「日本インテリジェンス史-旧日本軍から公安、内調、NSCまで」小谷 賢著 [日本史]
日本インテリジェンス史-旧日本軍から公安、内調、NSCまで (中公新書 2710)
- 作者: 小谷 賢
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2022/08/22
- メディア: 新書
本書は戦後日本のインテリジェンス・コミュニティ(情報を扱う行政組織や機関を包括する総称)の変遷を、終戦直後から現在まで辿って考察していくものである。インテリジェンスとは情報のことを意味するが、どちらかというと機密や諜報の語感に近い。つまりただの情報(インフォメーション)ではなく、分析・評価された、国家の政策決定や危機管理のための情報こそがインテリジェンスということになる。(「まえがき」冒頭)
本書の問いは主に二つの点にある。①なぜ日本では戦後、インテリジェンス・コミュニティが拡大せず、他国並みに発展しなかったのか ②果たして戦前の極端な縦割りの情報運用がそのまま受け継がれたのか、もしくはそれが改善されたのか というものだ。(「まえがき」)
序章 インテリジェンスとは何か / 第1章 占領期の組織再建(有末精三、チャールズ・ウィロビー、吉田茂)/ 第2章 中央情報機構の創設(緒形竹虎、村井順、ユーリー・ラストボロフ)/ 第3章 冷戦期の攻防(後藤田正晴、佐々淳行、岸信介、スタニスラフ・レフチェンコ)/ 第4章 冷戦後のコミュニティの再編(大森義夫、野中広務、町村信孝)/ 第5章 第二次安倍政権時代の改革(安倍晋三、谷内正太郎、北村滋)/ 終章 今後の課題 (章立て目次と各章に掲載された人物写真名)
終章以外各章に「まとめ」(2ページ程度)がある。それを見れば概要が分かる。「予備知識がない方も興味を持って通読できるようになるべく多くの事例も紹介しているので」、全体に理解しやすい内容である。戦前の陸海軍の話もでる。「もし陸軍が海軍にとって有益な情報を得た場合、同様に海軍が陸軍にとって有益な情報を得た場合はどうするか」という時、「答えは双方とも知らせない、であった」という。情報を共有しようとしない「縦割り」のすごさを実感できる内容だ。また、戦後、他者(アメリカ)が動いてくれるとなると自分のところに来たボールを丸投げしてしまう様子も分かる。それは、インテリジェンス・コミュニティだけではなかろう。日本人の体質のようなものと関係するのかもしれない。その辺の事情を知ることができる。
『あとがき』冒頭には、以下のようにある。「本書は戦後日本のインテリジェンス・コミュニティの通史である。この分野の類書は唯一、リチャード・サミュエルズ・マサチューセッツ工科大学教授の『特務』があるのみだ。同書は防衛省・自衛隊と日米同盟を主軸とした内容なので、こちらでは戦後日本のインテリジェンス・コミュニティが、警察(内調)を中心に運用されてきたことを描いた」。
つまり本書は、たいへん貴重な内容であることが分かる。そして同時に、日本(人)を知る興味深い本でもある。
特務(スペシャル・デューティー) 日本のインテリジェンス・コミュニティの歴史 (日本経済新聞出版)
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2020/12/19
- メディア: Kindle版
ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く (単行本)
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2022/03/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)