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「日本および日本人」エディンバラ・レヴュー編ラザフォード・オールコック [外交・国際関係]


日本および日本人

日本および日本人

  • 作者: ラザフォード オールコック
  • 出版社/メーカー: 露蘭堂
  • 発売日: 2015/05
  • メディア: 単行本



江戸終末期、開国当初の日本がなまなましく・・

ラザフォード・オールコックは、1859(安政6)年に来日した初代駐日公使。高輪の東禅寺に設置された公使館に赴任し、1864(文久4)年まで、その職にある。後任はハリー・パークス。

当該書籍は、来日後、オールコックが本国宛に送った2書簡(「長崎到着およびイギリス領事館設置への歩み」「大老襲撃事件の報告」)と本国で出版した「入門者のための日本語文法の基礎」を、『エディンバラ・レヴュー』誌が編集したもの。

『エディンバラ・レヴュー』は1802年創刊の雑誌。18世紀スコットランド啓蒙思想家が関わった同名の雑誌の潮流にあり、ヴィクトリア期イギリスを代表する文芸・政治評論雑誌の一つ。イギリス浪漫主義を鼓舞し、政治的には自由貿易主義や選挙制度改革などの政策を推進したウィッグ党を支持する立場にあり、T・カーライル、J・S・ミル、H・スペンサーなどを寄稿者にもち、イギリス言論界に大きな影響力をもつ論壇であった。

着任から滞日1年の経験に基づく記録である「本書の意義は、・・外交官として江戸に一番乗りで居住した学識豊かな西洋人が、公式に伝えた文書を考察していることであるとともに、イギリス国民に従来の日本観とは違った新しい知識をもたらしていること」。「ケンプファーやトゥンベリの長崎滞在、あるいは江戸参府による学術的調査とは異なり、激烈な政治闘争が始まった首都における生活を通しての観察であること」。

1863年に、オールコックは、主著“The Capital of the Tycoon. 2 vols.”『大君の都-幕末日本滞在記(岩波文庫)』を出版するが、当該論文は、後に王立地理学協会雑誌に発表した2度にわたる大掛かりな国内旅行の論文とともに、その底本をなすもの。

激動する開国日本の社会の動向をいち早くイギリス国民に伝えようとしてもので、訳者は、著者による現地からのリアル・タイムの描写という点に注目し、翻訳を試みた。また、時代背景を視覚的に映し出すために、主著の挿絵30点余を配置している。

以上は、当該書籍の「はじめに」「おわりに」から抜粋したものです。実際読みますと、訳者のいう「リアル・タイム」の臨場感、当方の言葉でいうなら、当時のナマグサイ雰囲気までもが伝わってきます。勝海舟の親父の書いた『夢酔独言』や山岡鉄舟の高弟小倉鉄樹による『おれの師匠』に記されている江戸末期の世相人情はホントだと実感させるものでした。

日本人である当方(と言っても、原著者の経験から150有余年が経過していますが)が、読んでおどろくのですから、当時のイギリスの人が読んだときの印象はたいへん大きかったであろうと思われます。

2015年6月27日レビュー

目次

口絵
(著者肖像、原書より)
はじめに・図版目次

1:日本人の言語・風習・性格
(日本語の形成の歴史と特徴/日本人の言語と風習/日本語の文法)

2:江戸の風景・桜田門外の変
(江戸の地理的特徴/田園と市街地/日本人の気性/江戸城の周辺/桜田門外の変)

3:開港とイギリス
(日本の開港の現状/西洋列強がとるべき態度/日本との貿易の展望)

訳注・参考文献・著者略年表・関連年表・あとがき

ラザフォード・オールコック
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%B6%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%83%E3%82%AF

ハリー・パークス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B9


大君の都 上―幕末日本滞在記 (岩波文庫 青 424-1)

大君の都 上―幕末日本滞在記 (岩波文庫 青 424-1)

  • 作者: オールコック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1962/04/16
  • メディア: 文庫



オールコックの江戸―初代英国公使が見た幕末日本 (中公新書)

オールコックの江戸―初代英国公使が見た幕末日本 (中公新書)

  • 作者: 佐野 真由子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2003/08
  • メディア: 新書


つづく


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地球/母なる星―宇宙飛行士が見た地球の荘厳と宇宙の神秘 [外交・国際関係]


地球/母なる星―宇宙飛行士が見た地球の荘厳と宇宙の神秘

地球/母なる星―宇宙飛行士が見た地球の荘厳と宇宙の神秘

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2023/02/02
  • メディア: 大型本



大型本。宇宙飛行士たちが撮影した地球の写真を集めたもの。写真には、ロケットに搭乗するところから帰還するところまで、コメントがついている。それを読むと、自分もいっしょに飛んだような気になる。

コメントを読み、大気を薄絹のようにまとっている地球を見る。地球上で起きているさまざまな争いごとを思いみる。

白楽天の「蝸牛角上 何事か争う」の言葉がぽっかり浮かんでくる。

そして、「争うときではなく、分け合うときだよな・・・」という感慨がわいてくる。

以下は、表紙裏に記載されたアメリカの宇宙飛行士、エドガー・ミッチェルのコメント

************

これは頭だけで理解したことではない。これは違うぞ、という非常に深い本能的な思いが、腹の底から突然こみ上げてきたのだ。地球という青白い惑星がかなたに浮かぶのを目にし、それが太陽を回っていると考えたとき、その太陽が漆黒のビロードのような宇宙の遠景に沈むのを見守ったとき。知識として理解するのではなく、宇宙の流れやエネルギーや時間や空間には目的があることを肌で感じたとき。そしてそれが人間の知的理解を超えていると悟ったとき。そのとき不意に、それまでの経験や理性を超越した直感による理解が存在することに思い至った。この宇宙には、行きあたりばったりで秩序も目的もない分子集団の運動だけでは説明のつかない、なにかがあるように思われる。地球への帰還の途中、24万マイルの空間を通して星を見つめ、振り返って今向かいつつある母なる星、地球をながめたとき、宇宙には知性と愛情と調和があることを私は身をもって知ったのである。

Edgar Dean Mitchell,
https://en.wikipedia.org/wiki/Edgar_Mitchell

From Outer Space to Inner Space: An Apollo Astronaut's Journey Through the Material and Mystical Worlds

From Outer Space to Inner Space: An Apollo Astronaut's Journey Through the Material and Mystical Worlds

  • 出版社/メーカー: New Page Books
  • 発売日: 2023/01/01
  • メディア: ペーパーバック



舊新約聖書―文語訳クロス装ハードカバー JL63

舊新約聖書―文語訳クロス装ハードカバー JL63

  • 作者: 日本聖書協会
  • 出版社/メーカー: 日本聖書協会
  • 発売日: 1993/11/01
  • メディア: 大型本



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石原莞爾著「ヨーロッパ戦争史―決戦戦争と持久戦争」毎日ワンズ [外交・国際関係]


ヨーロッパ戦争史―決戦戦争と持久戦争

ヨーロッパ戦争史―決戦戦争と持久戦争

  • 作者: 石原 莞爾
  • 出版社/メーカー: 毎日ワンズ
  • 発売日: 2022/06/28
  • メディア: 新書



石原莞爾を称して「アジアのロレンス」というのは本書・帯で初めて知った。「アラビアのロレンス」を踏まえての言葉と思われるが、存命中からあった呼称なのであろうか。それとも、本書販売に合わせて創作した言葉だろうか。「アジアのロレンス」「亜細亜のロレンス」「石原莞爾」でグーグル検索してもヒットしない。

評者は映画『アラビアのロレンス』を好んで視聴してきたが、ある時ハッとしたことがある。それは戦争映画という括りにされていることを知ったからである。

なるほど、戦闘場面があるから、戦争映画ということになるのだろうが、評者の意識にはT・E・ロレンスという多言語を操り他文化に分け入り分裂するアラブ諸部族を共闘させた天才(の毀誉褒貶)への関心だった。本質的にいつもアウトサイダーなってしまったであろう人物への興味だった。

T・E・ロレンスは名門オクスフォード大の中でも名門中の名門オール・ソウルズ カレッジに入ることができた稀有の人物である。その人物が後に軍隊生活に入る。評者の知る日本人でいうなら、東京帝国大学法学部首席卒業で大蔵官僚を経て作家になりノーベル賞候補にもなった三島由紀夫が盾の会を結成して自衛隊で訓練を積んだようなものである。

オックスフォードと「アラビアのロレンス」
https://kankyodou.blog.ss-blog.jp/2018-05-06

前置きが長くなった。本書のすべては福井雄三(東京国際大学教授)による「まえがき」相当部分に書かれてあるように思う。天才の煌めきは凡人に煙たがれる。アウトサイドに追いやられる。もし石原が太平洋戦争を仕切っていたなら、本当に英米に勝利したかもしれない。しかし、それは石原がインサイドに留まりしかるべき立場を維持していればの話である。残念ながらそうはならなかった。スケールの大きな視野でトータルに、しかも的確に状況をとらえる石原の天才は残念ながら活かされることはなかった。当該書籍は、そのことをたいへん遺憾に思うことのできる本である。


アウトサイダー

アウトサイダー

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2022/09/09
  • メディア: 単行本



なぜオックスフォードが世界一の大学なのか

なぜオックスフォードが世界一の大学なのか

  • 出版社/メーカー: 三賢社
  • 発売日: 2018/03/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



アラビアのロレンス (1枚組) [AmazonDVDコレクション]

アラビアのロレンス (1枚組) [AmazonDVDコレクション]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • 発売日: 2015/12/25
  • メディア: DVD



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佐藤優の地政学入門((働く君に伝えたい「本物の教養」)/ 学研プラス [外交・国際関係]


佐藤優の地政学入門 (働く君に伝えたい「本物の教養」)

佐藤優の地政学入門 (働く君に伝えたい「本物の教養」)

  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 2022/03/17
  • メディア: 単行本



地政学の入門書です。対象読者は「働く君」です。社会的関心のつよい中・高生であれば難なく読めると思います。イラスト・マンガも多用され、長くても見開き2ページ程度に1項目がまとめられていますので、読みやすくもあります。一般的な内容です。日本のおかれた地政学的意味を詳述するものではありません。テレビの側に世界地図をおいて、ニュースに出てきた土地を調べてみるよう小学校で勧められましたが、同じようにして(本書で)各地の「地政学」的意味合いを学ぶのはイイように思います。


地政学 ―地理と戦略―

地政学 ―地理と戦略―

  • 出版社/メーカー: 五月書房新社
  • 発売日: 2022/03/07
  • メディア: Kindle版



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目次 《「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観》 勁草書房 [外交・国際関係]


「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

  • 作者: 石川 薫
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 単行本



はしがき

序章 未解のアフリカを考える
第1章 私たちの知らないアフリカ
1 アフリカは私たちにとって未解か(アフリカ54カ国と言うけれど/ アフリカという大陸)
2 アフリカと外部世界(文化とは何か / 野蛮とは何か / 自己責任)

第2章 砂漠の向こうの王国
1 砂漠の向こうに生きる人々(「文明」からの「隔絶」 / サハラを越えて)
2 鉄器の広がり(火を使う人々 / アフリカのバーミンガム / 西スーダンの鉄器の興り / インド洋を渡って)
3 砂漠の向こうの帝国:飛鳥時代から関ヶ原まで栄えたアフリカの国々(アフリカの誇りガーナ王国 8-13世紀 / ライオン・キングが建国したマリ王国 13-16世紀 / 蜜が流れるソンガイ王国 11-16世紀 / サハラの向こうの繁栄と平和の終焉
コラム 森の民との沈黙の交易ー金の仕入れ方

第3章 四百年続いた拉致と社会の崩壊
1 なぜ奴隷が必要だったのか(新大陸で必要とされた技術 / 後の奴隷価格の高騰)
2 奴隷狩りの始まりと奴隷の位置付け(奴隷狩りの始まり / 「積み荷」という奴隷の位置付け)
3 奴隷貿易のアフリカへのインパクト(コンゴ王アフォンソ1世ノ予言 / 奴隷貿易の経済的インパクト)
4 奴隷の禁止(なぜ奴隷制の禁止ではなく奴隷貿易の禁止だったのか / 奴隷制の禁止)
コラム 砂漠とキャッサバ / コラム 赤土の大地の農業開発と日本ーセラード高原

第4章 神々の大陸アフリカ 
1 雨と農作を乞い、先祖や偉人を祀り、森や山には神が宿る(古来の宗教 / 伝来の宗教と伝統宗教の混淆)
2 イスラム教の興りとアフリカへの伝播(アッラーとゴッドは同じ神 / イスラムの興りと地中海沿岸のイスラム化 / サブサハラ・アフリカのイスラム化と「知」の世界の誕生 / 東アフリカ)
3 聖家族はアフリカに非難していた(エジプトの「近代化」とヨーロッパ / エジプトに逃れた聖家族)
4 アフリカのキリスト教王国(キリスト教時代の方がイスラム教時代より長かったスーダン / エチオピアの興りと紅海という地政学的要衝)
5 エチオピアにおけるキリスト教とイスラム教(モーゼの十戒 / エチオピアとイスラム帝国との関係 / キリスト教のポルトガルとの接触がもたらした混乱)
コラム 日本とエチオピア
6 東西に走るイスラム教とキリスト教の境界線(19世紀の悲惨 / キリスト教の南スーダンの独立)
7 イスラム圏における世俗国家の重要性(アメリカン・ロックで結婚披露宴 / 神聖国家イランの真意)

第5章 ウェストファリアの呪縛ー言語と国家
1 文字と母語(サブサハラ・アフリカの文字 / 母国語と母語:アフリカの特異な事情)
コラム 学校で教える「国語」とは何か
2 「民族国家」とは何か(ウェストファリア条約が生んだ「民族国家」の呪縛 / ヨーロッパにおける「民族国家」の虚構)
3 アフリカの苦悩 あるいは The United States of Africa(パンアフリカ主義 / 恣意国境の矛盾と「アフリカ合衆国」構想)
4 民族自決?(恣意的につくらざるをえない国家の一体性 / 民族自決のもたらしたもの / 国際語とは何か)

第6章 教育は大事だと言われても
1 なぜ学校に通えないのか(女子が教育を受けてはならないのはイスラムだからなのか / 教育についての国際規範)
2 アフリカの教育現場(サブサハラ・アフリカの厳しい教育事情 / 教育の優先順位を上げる)
3 教育と食(学校給食の威力 Food for Education / 井戸、学校、コミュニティー)
4 職業教育の重要性(手に職をつける / 世界に打って出る)

第7章 病との闘い
1 国家と健康(国家の盛衰にかかわる疾病 / 政治と国民の健康)
2 熱帯病(ハンディを抱える熱帯諸国 / エボラ出血熱の衝撃と教訓)
3 エイズ・結核・マラリア(世界三大キラーの現状 / 三大キラーとの闘い:世界基金はなぜ創設したのか)
4 熱帯病の根絶へ(熱帯病との闘い / 足元をすくわれる先進国)
5 水と衛生(子どもの敵=水と衛生:トイレ / 途上国の保険ニーズの多様性 / 日本が世界にリードする水と衛生、しかし課題が残る衛生 / 水という資源の偏在 / 頑張るアフリカ)

第8章 立ち上がる女性たち
1 闘う女性たち(アシャンティ王国の女性たち / 祖国のために闘った女王はヤア・アサンテワだけではなかった)
2 母系社会の伝統(西アフリカの母系社会 / マーケット・マミーたち)
コラム 風呂好きだったマリとソンガイの女性たち
3 活躍する女性たち(進取の気性に富むのは女性 / 女性農民が現金収入を得る道を進む / 公開講座の女性農民)
4 働く女性たち(バラと女性農民と飛行機 / 茶を摘む女性たち)

第9章 ニュー・インダストリーの興隆
1 アフリカの農業(赤道直下の花の王国 / ケニア農業の出発点 / 欧米の検査をクリアして栄えるインゲン)
2 地元消費者が支えた酪農
3 「ニュー・インダストリー」の影をチャンスに
4 換金作物コーヒー(コーヒーの生産 / ケネディ大統領の慧眼 / コーヒーの起源、コーヒーと戦争と革命)

第10章 サブサハラ・アフリカの経済発展ーーAfrica Rising?
1 サブサハラ・アフリカの経済ーーアフリカは元気か?
2 資源の呪い
3 経済発展は不断の構造調整
4 植民地主義・資源・まともな政府

あとがき // 参考文献 / 注 / 索引

アフリカで老いを生きる―看護師・助産師として人々と共に

アフリカで老いを生きる―看護師・助産師として人々と共に

  • 作者: 徳永 瑞子
  • 出版社/メーカー: 青海社
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



人類学者への道

人類学者への道

  • 作者: 川田 順造
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2016/09/01
  • メディア: 単行本



難民問題の原因(『難民を知るための基礎知識』明石書店刊から) [外交・国際関係]


難民を知るための基礎知識――政治と人権の葛藤を越えて

難民を知るための基礎知識――政治と人権の葛藤を越えて

  • 作者: 滝澤 三郎
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2017/01/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



本書は、理解するのが容易ではなく、「誤解」も生じやすい難民問題の理解を、法律学、政治学、経済学、社会学など学際的なアプローチで深めることを目指している。国際社会の難民を取り囲む厳しい環境の中で人権や人道支援に関わっている研究者と実務家の共同執筆で成り立っている。

『本書の刊行に寄せて』国連難民高等弁務官フィリッポ・グランディ氏は「武力紛争、暴力、迫害によって住む家を失い、国内避難民としてまたは国境を越えた難民として移動を強いられた人々(強制移動者)の数は今日6500万人に上る。これは過去10年で最大の数である」と書き始める。日本の人口の半分、フランス、イギリスの人口に近い人々が強制移動を強いられているというわけだ。難民だけを集めて大きな国をつくれそうな勢いである。これはやはりたいへんな事態であると言っていいのだろう。グランディ氏は「本書には、世界各地の強制移動問題の原因、影響、そして対応策についての示唆溢れる論考がコンパクトに収められている。UNHCR勤務経験のある邦人職員を含む9名の編著者が各国の難民政策と実践について学術的な議論を展開する本書は、強制移動とそれがもたらす人道的・政治的インパクトを深く理解することを助けるであろう」と結ぶ。

そうした「現場」と深く関わってきた「執筆者は、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国連世界食糧計画(WFP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際移住機関(IOM)などの難民支援、IDP支援を行っている機関で、正に最前線で活躍している方々。しかしながら、執筆内容は、所属している援助機関を代表するものではない。むしろ現場を重視する大学研究者との双方向による共同作業の結果である」と『あとがき』にはある。

大学生のためのテキストとして備えられたもののようだが、関心をもつすべての方にとって良いテキストとなるように思う。

***********

以下、編著者:滝澤三郎氏の『はじめに』(難民問題の原因)からの全文引用

「ウェストファリア体制」と呼ばれる現在の国際社会は、「領土」、「国民」・「統治能力」が「三位一体」となった理念型としての「国民国家」から成り立っている。しかし全ての国民国家がそのような理念型を保つことは現実的には不可能である。今日、国連に加盟する主権国家の数は193に達するが、多くの国ではガバナンス(統治)が脆弱である。これほどの数の「国民国家」があるとき、「三位一体」の理念型から外れる国が出てくるのは避けられない。大学の講義でも200人の学生がいれば20~30人はスマホを見たり内職をしている。

実際、冷戦終結後にはソマリア、アフガニスタン、イラク、シリアなどの国では人種、宗教、政治的意見の違いなどを背景に内戦が発生し、「国民」自体がいくつにも分裂して争い、政府が国民を守る責任を果たさないか果たせない「脆弱国家」ないし「崩壊国家」となった。そのような国の国民の一部が隣国などに庇護を求めて流入するときに難民が生まれる。逆説的であるが、そのような少数の「難民」(彼ら)の存在が多数の「国民」(我々)の結束を固め、「国民国家」体制を強化する。シリア難民の流入を機に燃え上がったヨーロッパのナショナリズムはその例である。

難民問題の根本原因は難民発生国の「ガバナンス(統治)の失敗」であるが、その影響は外部周辺国に及ぶ。難民の流入が大量である場合、受け入れ国は国家(国民)の利益と外国人(難民)の人権保護のバランスに苦慮する。悲惨な難民の姿を見るとき誰しも胸の苦しみを覚えるが、彼らの保護のために多大な経済的・社会的・政治的なコストを引き受けざるを得ない受け入れ国の葛藤も無視できない。

難民問題が複雑化する一因は移民問題と連動することだ。アフリカ諸国を中心にした「経済の失敗」は極度の貧困を招き、その結果として多数の「経済難民」の国境を越えた移動を引き起こしている。そして経済移民の多くは単により豊かな生活に憧れる人々ではなく、「生き残るために」外国に向かう「生存移民」である。難民と生存移民が同じルートで移動する中で、難民だけを選び出して保護するのは容易ではない。ここに現代の難民問題の難しさがある。p6~7



国際法で読み解く世界史の真実 (PHP新書)

国際法で読み解く世界史の真実 (PHP新書)

  • 作者: 倉山 満
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2016/11/16
  • メディア: 新書



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要約『難民を知るための基礎知識』 明石書店 [外交・国際関係]


難民を知るための基礎知識――政治と人権の葛藤を越えて

難民を知るための基礎知識――政治と人権の葛藤を越えて

  • 作者: 滝澤 三郎
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2017/01/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



***以下、編著者滝澤三郎筆『はじめに』(本書について)からの引用抜粋***

1~4部は〈「難民問題」の理論的な問題を扱い〉、5~8部は〈世界各地域の取り組みを考察〉し、9部では〈難民支援のあり方を論じる〉。

第1部1~3章では、国民国家の視点から難民問題を論じる。第1章では、「難民が迫害などで国境を越えざるを得ない人々」である点に鑑みて、「国境」とは何か、また「国境」に収まっている「国民」とは誰なのかを確認する。第2章では、東西冷戦の紛争に焦点を当て、「新しい戦争」を背景にした紛争難民の増大を考察する。

第3章では、難民問題に誘因された政治経済的な視点を論じる。雇用や治安を理由に移民排斥を訴える人々がいる一方で、むしろ人口減少を背景にした労働力不足を理由に積極的に受け入れようとする人々やその集団も存在することを示す。また、難民と移民の混在問題も指摘する。

第2部第4章から第7章では、難民をはじめとする強制移動を強いられた人々のダイナミズムを扱っている。第4章では、紛争以外にも自然災害、開発等、「○○難民」という表現がつく難民が社会に氾濫している点を述べる。第5章では、難民を発生させる世界の紛争を概観している。各地域紛争に言及し、難民発生のメカニズムを分析する。

第6章では、気候変動や温暖化を原因とする「環境難民」や自然災害を理由に住居を移動せざるを得なくなった立場の「震災難民」を扱う。第7章では、国家主導の経済開発で移動を余儀なくされた「開発難民」を扱う。

第3部第8章から第11章では、「難民問題」に対応する国際機関の役割を論じる。特に第8章では、難民救済機関として設立されたUNHCRに焦点を合わせ、その設立に至った理由と役割を時系列的に述べている。第9章では、本来国境を越えた「難民」の救援機関であったUNHCRが、急増する国境を越えない国内避難民(IDP)支援を担当するようになった経緯に言及する。

次の10章では、IDP支援の救援機関になったUNHCRの役割を踏まえ、特に国連の決議を通じてIDP問題を考察する。第11章では、実際の救援支援現場で導入されたクラスター制度をめぐる諸問題を整理する。

第4部第12章から第15章では、難民を受け入れる国家(庇護国)での社会統合問題に焦点を当てる。第12章では、まず難民受け入れの法的地位に関する問題を扱う。

第13章では、受け入れ国での雇用問題と労働問題を論じる。難民がどのような経緯で就労機会を得るのか。第14章では、教育や社会問題に言及する。特に難民第2世以降に対する教育や社会統合手段の充実を求める。第15章では難民受け入れのジェンダー的視覚から社会統合問題の重要性を指摘する。

第5部第16章から第19章では、第三世界(途上国)の難民受け入れ状況を考察する。まず第16章では、第三世界国家で発生する避難民は隣国の国境を跨いで難民化し、一括的な「プリマ・ファシ手続きによる難民認定」がなされる。

第17章では、難民問題解決の3つの選択肢をUNHCRの政策の流れから論じてりう。コストがいちばんかからない自主帰還が望まれるものの、それが紛争の再発を引き起こす可能性を指摘する。第18章では、アジア太平洋地域における難民問題をインドシナおよびアフガニスタン難民から言及し、第19章ではアフリカと中東地域の難民問題に言及する。

第6部第20章から第23章は、欧州連合(EU)の統合を揺るがしている「難民・移民危機」問題を扱う。まず第20章では、EUと欧州評議会が欧州の難民政策を考えるうえでの核心である点を指摘する。第21章では、EUの難民政策を協定締約国間の人の移動を担保するシェンゲン協定とEU加盟国間の庇護および出入国管理政策を統一化した欧州共通庇護制度の視覚から考察する。

第22章では、もう一つの柱である欧州議会の難民政策を「欧州人権条約」と「欧州人権裁判所」の「人権」の視覚から各条項に言及しながら説明する。そして、第23章では、改めてEU統合の危機とも言われている中東・アフリカ地域からの大量の難民・移民流入問題に焦点を当て、苦悩するEU加盟国の現状を論じる。

第7部第24章から27章では、米国の難民問題を扱う。大統領に決まったドナルド・トランプが強く移民排斥を訴えているように、移民・難民問題の深刻さが増大している。第24章では元来移民国家である米国の難民概念の歴史的変遷とその意味を確認する。第25章では、メキシコをはじめとする中米難民を扱い、経済移民としてみなされがちな中米難民の難民認定率の低さの背景を中南米各国の政治状況から分析する。

第26章では、1975年以来毎年平均約8万人を難民として受け入れてきた米国の難民政策を考察する。また、80年の難民法成立からは旧共産圏からの難民への優遇措置がなくなった点を確認する。第27章では、改めて米国における移民問題と難民問題の対応を比較する。最後に、非合法移民問題とテロリズムの関係などにも言及している。

第8部28章から31章は、日本の難民問題と難民政策を論じる。第28章では、1980年前後からのインドシナ紛争で発生した「インドシナ難民」が日本の難民受け入れの大きな転換点であった点を指摘する。第29章では具体的に「インドシナ難民」受け入れでどのような社会統合政策が導入され、難民が定住していったのかを2008年のUNHCR駐日事務所と国連大学との社会統合調査結果を反映させて論じる。

第30章では、2010年に開始した、日本の「第三国定住」の試みについて分析する。第31章では、改めて日本の難民政策の現状の紹介と社会統合政策の視覚を踏まえた問題点を指摘する。

第9部は、32章から35章は、難民問題が人権や平和の問題である点を踏まえ、東西冷戦後に重視されるようになった「人間の安全保障」の視覚から論じる。第32章は「難民」が発生する理由を確認したうえで、国際社会と彼らに対する「保護責任」との関係で論じる。第33章では、テロ行為の発生の激化とそれに対する国際社会の非難が結果的に難民の人権保障、法の支配に反する行為を生起している点を明らかにする。

第34章は、「長期化する難民状況」が恒常化するにもかかわらず、それに対応する包括的な法制度、政策、行動計画が事実上存在していない点を述べる。そこで人間開発の様々な個別の安全保障に着目する。第35章では、再び「人間の安全保障」の視角から難民支援を考察する。

東南アジアの紛争予防と「人間の安全保障」――武力紛争、難民、災害、社会的排除への対応と解決に向けて

東南アジアの紛争予防と「人間の安全保障」――武力紛争、難民、災害、社会的排除への対応と解決に向けて

  • 作者: 山田 満
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2016/11/10
  • メディア: 単行本



新しい国際協力論

新しい国際協力論

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2010/05/11
  • メディア: 単行本



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