。貨幣は異なる商品に内在する共通の価値を計ることによって商品交換を成立させる、というわけである。一方、政治学において権力は、権力者の意志を貫徹する力とみなされてきた。近年では、権力をより広義に解釈するようになってきたが、それでも権力の主体が人間であるということは自明の前提になっている。

つまり、既存の貨幣観と権力観は、人間が自律的な存在であること、そして経済と政治が明確に区別された領域であることを前提にした上で、貨幣と権力を商品交換と政治的支配を成立させる媒体として捉えていたのである。

しかし、この二つの前提は決して歴史的所与ではなく、それ自体が社会の歴史的発展の所産なのである。貨幣と権力は、その起源まで遡ると、単に経済と政治という独立した領域の中で人間と人間を媒介していたのではないことが分かる。聖なる力としての原始権力は神と人間を媒介することで支配者と被支配者を媒介したが、それに類することは貨幣にも言える。原始貨幣は、神に捧げる諸々の供物の価値を計る尺度として、また罪を贖う手段として使われていた。

原始権力と原始貨幣は、どちらも供犠という原始的な宗教儀礼の中に登場し、神(聖なる世界)と人間(俗なる世界)を媒介する働きを通して人間と人間を媒介していた。その媒介性は、政治的・経済的な意味での媒介性に限定されない。キリスト教においてイエスは人類の罪を贖う存在として認識されているが、原始貨幣も物理的暴力に対する贖罪手段として使われた。このとき、原始貨幣は物理的暴力の連鎖を食い止める規範的な役割を果たしている。

現代の貨幣や権力は、もちろん神と人間を媒介しているのではない。それらの歴史的起源を知ることの意味は、経済と政治を峻別し、貨幣と権力を独立の媒体として捉える伝統的な理解を相対化することにある。実際、資本主義の「限界」や「終着」が囁かれる昨今、原始貨幣に注目する議論が増えてきた。そうした議論も、もっぱら経済的変化に焦点をあてているが、その変化は経済領域内にとどまるものではない。

今日、資本主義と民主主義がともに大きな変化に見舞われているのは偶然ではない。それらの変化は、両者に通底する現代社会の地殻変動の現れなのである。共通の起源をもつ貨幣と権力はのちに分離し、近代においてそれぞれ経済的・政治的な領域内で自己完結的に作動するようになったが、その関係が再び変化してきている。こうした歴史的変化を経済の側面から論じたのが前著であり、政治の側面から論じたのが本書である。

後略

2018年1月 正村 俊之
変貌する資本主義と現代社会 -- 貨幣・神・情報

変貌する資本主義と現代社会 -- 貨幣・神・情報

  • 作者: 正村 俊之
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2014/03/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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