『幸せの追求』フレデリック・ルノワール著 田島葉子訳 [心理学]
コロナ禍のど真ん中でフランス人によって書かれた本。原題は『予測のつかない世界で生きる』。
巻頭エピグラフにC・G・ユングが引用される。「突然やってくる危機や激変や病気は、単なる偶然の産物ではない。それらは軌道を修正し、新たな進路を見つけ、別の生き方を模索するための道標として、わたしたちに大いに役立っている」。『目次』は以下のとおり。
目次
第1章 何よりもまず安心感を
第2章 逆境から立ち直る力
第3章 しなやかに適応する力
第4章 ポジティブな感情を大切に育てる
第5章 今という瞬間を味わって生きる
第6章 他者との絆を結び直す
第7章 自分の人生に意味を持たせる
第8章 自分を縛るものから自由になる
第9章 死を賢く手なずける
第10章 働きかけることと受け入れること
巻頭エピグラフと目次を見れば、分かる人にはおおよその内容は見通せると思う。第7章で「人生の意味」とあれば、たぶん『夜と霧』の著者:ヴィクトール・フランクルへの言及がなされるのでは・・と予測できる方は読む必要がないかもしれない。ちゃんと出てくる。
本書のキーワードは「レジリエンス」。意味は「苦難や逆境の中でもしなやかに生き延び、回復・成長していく力」と注が付されている。要するに「疾風勁草」である。『はじめに』で著者は次のように記す。〈この本は言ってみれば、サバイバルと人間的成長のためのマニュアル、いわゆる「レジリエンス」の手引き書である。先の見えない不安な日々の中でも、前向きに幸せに生きることはできる。その力、つまりレジリエンスを身につけるためのヒントを示すことが、この本を書いた目的である〉。
読みながら正岡子規の言葉を想起した。結核病みとなって体が思うようでなくなった子規はいう。「余は今まで禅宗のいはゆる悟りといふ事を誤解して居た。悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思って居たのは間違いで、悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であった。」(『病床六尺』)
著者はモンテーニュとスピノザなどを引用しながら、コロナ禍のいつ明けるともしらない夜のなかで、自論を展開する。仏語原書の裏表紙には有名な一節「生きるとは、嵐が単に過ぎるのを待つことではなく、降りしきる雨の中でもダンスを踊れるようになることである」が示されている。ますます『予測のつかない世界』において、「平気で生きて居る」だけでなく、「ダンスを踊れるよう」助けられる。